第6話 邪霊討伐 その3
文字数 3,133文字
「どこだ、どこにいるんだ……?」
確か、首が長くて羽が四枚ある幽霊だった。一目見ただけで、明らかにヤバい存在とわかるくらい強力な存在なのだ、もしも近くにいれば絶対に気が付く。
「いない? でもアレは、霊界重合をすれば向こうから勝手にやって来るはずなのに……」
もしかしたら、もうこっちに来ているのかもしれない。そして別の場所で被害を出しているのかもしれない。
(………)
そう考えると、冷や汗が全身から溢れ出す。故霊を止められずに被害が出たのなら、それは自分の責任だ。
「操れるかどうかはわからない。でも、必要な存在だ。見つけ出さないといけないんだ!」
しかし、どこをどう探すか。道を間違えれば、取り返しがつかないことに繋がる。無暗に探すのはできない。
「なら!」
ここで彼は発想を変えた。自分が探すのではない。故霊の方に自分を見つけさせればいいのだ。
「故霊はもしかしたら、僕のことを覚えているかもしれない。なら、いけるはずだ!」
自分の指先を、歯で掻っ切った。血が地面に滴る。この、血が流れ出る指を天に向け、
「故霊よ! 僕が憎いか! なら、ここに来て僕を殺したらどうだい!」
叫んだ。
(効果があるかどうかはわからない。でも、これしか……)
すると、傷口から流れ出ている血が突然宙に流れ出す。まるで空気に絵でも描いているかのようだ。その血が天に向かって伸びると、
「ピュルルルパオオオオン!」
突然、禍々しい鳥が降り立った。
「き、来た!」
あの時と同じ、故霊だ。その目で緑祁のことを睨んでいる。
緑祁の全身に緊張感が走る。当然だ。一歩でも間違えれば命がない。ここから先の選択は、全て正しくなければいけないのだから。
一歩、後ろに動いてみる。すると故霊が前に動いた。
(誘導できそう?)
行ける、そう思った時だ。突然故霊が嘴で緑祁のことをついばもうとした。
「うわぁ!」
何とか横に飛んで避けれたが、本当に危ないところだった。
「で、でも! 僕のことを狙っているんだ! これを利用すればいいだけだ!」
後は来た道を戻ればいい。まず緑祁は火災旋風を繰り出して故霊の目を一瞬だけ遮り、逃げた。
(こっちだ! こっちに来てくれ!)
もちろん故霊は空へ羽ばたき、空中から緑祁を狙う。
「ピュオ?」
しかしその故霊が、何故か緑祁から顔を逸らした。
「お、おい! 僕はこっちだぞ!」
何かに狙いを定めたかのように、そっちに向かって飛んで行く。
「逃げられ……」
違う。その先にいるモノがある。それは……怪神激だ。
「そうか! 故霊はこの地特有の幽霊! その故霊にとってさっきの気持ち悪い幽霊は、テリトリー内を犯した侵入者! 許せないんだ」
故霊の後を追うように緑祁は走った。
「クソが! この野郎!」
フレイムは苦戦していた。口から伸びている首は、胴体と感覚を共有していない様子。それはつまり、胴体がどんなに傷つこうとも無関係に動くのだ。顔で突進をして地面に衝突。
「ぐわああ!」
衝撃で弾き飛ばされた。倒れている間に怪神激は体を修復し、動き出す。
(し、死ぬ……)
息を思いっ切り吸いだした。トドメを刺すつもりなのだ。
しかしその黒い煙は、フレイムには届かなかった。
「何が起きている?」
空から光線が伸び、それが怪神激の首を焼き落としたのである。
「ぎゃあらが?」
フレイムも怪神激も上を向く。
「何だあれは……?」
そこには、怪神激とはまた違った恐怖を抱かせる幽霊……故霊がいた。
「上手くいったんだな、リュウケ君!」
確信する。二体の幽霊が睨み合っている隙に、フレイムは立ち上がって建物の陰に隠れた。
「だ、大丈夫?」
そこに緑祁が駆け付けた。
「ああ、何とかな。こりゃースゲー難易度のインターンシップだぜ……」
しかし後は二体の幽霊の戦いを見守るだけだ。
その戦いは、苦しかった。
「ピュラララ……」
故霊の方が負けている。怪神激は六本ある足を器用に使って、故霊のことを捕まえて地面に何度も叩きつけているのだ。飛び立とうとしても口から伸びている首が体を締め上げ逃がさない。
「…………」
動けない状態にして、黒い煙を浴びせるのだ。
「ペルルラ! ペルギャアアアア!」
悲鳴が辺りに響いているのが聞こえる。
「……見ていられない!」
突然緑祁が言った。
「な? リュウケ君……?」
「このままじゃ、故霊が負けてしまう!」
「それは、一応は良いことなのでは?」
フレイムの言い分もわからなくはない。除霊不可能の故霊が消えるのは、良いことのはずだ。それに彼は、時間さえ稼げれば【神代】もこの事件に気づいて応援を派遣してくれるはずだ、と言う。
だが緑祁はその発言に首を横に振る。
「複雑だ。前に故霊に殺されかけたのに、今は味方をしないといけない気がするんだ!」
故霊との勝負はまだついていない。だからここで負けて欲しくない。
「フレイムはここで待っててくれ!」
と言い、緑祁は陰から飛び出した。
「霊障合体・火災旋風!」
一気に赤い渦を生み出し、怪神激に浴びせる。
「びょぱああああ?」
予想外の攻撃を受けた怪神激は、一瞬怯んだ。その隙に締め上げから抜け出す故霊。緑祁のことを見たが、今は敵と判断されていない様子。
「霊障合体・台風!」
雨の嵐を生み出し、さらに攻める緑祁。
「ごじゃあああ!」
これに激昂した怪神激は、緑祁に突進。一撃で彼の体を弾き飛ばす。
「わあああっ!」
だがここで、故霊が動いた。嘴で緑祁のことをキャッチしたのである。
(故霊が、僕を守った……?)
いちいち困惑していられない。きっと、この怪神激を倒すために必要不可欠と判断したか、さっきの恩を返したかったのだろう。
「ピッピイイイ!」
地面の上に優しく下ろしてくれた。
ここでまた、緑祁は複雑な感情を抱いた。今こうして故霊と共闘できているのは純粋に嬉しい。しかし敵対する怪神激を倒せば、霊界重合は終わり故霊はまたあの世へ帰る。わかり合えたと思えても、それは一瞬で終わってしまうのだ。
また、怪神激が緑祁に攻撃を仕掛ける。あの黒い煙を口から吐き出した。
「パオオオオオオ!」
緑祁が旋風を使う前に、故霊が羽ばたいてその煙を空気へ散らしてしまう。
「あ、ありがとう……!」
緑祁と故霊の反撃はここから始まった。故霊は光線を吐ける。それが胴体に直撃すれば、かなりのダメージになるはずだ。しかしそこは怪神激、また足で故霊を捕まえようと動く。
「僕が囮になる!」
緑祁がジャンプした。怪神激の視線は、その前に躍り出た彼に集中。
「ピャアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオ!」
その隙を、故霊は見逃さない。見事胴体に、光線を当てた。
「あっぎゃあああああがああああああああおおおお…………」
この胴体が、弱点だったようだ。そしてそこに、コンクリートすらも打ち砕く故霊の光線が直撃したのだ。しぶとく再生を繰り返していた怪神激もこれには耐えられず、足がもげ翅が折れ、体が崩壊していく。
「や、やった! のかい……?」
間違いない。さっきまでの怪しい雰囲気が消えつつある。
「でも……」
その時は、この故霊ともお別れだ。故霊はこの世にはいられないのだから。
「ありがとう、故霊……」
この感謝の声が故霊に届いたかどうかは定かではない。だが故霊の方も、消える寸前に緑祁に対し頭を下げたのだった。
霊界重合は終わった。事件は終息し、【神代】に報告すると調査員の派遣を決めてくれた。
「さ、リュウケ君。今からでも遅くはない。さっさと東京に行こうぜ? ワタシ、日本円が全然ないんだ。貸してくれるととても嬉しい」
「わかった。そういうのは後で【神代】に請求できるはずだ」
緑祁とフレイムは切符を買って、新幹線に乗り込む。
確か、首が長くて羽が四枚ある幽霊だった。一目見ただけで、明らかにヤバい存在とわかるくらい強力な存在なのだ、もしも近くにいれば絶対に気が付く。
「いない? でもアレは、霊界重合をすれば向こうから勝手にやって来るはずなのに……」
もしかしたら、もうこっちに来ているのかもしれない。そして別の場所で被害を出しているのかもしれない。
(………)
そう考えると、冷や汗が全身から溢れ出す。故霊を止められずに被害が出たのなら、それは自分の責任だ。
「操れるかどうかはわからない。でも、必要な存在だ。見つけ出さないといけないんだ!」
しかし、どこをどう探すか。道を間違えれば、取り返しがつかないことに繋がる。無暗に探すのはできない。
「なら!」
ここで彼は発想を変えた。自分が探すのではない。故霊の方に自分を見つけさせればいいのだ。
「故霊はもしかしたら、僕のことを覚えているかもしれない。なら、いけるはずだ!」
自分の指先を、歯で掻っ切った。血が地面に滴る。この、血が流れ出る指を天に向け、
「故霊よ! 僕が憎いか! なら、ここに来て僕を殺したらどうだい!」
叫んだ。
(効果があるかどうかはわからない。でも、これしか……)
すると、傷口から流れ出ている血が突然宙に流れ出す。まるで空気に絵でも描いているかのようだ。その血が天に向かって伸びると、
「ピュルルルパオオオオン!」
突然、禍々しい鳥が降り立った。
「き、来た!」
あの時と同じ、故霊だ。その目で緑祁のことを睨んでいる。
緑祁の全身に緊張感が走る。当然だ。一歩でも間違えれば命がない。ここから先の選択は、全て正しくなければいけないのだから。
一歩、後ろに動いてみる。すると故霊が前に動いた。
(誘導できそう?)
行ける、そう思った時だ。突然故霊が嘴で緑祁のことをついばもうとした。
「うわぁ!」
何とか横に飛んで避けれたが、本当に危ないところだった。
「で、でも! 僕のことを狙っているんだ! これを利用すればいいだけだ!」
後は来た道を戻ればいい。まず緑祁は火災旋風を繰り出して故霊の目を一瞬だけ遮り、逃げた。
(こっちだ! こっちに来てくれ!)
もちろん故霊は空へ羽ばたき、空中から緑祁を狙う。
「ピュオ?」
しかしその故霊が、何故か緑祁から顔を逸らした。
「お、おい! 僕はこっちだぞ!」
何かに狙いを定めたかのように、そっちに向かって飛んで行く。
「逃げられ……」
違う。その先にいるモノがある。それは……怪神激だ。
「そうか! 故霊はこの地特有の幽霊! その故霊にとってさっきの気持ち悪い幽霊は、テリトリー内を犯した侵入者! 許せないんだ」
故霊の後を追うように緑祁は走った。
「クソが! この野郎!」
フレイムは苦戦していた。口から伸びている首は、胴体と感覚を共有していない様子。それはつまり、胴体がどんなに傷つこうとも無関係に動くのだ。顔で突進をして地面に衝突。
「ぐわああ!」
衝撃で弾き飛ばされた。倒れている間に怪神激は体を修復し、動き出す。
(し、死ぬ……)
息を思いっ切り吸いだした。トドメを刺すつもりなのだ。
しかしその黒い煙は、フレイムには届かなかった。
「何が起きている?」
空から光線が伸び、それが怪神激の首を焼き落としたのである。
「ぎゃあらが?」
フレイムも怪神激も上を向く。
「何だあれは……?」
そこには、怪神激とはまた違った恐怖を抱かせる幽霊……故霊がいた。
「上手くいったんだな、リュウケ君!」
確信する。二体の幽霊が睨み合っている隙に、フレイムは立ち上がって建物の陰に隠れた。
「だ、大丈夫?」
そこに緑祁が駆け付けた。
「ああ、何とかな。こりゃースゲー難易度のインターンシップだぜ……」
しかし後は二体の幽霊の戦いを見守るだけだ。
その戦いは、苦しかった。
「ピュラララ……」
故霊の方が負けている。怪神激は六本ある足を器用に使って、故霊のことを捕まえて地面に何度も叩きつけているのだ。飛び立とうとしても口から伸びている首が体を締め上げ逃がさない。
「…………」
動けない状態にして、黒い煙を浴びせるのだ。
「ペルルラ! ペルギャアアアア!」
悲鳴が辺りに響いているのが聞こえる。
「……見ていられない!」
突然緑祁が言った。
「な? リュウケ君……?」
「このままじゃ、故霊が負けてしまう!」
「それは、一応は良いことなのでは?」
フレイムの言い分もわからなくはない。除霊不可能の故霊が消えるのは、良いことのはずだ。それに彼は、時間さえ稼げれば【神代】もこの事件に気づいて応援を派遣してくれるはずだ、と言う。
だが緑祁はその発言に首を横に振る。
「複雑だ。前に故霊に殺されかけたのに、今は味方をしないといけない気がするんだ!」
故霊との勝負はまだついていない。だからここで負けて欲しくない。
「フレイムはここで待っててくれ!」
と言い、緑祁は陰から飛び出した。
「霊障合体・火災旋風!」
一気に赤い渦を生み出し、怪神激に浴びせる。
「びょぱああああ?」
予想外の攻撃を受けた怪神激は、一瞬怯んだ。その隙に締め上げから抜け出す故霊。緑祁のことを見たが、今は敵と判断されていない様子。
「霊障合体・台風!」
雨の嵐を生み出し、さらに攻める緑祁。
「ごじゃあああ!」
これに激昂した怪神激は、緑祁に突進。一撃で彼の体を弾き飛ばす。
「わあああっ!」
だがここで、故霊が動いた。嘴で緑祁のことをキャッチしたのである。
(故霊が、僕を守った……?)
いちいち困惑していられない。きっと、この怪神激を倒すために必要不可欠と判断したか、さっきの恩を返したかったのだろう。
「ピッピイイイ!」
地面の上に優しく下ろしてくれた。
ここでまた、緑祁は複雑な感情を抱いた。今こうして故霊と共闘できているのは純粋に嬉しい。しかし敵対する怪神激を倒せば、霊界重合は終わり故霊はまたあの世へ帰る。わかり合えたと思えても、それは一瞬で終わってしまうのだ。
また、怪神激が緑祁に攻撃を仕掛ける。あの黒い煙を口から吐き出した。
「パオオオオオオ!」
緑祁が旋風を使う前に、故霊が羽ばたいてその煙を空気へ散らしてしまう。
「あ、ありがとう……!」
緑祁と故霊の反撃はここから始まった。故霊は光線を吐ける。それが胴体に直撃すれば、かなりのダメージになるはずだ。しかしそこは怪神激、また足で故霊を捕まえようと動く。
「僕が囮になる!」
緑祁がジャンプした。怪神激の視線は、その前に躍り出た彼に集中。
「ピャアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオ!」
その隙を、故霊は見逃さない。見事胴体に、光線を当てた。
「あっぎゃあああああがああああああああおおおお…………」
この胴体が、弱点だったようだ。そしてそこに、コンクリートすらも打ち砕く故霊の光線が直撃したのだ。しぶとく再生を繰り返していた怪神激もこれには耐えられず、足がもげ翅が折れ、体が崩壊していく。
「や、やった! のかい……?」
間違いない。さっきまでの怪しい雰囲気が消えつつある。
「でも……」
その時は、この故霊ともお別れだ。故霊はこの世にはいられないのだから。
「ありがとう、故霊……」
この感謝の声が故霊に届いたかどうかは定かではない。だが故霊の方も、消える寸前に緑祁に対し頭を下げたのだった。
霊界重合は終わった。事件は終息し、【神代】に報告すると調査員の派遣を決めてくれた。
「さ、リュウケ君。今からでも遅くはない。さっさと東京に行こうぜ? ワタシ、日本円が全然ないんだ。貸してくれるととても嬉しい」
「わかった。そういうのは後で【神代】に請求できるはずだ」
緑祁とフレイムは切符を買って、新幹線に乗り込む。