第7話 精神への一撃 その4
文字数 2,427文字
「山姫、意外な情報を聞いたぜ」
「なになに?」
彭侯と山姫はさらに二手に分かれて聞きこみをしていた。その過程で、
「最近、ある場所の廃屋に少年が入っていくのを見たって人がいる。これはおかしいぜ」
その廃屋は、もう十年以上使われていないらしいのだ。その場所に、この数日間頻繁に子供が出入りしている。これはかなり怪しい。
「別の事件かもしれねえし、確かめに行ってみる価値はあると思うぜ? アンタはどう?」
「なら、ぼくも行くに一票!」
「よし、行くぞ!」
そんなに離れていないので、自動車で向かえばすぐに着く。
「スー、スー。えっ、ここ?」
目的地はまさかの町中……住宅街なのだ。
「灯台下暗しかもな。木を隠すなら森に、って言うだろ? 人を隠すなら、町の中!」
まずは霊視をし、何か怪しい気配があるかどうかを確かめた。ないようなので、
「入るぞ!」
「うん!」
足を進める。この廃屋には似合わない新しめのプラゴミが捨てられていた。
「ビンゴだな! 絶対誰かがいるぜ!」
「強盗とかじゃなければいいけどネ……。ま、鉢合わせしても霊障使えばどうにかなる!」
「おい、そっちじゃねえぞ!」
今山姫が入ろうとした部屋は、最近使用した形跡がない。逆に彭侯が指さしている部屋は、廃材を片付けた後がある。
「一、二の三! で、行くぞ!」
「わかったヨ!」
呼吸を合わせて一気に突入。
「オラオラオラ! 手を挙げろ!」
そこには犯罪者のような輩はいなかった。
いたのは、女性だ。手足を縛られ柱に括り付けられ、グタッとうつむいて座っている。
「お、おい……! この人って、確か!」
「か、香恵じゃないの!」
乱れやつれてしまっているが、長い髪と体型でわかった。
「何この虫! 邪魔だヨ!」
香恵に向かって群がっているサソリやクモを鬼火で焼き払う山姫。ついでに彼女を縛っている縄も焼き切る。
「香恵、大丈夫か? しっかりしろ!」
肩を持って揺らすと、目が覚めたらしく、
「だ、誰……?」
「オレは彭侯だ、今助けるからな!」
幸いにもこの廃屋の守りは応声虫の虫だけだ。そのサソリたちも全部燃やしてしまったので、もう香恵の救出を邪魔するモノはいない。
「肩、貸してあげるヨ! 早くこんなところから出ようネ!」
「ありがとう……」
体力も落ちているらしく一人で立ち上がれそうにないので、山姫が支えた。
ちなみにこの時二人は、ビデオカメラの存在に全く気が行ってなかった。
「あっ……」
画面に映る山姫と彭侯が、香恵を救い出した。それを見た緑祁と辻神は、
「今、見たよな?」
「うん…」
スマートフォンを持って画面を二人に見せている洋次は、まだ気づいていないらしい。
「むっ! きさまら、いいのか? 香恵がどうなっても?」
「香恵なら……。私の優秀な仲間がもう救い出した」
「寝言か? 頭脳が間抜けなトラップにわたしがかかるとでも?」
洋次は、これは二人の作戦だと判断したのだ。自分を油断させ、その一瞬の隙を突いて来るのだろう、と。
「いいだろう! そういうことをするのなら、もう応声虫で……」
廃屋に配置した虫たちに指示を与える。だが、感覚がない。
「な、何事だこれは……?」
命令できないのだ。
「ま、まさか!」
スマートフォンの画面を自分に向ける。そこには誰の姿も映されていない。
「ば、馬鹿な!」
人質がいなくなってしまった。
「もう、容赦はしないよ! さあ、行くぞ洋次!」
緑祁が一気に前に出た。旋風と鉄砲水を同時に繰り出し、それらを合わせ、
「霊障合体・台風!」
「ほぐおおおおおおおっ!」
彼の手の中から放たれた小さな嵐は、洋次を飲み込んでずぶ濡れにしつつ吹き飛ばした。
「ぐえっ!」
地面に叩きつけられた洋次。落ちた二匹のカブトムシに手を伸ばしたが、拾う前に辻神の放った電霊放がそれを破壊する。
「今度はおまえの番だ! 動くな、洋次! おまえを撃ち抜くことなど、私には容易い」
「こ、この愚図どもにわたしが……! 敗北など、現実じゃない! 納得など、できない!」
前に秀一郎に逃げられた辻神としては、この洋次は絶対に捕まえたい人物。もちろん彼らを陰で操っている人物を暴くためだ。
(豊次郎ではない誰かが、裏にいるんだ。洋次を尋問し、ソイツのことを吐き出させる!)
しかし洋次は、やはり逃げることを考えていた。懐に手を入れて札を取り出すと、
「絶対に報復してやる! この屈辱、忘却などしない!」
それを振った。すると霊魂が飛んだ。
「霊障か! だが悪あがきだ……」
だがそれはただの霊魂ではなかった。地面にぶつかると同時に、尋常ではない音を吐き出したのだ。
「わわっ!」
「っみ、耳が!」
二人とも、鼓膜を突き破られたかのような痛みを味わい怯んだ。自分の意思に反して耳を手で覆った。
「大丈夫か、緑祁? それより私の声が聞こえるか?」
「ジンジンする……! でも、鼓膜は破れてない?」
相手の声が聞こえたので、聴覚を完全に失わせる威力はないらしい。一瞬だけ怯ませるのが目的のようだ。
「しまった! 洋次は!」
この隙に彼は立ち上がって、走って逃げた。
「お、追え! 捕まえろ!」
しかしここで洋次は、蚊取閃光でゴライアスオオツノハナムグリの弾幕を生み出した。
(コイツ、まだこんな力を隠し持っていたか!霊魂と応声虫の霊障合体・音響 魚雷 ……。本気で逃げ切るつもりだな……!)
向こう側が見えないほどだ。緑祁は鬼火を使ってみたが、どうやら帯電しているらしく、無効化された。
「どうするよ、辻神?」
「……待て。今気づいたんだが、【神代】から連絡があった」
戦闘中で気づかなかったが、どうやら電話がかかっていたようだ。それは山姫と彭侯からではなく、満から。
「一旦、【神代】の本部に戻ろう。何か【神代】の方で進展があったのかもしれない」
「その前に、香恵に会いたい。彭侯と山姫が救い出してくれたんだよね?」
「そうだな。そっちを優先しよう」
とにかく二人は一度、山姫たちと合流することに。
「なになに?」
彭侯と山姫はさらに二手に分かれて聞きこみをしていた。その過程で、
「最近、ある場所の廃屋に少年が入っていくのを見たって人がいる。これはおかしいぜ」
その廃屋は、もう十年以上使われていないらしいのだ。その場所に、この数日間頻繁に子供が出入りしている。これはかなり怪しい。
「別の事件かもしれねえし、確かめに行ってみる価値はあると思うぜ? アンタはどう?」
「なら、ぼくも行くに一票!」
「よし、行くぞ!」
そんなに離れていないので、自動車で向かえばすぐに着く。
「スー、スー。えっ、ここ?」
目的地はまさかの町中……住宅街なのだ。
「灯台下暗しかもな。木を隠すなら森に、って言うだろ? 人を隠すなら、町の中!」
まずは霊視をし、何か怪しい気配があるかどうかを確かめた。ないようなので、
「入るぞ!」
「うん!」
足を進める。この廃屋には似合わない新しめのプラゴミが捨てられていた。
「ビンゴだな! 絶対誰かがいるぜ!」
「強盗とかじゃなければいいけどネ……。ま、鉢合わせしても霊障使えばどうにかなる!」
「おい、そっちじゃねえぞ!」
今山姫が入ろうとした部屋は、最近使用した形跡がない。逆に彭侯が指さしている部屋は、廃材を片付けた後がある。
「一、二の三! で、行くぞ!」
「わかったヨ!」
呼吸を合わせて一気に突入。
「オラオラオラ! 手を挙げろ!」
そこには犯罪者のような輩はいなかった。
いたのは、女性だ。手足を縛られ柱に括り付けられ、グタッとうつむいて座っている。
「お、おい……! この人って、確か!」
「か、香恵じゃないの!」
乱れやつれてしまっているが、長い髪と体型でわかった。
「何この虫! 邪魔だヨ!」
香恵に向かって群がっているサソリやクモを鬼火で焼き払う山姫。ついでに彼女を縛っている縄も焼き切る。
「香恵、大丈夫か? しっかりしろ!」
肩を持って揺らすと、目が覚めたらしく、
「だ、誰……?」
「オレは彭侯だ、今助けるからな!」
幸いにもこの廃屋の守りは応声虫の虫だけだ。そのサソリたちも全部燃やしてしまったので、もう香恵の救出を邪魔するモノはいない。
「肩、貸してあげるヨ! 早くこんなところから出ようネ!」
「ありがとう……」
体力も落ちているらしく一人で立ち上がれそうにないので、山姫が支えた。
ちなみにこの時二人は、ビデオカメラの存在に全く気が行ってなかった。
「あっ……」
画面に映る山姫と彭侯が、香恵を救い出した。それを見た緑祁と辻神は、
「今、見たよな?」
「うん…」
スマートフォンを持って画面を二人に見せている洋次は、まだ気づいていないらしい。
「むっ! きさまら、いいのか? 香恵がどうなっても?」
「香恵なら……。私の優秀な仲間がもう救い出した」
「寝言か? 頭脳が間抜けなトラップにわたしがかかるとでも?」
洋次は、これは二人の作戦だと判断したのだ。自分を油断させ、その一瞬の隙を突いて来るのだろう、と。
「いいだろう! そういうことをするのなら、もう応声虫で……」
廃屋に配置した虫たちに指示を与える。だが、感覚がない。
「な、何事だこれは……?」
命令できないのだ。
「ま、まさか!」
スマートフォンの画面を自分に向ける。そこには誰の姿も映されていない。
「ば、馬鹿な!」
人質がいなくなってしまった。
「もう、容赦はしないよ! さあ、行くぞ洋次!」
緑祁が一気に前に出た。旋風と鉄砲水を同時に繰り出し、それらを合わせ、
「霊障合体・台風!」
「ほぐおおおおおおおっ!」
彼の手の中から放たれた小さな嵐は、洋次を飲み込んでずぶ濡れにしつつ吹き飛ばした。
「ぐえっ!」
地面に叩きつけられた洋次。落ちた二匹のカブトムシに手を伸ばしたが、拾う前に辻神の放った電霊放がそれを破壊する。
「今度はおまえの番だ! 動くな、洋次! おまえを撃ち抜くことなど、私には容易い」
「こ、この愚図どもにわたしが……! 敗北など、現実じゃない! 納得など、できない!」
前に秀一郎に逃げられた辻神としては、この洋次は絶対に捕まえたい人物。もちろん彼らを陰で操っている人物を暴くためだ。
(豊次郎ではない誰かが、裏にいるんだ。洋次を尋問し、ソイツのことを吐き出させる!)
しかし洋次は、やはり逃げることを考えていた。懐に手を入れて札を取り出すと、
「絶対に報復してやる! この屈辱、忘却などしない!」
それを振った。すると霊魂が飛んだ。
「霊障か! だが悪あがきだ……」
だがそれはただの霊魂ではなかった。地面にぶつかると同時に、尋常ではない音を吐き出したのだ。
「わわっ!」
「っみ、耳が!」
二人とも、鼓膜を突き破られたかのような痛みを味わい怯んだ。自分の意思に反して耳を手で覆った。
「大丈夫か、緑祁? それより私の声が聞こえるか?」
「ジンジンする……! でも、鼓膜は破れてない?」
相手の声が聞こえたので、聴覚を完全に失わせる威力はないらしい。一瞬だけ怯ませるのが目的のようだ。
「しまった! 洋次は!」
この隙に彼は立ち上がって、走って逃げた。
「お、追え! 捕まえろ!」
しかしここで洋次は、蚊取閃光でゴライアスオオツノハナムグリの弾幕を生み出した。
(コイツ、まだこんな力を隠し持っていたか!霊魂と応声虫の霊障合体・
向こう側が見えないほどだ。緑祁は鬼火を使ってみたが、どうやら帯電しているらしく、無効化された。
「どうするよ、辻神?」
「……待て。今気づいたんだが、【神代】から連絡があった」
戦闘中で気づかなかったが、どうやら電話がかかっていたようだ。それは山姫と彭侯からではなく、満から。
「一旦、【神代】の本部に戻ろう。何か【神代】の方で進展があったのかもしれない」
「その前に、香恵に会いたい。彭侯と山姫が救い出してくれたんだよね?」
「そうだな。そっちを優先しよう」
とにかく二人は一度、山姫たちと合流することに。