3.レヴィアタン

文字数 950文字

ヨブは試練でぼろぼろだ。

そんな彼の元に三人の友人たちが慰問にやって来た。

家族も財産も失って失意のどん底やろしな。

持つべきもんは友達やで。

けれど彼らはヨブに話しかけることさえ出来なかった。

あまりにも変わり果てたヨブの姿を見て、声にならなかったんだ。

19世紀末から20世紀にかけてのフランスの画家、レオン・ボナ。

よぼよぼな上にぼろぼろで、まったく酷い有様だね。


明日にも朽ち果てそうな姿ですこと。

むしろその方が幸福かしら?

そうかもしれないね。

ヨブは苦しみに耐えかねて、ついに生まれたことを呪い始める。

滅びよ、わたしが生まれた日。

神も上からその日を顧みず、光もその日を照らすな。

日を呪う者は夜を呪え。

レヴィアタンを奮い立たせる者。

明けの星も暗くなれ。

かなり、まいっとるな。

自分が生まれた日を「滅びろ」とかなかなか言わんで。

レヴィアタン。

七つの大罪において「嫉妬」を司る悪魔と言われているね。

『創世記』1:21において「海の怪物」を神が造ったと書かれている。

レヴィアタンはその「海の怪物」のことだと考えられているらしい。

朋友レヴィアタンはよく、大海蛇の姿で描かれていますわね。
ウガリット神話の海神ヤムの手下ロタンがそのルーツだと言われている。

ロタンは時に7つの頭を持つ大蛇だとされることもある。

惜しい。

あと一本でヤマタノオロチになれるやんけ。

……荒れ狂う海は混沌の象徴だ。

地中海は穏やかなイメージを持たれがちだけれど、海は冷たく冬は風も強い。

説明がちょっと長くなったね。

要するにレヴィアタンのような力でもって、己の生まれた日を消し去りたい。

ヨブの切実な嘆きであり、死への願いなのさ。

なぜ、わたしは生まれ出た時に死ななかったのか。

母親の乳房をどうして吸ってしまったのか。

ママのおっぱいが恋しかったから死ねなかったんでちゅわ。
さすがに生まれたばかりの赤ん坊が死を決意して食事放棄はできへんやろ。

まあ、物心付く前に死んどけばこんなに苦しまずに済んだって気持ちやろな。

なぜ、苦しむ者に光を与え、心の痛む者に命を与えるのか。
ヨブは嘆き悲しむ。

なぜ生まれてきてしまったのか。

どうして神はこんなにも自分を苦しめるのか。

彼は随分と気弱になってしまった。

そんな彼の言葉を聞き、集まった友人たちは、けっこう厳しい言葉を投げかける。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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