8.イチジク

エピソード文字数 1,197文字

『イザヤ書』においてアッシリア王センナケリブの襲来が描かれている。

内容はほぼ『列王記』と同じだ。

うちの率いる天軍大活躍回やったな。

センナケリブの185,000人の兵を打ち倒したんや。

さすが熾天使ミカエルだね。

どれほど多くの人間を集めたところで、太刀打ちなんか出来やしない。

もっと褒めてくれてもええんやで。
その後、ヒゼキヤは死の病にかかってしまう。

けれど神への祈りが通じたのか。

はたまたイザヤが干しイチジクをヒゼキヤの腫れものにあてたのが効いたのか。

なんとか死なずに回復した。

イチジクにそんな効果が?

すごいやん。

イチジクは紀元前2000年頃にはエジプトで栽培されていたと聞きますわ。

最古の栽培品種化された植物、という説もあるほどだとか。

そういえば、アダムとエバが体隠すのに使ってたの……。

あれ確か、イチジクの葉っぱやなかったか?

ずいぶん昔からポピュラーな植物やってんな。

他にも色々あるよ。

イチジク属に含まれる植物は神話においてとても重要な位置にある。

例えば古代ローマの建国神話にもイチジクの存在が見える。

神話上、古代のローマ市を建設したとされるのがロームルスとレムスの兄弟。

彼らはなんと狼によって育てられたんだ。

そして彼らが狼に育てられた場所は女神ルミナの聖所付近。

イチジクの樹下においてだったと言う。

はて、イチジクの樹下で?

イチジクの樹下と言えばもっと有名な話があったような。

ビヨンデッタが考えているのはシッダールタのことじゃないかな。

仏教の開祖、釈迦、ガウタマ・シッダールタ。

彼が悟りを開いたのは菩提樹の下だったと言う。

そしてその菩提樹はイチジク属の植物だ。

そうそう、そんな話がございました。

サンスクリット語のボーディから菩提、すなわち悟り。

その名を冠した植物が菩提樹でしたわね。

菩提が悟りってことなら、「菩提樹の下で悟りを開く」って変とちゃうか?

悟り開いたから「菩提樹」って言うようになったんやろ?

まあ、確かに。

ちょっと違うけれど「頭痛が痛い」に近い感じがするかも。

サンスクリットでは、アシュバッタ(ashvattha)かプポーラ(pippala)と言う。

時系列を正すなら、

「アシュバッタの下でシッダールタがボーディした」

こんなところかな。

ルー大柴かな?
『イザヤ書』の話に戻ろう。

病が治ったヒゼキヤをバビロンの使節が見舞いに来た。

そうしてつぶさにユダ王国の全てを見て帰ったらしい。

どう見てもスパイやないか。

そんなんヒゼキヤが許したんか?

あっけなく許可している。

武器庫も宝物庫も全てね。

イザヤもこれには怒って、財宝の全てがバビロンに持っていかれると言った。

聖書では簡単に「使者たちを歓迎した」と言っているけどね。

実際には微妙な力関係があったんだと思うよ。

アッシリアに対抗するための助力でも求めたのか。

はたまたバビロニアに脅されでもしたのか。

結果論ではありますが、ヒゼキヤは甘かったのでしょう。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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