1.イエスの嘲笑

エピソード文字数 1,350文字

『ユダの福音書』第1章9-10節(カレン・L・キング訳)

弟子たちは言った。

「先生、あなたこそは、[……]わたしたちの神の子です」。

イエスは弟子たちに言った。

「あなたたちにどうして私がわかるのですか。まことに、私はあなたたちに言います。

あなたたちのなかには私をわかる者はひとりとしていないでしょう」。


(『『ユダ福音書』の謎を解く』

エレーヌ・ペイゲルス、カレン・L・キング(著) 山形孝夫・新免貢(訳) 参照)

弟子たちって、イエス様の12使徒のことやろ?

「私をわかる者はひとりとしていない」なんて、酷なこと言うとる。

これはほんまにイエス様の言葉なんか?

正典の福音書においても「まだ分からないのか」と言い続けておりましたもの。

とうとう諦めてしまったのではないかしら?

『ユダの福音書』においてよく指摘されるのがイエスの嘲笑だ。

彼はよく笑う。

真実を見る目を持たない弟子たちを嘲るようにね。

最後の晩餐の時にイエスは弟子たちの祈りを見て笑った。

それに対し弟子たちは何故笑うのかと問う。

イエスは、その祈りは自発的ではなく、『神』に強いられたものだと言う。

そしてそれによって「あなたたちの」『神』が褒め称えられるのだと。

「あなたたちの」って、まるでイエス様にとっては違うみたいやな。

それで最初の話に戻るんか?

弟子たちが、イエス様を「神の子」や言う場面に。

そうだね。

しかしイエスは弟子たちに「どうして私がわかるのですか」と言っている。

それは弟子たちが祈りを捧げる『神』はイエスの父である神ではないからさ。

グノーシス主義のお出ましですわね。

世界を創造したのは偽神デミウルゴス、またの名をヤルダバオト。

つまり弟子たちは知らず、このヤルダバオトを拝んでいると。

それをイエスは嘲笑しているのですわ。

せやけど、そんなこと言われたら傷つくで。

弟子たちも腹立ったんとちゃうか?

当然、弟子たちは怒り出した。

なんと心の中でイエスに「呪いの言葉」まで投げ始めるくらいに。

イエスを呪う12使徒だなんて!

これは面白くなってまいりましてよ。

怒る弟子たちに対し、イエスはイエスを正視してみるように言う。

しかし弟子たちは、いや弟子たちの霊はイエスの前に立つ勇気さえも失っていた。

ただ一人、イスカリオテのユダだけがイエスの前に立つことが出来た。

イエスを正視することは難しかったけれど、弟子の中で抜きんでていたのさ。

『ユダの福音書』第1章22-24節(カレン・L・キング訳)

ユダがイエスに言った。

「私は、あなたがどなたであるか、そして、あなたがどこから来られたかを知っています

――あなたは、不死の王国バルベーローから来られました――。

しかし、私には、あなたを遣わされた方の名前を口にするだけの値うちさえありません」。


(『『ユダ福音書』の謎を解く』

エレーヌ・ペイゲルス、カレン・L・キング(著) 山形孝夫・新免貢(訳) 参照)

バルベーロー?

どこのことや?

バルベーロー(Barbēlō)とは、神から最初に生まれたもののことだ。

グノーシス主義的宇宙論において至高処女霊バルベーローとも呼ばれる。

「バルベーローの王国」と言うと、神の領域を意味するんだよ。

ここでイエスはユダに、他の弟子たちから離れるように語る。

そうすればイエスは王国の秘密をユダに伝えると言って。

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登場人物紹介

【ミカ】(性別:無性 時々 男性)

神様の命令で人々を見守ることになった大天使ミカエル。サタニャエルくんに色々教えてもらう生徒役。ただ何も知らないお馬鹿ではなく、それなりに常識人。特に戦争に関することはなかなか詳しい。無意味な殺戮は嫌うが、戦争そのものは悪と見做さない。ビヨンデッタの作った「ケーキ」にトラウマがある。


(うんちく)

その名は「神に似たるものは誰か」という意味を持つ。ミカエルはMa-Ha-Elと分解され、「偉大なる神」の意味ともされる。天軍の総帥であり、右手に剣を持った姿で描かれる。


聖書において天使の翼に関する記述は無い。その造形はギリシア神話における勝利の女神ニケ(Nike)が由来であると考えられている。


ミカエル、最大の見せ場は新約聖書『ヨハネの黙示録』12である。そこには以下のような記載がある。

「かくて天に戰爭おこれり、ミカエル及びその使たち龍とたたかふ。龍もその使たちも之と戰ひしが、勝つこと能はず、天には、はや其の居る所なかりき。かの大なる龍、すなわち惡魔と呼ばれ、サタンと呼ばれたる全世界をまどはす古き蛇は落され、地に落され、その使たちも共に落されたり。」

おそらくは翼の生えた勝利の女神と、戦争における戦士の姿とが融合され、現代におけるミカエルのイメージを形作ったのであろう。

【サタニャエル】(性別:???)

ミカちゃん一人だと心配なので付いて来た。色んなことに詳しい黒猫。「サタニャエル」を名乗っているが、悪魔サタナエルと同一視されるかは謎。ビヨンデッタから「サマエル」と呼ばれてもおり、そうであれば楽園でイヴを誘惑した蛇であるとも言える。非常に好奇心旺盛で勉強熱心。たまに悪魔っぽいが、基本的には常識的。


(うんちく)

「猫に九生有り」のことわざは、高いところから落ちてもうまく着地してしぶとく生き残る、タフさから来ていると考えられる。何故「九生」なのかは定説は無いが、エジプト神話の猫頭の女神バステトが九つの魂を持っていたことに由来するのではないか、と言われる。そのようにしぶとい猫を殺すには「好奇心」が効果的であるとことわざは言う(「好奇心は猫を殺す」)。つまり人に知恵を与えたサマエルが、その罪によって神の罰を受けることの暗示として、サタニャエルというキャラクタは造られている。


サマエルは「神の悪意」という意味を持つ。12枚の翼を持つことから、堕天使ルシファーとも同一視される。

【ビヨンデッタ】(性別:男性 or 女性)

ミカを「お姉さま」と慕う悪魔の少女。その正体はソロモン72柱序列第1位ともされる魔王ベルゼブブ。ニーチェを好み、強き者が強くある世界こそが最も美しいと考えている。人間を「草」と呼び、その愚鈍さを嘲笑する。


(うんちく)

作中にあるように、ベルゼブブの由来はウガリット神話における豊穣の神バアル・ゼブル。バアルの信仰は旧約聖書において偶像崇拝として忌み嫌われ、度々敵対した。バアル・ゼブルをバアル・ゼブブと読み替えることで、その意味を「気高き主」から「蠅の王」へと貶めた。


「ビヨンデッタ」の名前は幻想小説の父J・カゾットの『悪魔の恋』に由来する。主人公のアルヴァーレは知的好奇心により悪魔ベルゼブブを呼び寄せ、そのベルゼブブは「ビヨンデット」という名の少年として彼に仕えた。やがて「ビヨンデット」は「ビヨンデッタ」という少女となり、アルヴァーレに強く愛を語る。そしてアルヴァーレは苦悩の末にビヨンデッタを愛してしまう。あまりにあっけない結末についてはここで語らない。


ウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』は死の象徴として蠅が描かれる。また、理性を凌駕する闘争心は豚の首として表れた。作中でビヨンデッタが豚肉を好んでいるのも、そうした背景による。

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