29.ぶどう園の労働者

文字数 1,074文字

イエスは「天の国」について説明するために、「ぶどう園」を喩えにした。

それは次のような話だ。

ある家の主人が朝早く出かけ、労働者を1デナリオンの約束でぶどう園に送った。

九時ごろ、再び市場に出かけ、同じように労働者をぶどう園に送った。

十二時ごろと三時ごろにも同じようにした。

さらに夕方の五時ごろにも同じようにした。

朝早くというのが何時くらいかは書かれていない。

おそらく六時くらいだろうと言われている。

夕方の六時くらいまで働いて、昼休み一時間とすれば十一時間の労働だ。

仕事の終わり時間は皆同じ。

夕方五時に働き始めた人も六時に終えるから一時間の労働になる。

では労働時間に応じ、賃金を変えるのが道理でしょう。

1デナリオンはローマ帝国における銀貨1枚。

一時間程度の労働ならば2アサリオン、青銅貨2枚程度が妥当では?

それだとせいぜいスズメを4羽買うので精一杯だろうね。

とても生きていけないよ。

労働者たちは貧乏で、家族を養わなければならない人たちだ。

それゆえに、雇い主は一時間しか働いていない労働者にも1デナリオン渡した。
ほんなら早うから働いとった人らにはもっとあげればええんやな。

11デナリオンってとこやろか。

労働者たちもそれを期待した。

しかし、彼らが受け取ったのも1デナリオンだったんだ。

労働者たちからは不平不満が噴出する。

主人はそのうちの一人に答えて言った、

「友よ、わたしはあなたに何も不正なことはしていない。

あなたはわたしと1デナリオンの約束をしたではないか」。

そしてイエスは語る。

「後の者が先になり、先の者が後になる」と。

確かに1デナリオン言うて約束したけど、なんかもやっとするなあ。

そんなこと言われたら、次から働くんは一時間でええやんってなりそう。

仮にこの主人と労働者がそういう約束をするなら良いかもね。

ともあれ、ここでの比喩、長時間労働云々はさほど問題でもない……。

そう主張するのは神学者のアーランド・J・ハルグレン。

大事なことは神の恵みは、人間たち自身の価値によらないということだ。

よく働く者であっても、少ししか働かない者であってもね。

要するに新しい信者を獲得するための方便かしら。

信仰の門を叩くのが遅くとも、決して扱いを悪くしないという。

契約をきちんと結んで、えこひいきはせえへん。

神様は約束は破らん。

レンブラント・ファン・レイン「ぶどう園の労働者たちのたとえ話」

窓から差し込む光はまるで神の恵みかのようだ。

今の世の中でこんな不公平は考えられへん。

せやけど、天の国のことで、それが神様の恵みや言うなら話は別や。

その恵みは公平に与えられるもんなんや。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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