1.ホセアの結婚

文字数 1,345文字

『ホセア書』以降、十二の小預言書が続く。

テーマとしては神の怒りと罰、和解と復興なんかが選ばれている。

その順序が定められたのは紀元前およそ150年のこと。

最初の6つがあり、残りの6つは後から付け足されたと考えられている。

主はホセアに仰せになった。

「行って姦淫の女を娶り、姦淫の子らを得よ。

この地は主を捨てて姦淫に耽っているから」。

わざわざ浮気性の女と結婚しろと?

それって何の罰ゲームかしら。

姦淫の女の名はゴメル。

彼女はイスラエルの象徴として描かれているんだ。

そして彼女は順に三人の子を産む。

長男イズレエル、長女ロ・ルハマ、次男ロ・アンミ。

イズレエルは北イスラエル王国アハブ王とイゼベル女王が避暑地とした町の名前。

ロ・ルハマは「彼女は憐れまない」、ロ・アンミは「わたしの民でない」を意味する。

産まれた子供につける名前やないな。

なかなか不憫やで。

しかし次のステージではイスラエルの子が大勢増えるとされる。

その時、兄弟たちは「アンミ」、姉妹たちは「ルハマ」と呼ばれるようになる。

「ロ」が外れてそれぞれ「わたしの民」「彼女は憐れまれる」という意味だ。

咎めよ、お前たちの母を咎めるのだ。

彼女はもはやわたしの妻ではなく、わたしは彼女の夫ではない。

お早い離婚ですこと。
ホセアとの結婚の話なのに、内容としては完全に神とイスラエルの関係だよ。

彼女は子を身籠りながら「愛人たち」に付いて行くと言ったんだ。

ここで言う「愛人たち」はバアルを筆頭とした異教の神々のことだね。

彼女は愛人たちの後を追うが追いつかず、彼らを見つけ出せない。

そこで彼女は言う、

「わたしの初めの夫のもとに戻ろう。

昔のほうが今よりも幸せだったから」と。

要するに散々遊びまわって、遊ばれもした女が疲れ果てたと。

それゆえに遊ばず身持ちの良い男のところに帰りたがるであろうと。

間接的に男を戒める言葉になっているのではなくって?

戻ってこれるなど、少々女に都合の良い話ではないかしら。

器の大きさってやつかな。

彼女は神を「わたしの夫」と呼び、「わたしのバアル」とはもう呼ばない。

そうして神はロ・ルハマを憐れむ。

また、ロ・アンミに「お前はわたしの民である」と言う。

主はわたしに仰せになった、

「再び行って、情婦に愛されない女、姦通を行う女を愛せよ。

イスラエルの子らはぶどうの菓子を好んだが、主は彼らを愛したではないか」。

ホセアさんの気持ちは二の次なんやな。

この「ぶどうの菓子」ってのは何のことやろ。

ぶどうの菓子とは女神アシェラに捧げる供え物だね。

偶像崇拝したとしても、神は民を愛したと語っている。

その「愛」はなかなか苛烈な気もするけど……。

そこでわたしは彼女を買い取り、言った、

「しばらく、お前は寂しくわたしを待て。

お前は姦淫をしてはならない。

また、ほかの男のものとなってはならない。

わたしもお前の所に行かない」。

あらあら。

再び愛せと言われたというのに、お預けですか。

ここの象徴的意味は、バビロン捕囚の始まりだね。

信仰によって結ばれるけれど、イスラエルの地とは離れ離れになるのさ。

だから「寂しくわたしを待て」と言っている。

その後、イスラエルの子らは帰ってきて、

彼らの神、主と彼らの王ダビデを捜し求め、

終わりの時期には恐れおののきつつ主とその恵みに近づくであろう。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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