第10話 雷が瞬いた その3
文字数 4,152文字
「ありがてえぜ、任せるぞ!」
「いい仲間だね。彼らごと、【UON】に持って帰るのも悪くないかね……?」
ハイフーンはガジェットを操作し、雪女たちと戦わせる。一人につき、三個。これで彼を守るガジェットはなくなった。
「今だ!」
紫電はやっと駆け出せる。
一方雪女たちは頑張った。
「このガジェット……。本当にウザい…」
攻撃しても致命的なダメージでなければ、すぐに復帰する。雪女は雪の氷柱と結晶で応戦する。
「うおおお! 紫電が頑張ってんだ、俺だってやるぞお!」
賢治の螺旋鋼も良い戦果を生んだ。ガジェットの攻撃を硬さで耐え、そしてしなやかさで逆にこちらからも攻撃を加える。
「負けてられません。絶対にぶち壊してやります!」
一番苦戦するかと思われた柚好だったが、点灯虫を駆使して何とか踏ん張る。
一人三個が相手なので、先ほどの紫電の時のような理不尽な猛攻はない。それを見て安心した紫電はハイフーンに一気に近づく。狙うは電霊放の直流しだ。それで決着を。
「終わりだ、ハイフーン! 俺の一撃が、全てを………」
その雷をまとった拳はそのまま行けば、確実にハイフーンの頬に直撃するはずだった。
しかし信じられないことが起きる。
「おわ……。な、何?」
ハイフーンが、その一撃を避けたのだ。器用にかつ素早く動き、逆に紫電の顔を殴った。
「が、はああっ!」
「見当違いも甚だしいね!」
誤算だった。
ハイフーンは霊障を使える。それは乱舞もしかり。だからガジェットをくぐり抜けて接近戦に持ち込めば勝てるであろうという考え自体が、甘かったのだ。
「どうした、ね?」
さらに腹に一撃。
「ぐ、こんな馬鹿な…?」
だが紫電もやられっぱなしではない。電霊放を撃った。それはハイフーンに直撃したのだが、彼は何とそれで生じた怪我を撫でて回復させる。
「れ……霊障合体、無病息災……!」
今まで見てなかったから、想像もしていなかったことだ。ハイフーンは慰療と薬束も使えるのである。
「そういう名前らしいね、ユーたちによると、ね」
攻撃はガジェットと乱舞。そして回復は無病息災。ディスよりも完璧な攻守一体の流れを形成する霊能力者が、ハイフーンであった。
「そこ、隙だらけだね!」
アッパーが紫電の顎に入った。
「うごおお!」
その衝撃で吹っ飛ばされる紫電。幸いにもうまく着地できたが、視線を戻すと眼前にハイフーンが迫っている。
「ぬおおおおお!」
ここはもう迷っていられない、電霊放だ。紫電の本能がそれを撃つ。ハイフーンはこの稲妻を避けるのは困難と判断したのか、逃げない。逆に受け止めつつ慰療で損傷を治し、薬束で痺れのケアもする。そして乱舞によって強化された拳で、徹底的に紫電を殴りつける。
「どうだね? もう降参したらいいんじゃないかね?」
「誰がするか、大馬鹿野郎が!」
「強がる根性だけは褒めてやるね…。でもここまでね!」
ハイフーンは後方に飛び、手と手をこすり合わせた。そして静電気を生じさせると、電霊放を紫電に向けて放ったのだ。
(彼に引導を渡すのは、このシャドープラズマが相応しいね!)
しかし、紫電はそれには意味がないことを知っていた。
「うおおおおお!」
逃げない。前に進む。
「何と、どういうつもりね、シデン?」
電霊放が直撃したが、それは全て背中のバックパックコイルに吸い取られる。だからダメージはない。
(何か、シャドープラズマへの対策を施しているのかね? 背中に何か背負っていたけど、それが意味があるものなのかね……?)
この時のハイフーンには、決定的な隙があった。
「今度こそ、砕け散れ! 電霊放ぉおおおおおお!」
フルパワーの電霊放を、ロッドから撃ち込んだ。眩い光で、撃ち込んだ紫電本人すら視界が奪われる。
(こ、この手応えは!)
直撃した感触だ。
(か、勝った……! これでハイフーンを、ようやく退けたぞ!)
だが光が晴れると、ハイフーンの姿がない。電霊放で蒸発したのか? それは違う。人を殺せる火力にはなっていなかったはずだ。
よく見ると、地面の上に砕け散った岩石が転がっている。
「い、今撃ったのは……!」
礫岩で生み出された、身代わりの岩石。地面から浮いていたために地面に電気が流れていかなかったから、直撃の感触が伝わったのである。
さらにマズいことに、紫電はハイフーンを見失っている。キョロキョロするが、どこにもいない。
「こんなこと、あり得ねえ! どこかに消えやがったのか? いや待て、これは……」
相手はありとあらゆる霊障を使える人物。だとしたら今姿が消えている理由は、一つしかない。
「蜃気楼!」
「正解だね」
後ろから声がした。振り向いたが、誰もいない。応声虫の偽の声だ。
「どこにいやがる……?」
手当たり次第に電霊放を撃つという手があるが、それは選べない。近くにいる雪女たちを巻き込んでしまうからだ。
迷っていると、突然両手首に違和感が走った。
「あっ!」
「捕まえたね!」
ハイフーンだ。後ろに回り込んで背後から、両手を掴んだのである。そして強引に紫電の腕を後ろに回させ、背中でクロスさせる。
「いぢぢぢ………!」
その状態でさらに手首を持ち上げられているのだから、関節が悲鳴を上げている。
「これで脱臼でもさせれば、もうユーは戦えないね! ミーの言うこと従うしかない、ね!」
「そ、そんな………」
電霊放を撃つか? しかし今のハイフーンはその危険性もちゃんと考え、ダウジングロッドを回して先端を紫電の肘にくっつけている。
(ユーには電霊放は通じないね。でもそれは、自分で自分に流し込むことすらもできないということでもあるね)
撃てる手がない。万事休すだ。
「これでも諦めないって言えるかね?」
「い、言うさ………。諦めなければ、必ず道は開けるんだ! 絶対に勝利への道を進んでみせる!」
「ハハハハ、笑わせるね!」
何もできない紫電とは裏腹に、ここからのハイフーンには様々な選択肢が残されている。毒厄を使うのもいい。他の霊障で攻めるのもありだ。電霊放が撃てない今なら、鬼火すら紫電にとっては驚異的な霊障。
「もがいても無駄だね。ユーはもう、電霊放を撃てない、ね! そしてユーには霊障は、電霊放しかないね!」
「撃てない、だぁ?」
その言葉に紫電は反応した。
「なら………見せてやる!」
電霊放を撃ったのだ。
「な……何をする気かね、シデン…?」
でもその電霊放は、バックパックコイルに吸収されてハイフーンに届かない。
(許せ、勇悦! 俺が勝つには、これしかねえんだ!)
バックパックコイルに流れ込む電霊放。それは紫電のダウジングロッドへ流れ電霊放の電源になる。
「ここだ! いけぇええええええ!」
威力を一気に上げた。すると背中が熱くなる。いいや、バックパックコイルが熱を帯びているのだ。
「これは………!」
ハイフーンも驚きを隠せない。何せ目の前のコイルが、まるで爆発寸前のエンジンのように見えるのだから。
「危ないのか、ね………!」
腕で防ごうにも、その手は紫電の拘束に使っている。だからできない。
(マズいことになっている、ね……。今のままだと……)
限界は、ハイフーンは予想していたよりも早く訪れた。紫電のバックパックコイルが、爆ぜたのだ。
「っぐ!」
背中に痛みが走る。でもそれを気にしていられない。
「バアアアアアア?」
一方目の前で爆発されたハイフーンの被害は大きかった。まず、眼鏡が砕け飛んだ。レンズの破片が瞼に突き刺さり、反射的に目が閉じる。
「おおおお、おおおおおおおおおおおお!」
瞬時に振り返り、紫電はメリケンサックを握りしめて殴りかかる。さっき電霊放を酷使したせいで、ダウジングロッドも使い物にならなくなった。もうこれしか残っていない。
紫電の反撃を本能で感じたハイフーンは、ガジェットを三個呼び戻した。その三つが雪の結晶の三角形を作り出し、紫電の拳を防ぐ。
「砕けぇえええええええっ!」
彼はこの一撃に、全てを賭けている。これが駄目なら、もう自分には残された道がない。背水の陣。その覚悟が、前へ前へと彼の心と体を押した。
そして、焦ったハイフーンが選んだのは悪手だった。
「数が減った…。なら今が、チャンス」
三個のガジェットを相手にするのは結構骨が折れた。しかし今は二個だけだ。まずは雪女、
「えい、やああ」
雪の氷柱を刃物のように鋭く平べったくして歯車を真っ二つに切り裂いた。両方とも破壊したのだ。
次に賢治。
「負けないぜ! そして紫電のことは、海の向こうには渡さない!」
機傀で生んだ鎌と螺旋鋼で鞭状になった日本刀で、歯車を何度も叩き切る。耐え切れなくなった歯車にはヒビが走り、そこから崩壊。
そして柚好。
「必ず、勝ちます!」
点灯虫が歯車に引っ付くと、鬼火を最大火力まで高める。同時に応声虫の音波と虫の牙や角でも攻撃。少しずつガジェットを砕いていった。
六つのガジェットが、雪女たちによって破壊された。
(こんなの、現実じゃない、ね……! あり得ない話だねっ………!)
その感触をハイフーンは味わった。まさか日本の霊能力者によって、しかも明らかに自分よりも年下の人物に、ガジェットが破られるとは夢にも思っていなかったのだ。
その動揺が作用したのだろうか、ハイフーンを守る雪の結晶にもヒビが入る。
(行ける! 確実にこのまま、押し切れる!)
そう確信した紫電はさらに踏み込む。もう、何を後悔してもいい。ここでハイフーンを倒すことだけに集中していた。
(ま、負けるはずがないね、ミーが!)
現実を受け入れられないハイフーン。
次の瞬間、雪の結晶を突き破った紫電の拳がハイフーンの頬に直撃した。メリケンサックは雪の結晶と共に壊れてしまい、電霊放を直接流し込むこと自体は不発に終わった。だからこれは、威力こそ高いが純粋なパンチである。
その拳がハイフーンに与えたもの。それは痛みだけではなかった。
(なるほどね……。これは屈強な精神力だね…)
心だ。紫電の魂が伝わったのだ。それは太く長い。そして自分の精神は、それに負けている。だからガジェットが突破されたのだと理解した。わかったと同時に、勝手に彼の体は地面に倒れた。
「負けた、ね………」
潔く敗北を受け入れ、そう呟いた。
「いい仲間だね。彼らごと、【UON】に持って帰るのも悪くないかね……?」
ハイフーンはガジェットを操作し、雪女たちと戦わせる。一人につき、三個。これで彼を守るガジェットはなくなった。
「今だ!」
紫電はやっと駆け出せる。
一方雪女たちは頑張った。
「このガジェット……。本当にウザい…」
攻撃しても致命的なダメージでなければ、すぐに復帰する。雪女は雪の氷柱と結晶で応戦する。
「うおおお! 紫電が頑張ってんだ、俺だってやるぞお!」
賢治の螺旋鋼も良い戦果を生んだ。ガジェットの攻撃を硬さで耐え、そしてしなやかさで逆にこちらからも攻撃を加える。
「負けてられません。絶対にぶち壊してやります!」
一番苦戦するかと思われた柚好だったが、点灯虫を駆使して何とか踏ん張る。
一人三個が相手なので、先ほどの紫電の時のような理不尽な猛攻はない。それを見て安心した紫電はハイフーンに一気に近づく。狙うは電霊放の直流しだ。それで決着を。
「終わりだ、ハイフーン! 俺の一撃が、全てを………」
その雷をまとった拳はそのまま行けば、確実にハイフーンの頬に直撃するはずだった。
しかし信じられないことが起きる。
「おわ……。な、何?」
ハイフーンが、その一撃を避けたのだ。器用にかつ素早く動き、逆に紫電の顔を殴った。
「が、はああっ!」
「見当違いも甚だしいね!」
誤算だった。
ハイフーンは霊障を使える。それは乱舞もしかり。だからガジェットをくぐり抜けて接近戦に持ち込めば勝てるであろうという考え自体が、甘かったのだ。
「どうした、ね?」
さらに腹に一撃。
「ぐ、こんな馬鹿な…?」
だが紫電もやられっぱなしではない。電霊放を撃った。それはハイフーンに直撃したのだが、彼は何とそれで生じた怪我を撫でて回復させる。
「れ……霊障合体、無病息災……!」
今まで見てなかったから、想像もしていなかったことだ。ハイフーンは慰療と薬束も使えるのである。
「そういう名前らしいね、ユーたちによると、ね」
攻撃はガジェットと乱舞。そして回復は無病息災。ディスよりも完璧な攻守一体の流れを形成する霊能力者が、ハイフーンであった。
「そこ、隙だらけだね!」
アッパーが紫電の顎に入った。
「うごおお!」
その衝撃で吹っ飛ばされる紫電。幸いにもうまく着地できたが、視線を戻すと眼前にハイフーンが迫っている。
「ぬおおおおお!」
ここはもう迷っていられない、電霊放だ。紫電の本能がそれを撃つ。ハイフーンはこの稲妻を避けるのは困難と判断したのか、逃げない。逆に受け止めつつ慰療で損傷を治し、薬束で痺れのケアもする。そして乱舞によって強化された拳で、徹底的に紫電を殴りつける。
「どうだね? もう降参したらいいんじゃないかね?」
「誰がするか、大馬鹿野郎が!」
「強がる根性だけは褒めてやるね…。でもここまでね!」
ハイフーンは後方に飛び、手と手をこすり合わせた。そして静電気を生じさせると、電霊放を紫電に向けて放ったのだ。
(彼に引導を渡すのは、このシャドープラズマが相応しいね!)
しかし、紫電はそれには意味がないことを知っていた。
「うおおおおお!」
逃げない。前に進む。
「何と、どういうつもりね、シデン?」
電霊放が直撃したが、それは全て背中のバックパックコイルに吸い取られる。だからダメージはない。
(何か、シャドープラズマへの対策を施しているのかね? 背中に何か背負っていたけど、それが意味があるものなのかね……?)
この時のハイフーンには、決定的な隙があった。
「今度こそ、砕け散れ! 電霊放ぉおおおおおお!」
フルパワーの電霊放を、ロッドから撃ち込んだ。眩い光で、撃ち込んだ紫電本人すら視界が奪われる。
(こ、この手応えは!)
直撃した感触だ。
(か、勝った……! これでハイフーンを、ようやく退けたぞ!)
だが光が晴れると、ハイフーンの姿がない。電霊放で蒸発したのか? それは違う。人を殺せる火力にはなっていなかったはずだ。
よく見ると、地面の上に砕け散った岩石が転がっている。
「い、今撃ったのは……!」
礫岩で生み出された、身代わりの岩石。地面から浮いていたために地面に電気が流れていかなかったから、直撃の感触が伝わったのである。
さらにマズいことに、紫電はハイフーンを見失っている。キョロキョロするが、どこにもいない。
「こんなこと、あり得ねえ! どこかに消えやがったのか? いや待て、これは……」
相手はありとあらゆる霊障を使える人物。だとしたら今姿が消えている理由は、一つしかない。
「蜃気楼!」
「正解だね」
後ろから声がした。振り向いたが、誰もいない。応声虫の偽の声だ。
「どこにいやがる……?」
手当たり次第に電霊放を撃つという手があるが、それは選べない。近くにいる雪女たちを巻き込んでしまうからだ。
迷っていると、突然両手首に違和感が走った。
「あっ!」
「捕まえたね!」
ハイフーンだ。後ろに回り込んで背後から、両手を掴んだのである。そして強引に紫電の腕を後ろに回させ、背中でクロスさせる。
「いぢぢぢ………!」
その状態でさらに手首を持ち上げられているのだから、関節が悲鳴を上げている。
「これで脱臼でもさせれば、もうユーは戦えないね! ミーの言うこと従うしかない、ね!」
「そ、そんな………」
電霊放を撃つか? しかし今のハイフーンはその危険性もちゃんと考え、ダウジングロッドを回して先端を紫電の肘にくっつけている。
(ユーには電霊放は通じないね。でもそれは、自分で自分に流し込むことすらもできないということでもあるね)
撃てる手がない。万事休すだ。
「これでも諦めないって言えるかね?」
「い、言うさ………。諦めなければ、必ず道は開けるんだ! 絶対に勝利への道を進んでみせる!」
「ハハハハ、笑わせるね!」
何もできない紫電とは裏腹に、ここからのハイフーンには様々な選択肢が残されている。毒厄を使うのもいい。他の霊障で攻めるのもありだ。電霊放が撃てない今なら、鬼火すら紫電にとっては驚異的な霊障。
「もがいても無駄だね。ユーはもう、電霊放を撃てない、ね! そしてユーには霊障は、電霊放しかないね!」
「撃てない、だぁ?」
その言葉に紫電は反応した。
「なら………見せてやる!」
電霊放を撃ったのだ。
「な……何をする気かね、シデン…?」
でもその電霊放は、バックパックコイルに吸収されてハイフーンに届かない。
(許せ、勇悦! 俺が勝つには、これしかねえんだ!)
バックパックコイルに流れ込む電霊放。それは紫電のダウジングロッドへ流れ電霊放の電源になる。
「ここだ! いけぇええええええ!」
威力を一気に上げた。すると背中が熱くなる。いいや、バックパックコイルが熱を帯びているのだ。
「これは………!」
ハイフーンも驚きを隠せない。何せ目の前のコイルが、まるで爆発寸前のエンジンのように見えるのだから。
「危ないのか、ね………!」
腕で防ごうにも、その手は紫電の拘束に使っている。だからできない。
(マズいことになっている、ね……。今のままだと……)
限界は、ハイフーンは予想していたよりも早く訪れた。紫電のバックパックコイルが、爆ぜたのだ。
「っぐ!」
背中に痛みが走る。でもそれを気にしていられない。
「バアアアアアア?」
一方目の前で爆発されたハイフーンの被害は大きかった。まず、眼鏡が砕け飛んだ。レンズの破片が瞼に突き刺さり、反射的に目が閉じる。
「おおおお、おおおおおおおおおおおお!」
瞬時に振り返り、紫電はメリケンサックを握りしめて殴りかかる。さっき電霊放を酷使したせいで、ダウジングロッドも使い物にならなくなった。もうこれしか残っていない。
紫電の反撃を本能で感じたハイフーンは、ガジェットを三個呼び戻した。その三つが雪の結晶の三角形を作り出し、紫電の拳を防ぐ。
「砕けぇえええええええっ!」
彼はこの一撃に、全てを賭けている。これが駄目なら、もう自分には残された道がない。背水の陣。その覚悟が、前へ前へと彼の心と体を押した。
そして、焦ったハイフーンが選んだのは悪手だった。
「数が減った…。なら今が、チャンス」
三個のガジェットを相手にするのは結構骨が折れた。しかし今は二個だけだ。まずは雪女、
「えい、やああ」
雪の氷柱を刃物のように鋭く平べったくして歯車を真っ二つに切り裂いた。両方とも破壊したのだ。
次に賢治。
「負けないぜ! そして紫電のことは、海の向こうには渡さない!」
機傀で生んだ鎌と螺旋鋼で鞭状になった日本刀で、歯車を何度も叩き切る。耐え切れなくなった歯車にはヒビが走り、そこから崩壊。
そして柚好。
「必ず、勝ちます!」
点灯虫が歯車に引っ付くと、鬼火を最大火力まで高める。同時に応声虫の音波と虫の牙や角でも攻撃。少しずつガジェットを砕いていった。
六つのガジェットが、雪女たちによって破壊された。
(こんなの、現実じゃない、ね……! あり得ない話だねっ………!)
その感触をハイフーンは味わった。まさか日本の霊能力者によって、しかも明らかに自分よりも年下の人物に、ガジェットが破られるとは夢にも思っていなかったのだ。
その動揺が作用したのだろうか、ハイフーンを守る雪の結晶にもヒビが入る。
(行ける! 確実にこのまま、押し切れる!)
そう確信した紫電はさらに踏み込む。もう、何を後悔してもいい。ここでハイフーンを倒すことだけに集中していた。
(ま、負けるはずがないね、ミーが!)
現実を受け入れられないハイフーン。
次の瞬間、雪の結晶を突き破った紫電の拳がハイフーンの頬に直撃した。メリケンサックは雪の結晶と共に壊れてしまい、電霊放を直接流し込むこと自体は不発に終わった。だからこれは、威力こそ高いが純粋なパンチである。
その拳がハイフーンに与えたもの。それは痛みだけではなかった。
(なるほどね……。これは屈強な精神力だね…)
心だ。紫電の魂が伝わったのだ。それは太く長い。そして自分の精神は、それに負けている。だからガジェットが突破されたのだと理解した。わかったと同時に、勝手に彼の体は地面に倒れた。
「負けた、ね………」
潔く敗北を受け入れ、そう呟いた。