第9話 優勝旗の行方
文字数 4,434文字
三月も下旬になった。少しずつ温かくなってはいるものの、青森では桜は咲いておらず、春の足音はまだ聞こえそうにない。しかし、ここ三内丸山遺跡には熱気があった。
「はたして、誰が優勝するのか!」
ピクニック広場の前に【神代】は仮設テントを設置していた。同時に、赤い絨毯も用意。そこを最初に踏んだチームが優勝だ。
「御朱印の確認は大丈夫ですね。青森のチェックポイントを通過したチームは全組、ページを全て埋めていました。その辺は全部連絡が来ているので、最初に来た者が勝者とみて間違いありません」
富嶽の横にいる神楽坂満がパソコンの画面を見ながら言った。
「誰が勝っておる?」
「鑢原桔梗のチームですね。一番リードしています。あ、でも、廿楽絵美のチーム、夏目聖閃のチーム、山繭柚好のチームも追い上げていますよ」
この四チームが優勝争いをしているトップグループだ。その中でも脱落したメンバーがおり、彼らは一足先にゴール地点に来ている。
「誰が勝ってもおかしくはないな。そしてここまで来れた者は、相当腕が磨かれておるに違いない!」
大会の目的は修行である。だからこの青森の三内丸山遺跡まで来ているチームは、百戦錬磨の強者だ。
「はあ、速く来るのだ!」
富嶽が叫んだ。トロフィーを勝ち取る者は、誰になるのか。
青森にもチェックポイントは四か所あるが、ゴールは一か所だけ。だから上位の四チームはここで激突することになる。
「うおおお!」
鎌賢治が叫んだ。一緒にいるのは柚好しかいない。黛 一 と硯 彦次郎 はここまで来ることができなかった。だから彼らのチームは二人だけ。
「柚好、点灯虫を出せ! 他のチームを近づかせるな! 俺たちが一番落ちやすいんだ!」
「わかってます! 今やってるところなんです! 近づく者は全員、身も心もぐちゃぐちゃにしてやりますよ!」
優勝を狙うのなら、頑張ってゴールを目指すべきだろう。だが二人にはその発想を抱けない。一と彦次郎の犠牲を、無駄にはできない。
「相手が来ますよ、どうします?」
「守りを固めるんだ! もうゴールできればそれで十分!」
「わかりました。では他のチームがいなくなってからゴールしましょう!」
動きを止めた賢治と柚好。
「聖閃、あのチームが止まったぞ?」
「無視だ、無視! 僕らが狙うは賞金! 順位が一個上がったが、、優勝まではまだ遠い!」
琴乃が、賢治たちを倒すべきかどうか聞いたら、聖閃は構う暇がないと返答。
「で、でも! アイツらの方がリードしてるわ! このままじゃ、優勝が遠いわよ。どうすんのよ!」
「くぅ、仕方がないか…!」
聖閃は考えた。確かに今のペースでは優勝は不可能。そこは透子の言う通りだ。だとしたら相手を蹴落とせばいいのだが、優勝争いをしている二チームと戦って万が一負けたら、今までの努力が全て水の泡に帰る。
「賢治たちは動いてないんだよな?」
「ああ、そうだ。アレは完全に足を止めているが」
「なら僕たちも、この辺で止めよう」
「それ、本気?」
「もちろんだとも、透子! 一位の十億は手に入らないだろうがな、現状僕らは三位。これでゴールすれば、二千五百万が確定だ! それだけあればラスベガスで十分豪遊できる」
ここで聖閃たちもペースを落とした。
一方、首位争いをしている二チームは激しくぶつかり合っていた。
「この……さっさと負けなさいよ!」
桔梗は叫ぶと同時に、霊障を使う。しかし絵美はそれを避け、
「甘いわ!」
さらに前に進む。
「行かせるな! 炙!」
「はいー」
炙は礫岩を使って、絵美の前に岩を飛び出させた。
「きゃあっ!」
思わず足が止まる。
「今だわ! 行け、蜜柑!」
「お任せあれ!」
絵美と並走していた刹那を狙って、彼女は電霊放を撃ち込んだ。
「当たるはずもなく――」
しかしこれを刹那は避ける。
「眩暈風――!」
自分の体を持ち上げる風が起きた。それに乗って、一気にゴールに迫る刹那。
「ま、マズいわ! どうにか止めなさい、炙、蜜柑! 何をしても構わないわ!」
「そういうわけにはいかない! 脱落しちゃった雛臥と骸のためにも、私たちが一番にゴールする!」
それを阻止するために、蜜柑は霊障合体を使った。礫岩と電霊放の合体の、電池開闢だ。地面の下から電撃が飛び出し、刹那の動きを邪魔する。
「これでどうかしら?」
「……くっ――!」
まっすぐ走っていたら、直撃していたところだ。
「刹那! 止まらないで! あともう少しだから!」
もう自分がゴールに到達することは諦め、刹那のために相手を妨害する。絵美の霊障では素早く動けないからだ。チームの内誰か一人でもゴールすれば、そのチームが優勝となるため、この判断は賢い。
「踊り水……!」
自分に意思があるかのように動き回る水だ。それに加えて、普通の激流も繰り出す。
「ちょっと邪魔しないでよー!」
炙が水に弾かれ後ろに飛ばされた。
(あと二人! あの二人さえどうにかすれば……!)
しかし、桔梗と蜜柑の強さは炙の比ではなかった。
「蜜柑、あなたに絵美を任せるわ。どう料理しても構わないから、今すぐに倒して!」
「承りましたわ」
電池を取り出し、絵美に向けて大量に投げる。
「な、何……?」
突如旋風が起こり、その電池を運んだ。しかも電池と電池が稲妻で結ばれる。
「霊障合体・風神雷神!」
「嫌ぁああああああ!」
網目状になった電霊放に絵美は飲み込まれた。一撃で脱落だ。
「絵美――!」
今の悲鳴に、刹那は足を止めて後ろを向いてしまう。
「今だわ!」
この一瞬に、桔梗は霊障合体を使った。
「水蒸気爆発!」
自分の体を爆風で吹き飛ばしたのだ。あっという間に刹那を追い抜き、ゴールがあと少しのところまで迫る。
「ああっ!」
しかし着地に失敗してしまい、転んだ。
「汝には、負けぬ――!」
刹那もすぐに足と向きを戻し、自分がすることを即座に理解。また眩暈風を繰り出して加速する。
「桔梗、速くゴールしてください!」
「わかってるわ、焦らせないで……!」
もうゴールまであと二十メートルしかないだろう。その距離を桔梗は立ち上がって走り出した。隣を見ると刹那がいる。
「我の眩暈風に乗るか――!」
「利用させてもらうわよ!」
だがそんなことを刹那が良しとするわけがない、一旦眩暈風を止める。刹那はそのタイミングをわかっていたのだが、桔梗はわからず転倒。
「くわああ!」
「今がチャンス。この機は逃せない――!」
「行かせないわ!」
地面を叩くと、また礫岩が飛び出した。桔梗も必死で、絶対に刹那のゴールを妨害する。
「突風に吹かれて吹き飛ぶがよい――!」
今度は刹那の方から仕掛けた。手を動かし、風を繰り出す。
(ま、マズい……!)
今桔梗の中に浮かんだこの突風の対策は、機傀で作った鉄の棒を地面に突き刺して踏ん張るというもの。しかしそれをすれば、一位を取られる。しかしこちらが旋風を返しても突風には押し負ける。普通の霊障と霊障発展では勝ち目がない。
(でも……。諦めるもんですか!)
そんなことで諦める桔梗ではない。ここで闘撃波弾を使う。
「…――!」
刹那を狙ったのだが、風圧のせいで外れ、地面に当たった。土が舞い上がったことに刹那は驚き、足が止まる。
「今しかないわ!」
まだ土煙が立ち込めているが、体の後ろに旋風を起こして追い風を生み出した。同時に乱舞で足の力を上げ、一気に駆け抜ける。
「…! し、しまっ……――!」
そして桔梗は、赤絨毯の上を通過。
「決まったああああああ! 優勝は、桔梗ぉおおお! 鑢原桔梗のチームですうううううっ!」
実況をしている満が叫ぶ。
「おお! 決したか!」
富嶽もこの大会の最後を見届けた。
「やったわああ! 私たちの、勝ち!」
自分の歳を忘れて大喜びする桔梗。その横で刹那は項垂れながらゴールする。その後、聖閃たちが三位、賢治たちが四位でゴール。
賞金が用意されているのは十位まで。そして生き残っていたのもちょうど十チーム。だから【神代】は十位のチームがゴールした後で閉会式を始める。
「集まれ!」
まず表彰式だ。一位を獲得した桔梗たちに賞金十億円が送られるが、
「いらないわ」
何とトロフィーは受け取ったが彼女たちは小切手を拒む。
「どういう料簡だ?」
「このお金は、私たちみたいな……全国の恵まれない子供たちに、全額寄付するわ。孤児院や児童養護施設をもっと充実させてあげて」
これが、彼女たちの目的だった。優勝賞金など最初からもらう気がなく、親のいない子供たちに夢や希望を与えるために使おうという魂胆。
「素晴らしい! ここに来て、よく言えるセリフだ! 謙虚ここに極まれり! そして子供たちの未来を築くための礎! その願い、尊重しよう!」
富嶽はそのお金を【神代】には戻さず、希望通り全額を福祉施設へ寄付することに決める。次に二位の絵美たちに五千万円が与えられるが、
「私たちもいらない……というより、このお金で『ヤミカガミ』、『この世の踊り人』そして『橋島霊軍』のために新しい慰霊碑を建ててください。維持費にも当ててください。そのために使っていただければ」
絵美たちも実は、予め賞金の使い道を決めていたのだ。自分たちが壊してしまった慰霊碑を修復したいと思っていたのだが、その資金はどんなに頑張っても貯められるものではなかった。だがこの大会で、賞金を獲得すれば話は別である。優勝すればもっと大きくて頑丈な慰霊碑と管理体制を作れたかもしれないが、準優勝なので予定の金額の半分。それでも十分だ。
「わかった! その思いを無駄にはせん! 誰も壊せないように手配と、新しくそして立派な慰霊碑をすぐに建てようではないか!」
三位の聖閃たちは、
(気まずくなってしまった……)
もっぱら遊ぶ金欲しさに参加しており、自分たちの幼稚さを思い知ってしまう。なので、
「近所の寺院や神社に寄付します、全額……」
と、不本意ながらも宣言。四位以降の人たちも素直に受け取れず、寄付や社会のために使うと述べた。
その後も閉会式は進んだ。最後に富嶽の言葉があり、
「諸君らは、よくここまで戦いそして頑張った! それを心から称えよう! そしてここまで来ることができなかった、他の出場者のことを決して忘れてはならん! 諸君らの栄誉は、多大な犠牲の上に立っていることを忘れるでないぞ! また……この大会の目的を覚えておるか? 鍛錬だ! 諸君らの腕は、壇ノ浦にいた時よりも格段に上がっておる! それに自信を持って、この世界・時代を誇り高く生きていくのだ!」
無事にゴールできた十チームは、ホテルで【神代】が主催する晩餐会に出席。
「あなた、強かったわね。ビックリしたわ。これじゃあ私たちが勝てないのも納得よ」
「いいえ。そういうあなたたちの実力も素晴らしいものでしたわ!」
さっきまでピリピリと敵対していた者同士だったが、この時はそんないがみ合いを忘れて食事や会話を楽しんだ。
これにて、霊能力者大会は幕を閉じた。
「はたして、誰が優勝するのか!」
ピクニック広場の前に【神代】は仮設テントを設置していた。同時に、赤い絨毯も用意。そこを最初に踏んだチームが優勝だ。
「御朱印の確認は大丈夫ですね。青森のチェックポイントを通過したチームは全組、ページを全て埋めていました。その辺は全部連絡が来ているので、最初に来た者が勝者とみて間違いありません」
富嶽の横にいる神楽坂満がパソコンの画面を見ながら言った。
「誰が勝っておる?」
「鑢原桔梗のチームですね。一番リードしています。あ、でも、廿楽絵美のチーム、夏目聖閃のチーム、山繭柚好のチームも追い上げていますよ」
この四チームが優勝争いをしているトップグループだ。その中でも脱落したメンバーがおり、彼らは一足先にゴール地点に来ている。
「誰が勝ってもおかしくはないな。そしてここまで来れた者は、相当腕が磨かれておるに違いない!」
大会の目的は修行である。だからこの青森の三内丸山遺跡まで来ているチームは、百戦錬磨の強者だ。
「はあ、速く来るのだ!」
富嶽が叫んだ。トロフィーを勝ち取る者は、誰になるのか。
青森にもチェックポイントは四か所あるが、ゴールは一か所だけ。だから上位の四チームはここで激突することになる。
「うおおお!」
鎌賢治が叫んだ。一緒にいるのは柚好しかいない。
「柚好、点灯虫を出せ! 他のチームを近づかせるな! 俺たちが一番落ちやすいんだ!」
「わかってます! 今やってるところなんです! 近づく者は全員、身も心もぐちゃぐちゃにしてやりますよ!」
優勝を狙うのなら、頑張ってゴールを目指すべきだろう。だが二人にはその発想を抱けない。一と彦次郎の犠牲を、無駄にはできない。
「相手が来ますよ、どうします?」
「守りを固めるんだ! もうゴールできればそれで十分!」
「わかりました。では他のチームがいなくなってからゴールしましょう!」
動きを止めた賢治と柚好。
「聖閃、あのチームが止まったぞ?」
「無視だ、無視! 僕らが狙うは賞金! 順位が一個上がったが、、優勝まではまだ遠い!」
琴乃が、賢治たちを倒すべきかどうか聞いたら、聖閃は構う暇がないと返答。
「で、でも! アイツらの方がリードしてるわ! このままじゃ、優勝が遠いわよ。どうすんのよ!」
「くぅ、仕方がないか…!」
聖閃は考えた。確かに今のペースでは優勝は不可能。そこは透子の言う通りだ。だとしたら相手を蹴落とせばいいのだが、優勝争いをしている二チームと戦って万が一負けたら、今までの努力が全て水の泡に帰る。
「賢治たちは動いてないんだよな?」
「ああ、そうだ。アレは完全に足を止めているが」
「なら僕たちも、この辺で止めよう」
「それ、本気?」
「もちろんだとも、透子! 一位の十億は手に入らないだろうがな、現状僕らは三位。これでゴールすれば、二千五百万が確定だ! それだけあればラスベガスで十分豪遊できる」
ここで聖閃たちもペースを落とした。
一方、首位争いをしている二チームは激しくぶつかり合っていた。
「この……さっさと負けなさいよ!」
桔梗は叫ぶと同時に、霊障を使う。しかし絵美はそれを避け、
「甘いわ!」
さらに前に進む。
「行かせるな! 炙!」
「はいー」
炙は礫岩を使って、絵美の前に岩を飛び出させた。
「きゃあっ!」
思わず足が止まる。
「今だわ! 行け、蜜柑!」
「お任せあれ!」
絵美と並走していた刹那を狙って、彼女は電霊放を撃ち込んだ。
「当たるはずもなく――」
しかしこれを刹那は避ける。
「眩暈風――!」
自分の体を持ち上げる風が起きた。それに乗って、一気にゴールに迫る刹那。
「ま、マズいわ! どうにか止めなさい、炙、蜜柑! 何をしても構わないわ!」
「そういうわけにはいかない! 脱落しちゃった雛臥と骸のためにも、私たちが一番にゴールする!」
それを阻止するために、蜜柑は霊障合体を使った。礫岩と電霊放の合体の、電池開闢だ。地面の下から電撃が飛び出し、刹那の動きを邪魔する。
「これでどうかしら?」
「……くっ――!」
まっすぐ走っていたら、直撃していたところだ。
「刹那! 止まらないで! あともう少しだから!」
もう自分がゴールに到達することは諦め、刹那のために相手を妨害する。絵美の霊障では素早く動けないからだ。チームの内誰か一人でもゴールすれば、そのチームが優勝となるため、この判断は賢い。
「踊り水……!」
自分に意思があるかのように動き回る水だ。それに加えて、普通の激流も繰り出す。
「ちょっと邪魔しないでよー!」
炙が水に弾かれ後ろに飛ばされた。
(あと二人! あの二人さえどうにかすれば……!)
しかし、桔梗と蜜柑の強さは炙の比ではなかった。
「蜜柑、あなたに絵美を任せるわ。どう料理しても構わないから、今すぐに倒して!」
「承りましたわ」
電池を取り出し、絵美に向けて大量に投げる。
「な、何……?」
突如旋風が起こり、その電池を運んだ。しかも電池と電池が稲妻で結ばれる。
「霊障合体・風神雷神!」
「嫌ぁああああああ!」
網目状になった電霊放に絵美は飲み込まれた。一撃で脱落だ。
「絵美――!」
今の悲鳴に、刹那は足を止めて後ろを向いてしまう。
「今だわ!」
この一瞬に、桔梗は霊障合体を使った。
「水蒸気爆発!」
自分の体を爆風で吹き飛ばしたのだ。あっという間に刹那を追い抜き、ゴールがあと少しのところまで迫る。
「ああっ!」
しかし着地に失敗してしまい、転んだ。
「汝には、負けぬ――!」
刹那もすぐに足と向きを戻し、自分がすることを即座に理解。また眩暈風を繰り出して加速する。
「桔梗、速くゴールしてください!」
「わかってるわ、焦らせないで……!」
もうゴールまであと二十メートルしかないだろう。その距離を桔梗は立ち上がって走り出した。隣を見ると刹那がいる。
「我の眩暈風に乗るか――!」
「利用させてもらうわよ!」
だがそんなことを刹那が良しとするわけがない、一旦眩暈風を止める。刹那はそのタイミングをわかっていたのだが、桔梗はわからず転倒。
「くわああ!」
「今がチャンス。この機は逃せない――!」
「行かせないわ!」
地面を叩くと、また礫岩が飛び出した。桔梗も必死で、絶対に刹那のゴールを妨害する。
「突風に吹かれて吹き飛ぶがよい――!」
今度は刹那の方から仕掛けた。手を動かし、風を繰り出す。
(ま、マズい……!)
今桔梗の中に浮かんだこの突風の対策は、機傀で作った鉄の棒を地面に突き刺して踏ん張るというもの。しかしそれをすれば、一位を取られる。しかしこちらが旋風を返しても突風には押し負ける。普通の霊障と霊障発展では勝ち目がない。
(でも……。諦めるもんですか!)
そんなことで諦める桔梗ではない。ここで闘撃波弾を使う。
「…――!」
刹那を狙ったのだが、風圧のせいで外れ、地面に当たった。土が舞い上がったことに刹那は驚き、足が止まる。
「今しかないわ!」
まだ土煙が立ち込めているが、体の後ろに旋風を起こして追い風を生み出した。同時に乱舞で足の力を上げ、一気に駆け抜ける。
「…! し、しまっ……――!」
そして桔梗は、赤絨毯の上を通過。
「決まったああああああ! 優勝は、桔梗ぉおおお! 鑢原桔梗のチームですうううううっ!」
実況をしている満が叫ぶ。
「おお! 決したか!」
富嶽もこの大会の最後を見届けた。
「やったわああ! 私たちの、勝ち!」
自分の歳を忘れて大喜びする桔梗。その横で刹那は項垂れながらゴールする。その後、聖閃たちが三位、賢治たちが四位でゴール。
賞金が用意されているのは十位まで。そして生き残っていたのもちょうど十チーム。だから【神代】は十位のチームがゴールした後で閉会式を始める。
「集まれ!」
まず表彰式だ。一位を獲得した桔梗たちに賞金十億円が送られるが、
「いらないわ」
何とトロフィーは受け取ったが彼女たちは小切手を拒む。
「どういう料簡だ?」
「このお金は、私たちみたいな……全国の恵まれない子供たちに、全額寄付するわ。孤児院や児童養護施設をもっと充実させてあげて」
これが、彼女たちの目的だった。優勝賞金など最初からもらう気がなく、親のいない子供たちに夢や希望を与えるために使おうという魂胆。
「素晴らしい! ここに来て、よく言えるセリフだ! 謙虚ここに極まれり! そして子供たちの未来を築くための礎! その願い、尊重しよう!」
富嶽はそのお金を【神代】には戻さず、希望通り全額を福祉施設へ寄付することに決める。次に二位の絵美たちに五千万円が与えられるが、
「私たちもいらない……というより、このお金で『ヤミカガミ』、『この世の踊り人』そして『橋島霊軍』のために新しい慰霊碑を建ててください。維持費にも当ててください。そのために使っていただければ」
絵美たちも実は、予め賞金の使い道を決めていたのだ。自分たちが壊してしまった慰霊碑を修復したいと思っていたのだが、その資金はどんなに頑張っても貯められるものではなかった。だがこの大会で、賞金を獲得すれば話は別である。優勝すればもっと大きくて頑丈な慰霊碑と管理体制を作れたかもしれないが、準優勝なので予定の金額の半分。それでも十分だ。
「わかった! その思いを無駄にはせん! 誰も壊せないように手配と、新しくそして立派な慰霊碑をすぐに建てようではないか!」
三位の聖閃たちは、
(気まずくなってしまった……)
もっぱら遊ぶ金欲しさに参加しており、自分たちの幼稚さを思い知ってしまう。なので、
「近所の寺院や神社に寄付します、全額……」
と、不本意ながらも宣言。四位以降の人たちも素直に受け取れず、寄付や社会のために使うと述べた。
その後も閉会式は進んだ。最後に富嶽の言葉があり、
「諸君らは、よくここまで戦いそして頑張った! それを心から称えよう! そしてここまで来ることができなかった、他の出場者のことを決して忘れてはならん! 諸君らの栄誉は、多大な犠牲の上に立っていることを忘れるでないぞ! また……この大会の目的を覚えておるか? 鍛錬だ! 諸君らの腕は、壇ノ浦にいた時よりも格段に上がっておる! それに自信を持って、この世界・時代を誇り高く生きていくのだ!」
無事にゴールできた十チームは、ホテルで【神代】が主催する晩餐会に出席。
「あなた、強かったわね。ビックリしたわ。これじゃあ私たちが勝てないのも納得よ」
「いいえ。そういうあなたたちの実力も素晴らしいものでしたわ!」
さっきまでピリピリと敵対していた者同士だったが、この時はそんないがみ合いを忘れて食事や会話を楽しんだ。
これにて、霊能力者大会は幕を閉じた。