14.デリラの裏切りとサムソンの死

エピソード文字数 1,548文字

サムソンはまた結婚する。

今度は前回と違って、心からの愛情だったみたいだ。

前のやつは政略結婚みたいやったもんな。

結婚は目的やのうて手段になっとったわ。

ほんで?

嫁さんはなんちゅう人なんや?

彼女の名はデリラ。

その名はヘブライ語で「弱くする」

アッカド語で「イシュタルの信者」を意味する、とも言われている。

アッカド語のdalaumで「賞賛する」「称える」という意味なんだ。

部分的に切り捨てられてdalilになり、イシュタルを繋げてdalil Ishtar。

そこからの変化でDelilah、デリラという名前になったという説がある。

へえ。

そう言えばサムソンという名は太陽神シャマシュの派生という話でしたわね。

シャマシュはイシュタルの双子の兄。

メソポタミア神話の影響説が強化されたのではなくって?

さて、どうだろうね。

説得力のある説こそ疑うべきかもしれないよ?

面白ければ良いのよ!
ペリシテ人の領主たちがデリラに言った。

「彼の弱点を見つけろ。さすれば銀を与えよう」

せこい連中やな。

正攻法やと勝たれへんから、裏から手ぇ回して来よった。

けどこれ、デリラは受けるんか?

自分とこの旦那売れ言われてるんやで。

夫を売りたい妻は世界中に溢れていますわよ、お姉さま!
ビヨンデッタの言うことは置いといて……。

実際にデリラはサムソンに弱点を問いただすんだ。

デリラはサムソンに言った。

「あなたの怪力はどこに潜んでいるのですか」

「どうすればあなたを縛って苦しめることができるのですか」

エロい。
わたくしなら、いつでもお相手いたしましてよ。
デリラに対してサムソンはこう言うんだ。

「乾いていない七本の弓の弦で縛るなら私は弱くなる」と。

そしてペリシテ人はそれを鵜呑みにしてサムソンを縛ろうとする。

しかし簡単に引きちぎられてしまう。

そう簡単には弱みを見せんちゅうことやな。

いくら妻でも言えんもんは言えん。

デリラはその後もサムソンに弱点を聞くけれど、その都度サムソンは嘘をついた。

最初のと合わせて計3回。

デリラはサムソンに言った。

「私を3度も騙し、なぜ『愛している』などと言えるのですか」

このことで彼女はサムソンを毎日責め悩ました。

サムソンは死ぬほどまいってしまった。

太古から、夫というのは妻に責められる生き物なのさ。

怪力を誇るサムソンでさえ「死ぬほど」に疲れ果ててしまうくらいに。

無茶苦茶しよるサムソンでも嫁さんには弱いんやな。

ちょっと同情するわ。

それで、結局弱点を教えてしまうのかしら。
ああ。

ギルガメシュと同じ、髪に彼の力は潜んでいた。

だからデリラは彼を眠らせて、人を呼んで髪を切らせた。

そして力を失ったサムソンはあえなくペリシテ人に捕らえられる。

彼らはサムソンの目を抉り出し、牢で粉ひきの苦役に従事させた。

大事な人の裏切りにより英雄が死ぬ。

まあ、草どもにありがちな結末ですこと。

それゆえにデリラはよく比較されるのさ。

イエス・キリストを裏切った、イスカリオテのユダにね。

賄賂を受け取ってるとこも同じやしな。

似てる言われてもしゃあない。

ただデリラを擁護する人もいる。

イタリア宗教改革期のカトリック神学者カエタヌス(トマソ・デ・ヴィオ)。

彼は、デリラにサムソンを傷つける意図は無かったと主張した。

この状況で「そんなつもりやなかった」は通用せんのちゃう?

殺意のあるなしはよう裁判の焦点になるし、むずいとこやけどな。

と言うか、最初から味方ではなかったのではないかしら。

金銭を報酬としてサムソンに近づいた……。

であれば、それこそ裏切りのユダと同列には語れませんわね。

真相はまさに藪の中なのさ。
牢獄の中、サムソンの髪の毛はまた伸びてきた。

彼は神様に祈り、力を取り戻し、神殿の柱二本をへし折った。

神殿は領主やそこにいた人々の上に崩れ落ちた。

サムソンも共に死んだ。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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