3.ホロフェルネスの首

エピソード文字数 1,454文字

ユディトがホロフェルネスの天幕に来ると、全陣営に大騒乱が起きた。

人々は天幕の外に立つ彼女を見るために周囲を取り巻いた。

彼女のあまりの美しさに驚き、それゆえにイスラエルの人々を称えた。

アッシリア軍、めっちゃテンション上がってるやん。

ユディトはスーパーアイドルか何かか?

ユディトが美人過ぎて舞い上がっているね。

アッシリア軍はイスラエル人の男を皆殺しにしようと息巻く。

こんな美人がいれば、他民族は欺かれてしまうのだとさ。

ここがラテン語訳聖書ヴルガータだとニュアンスが異なる。

こんな美女が手に入るなら、それだけでも戦争に価値はあったと言う。

古来より戦は土地と女を奪うもの。

ユディトの存在は土地以上の価値ということでしょう。

ユディトはホロフェルネスとその家臣の前に現れた。

皆、その顔立ちの美しさに驚いた。

ユディトはひれ伏して彼に礼を尽くした。

総司令官もユディトにメロメロやな。

美しさはそのまま武器にもなるっちゅうことか。

ここでユディトはホロフェルネスに対して告げる。

「神はあなたを通して事を完全に成し遂げる」とね。

つまり、ホロフェルネスがイスラエルに勝利する……。

そういうことか?

きっと彼はそう理解した。

けれどここでは、何が成し遂げられるのかが明確に語られていない。

ここにユディトの言葉の巧みさがあるのさ。

別の思惑がある。

けれど勘違いはご自由に。

なんともしたたかなことですこと。

ユディトはイスラエルの民が乾きのため、モーセの律法を破ろうとしていると言った。

それゆえに神は彼らに裁きを与えようとしているのだと。

彼女は神のために人々を裏切り、ホロフェルネスに勝利の予見を与えに来たと語った。

ユディトの言葉にホロフェルネスたちはとても満足した。

彼女ほど賢明で美しい女性は他にいないと称えた。

この場合、美しさは関係あらへんやろ。
アッシリアの後宮に入れよう、という流れだね。

すでに彼女をアッシリア王ネブカドネツァルに献上する算段だったんだ。

それから三日、ユディトはユダヤの習慣を守って祈りを捧げた。

そして四日目にホロフェルネスは彼女を誘惑するため、酒宴に招いた。

酒宴の後、従者たちは立ち去り、ホロフェルネスは酔って寝台に伏していた。

ユディトは彼の枕元に行き、彼の剣を取り、願った。

「主よ、今こそわたしに力を」

ルネサンス期の画家にして彫刻家、アントニオ・デル・ポッライオーロ作の銅像。

右手に持つ剣はギリシア語訳聖書にある「三日月形の剣」によるものだろうね。

ユディトはホロフェルネスの首を力いっぱい、二度打った。

体から首を引き離し、侍女に手渡し、イスラエルの町へと帰った。

バロック期イタリアの画家、カルロ・サラチェーニ作。

「ホロフェルネスの首とユディト」だよ。

右下の首。

「半端ないって」顔つきですわね!

侍女の婆さんは「こいつマジか」って感じやな。

ほんで肝心のユディトはええ感じのドヤ顔やで。

前回のクリムトの絵にもあった男の頭部。

あれこそまさにホロフェルネスの首だったわけだ。

ユディトのこの場面を描いた芸術作品はとても多い。

女性、男の首、そして剣と揃えば多くの人はユディトを思い描くだろうね。

女と男の首だけであれば、サロメと洗礼者ヨハネといったところかしら。
大将を失ったアッシリア軍に攻め込むようユディトは進言する。

イスラエルの民はそれに従い、大勝利を収めた。

イスラエルの民は勝利の後、エルサレムへと帰った。

そして神を礼拝し、三ヶ月の間神殿前で祝賀式を続けた。

多数の男がユディトに求婚したが、彼女は死んだ夫以外の誰とも結婚しなかった。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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