第4話 海外の霊能力者 その1
文字数 2,998文字
「夕方の便に乗れば、すぐ広島には着くぜ。でもそこから電車で呉に移動するわけだ」
成田空港に戻って来た紫電と雪女。搭乗前に雪女はスマートフォンの画面を見ていた。
「広島も広い。なのに呉だけでいいの?」
「さあな。でも【神代】からはそういうお達しが来てんだ、従うまでだぜ」
【神代】は、【UON】の攻撃は寺院や神社に向けられると話した。理由は簡単で、一般人を攻撃しても意味はなく、尚且つ【UON】の目的は日本の霊能力者を倒すこと。だから霊能力者がいると思われているであろう場所が、ターゲットにされると。
「紫電はどう思う?」
「どうって、何がだよ?」
彼女の心配事、それは敵の強さである。雪女は彼の実力を十分に理解しているつもりだが、他の霊能力者はどうなのだろうか? 今までにそういう関りを築いて来なかった彼女には、わからないのである。
「海外の霊能力者の強さが緑祁並みなら、紫電も苦戦を強いられるかもしれないね」
「そうか? 緑祁程度なら今度こそ勝てる! って思うけどな」
「……今度は霊鬼はないけど、それでも?」
「ああ!」
強い返事を紫電はした。確かに九月に緑祁と競戦した際は、霊鬼によるパワーアップが彼には施されていた。しかしあの戦いで霊鬼は破損、雪女は作り方を知らないので永遠に失われた。
だが、それでも紫電は修行を行い続けたのだ。
「誰かが言うかもしれねえ。緑祁と渡り合えたのは霊鬼のおかげだ、ってな。そう言わせないためにも、俺自身の実力をさらに上の次元へ持って行く!」
その強固な意志が彼を突き動かした。そしてその修行には、雪女も手伝った。
「まあそうそういないとは思うけどね、紫電を越える人って。それこそ緑祁ぐらいじゃないかな?」
肝心の緑祁は今回、味方ではないが敵でもない。
「だったら、誰にも負けねえな!」
彼の意気込みを折り曲げることのできる霊能力者は、【UON】にはいるのだろうか?
呉の海神寺に着いた時には、既に日が落ちていた。
「世話になる」
「事情は聞いているよ。大変なことになったな……」
ここの主である姫後増幸が、紫電と雪女のことを客間に案内した。
「大変やな。手伝えることがあったら、何でもワイに言ってくれや」
背黒道雄が言った。
「この案件が終わったら、雪女ちゃん! 一緒に観光しようや!」
彼とは正反対のことを二紋勇悦は言う。
「……」
雪女は勇悦から差し出された手を取らず、手の甲を抓って捻った。
「いでででで!」
「兄さんがよく言ってたかなあ? 軽そうな男とは喋るな、って」
挨拶はその辺にして、紫電はすぐにでも警備に動く。取り出したのは、針金。これに念を込めて一定間隔で塀に張り巡らせるのだ。そうすれば強大な霊能力を持つ者が敷地を跨いだ瞬間、すぐにわかる。
「手伝う?」
「いいや! 他の人の霊気が入るとあやふやになっちまう。だかた雪女は休んでてくれ。長距離移動で疲れただろう、先に風呂済ませておけ」
言われた雪女は温泉に直行。紫電は客間を出て寺院の境内を歩く。
「ここだ。んで二~三メートル置いて、結び付けて……」
金づちで塀に釘ごと打ち付ける。ちゃんと許可は取ってあるので堂々と作業をこなした。
「紫電はん! 足りひんやろ、買うてきたで!」
「おお、助かるぜ!」
ビニール袋に入った品物を受け取り、紫電は作業を再開。
「ほんまに手伝わなくてええん? 一人じゃえらいやないか?」
「でもこのレーダーの精度を上げるんなら、俺だけの霊気じゃないといけねえんだ。気持ちだけは受け取っておくぜ」
道雄はただ作業に勤しむ紫電を見てるしかなかった。
「ふう! こっちの塀は大丈夫だな……」
一時間程度かかった。一旦休憩を取ろうとした際、ちょうど道雄がお茶を運んできてくれたのだ。
「本当に助かるぜ! ありがとうよ!」
「自分に頼みたいことがあるんや?」
「ん? 俺の任務はこの海神寺の防衛だ。それ以外にか?」
「それや!」
道雄は、この海神寺のために生きている。今までもそしてこれからもそれは変わらない。
「そやしこそ、自分にここを守って欲しいんや! 勇悦もあんな態度とるヤツやけど、悪い人ではおまへん!」
さらにこの海神寺で修行し働いている人たちのために、必ず守り抜いて欲しいと言った。隣接世界からの襲撃のせいで一度は傷ついたこの寺院だが、それでも何とか再建できた。しかしそれにはかなりの時間と労力を注ぐことに。その間、とても辛い気持ちを彼は味わったのである。
あんな惨めな思いを二度もしたくない。だから彼は何度も頭を下げ、誠心誠意紫電にお願いする。
「改まる必要はねえぜ。俺は最初からその気だ。この海神寺に触れようとするヤツは【UON】だろうが幽霊だろうが、容赦なく攻撃させてもらう!」
「ほんまにお願いします!」
「わかったって! だからそうペコペコするなよ、何でか気まずい雰囲気になるじゃねえか」
言われて道雄は顔を上げた。その時、目が動いた。
(何だ……?)
視線の先は、紫電の顔ではない。もうちょっと上の方を見ている。そして、驚愕している。
「な、な、な……! 何やて……!」
震える指が指し示した方を紫電は向いた。木の上だ。そこに人が一人、いる。太い枝の上に立っているのだ。
「誰だお前は! いつからそこにいるんだ……!」
金髪で鼻が高い男だ。見るからに日本人ではない。そして道雄の反応から、この寺院で修行している人でもない。顔見知りの可能性も消えた。
「この海神寺って、心霊研究が盛んなんだって? そこを配下に入れられればオレッチたち【UON】の有益になりそうじゃないか? おぉん?」
紫電はどうやら、一手遅れたようだ。敵は既にこの海神寺をターゲットにし、来襲していたのである。
この【UON】からの襲撃者は、まず不慣れな日本語で名乗った。
「オレッチは、ギル! ギル・スコールズ! イングランド出身の二十二歳!」
そして自分が、【UON】の所属であることを明かした。
「もう来やがったのか! お前! この寺に土足で踏み込んだこと、後悔させてやる!」
「言葉だけなら大きいな、オマエ! でもオレッチに勝てるかな~? いいや無理そうだな~」
「何だと?」
怒った紫電は大声で怒鳴った。直後に道雄に、
「乗ったらあかん! これはヤツの作戦や、怒らせてテンポを乱すつもりなんや……」
袖を引っ張られ言われた。紫電もハッとなって胸に手を当て心臓の鼓動を感じながら、
(冷静に対処するんだ、俺………。敵と遭遇したらまず、何をすべきか!)
判断する。
「道雄! お前は逃げろ! んで雪女を呼んで来るんだ! 俺はコイツをできるだけ、ここから離す!」
「わかった!」
すぐに本殿に駆け込む道雄。
「一人で戦うつもりかオマエ? 無謀無策! そんなんじゃオレッチには勝てないぞ~?」
「言うだけならなんぼでも言えるよな?」
「ムカッ! ま、いい! すぐに涙目にしてやるぞ!」
紫電は何とか境内の開けた場所に移動。ギルもそれについてきたため、まずはここで戦う。
(建物に被害さえ出さなければ大丈夫だ…!)
紫電はそう考えているが、ギルは、
(まあまずはコイツで小手調べだな。【神代】が本当に、【UON】と戦う気があるのかを覗いてみないと。それに判断するのはオレッチじゃないし)
それほど大事にするつもりはないらしい。図らずとも両者の意見は一致したので、この戦場に異議はない。
成田空港に戻って来た紫電と雪女。搭乗前に雪女はスマートフォンの画面を見ていた。
「広島も広い。なのに呉だけでいいの?」
「さあな。でも【神代】からはそういうお達しが来てんだ、従うまでだぜ」
【神代】は、【UON】の攻撃は寺院や神社に向けられると話した。理由は簡単で、一般人を攻撃しても意味はなく、尚且つ【UON】の目的は日本の霊能力者を倒すこと。だから霊能力者がいると思われているであろう場所が、ターゲットにされると。
「紫電はどう思う?」
「どうって、何がだよ?」
彼女の心配事、それは敵の強さである。雪女は彼の実力を十分に理解しているつもりだが、他の霊能力者はどうなのだろうか? 今までにそういう関りを築いて来なかった彼女には、わからないのである。
「海外の霊能力者の強さが緑祁並みなら、紫電も苦戦を強いられるかもしれないね」
「そうか? 緑祁程度なら今度こそ勝てる! って思うけどな」
「……今度は霊鬼はないけど、それでも?」
「ああ!」
強い返事を紫電はした。確かに九月に緑祁と競戦した際は、霊鬼によるパワーアップが彼には施されていた。しかしあの戦いで霊鬼は破損、雪女は作り方を知らないので永遠に失われた。
だが、それでも紫電は修行を行い続けたのだ。
「誰かが言うかもしれねえ。緑祁と渡り合えたのは霊鬼のおかげだ、ってな。そう言わせないためにも、俺自身の実力をさらに上の次元へ持って行く!」
その強固な意志が彼を突き動かした。そしてその修行には、雪女も手伝った。
「まあそうそういないとは思うけどね、紫電を越える人って。それこそ緑祁ぐらいじゃないかな?」
肝心の緑祁は今回、味方ではないが敵でもない。
「だったら、誰にも負けねえな!」
彼の意気込みを折り曲げることのできる霊能力者は、【UON】にはいるのだろうか?
呉の海神寺に着いた時には、既に日が落ちていた。
「世話になる」
「事情は聞いているよ。大変なことになったな……」
ここの主である姫後増幸が、紫電と雪女のことを客間に案内した。
「大変やな。手伝えることがあったら、何でもワイに言ってくれや」
背黒道雄が言った。
「この案件が終わったら、雪女ちゃん! 一緒に観光しようや!」
彼とは正反対のことを二紋勇悦は言う。
「……」
雪女は勇悦から差し出された手を取らず、手の甲を抓って捻った。
「いでででで!」
「兄さんがよく言ってたかなあ? 軽そうな男とは喋るな、って」
挨拶はその辺にして、紫電はすぐにでも警備に動く。取り出したのは、針金。これに念を込めて一定間隔で塀に張り巡らせるのだ。そうすれば強大な霊能力を持つ者が敷地を跨いだ瞬間、すぐにわかる。
「手伝う?」
「いいや! 他の人の霊気が入るとあやふやになっちまう。だかた雪女は休んでてくれ。長距離移動で疲れただろう、先に風呂済ませておけ」
言われた雪女は温泉に直行。紫電は客間を出て寺院の境内を歩く。
「ここだ。んで二~三メートル置いて、結び付けて……」
金づちで塀に釘ごと打ち付ける。ちゃんと許可は取ってあるので堂々と作業をこなした。
「紫電はん! 足りひんやろ、買うてきたで!」
「おお、助かるぜ!」
ビニール袋に入った品物を受け取り、紫電は作業を再開。
「ほんまに手伝わなくてええん? 一人じゃえらいやないか?」
「でもこのレーダーの精度を上げるんなら、俺だけの霊気じゃないといけねえんだ。気持ちだけは受け取っておくぜ」
道雄はただ作業に勤しむ紫電を見てるしかなかった。
「ふう! こっちの塀は大丈夫だな……」
一時間程度かかった。一旦休憩を取ろうとした際、ちょうど道雄がお茶を運んできてくれたのだ。
「本当に助かるぜ! ありがとうよ!」
「自分に頼みたいことがあるんや?」
「ん? 俺の任務はこの海神寺の防衛だ。それ以外にか?」
「それや!」
道雄は、この海神寺のために生きている。今までもそしてこれからもそれは変わらない。
「そやしこそ、自分にここを守って欲しいんや! 勇悦もあんな態度とるヤツやけど、悪い人ではおまへん!」
さらにこの海神寺で修行し働いている人たちのために、必ず守り抜いて欲しいと言った。隣接世界からの襲撃のせいで一度は傷ついたこの寺院だが、それでも何とか再建できた。しかしそれにはかなりの時間と労力を注ぐことに。その間、とても辛い気持ちを彼は味わったのである。
あんな惨めな思いを二度もしたくない。だから彼は何度も頭を下げ、誠心誠意紫電にお願いする。
「改まる必要はねえぜ。俺は最初からその気だ。この海神寺に触れようとするヤツは【UON】だろうが幽霊だろうが、容赦なく攻撃させてもらう!」
「ほんまにお願いします!」
「わかったって! だからそうペコペコするなよ、何でか気まずい雰囲気になるじゃねえか」
言われて道雄は顔を上げた。その時、目が動いた。
(何だ……?)
視線の先は、紫電の顔ではない。もうちょっと上の方を見ている。そして、驚愕している。
「な、な、な……! 何やて……!」
震える指が指し示した方を紫電は向いた。木の上だ。そこに人が一人、いる。太い枝の上に立っているのだ。
「誰だお前は! いつからそこにいるんだ……!」
金髪で鼻が高い男だ。見るからに日本人ではない。そして道雄の反応から、この寺院で修行している人でもない。顔見知りの可能性も消えた。
「この海神寺って、心霊研究が盛んなんだって? そこを配下に入れられればオレッチたち【UON】の有益になりそうじゃないか? おぉん?」
紫電はどうやら、一手遅れたようだ。敵は既にこの海神寺をターゲットにし、来襲していたのである。
この【UON】からの襲撃者は、まず不慣れな日本語で名乗った。
「オレッチは、ギル! ギル・スコールズ! イングランド出身の二十二歳!」
そして自分が、【UON】の所属であることを明かした。
「もう来やがったのか! お前! この寺に土足で踏み込んだこと、後悔させてやる!」
「言葉だけなら大きいな、オマエ! でもオレッチに勝てるかな~? いいや無理そうだな~」
「何だと?」
怒った紫電は大声で怒鳴った。直後に道雄に、
「乗ったらあかん! これはヤツの作戦や、怒らせてテンポを乱すつもりなんや……」
袖を引っ張られ言われた。紫電もハッとなって胸に手を当て心臓の鼓動を感じながら、
(冷静に対処するんだ、俺………。敵と遭遇したらまず、何をすべきか!)
判断する。
「道雄! お前は逃げろ! んで雪女を呼んで来るんだ! 俺はコイツをできるだけ、ここから離す!」
「わかった!」
すぐに本殿に駆け込む道雄。
「一人で戦うつもりかオマエ? 無謀無策! そんなんじゃオレッチには勝てないぞ~?」
「言うだけならなんぼでも言えるよな?」
「ムカッ! ま、いい! すぐに涙目にしてやるぞ!」
紫電は何とか境内の開けた場所に移動。ギルもそれについてきたため、まずはここで戦う。
(建物に被害さえ出さなければ大丈夫だ…!)
紫電はそう考えているが、ギルは、
(まあまずはコイツで小手調べだな。【神代】が本当に、【UON】と戦う気があるのかを覗いてみないと。それに判断するのはオレッチじゃないし)
それほど大事にするつもりはないらしい。図らずとも両者の意見は一致したので、この戦場に異議はない。