第9話 二輪の抵抗 その2
文字数 4,343文字
「では………やりましょうか! 霊障・精霊光……!」
花織の両手の間に、光の球体が出現。バスケットボールくらいの大きさに成長すると、それを邪産神に向けて撃ち出した。
「眩しい光だな。だがその対策は既にわかっている。俺には効かない。それに……」
機傀で鏡を作った。これさえあれば精霊光は跳ね返せる。その後久実子の方をチラリと見た。彼女は堕天闇を展開しているが、この空間はある程度明るく、伸びていく影が見え、これなら軌道がわかる。
「ふはははははははははは!」
大量の鏡を生み出し、自分の周囲を覆った。堕天闇である程度壊されても他の鏡ですぐにカバーできる。
「どうだ人間モドキども! お前たちに俺が倒せるか?」
「あっ……」
今、花織の精霊光が鏡に当たったのだが、斜め上に弾かれてしまった。鏡にはやはり精霊光は通じない。久実子の堕天闇が鏡を何枚か破壊できたが、すぐに新しいのが補充されてしまい。隙が無い。
「今度は俺から行くか。安心しな、霊障で殺しはしない。お前たちは俺が吸収して殺す!」
半殺しもしくは気絶させることが邪産神の目的だ。
(マズいな……。花織とあたしで、勝てるのか……? コイツをここから追い出さなければ、緑祁たちに除霊させることすら叶わない……。どうしたら……)
考える暇も与えてもらえず、汚染濁流が突っ込んできた。
「それっ!」
その水流は花織の精霊光を当てて蒸発させた。
「ぐふふふふふふふふふふふふふ! ははははははははははは!」
今度は邪産神自身がジャンプし突っ込んでくる。乱舞を駆使して凄まじい動きのパンチとキックを繰り出した。
「ぬわっ!」
「きゃ!」
一撃で吹っ飛ばされる。
(そ、そうですか……。わたくしたちは今は、式神の姿じゃない。だから、体の頑丈さも損なわれているのですね……)
札の外では式神だから、ある程度の耐久力がある。足を振り下ろすだけで人間以上の攻撃力を叩き出せる。しかしここは札の中の世界で、彼女たちは人間の姿。だから、体は丈夫じゃない。羽もないので飛べず、素早い動きもない。
「あっけなく決着しそうだな? どうだ、人間モドキども?」
邪産神はまず、久実子に狙いを定めた。
「絶対に叩きのめしてやる! 邪産神! あんたは生かせてはおけない!」
堕天闇が伸びる。しかし邪産神の乱舞を駆使した動きはその器用に動く影よりも複雑に動き、避けた。
「ぐははははは!」
腕を掴んで振り回す。ぶん投げられた久実子は花織にぶつけられた。
「す、すまない、花織……。あたしとしたことが……」
「今は、いいです。勝利してからで! まずはアイツを倒すことだけを考えましょう」
誰だって、即座に敵を瞬殺できるわけではない。戦い方を模索し、そこから倒し方を導き出すのだ。
「二人まとめて潰してやろう…! 人間どもはよくやってくれた! 俺のために霊障を大量に使い、そして霊障合体までも教えてくれた! 俺が強くなると夢にも思わずに、な! そしてお前たち人間モドキも、ここで俺の成長の糧となる!」
だが邪産神の方が有利だ。また霊障合体を繰り出す。今度は雪と鉄砲水の合わせ技、流氷波だ。二人まとめて凍らせてしまおうという魂胆である。
「花織! 逃げろ! ここはあたしが防御する!」
迫りくる氷水をなんとか堕天闇で防ぐ久実子。しかし長くは持たない。
「やはりここはわたくしが!」
久実子の後ろから乗り出して花織が精霊光を使った。勝負を決めるにはやはり、邪産神を狙うしかない。
「お前たち……。そうか、それしかできないのだな?」
図星だ。花織は精霊光だけ、久実子は堕天闇だけしか使えないのである。
「フフフフ、ワンパターンだと思えばそういうことか。ならば!」
まず、後ろに下がる邪産神。それから機傀で巨大な鏡を目の前に生み出した。
(また、跳ね返される! 花織の精霊光では、あの鏡は貫けない、壊せない! ここはあたしが前に出て、あの鏡を割らなければ!)
危険だが、邪産神に近づくしかない。花織の精霊光さえ当てられれば、それは決定打となり得る。自分の役目はサポートだと即座に判断し、久実子は前に進み出した。
「逃がすか! 邪産神!」
「かかってこいよ、人間モドキが!」
至近距離なら乱舞が光る。拳が炎を帯びた、炎獄拳。これが久実子に迫る。
(でもここが勝負どころ! 逃げないぞ、あたしは!)
胸に炎獄拳が当たる。かなり熱い。だが、
「ぐぶっ! だ、だが! 捕まえた……!」
「何だと?」
燃えていない腕を久実子は掴んだ。
「今だ花織! 精霊光を!」
「もう、撃ちました!」
強い光が迫ってくる。邪産神は、
「何度も何度も! 通じないことを理解できないとはな!」
また鏡を作った。
「これで跳ね返して……!」
「いいや、させないぞ!」
ここだ。ここで堕天闇を鏡にぶつけた。すると鏡が斜めになり、精霊光がかすめた。
「何……? まさか!」
邪産神は何枚もの鏡を生み出した。でもそれは全て、久実子が向きを変えたり壊したりして無力化する。
「コイツ! 邪魔だ!」
痺れを切らした邪産神は邪魔してくる久実子のことを殴り飛ばした。
「な、にぃいい!」
が、精霊光は眼前に迫っていた。鏡を挟み込む隙間がないほどに。
直後に邪産神の頭部に精霊光が直撃し、爆発。頭部が破壊され、邪産神の体はボトッと倒れた。
「や、やりました! 久実子、当たりました!」
「よ、よし……」
久実子は胸を火傷したが、新しい札に移してもらえばすぐに治る程度の傷だ。
「花織! 邪産神の体を完全に消滅させよう。この空間から消し去るんだ」
「了解です。では………え?」
頭を失ったはずの邪産神だが、何と勝手に立ち上がる。首元をよく見ると、再構築されてドンドン上に伸びていく。
「まさか……! 頭を失っても、再生できるのか! こんなことができる幽霊が、いるのか……?」
「まだ! 今なら間に合うはずです!」
二発目の精霊光を撃ち込む花織だったが、それでも安心できないことが起きる。二発目は邪産神の下半身を吹き飛ばしたが、すぐに修復されてしまったのだ。
「説明し忘れていたな……? 俺はな、不死身なのさ」
「そんな馬鹿な?」
「あり得ません、そんなこと!」
でも見ればわかる。今こうして話している間にも、邪産神は自分の体を完全に治した。
「香恵の慰療でもあり得ないはずです、こんなこと!」
霊障ではない邪産神の性質。慶刻の説明を聞いていないから、二人は知らないのだ。
「これでわかっただろう? お前たちでも俺には勝てない! これはもう、覆せない事実なのだ。お前たちの力を吸収したら、今度こそ人間どもを根絶やしにしてやる!」
急に風が吹いた。それも冷たく乾いた風……雪と旋風の合わせ技、霊障合体・乾燥風 だ。
「くっ……!」
動きを一瞬止められた。その隙に邪産神は風に乗って一気に近づき、
「くらうがいい! 霊障合体・毒手!」
二人の腹に毒厄を帯びた乱舞によるパンチを入れた。
「うっ!」
「嫌っ!」
痛みは不思議と感じない。毒厄のせいで神経が、痛覚が脳に伝達される前に麻痺しているのだ。しかも立っているだけの体力も徐々に無くなる。
「これでいい! まだ、殺さないが、仮死状態にしてやろう! じっくりとお前たちの命を俺のものにしてやるよ」
地面に倒れる二人。毒厄が体に回り始めたのだろう、段々と視界もぼやけてくる。
(駄目、です……。ごめんなさい、緑祁……。わたくしたちはここで終わり、です……。邪産神に勝てなかったこと、負けてしまったことを許して、ください……)
花織と久実子の頭で考えることができたのは、悔しさという感情だった。ここで邪産神を倒すことが、自分たちの使命であったはず。それを全うできず、命を奪われ霊障も取られ、負ける。
「さて、もういいだろう」
邪産神が二人に近づいた。その時だ。
「ん、何だ?」
急に二人の体が光り輝く。強い霊気に包まれているのだ。
「何が起きている? どういうことだ?」
この力の源がわからない。そしてその力のおかげで、毒厄が消し去り、
「まだ……。まだ、戦えるぞ! これはきっと、緑祁たちが力を分け与えてくれたんだ! 緑祁だけじゃない、香恵や他の人たちの温もりも感じる!」
立ち上がれた。
「馬鹿な? もうお前たちの体は病に侵され、死ぬ寸前にまで追い込まれているはずだ!」
札の中の邪産神や二人にはわからない。今、札の外では大勢の霊能力者が、この二枚の札に自分の力を念じて送ってくれている。それが今、二人に届いたのだ。
「ふざけやがって! 俺の勝利は揺るいでいない! ここからお前たちが勝つなんぞ、無理な話だ、通らない!」
霊障合体・氷斬刀で二人に切りかかる邪産神だったが、空振りした。距離感がバグったのではなく、花織と久実子が邪産神が認識できる以上の素早さで移動したのだ。
「これは……もう、精霊光ではありません! より強い力を感じます! もしや霊障発展に進化したのではないでしょうか……!」
「そのようだ、花織! あたしの堕天闇も、今までのとは何味も違う!」
花織は光弾を繰り出した。これはもう精霊光ではない。
「霊障発展・聖霊王光 !」
眩く、そして強い光だ。しかも速さも今まで以上。
「な、何の!」
困惑する状況にもかかわらず邪産神は冷静に、機傀でまた鏡を作った。しかし聖霊王光はその鏡に跳ね返らず、貫いて邪産神に直撃したのだ。
「グウウウウワアアアアアアア! な、何故だ……!」
次に久実子が動く。
「霊障発展・悪魔神闇 !」
この霊障発展は、自分以外の影も自在に操れる。邪産神自身の影が邪産神を攻撃するのだ。しかも花織と久実子の影も伸びて邪産神を追撃。
「グ、グウウウウウウウウ! アガアアアアアアワガアアアアアア!」
二つの霊障発展のせいで、形勢が逆転。邪産神は逃げようとしても悪魔神闇で自分の影に攻撃され、まともに立ってすらいられない。その上に聖霊王光が炸裂するのだ。
「花織、トドメだ!」
「はい!」
聖霊王光と悪魔神闇を一緒に繰り出す同時攻撃だ。
「ギギュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアギャリャアアアアアア!」
凄まじい悲鳴がこの空間に響いた。同時に空間にヒビが生じ、開いた穴の中に邪産神が吸い込まれて消えた。
ここに、花織と久実子の二人だけが立っている。
「や、やりましたよ久実子!」
喜びのあまり久実子に抱き着く花織。久実子は彼女の頭を撫で、
「ああ。やったぞ! 緑祁や香恵、そして彼らの仲間のおかげだ。邪産神をここから追い出せたんだ!」
札の外に追い出せた。その後はどうなるか、彼女たちにはわからない。ただ、
「後は任せましたよ、緑祁!」
「頼んだぞ! 邪産神にトドメを!」
後のことを緑祁たちに託す。
花織の両手の間に、光の球体が出現。バスケットボールくらいの大きさに成長すると、それを邪産神に向けて撃ち出した。
「眩しい光だな。だがその対策は既にわかっている。俺には効かない。それに……」
機傀で鏡を作った。これさえあれば精霊光は跳ね返せる。その後久実子の方をチラリと見た。彼女は堕天闇を展開しているが、この空間はある程度明るく、伸びていく影が見え、これなら軌道がわかる。
「ふはははははははははは!」
大量の鏡を生み出し、自分の周囲を覆った。堕天闇である程度壊されても他の鏡ですぐにカバーできる。
「どうだ人間モドキども! お前たちに俺が倒せるか?」
「あっ……」
今、花織の精霊光が鏡に当たったのだが、斜め上に弾かれてしまった。鏡にはやはり精霊光は通じない。久実子の堕天闇が鏡を何枚か破壊できたが、すぐに新しいのが補充されてしまい。隙が無い。
「今度は俺から行くか。安心しな、霊障で殺しはしない。お前たちは俺が吸収して殺す!」
半殺しもしくは気絶させることが邪産神の目的だ。
(マズいな……。花織とあたしで、勝てるのか……? コイツをここから追い出さなければ、緑祁たちに除霊させることすら叶わない……。どうしたら……)
考える暇も与えてもらえず、汚染濁流が突っ込んできた。
「それっ!」
その水流は花織の精霊光を当てて蒸発させた。
「ぐふふふふふふふふふふふふふ! ははははははははははは!」
今度は邪産神自身がジャンプし突っ込んでくる。乱舞を駆使して凄まじい動きのパンチとキックを繰り出した。
「ぬわっ!」
「きゃ!」
一撃で吹っ飛ばされる。
(そ、そうですか……。わたくしたちは今は、式神の姿じゃない。だから、体の頑丈さも損なわれているのですね……)
札の外では式神だから、ある程度の耐久力がある。足を振り下ろすだけで人間以上の攻撃力を叩き出せる。しかしここは札の中の世界で、彼女たちは人間の姿。だから、体は丈夫じゃない。羽もないので飛べず、素早い動きもない。
「あっけなく決着しそうだな? どうだ、人間モドキども?」
邪産神はまず、久実子に狙いを定めた。
「絶対に叩きのめしてやる! 邪産神! あんたは生かせてはおけない!」
堕天闇が伸びる。しかし邪産神の乱舞を駆使した動きはその器用に動く影よりも複雑に動き、避けた。
「ぐははははは!」
腕を掴んで振り回す。ぶん投げられた久実子は花織にぶつけられた。
「す、すまない、花織……。あたしとしたことが……」
「今は、いいです。勝利してからで! まずはアイツを倒すことだけを考えましょう」
誰だって、即座に敵を瞬殺できるわけではない。戦い方を模索し、そこから倒し方を導き出すのだ。
「二人まとめて潰してやろう…! 人間どもはよくやってくれた! 俺のために霊障を大量に使い、そして霊障合体までも教えてくれた! 俺が強くなると夢にも思わずに、な! そしてお前たち人間モドキも、ここで俺の成長の糧となる!」
だが邪産神の方が有利だ。また霊障合体を繰り出す。今度は雪と鉄砲水の合わせ技、流氷波だ。二人まとめて凍らせてしまおうという魂胆である。
「花織! 逃げろ! ここはあたしが防御する!」
迫りくる氷水をなんとか堕天闇で防ぐ久実子。しかし長くは持たない。
「やはりここはわたくしが!」
久実子の後ろから乗り出して花織が精霊光を使った。勝負を決めるにはやはり、邪産神を狙うしかない。
「お前たち……。そうか、それしかできないのだな?」
図星だ。花織は精霊光だけ、久実子は堕天闇だけしか使えないのである。
「フフフフ、ワンパターンだと思えばそういうことか。ならば!」
まず、後ろに下がる邪産神。それから機傀で巨大な鏡を目の前に生み出した。
(また、跳ね返される! 花織の精霊光では、あの鏡は貫けない、壊せない! ここはあたしが前に出て、あの鏡を割らなければ!)
危険だが、邪産神に近づくしかない。花織の精霊光さえ当てられれば、それは決定打となり得る。自分の役目はサポートだと即座に判断し、久実子は前に進み出した。
「逃がすか! 邪産神!」
「かかってこいよ、人間モドキが!」
至近距離なら乱舞が光る。拳が炎を帯びた、炎獄拳。これが久実子に迫る。
(でもここが勝負どころ! 逃げないぞ、あたしは!)
胸に炎獄拳が当たる。かなり熱い。だが、
「ぐぶっ! だ、だが! 捕まえた……!」
「何だと?」
燃えていない腕を久実子は掴んだ。
「今だ花織! 精霊光を!」
「もう、撃ちました!」
強い光が迫ってくる。邪産神は、
「何度も何度も! 通じないことを理解できないとはな!」
また鏡を作った。
「これで跳ね返して……!」
「いいや、させないぞ!」
ここだ。ここで堕天闇を鏡にぶつけた。すると鏡が斜めになり、精霊光がかすめた。
「何……? まさか!」
邪産神は何枚もの鏡を生み出した。でもそれは全て、久実子が向きを変えたり壊したりして無力化する。
「コイツ! 邪魔だ!」
痺れを切らした邪産神は邪魔してくる久実子のことを殴り飛ばした。
「な、にぃいい!」
が、精霊光は眼前に迫っていた。鏡を挟み込む隙間がないほどに。
直後に邪産神の頭部に精霊光が直撃し、爆発。頭部が破壊され、邪産神の体はボトッと倒れた。
「や、やりました! 久実子、当たりました!」
「よ、よし……」
久実子は胸を火傷したが、新しい札に移してもらえばすぐに治る程度の傷だ。
「花織! 邪産神の体を完全に消滅させよう。この空間から消し去るんだ」
「了解です。では………え?」
頭を失ったはずの邪産神だが、何と勝手に立ち上がる。首元をよく見ると、再構築されてドンドン上に伸びていく。
「まさか……! 頭を失っても、再生できるのか! こんなことができる幽霊が、いるのか……?」
「まだ! 今なら間に合うはずです!」
二発目の精霊光を撃ち込む花織だったが、それでも安心できないことが起きる。二発目は邪産神の下半身を吹き飛ばしたが、すぐに修復されてしまったのだ。
「説明し忘れていたな……? 俺はな、不死身なのさ」
「そんな馬鹿な?」
「あり得ません、そんなこと!」
でも見ればわかる。今こうして話している間にも、邪産神は自分の体を完全に治した。
「香恵の慰療でもあり得ないはずです、こんなこと!」
霊障ではない邪産神の性質。慶刻の説明を聞いていないから、二人は知らないのだ。
「これでわかっただろう? お前たちでも俺には勝てない! これはもう、覆せない事実なのだ。お前たちの力を吸収したら、今度こそ人間どもを根絶やしにしてやる!」
急に風が吹いた。それも冷たく乾いた風……雪と旋風の合わせ技、霊障合体・
「くっ……!」
動きを一瞬止められた。その隙に邪産神は風に乗って一気に近づき、
「くらうがいい! 霊障合体・毒手!」
二人の腹に毒厄を帯びた乱舞によるパンチを入れた。
「うっ!」
「嫌っ!」
痛みは不思議と感じない。毒厄のせいで神経が、痛覚が脳に伝達される前に麻痺しているのだ。しかも立っているだけの体力も徐々に無くなる。
「これでいい! まだ、殺さないが、仮死状態にしてやろう! じっくりとお前たちの命を俺のものにしてやるよ」
地面に倒れる二人。毒厄が体に回り始めたのだろう、段々と視界もぼやけてくる。
(駄目、です……。ごめんなさい、緑祁……。わたくしたちはここで終わり、です……。邪産神に勝てなかったこと、負けてしまったことを許して、ください……)
花織と久実子の頭で考えることができたのは、悔しさという感情だった。ここで邪産神を倒すことが、自分たちの使命であったはず。それを全うできず、命を奪われ霊障も取られ、負ける。
「さて、もういいだろう」
邪産神が二人に近づいた。その時だ。
「ん、何だ?」
急に二人の体が光り輝く。強い霊気に包まれているのだ。
「何が起きている? どういうことだ?」
この力の源がわからない。そしてその力のおかげで、毒厄が消し去り、
「まだ……。まだ、戦えるぞ! これはきっと、緑祁たちが力を分け与えてくれたんだ! 緑祁だけじゃない、香恵や他の人たちの温もりも感じる!」
立ち上がれた。
「馬鹿な? もうお前たちの体は病に侵され、死ぬ寸前にまで追い込まれているはずだ!」
札の中の邪産神や二人にはわからない。今、札の外では大勢の霊能力者が、この二枚の札に自分の力を念じて送ってくれている。それが今、二人に届いたのだ。
「ふざけやがって! 俺の勝利は揺るいでいない! ここからお前たちが勝つなんぞ、無理な話だ、通らない!」
霊障合体・氷斬刀で二人に切りかかる邪産神だったが、空振りした。距離感がバグったのではなく、花織と久実子が邪産神が認識できる以上の素早さで移動したのだ。
「これは……もう、精霊光ではありません! より強い力を感じます! もしや霊障発展に進化したのではないでしょうか……!」
「そのようだ、花織! あたしの堕天闇も、今までのとは何味も違う!」
花織は光弾を繰り出した。これはもう精霊光ではない。
「霊障発展・
眩く、そして強い光だ。しかも速さも今まで以上。
「な、何の!」
困惑する状況にもかかわらず邪産神は冷静に、機傀でまた鏡を作った。しかし聖霊王光はその鏡に跳ね返らず、貫いて邪産神に直撃したのだ。
「グウウウウワアアアアアアア! な、何故だ……!」
次に久実子が動く。
「霊障発展・
この霊障発展は、自分以外の影も自在に操れる。邪産神自身の影が邪産神を攻撃するのだ。しかも花織と久実子の影も伸びて邪産神を追撃。
「グ、グウウウウウウウウ! アガアアアアアアワガアアアアアア!」
二つの霊障発展のせいで、形勢が逆転。邪産神は逃げようとしても悪魔神闇で自分の影に攻撃され、まともに立ってすらいられない。その上に聖霊王光が炸裂するのだ。
「花織、トドメだ!」
「はい!」
聖霊王光と悪魔神闇を一緒に繰り出す同時攻撃だ。
「ギギュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアギャリャアアアアアア!」
凄まじい悲鳴がこの空間に響いた。同時に空間にヒビが生じ、開いた穴の中に邪産神が吸い込まれて消えた。
ここに、花織と久実子の二人だけが立っている。
「や、やりましたよ久実子!」
喜びのあまり久実子に抱き着く花織。久実子は彼女の頭を撫で、
「ああ。やったぞ! 緑祁や香恵、そして彼らの仲間のおかげだ。邪産神をここから追い出せたんだ!」
札の外に追い出せた。その後はどうなるか、彼女たちにはわからない。ただ、
「後は任せましたよ、緑祁!」
「頼んだぞ! 邪産神にトドメを!」
後のことを緑祁たちに託す。