15.バビロン捕囚

文字数 1,583文字

長きに渡るイスラエル、ユダ王国の歴史が閉ざされようとしている。

イスラエル王国はすでに無く、ユダ王国も弱体化の一途だ。

エジプト王ファラオ・ネコ2世に殺されたユダ王ヨシヤの子ヨアハズ。

彼は父と違って偶像崇拝に傾倒するようになる。

しかしその治世はたったの3ヶ月。

彼はファラオ・ネコ2世にエジプトに連行され、弟のエルヤキムがユダの王になった。

その際、ネコ2世はエルヤキムの名をヨヤキムと改めている。

なんで名前変えられてもうたんやろ。

エルヤキムもええ名前やん。

名前を変える行為には宗教的な意味がある。

例えば紀元前1300年中ごろのことだ。

ファラオのアメンホテプ4世は名をアクエンアテンと改めた。

これは信仰をアメンからアテンへと切り替える試みでもあった。

なるほど。

ほんなら、エルキヤムからヨヤキムってのも、そういう感じやろか。

これは僕の勝手な想像になることを承知してもらいたい。

エルヤキムは「神が立たせる(God rises)」という意味だ。

対するヨヤキムは「ヤーウェによって立たされる(raised by YAHWEH)」となる。

あら。

それなら、たいして意味が変わることもないのではなくて?

イスラエルの民が崇める神こそヤーウェでしょう。

「神」ではなく「ヤーウェ」という固有名詞を持たせる。

これによって、ヤーウェが唯一絶対の神ではないと言っている。

……そんな風にも見えないかい?

なるほどなあ。

「神」で唯一絶対なら、他の神々は許されへん。

せやけど「ヤーウェ」なら、ぎょうさんおる神の一つに過ぎん。

そういう狙いがあったんやないか……。

ちゅうのが、サタニャエルくんの考えなんやな?

勝手な憶測だよ?

あんまり「こうだ」と言い切ると、偉い人に怒られるからね?

サタニャエルくんに怒る偉い人て誰やろ。
アザゼルさんかしら。
ヨアハズはネコ2世にエジプトに連行され、そこで死んだ。

ヨアハズの弟エルヤキム、名を改めヨヤキムがユダの王となった。

新バビロニア王ネブカドネツァル2世の侵略に屈し、3年間彼に服従した。

その後ヨヤキムはバビロンに反抗し、戦いが続いた。

そしてその頃、エジプトは新バビロニアによって占領された。

アッシリアだの新バビロニアだの、エジプトも大概ですわね。
ヨヤキムの死後、彼の子ヨヤキンがユダ王国の王となった。

しかし3ヶ月の後、ネブカドネツァル2世によってバビロニアに移送された。

ヨヤキンのおじであるマタンヤの名をゼデキヤと改め、彼をユダの王とした。

もうユダ王国に自由は無いな。

バビロニアに従うだけの属国や。

服従し続けるのは誰だって嫌だろうさ。

ゼデキヤは反旗を翻した。

しかし国力の差は圧倒的だ。

エジプトもすでにバビロニアの支配下にある。

孤立無援のユダ王国に抗う力なんか無い。

カルデア軍、すなわちバビロニアの軍はゼデキヤを捕らえた。

彼の子を目の前で殺し、彼の両眼をえぐり、足かせをはめてバビロニアに連行した。

エルサレムは陥落した。

王ゼデキヤも死に、ユダ王国は滅亡した。

ここまで頑張ってきたんやけどな。

終わる時はあっちゅう間や。

王の居なくなったユダの地はゲダルヤが監督官に任命される。

彼自身もユダの民で、バビロニアに従うことで土地を安定させようとした。

しかし王の血を引くイシュマエルがゲダルヤを打ち殺した。

イシュマエルはそのままエジプトに逃げていった、と書かれている。

そして後日談として、以前捕囚となったヨヤキンが解放されたことが記されている。

その時のバビロニア王はアメル・マルドゥーク。

ネブカドネツァル2世の息子だ。

ヨヤキンは解放後は一生食うに困らない生活を与えられた。

高い地位を得て、アメル・マルドゥークの前で食事をしたという。

フランスの画家ジェームズ・ティソ。

彼は水戸藩第11代(最後)の藩主、徳川昭武の肖像画を描いたことでも知られる。

この絵はまさにバビロン捕囚の様子を描いたものだね。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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