第4話 海外の霊能力者 その2

文字数 3,723文字

「さあさ、かかってこいよ!」

 やはり挑発から入るスタンスのギル。これは非常に卑怯な考え方で、相手から攻撃を受ければこちらが反撃する大義名分を得られるからである。というのもこの時点ではまだ、【UON】には実力行使ではなく交渉で【神代】を傘下に収める意見も存在しているから。

(でもあのジャパニーズがオレッチに攻撃するなら、反撃しないとな! 正当防衛だ!)

 だがその事情を紫電は知らない。容赦なくダウジングロッドを構え、

「これをくらって海の向こうに帰りやがれ!」

 電霊放を撃ってしまった。

「グググ!」

 それはギルの左腕に命中。着弾点から痺れが彼の全身を襲った。この感触と、目の前を瞬いた稲妻から、

「なるほど! オマエはシャドープラズマの使い手か。日本人はダウジングロッドで撃つのか、驚いた……」

【神代】と【UON】では、同じ霊障に違う名前を付けている。そのため日本では電霊放と言っても、海外ではシャドープラズマと呼ばれている。呼び名が違うだけで、意味は同じだ。紫電も無言で理解し、一々質問したりしない。

「ならば見せてやろう……! オレッチのファントムフェノメノン!」

 と言いギルは駆け出して紫電との距離を詰めた。

(至近距離戦を挑んでくるか! ということはコイツの霊障は、毒厄か乱舞…!)

 それ以外の霊障よりも、その二つの可能性の方が高い。

「ハーッハッハッハッハ!」

 握られた拳が一気に加速し、紫電の頬を掠めた。

「この、異常な身体能力の向上! お前の霊障は、乱舞か!」

 ギリギリでかわせた紫電は自分の体に異常がないことを確認。毒厄は使われていない様子だ。

「しかしそれがあるからってよ、近づいてしまったのはマズいんじゃねえのか!」

 ダウジングロッドを向け、威嚇する。が、ギルはそれに屈しない。

「ドグルゥ!」

 今度は足を上げた。蹴りだ。

(くらうのは、痛そうだ……)

 ダメージを受けることを嫌った紫電は下がる。その時、

「おわっ!」

 何かに躓いて転んでしまった。結果的に彼が急に地面に伏したためにキックを避けることには成功したが、ある違和感が。

(な、何に踵が引っかかったんだ? 大きな石もゴミも、何もこの広場にはなかったはずだ……!)

 そして目にするその正体。
 地面が一部、盛り上がっている。それも不自然で、長方形の形をした石が飛び出ているのだ。

「こ、これは……!」
「ああそうだよ! プロテクトテラだ!」

 礫岩である。既にギルはこれを使っていたのだ。

(乱舞と礫岩! それがコイツの霊障か!)

 そしてここからが、【UON】独自の……つまりは【神代】の常識の範囲に収まらない戦い方だ。
 ギルはその二つの霊障を合わせなかった。乱舞と礫岩ならきっと強力な霊障合体を繰り出せるであろうにもかかわらず、である。紫電にとってそれはかなりの疑問。
 だがギルにとっては当たり前の戦術だ。【UON】をはじめとする海の向こうの霊能力者たちは、複数の霊障を操って勝負を自分の勝利へ持って行く。それは力押しをするのではなく、相手を詰みの状態にしてしまう、というものだ。

「いいかオマエ! オマエはもう逃げられない! 近づけばオレッチのオーガズフィストが唸る! 離れようものならプロテクトテラで逃がさない!」
「なら、近距離戦で勝てばいいだけだろう?」
「それができるというのなら、やってみろよ! ったく、これだからちょんまげ頭は脳みその回りが遅いぜ!」

 しかし紫電、有言実行する。ダウジングロッドの先端をギルの足に当て、電霊放を直流しした。

「グヲヲヲ! これはきつい! コイツのシャドープラズマはかなりの威力だ……!」
「そりゃそうだぜ! 俺はこの日本では、電霊放のスペシャリストって呼ばれてんだ」
「ふっ。こんな小さな島でビッグなニックネームつけてるのか。笑えるぜ」
「笑うのは勝ってからにしな!」

 もう一度直流ししようとしたが、手を足で蹴られて無理だった。

「くっ!」

 それでも左のロッドで電霊放を撃ち込み一矢報いる紫電。

「オガアアアアア! い、今の、当たった……?」

 這いつくばっているのに凄まじい命中精度だ、ギルの耳を撃ち抜いたのである。

「ウグギャアアアア……。ヒリヒリしやがる…!」

 たまらず耳を押さえて顔にくっついていることを触って確かめるギル。その隙に紫電は地面の動きに警戒しながら起き上がった。彼が完全に立ち上がると、ギルも手を前に出して構えていた。

「勝負は振り出しだな、ギル!」
「……チッ!」

 ここまでの勝負、どちらとも有利とも不利とも言えない。紫電もギルも、良いところまでは行けるがその先にたどり着けない感じだ。言い換えれば流れを掴めればそのまま勝利に直結するということ。

(それはオレッチだ!)

 実はギルには、まだ見せていない霊障があった。詰みの状態で相手を降参させるために温存している隠し玉となる切り札の霊障。それを使えば勝てるという自信がある。
 対する紫電には電霊放しかないが、これで何でも撃ち抜いて見せるつもりだ。
 そして紫電は自分から動かない。近づけば乱舞、遠ざかれば礫岩を使って来るからだ。乱舞の一撃が顔か体に入ればそれだけで負けるだろうし、礫岩を駆使されると電霊放が通らない。

(ならば、この距離間が一番いい!)

 ただダウジングロッドを構えるだけだ。
 それを見たギルは、もう勝負を仕掛けようと考える。

(プロテクトテラで足元をガタガタにし、そして一気に近づいてオーガズフィストでトドメ! うん、決まり! もしも決めきれなければ奥の手で……)

 つま先で地面を叩き、礫岩を使う。

「う、うお!」

 直後に紫電の足場がぐちゃぐちゃになる。立っていられないほど凸凹に変動するのだ。

「まず一手!」

 足が取られ姿勢が傾いた。

「そして二手!」

 その隙を突いてギルが近づいて来る。両方の拳を目にもとまらぬ速さでブンブンと振り回し、

「ウッジャアアアアアアアー!」

 雄叫びと共に紫電に接近。

(両方の霊障を使ってきたか、コイツは!)

 どちらか片方しか使ってこないと思っていたので、一歩遅れたと感じるがすぐに、

(だが、霊障の合体を駆使してこねえなら対処できねえことはない! 最大火力で撃ち抜いてやるぜ!)

 体がズレてもロッドの狙いは外さない。彼の視線はしっかりとギルの姿を捉えていた。

「終わりだ、ジャパニーズ!」

 右手はパンチ、左手は手刀。その二撃が紫電に迫る。

「お前が、な!」

 だが紫電、その両方の拳を電霊放で撃ったのだ。

「な、何ぃいいい!」

 ギルのミスだった。確かに乱舞ならば腕の動きは速くなる。でも相手に攻撃する時、どうしても読める単純な動きになってしまうのだ。そこを撃ち抜かれたのである。電撃に耐えられるはずがなく、ギルの体は後ろに吹っ飛んだ。

「こ、こんなヤツにオレッチが? 負ける? あり得ない! オレッチはこの【神代】攻略を任された優秀な人材なんだぞ……!」

 手が使えないのなら、足だ。キックを腹に入れれば勝てる。だが足の動きは地面を蹴る都合上、腕よりも予想しやすい。足を使おうとしているのはすぐに紫電にバレ、

「動くな!」

 電霊放がそこに直撃。

「ゴアアアアア!」

 力を入れていられず、ギルは倒れた。

「よ、ようし! 終わったな?」

 相手が自分の意思で手足を動かせていないことを紫電は確認し、恐る恐る近づく。

「あれだけの電霊放を撃ち込めば、しばらくは動かせねえだろう。でもま、後遺症とかは残らねえから安心し……」

 その時だ。倒れて気絶しているとばかり思っていたギルと、目が合った。

「まだオレッチは、負けてない!」

 ここで奥の手を披露するつもりなのだ。

「何……!」

 紫電は周囲を見回す。

(ギルが今、霊障を使うとなれば……礫岩!)

 だから地面が不自然な動きを見せていないかどうかをキョロキョロして確かめたのだ。

(その一瞬、隙だらけだぜ!)

 だがギルの隠し技は礫岩ではない。口を開くとそこから、火の玉が出現した。

(くらいな! ゴーストフレア! オレッチの最強の、ファントムフェノメノン!)

 切り札である霊障の威力は、凄まじい。炎による攻撃は、【UON】では重宝されるほどだ。

「ん? 鬼火か!」

 放たれる熱気を感じ取った紫電がギルに目線を戻した。彼は勝ち誇った顔で、

「バカめ! 少しでも【UON】に敵うとでも思ったのか! オマエたち【神代】は、負ける運命なんだよ!」

 ギルの戦法はかなり理にかなっていた。近づいて乱舞で攻める。相手が逃げるなら礫岩で逃げ道を塞ぐ。そして駄目押しに鬼火でフィニッシュ。勝利の方程式が簡潔でかつ滑か。
 しかしそこには致命的な計算ミスがあった。
 紫電は電霊放の電磁バリアで鬼火を簡単に防いでしまったのだ。

「え? ええええええええええ?」

 目の前で起こった現象に理性が追いつけていないギル。もう一度鬼火を吐き出したが。

「無意味だ! 干渉! 中和! そして……無効!」

 炎とは、ある意味では電気的な現象。その電気を自在に操れる紫電の電霊放を突破することはないのである。
 鬼火を吐き出せなくさせるために紫電はギルの口目掛けて小さめの電霊放を撃ち込み、

「グブ………」

 ギルは沈黙した。
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