6.申命法典

文字数 1,883文字

法典と言えば……。

『四方世界の王』はいつの間にか打ち切りになっていたのね。

カリスマイソギンチャクの日記、2015年8月24日に書かれていましたわ。

古代バビロニアを舞台にし、ハンムラビを登場させる挑戦的なライトノベルだね。
打ち切り報告から3年。

日記すら更新されなくなって2年。

それでも僕は待っている。

おっぱいが存在しないことを論理的に証明した偉大な哲学者を。

サタニャエル……。
異教の神々の祭壇を崩し、石の柱を砕きなさい。

アシェラ像を火で焼き、その神々の名をぬぐい去りなさい。

その『四方世界の王』で強力なライバルとして登場するのがシャムシ=アダド。

アッシュールという大国の王。

その国名の由来とされているのが地母神アシェラト。

「アシェラ像」というのはこのアシェラトを指すんだ。

阿修羅、に響きが似ているわね。

何か関係あるのかしら?

ある、と言っている人もいる。

ただ実際のところはよく分からない。

阿修羅の由来はインドのアスラ神でね。

そのアスラはゾロアスター教のアフラ・マズダが由来とされるんだ。

アッシュールは現在のイラク。

ゾロアスター教はイランの辺りで栄えた宗教ね。

なら関係あってもおかしくないわね。

むしろその方が面白くて良いじゃない!

神々への礼拝をそそのかす者に耳を傾けてはならない。

必ずその者を殺しなさい。

処刑するにはあなたが最初に手を下し、石打ちの刑としなさい。

神の独占欲には呆れるわね。

わたくしにはお姉さま一人で十分だと言うのに。

石打ちの刑は皆でやることに意味がある。

罰の社会的な側面を意味しているんだね。

石を投げて積み上げ、そのまま埋葬されるなんてこともあったらしい。

以下、申命法典では次のようなことが語られる。
・清い動物と汚れた動物

・収穫の十分の一:収穫の十分の一を取り分ける

・七年目:同じ国の者は七年目に債務を免除する

・奴隷の解放:ヘブライ人の奴隷は七年目に解放する

・牛と羊の初子:初子は聖別し、決められた方法で食べる

・過越の祭り:酵母を入れないパンで過ごす

・七週の祭り:七週間を数える

・仮庵(かりいお)の祭り:収穫祭

・正しい裁き手:賄賂を受け取ってはならない

・正しい礼拝:邪教を崇めてはならない

・中央の上級法廷:困難な訴訟は祭司に尋ねる

・王に関する指示:王は自分勝手であってはならない

・レビ人の祭司に関する規定:相続地を持たない

・異教の慣習への警告:異教の慣習に従ってはならない

・預言者を立てる約束:偽の預言者を見抜く

・逃れの町:過失の殺人者が逃れる町

・境界線の移動:相続地を勝手に広げてはならない

・証言に関して:罪には一人ではなく複数の証言が必要

・戦争に関して:戦いを恐れてはならない

・犯人不明の殺人に関して:無実の者の血を流してはならない

・捕虜の女との結婚:結婚したならば奴隷のように扱ってはならない

・長子権について:二人の妻を持つとして、先に生まれた子を長子とする

・手に負えない息子:反抗する息子は石打ちの刑とする

・木に掛けられた死体:その日の内に埋めなければならない

なんだか沢山あるのね。

疲れちゃったわ。

まだもうしばらく続くよ。
・兄弟の所有物への配慮:兄弟の家畜を助ける

・忌むべき服装:男女は服装を別にしなければならない

・母鳥とひな鳥:ひな鳥だけを捕る

・屋上の欄干:屋上に欄干を作らなければならない

・不自然な組み合わせ:ぶどう畑に別の種を蒔かない

・衣服の房:服の四隅に房を付けなければならない

・花嫁に対する訴え:初めて花嫁となる女は処女であるべき

・姦淫について:不倫は男女ともに死刑

・排除される人々:エジプト人を忌み嫌ってはならない

・陣営を清く保つこと:排泄物の処理について

・逃亡奴隷について:逃げてきた奴隷を虐げてはならない

・神殿での売春:神殿娼婦、神殿男娼になってはならない

・利子について:イスラエル人に利子を付けて貸してはならない

・隣人の畑で:食べても良いが、持ち出してはならない

・復縁について:別れて別の男の妻となった女と復縁してはならない

・人道上の規定:弱い者から搾取してはならない

・死んだ兄弟への義務:死んだ兄弟に妻がいれば、娶らなければならない

・正しい秤:秤で不正を働いてはならない

・アマレク撲滅の命令:アマレクを消し去らなければならない

・初物の奉納と信仰告白:土地の実りの初物を奉納する

・三年ごとの祈り:三年ごとに祈りを捧げる

・主と民の約束:神様との契約の確認

ここまでが申命法典の話だね。

かなりはしょって解説しているけれど、気になるところはあるかい?

結婚と戦争ね!
了解した。

なら、次回はそのあたりのところを抜き出して、細かく見るとしよう。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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