第8話 相討つ二人 その2
文字数 4,069文字
二人のこの決闘にも似た戦い。礼儀や自己紹介はいらない。ただ、相手よりも自分が優れていることを証明したいだけだ。
紫電は、蒼が町に悪霊を解き放ったあの日、感じた。
(先を越されるとは思っていなかったぜ。まさか俺が、後れを取るとはな。だからこそ証明する! 俺の方が緑祁よりも強いことを!)
緑祁は、元々抱いていた疑念がある。
(僕の霊能力者としての実力は、どのぐらいなのだろう? 香恵は紫電のこと、電霊放の名人って言っていた。そんな彼と戦って自分のレベルを知ろう。そして修練のことを止める!)
二人とも、戦う理由は十分にある。
「これを見ろ!」
と叫び、紫電は懐から石ころを取り出した。ここに来る途中で拾った、特別な理由はない手のひらに収まるくらいの白い石。
「今から俺がこれを上に投げる! その石が地面に落ちた時! それが勝負開始の合図!」
「いいよ」
緑祁が頷くのを確認したら、紫電はその石を二人の間の上空に向けて投げる。石には電気を流しておいて、その火花が目印にもなっているので、双方見失うことはない。
だが、既に紫電の作戦は始まっている。
(そろそろだ……)
わざわざ目印をつけられているために、緑祁の視線は石に釘付けとなる。対する紫電は、
(先手は俺がもらうぜ!)
もう、いつでも走りだせるよう構えている。
コン! 石が落ちた。
「しょうぶかい………」
緑祁はそう思った。が、それが既に遅いのだ。
彼の視線が地面に落ちた石から紫電の方に移った時、この短い距離を駆け出している紫電の姿があった。
「くらいな!」
ダウジングロッドの先から生じる、電気。それが木の根のように伸びた。
「逃がさんぜ」
電霊放だ。
「いいや!」
しかしここで慌てる緑祁ではない。すぐに手のひらから鉄砲水を出し、その勢いで後ろに飛ぶ。
「……ううっ!」
だが、完全に逃げれたわけではない。電霊放は足に当たり、痺れが全身に回ったので着地に失敗して地面に転げ落ちた。
「でも、今度は僕の番だ!」
香恵に言ってあった通り、鬼火を生み出す。結構な大きさの火球が出現し、辺りを赤く照らし出した。
(……?)
ここで疑念が生じた。こんな大きな霊障を目の前にして、紫電は全く恐れを抱いてないのである。やせ我慢には見えない。顔の表情からは本当に、怖気の欠片も感じ取れない。寧ろ、問題ないって感じの態度。
(でも…!)
やるしかないことに変わりはないので、緑祁は鬼火を飛ばした。
「それはな、俺には通じないぜ!」
が、電霊放のバリアに当たるとそれが一瞬で消えてしまう。
「火力が足りてない?」
そう思った緑祁はもう一発を撃ち出した。
「干渉! 中和! そして、無効!」
だがやはり電霊放に阻まれるのだ。電気に関する知識のない緑祁でも、流石にここまで来ればわかる。
(鬼火では、電霊放には勝てないのか! どういう原理かはわからないけど、炎じゃ駄目だ……!)
緑祁が扱える霊障は三つ。その内の一つである鬼火が駄目なら残る二つ……つまり旋風と鉄砲水で戦うことになる。
指でピストルを作ると、それを紫電に向けた。指先から繰り出す鉄砲水をまずは試してみるのだ。
「うおお!」
紫電は横に飛んで避けた。
「これは通じる…! ならば!」
もう片方の手でも同じことをする。だが撃ち出した鉄砲水は、紫電が繰り出した電霊放に当たって弾けた。相殺されたのである。
「ならもう、これしかない!」
手を振って風を起こす。その風が紫電に突きつけられるとき、切る感触を生む。
「つつつ!」
服の上からでも切れ味は感じ、紫電は怯んだ。この隙に緑祁は、まず距離をとることにした。追い風を生みそれに乗ることで、一気に紫電から離れる。
「これぐらいでいいだろう。そして!」
本能的に、どの霊障が一番有効かを判断し、それを使うのだ。
緑祁が選んだ霊障は、鉄砲水。何故なら鬼火は電霊放にかき消され、そして旋風は当たっても耐えられてしまう。だが、鉄砲水は? 先ほど紫電は放水を見て、真っ先に避けることを選んだ。
(当たってはいけない理由があるんだ! だからこそこれで攻める…!)
その読みは当たっている。
紫電の弱点は、握っているダウジングロッドにある。この柄には電池が仕込まれているのだが、それが濡れると自分の体に電気が流れてしまうのだ。電霊放を撃てる紫電だが、その電撃に耐性があるわけではない。自分の電気で自滅しかねない。だから最初に水を見た時、反射的に飛んだのである。
「それっ!」
遠距離から、五本の指で一斉に鉄砲水を放つ。
「当たるかよ、そんなもの!」
紫電は電霊放で対抗してきた。まずはバリアを生み出し十分凌いだと判断したら一気に攻撃に移る。片方のダウジングロッドで緑祁を狙い、撃ち込む。
「ぐはっあ!」
それは緑祁の肩に命中した。電流に撃ち抜かれた緑祁は、それに耐えられず地面に手をついた。
「で、でも!」
片方のダウジングロッドだけの電力であったためか、すぐに立ち上がる。
「いくぜえええええ!」
しかし設けた距離は潰された。紫電のロッドの先端が白く光り稲妻が走っている。これを直接体に触れさせる気なのだ。
「いいや、させない!」
瞬時に緑祁は鬼火を繰り出した。
「馬鹿か、お前? それはな……。干渉! 中和! 無効!」
電霊放でガードされ、炎は空しく消えた。
「あっ!」
この隙が欲しかったのだ。鬼火を付ければ紫電は電気を、自分の体を守るように放電する。その時は、電霊放が緑祁を襲うことはない。
「下からの水流だ!」
鉄砲水が、二次関数のグラフのようにまず地面を這い、それから一気に上がって紫電の顔を目指した。
「………!」
なんと、これを避けないしガードもしない紫電。当然、顎に当たってのけ反った。
「結構強い勢いだな…!」
紫電は、両腕を上げていた。だから手は濡れずに済んだ。そう考えればこのダメージは勝利への必要経費。いくらでも相手にくれてやるのだ。
「今度は俺からいくぜ!」
上げた腕をクロスさせながら振り下ろし、☓の字の電霊放を放った。
「ぐ、うっ!」
鉄砲水での防御を試みたものの、防ぎきれなかった。だから緑祁はそれを左腕にくらった。
「うぐううううああああああ………!」
しかも威力も全然落ちていない。左腕は完全に麻痺し、指先を満足に動かすことすら叶わなくなる。力も入れられないので、肩からブランと垂れ下がる。
「まともにくらったな? しばらく腕は動かせそうにないだろう? この状態では、俺より上に立つことはもう無理………」
だろう、と本来なら紫電のセリフは続く。そうならなかったのは緑祁がまだ勝負を捨てず、動かせない左腕を右手で持ち上げて左手から鉄砲水を勢いよく出したのだ。腕のコントロールはできないので、水流の勢いで腕はまるで床に落ちながらもお湯を吐き出すシャワーヘッドのように動いた。
「おわわわ!」
この予想ができない動きが、紫電を一瞬困惑させた。その迷いが、彼に離れることを選ばせたのだ。
「やるな、緑祁……!」
左の鉄砲水を止め、今度は右手で正確に紫電を狙う。
「そこだよ!」
撃ち込んだ鉄砲水は、紫電の電霊放よりも速かった。
「ぐ……!」
本当ならよりダメージがありそうな顔や胴体を狙いたかった。だがさっき、紫電は鉄砲水を顎で受けた。つまりそれほど効かないということ。だから手を狙った。左手をずぶ濡れにしてやれたのだ。
「チッ!」
言い捨てるのと同時に、紫電は左手のダウジングロッドを捨てた。持っていても意味がないし、何かの拍子で無意識の内に使ってしまったら、自滅するからだ。
緑祁は左腕が麻痺し、まだ動かせそうにない。対する紫電も左手のロッドを失った。お互いに残っているのは、右のみ。
「抜きな! どっちが速いか、勝負だぜ!」
「……いいよ」
ガンマンの決闘のごとく、二人は動かない。全身の神経を右手に集中させている。
「くらわせる!」
「そりゃああ!」
二人が手を挙げたのは、同時だった。緑祁は鉄砲水を、紫電は電霊放を撃つ。水と電気が衝突し、またも相殺。
「互角か……!」
「あと少しで勝てそうなんだけど……。その一歩が、高い…」
この勝負、どちらが勝利してもおかしくはない。それぐらい拮抗している。
(やるしかないな……! 奥の手だ…)
紫電は緑祁に悟られないよう、口元で笑った。腕を後ろに回してポケットに突っ込み、電池を補充するのだ。
電霊放は、威力が電源に依存している。電池一個では緑祁に勝てない。ならば増やす。ただ単に単純なことで、こういう場面では当たり前の選択。
(これで勝利は俺のものだ……!)
もうニヤつきを抑えられず、ついに緑祁に気づかれてしまう。
「何がおかしいんだい?」
「さあな!」
ダウジングロッドの柄と共に電池を追加で二個、握る。これが生み出す電力は、先ほどの三倍だ。確実に勝利をものにできる威力。
「終わりだ、緑祁ぇぇぇええええ!」
「な、何だって!」
言葉に驚いたのではない。ダウジングロッドの金属の部分に生じている電流が、比べれば明らかに違和感を抱くレベルで増しているのだ。
「もらっ………!」
だが、その勝利の稲妻は放たれなかった。
突如現れた黒い影が、紫電の体を突き飛ばしたのである。
「おわああ?」
吹っ飛んだ彼の体は、駅前に停車していた車のボンネットに落ちた。
「な、何が起きてるんだ……?」
香恵の方を向く緑祁。だが彼女も困惑している。緑祁は黒い影の方に向き直る。
(間違いない。これは霊だ。でもどうして突然、紫電のことを?)
それがわからない。その影は緑祁には攻撃を仕掛けて来ようとしないのだ。だから彼はすぐに香恵に駆け寄り、彼女の前に立つ。
「左腕、まだ痺れてる?」
「う、うん……」
香恵が緑祁の腕をさすり、麻痺を癒した。
「ありがとう。でも、何が起きたのかな、これって…?」
紫電は叩きつけられた衝撃で気を失っているらしく、起き上がろうとしない。
「永露、緑祁だったかな? 一緒にいるのは、藤松香恵……」
その、澄んだ低い声は二人の背後から聞こえた。
紫電は、蒼が町に悪霊を解き放ったあの日、感じた。
(先を越されるとは思っていなかったぜ。まさか俺が、後れを取るとはな。だからこそ証明する! 俺の方が緑祁よりも強いことを!)
緑祁は、元々抱いていた疑念がある。
(僕の霊能力者としての実力は、どのぐらいなのだろう? 香恵は紫電のこと、電霊放の名人って言っていた。そんな彼と戦って自分のレベルを知ろう。そして修練のことを止める!)
二人とも、戦う理由は十分にある。
「これを見ろ!」
と叫び、紫電は懐から石ころを取り出した。ここに来る途中で拾った、特別な理由はない手のひらに収まるくらいの白い石。
「今から俺がこれを上に投げる! その石が地面に落ちた時! それが勝負開始の合図!」
「いいよ」
緑祁が頷くのを確認したら、紫電はその石を二人の間の上空に向けて投げる。石には電気を流しておいて、その火花が目印にもなっているので、双方見失うことはない。
だが、既に紫電の作戦は始まっている。
(そろそろだ……)
わざわざ目印をつけられているために、緑祁の視線は石に釘付けとなる。対する紫電は、
(先手は俺がもらうぜ!)
もう、いつでも走りだせるよう構えている。
コン! 石が落ちた。
「しょうぶかい………」
緑祁はそう思った。が、それが既に遅いのだ。
彼の視線が地面に落ちた石から紫電の方に移った時、この短い距離を駆け出している紫電の姿があった。
「くらいな!」
ダウジングロッドの先から生じる、電気。それが木の根のように伸びた。
「逃がさんぜ」
電霊放だ。
「いいや!」
しかしここで慌てる緑祁ではない。すぐに手のひらから鉄砲水を出し、その勢いで後ろに飛ぶ。
「……ううっ!」
だが、完全に逃げれたわけではない。電霊放は足に当たり、痺れが全身に回ったので着地に失敗して地面に転げ落ちた。
「でも、今度は僕の番だ!」
香恵に言ってあった通り、鬼火を生み出す。結構な大きさの火球が出現し、辺りを赤く照らし出した。
(……?)
ここで疑念が生じた。こんな大きな霊障を目の前にして、紫電は全く恐れを抱いてないのである。やせ我慢には見えない。顔の表情からは本当に、怖気の欠片も感じ取れない。寧ろ、問題ないって感じの態度。
(でも…!)
やるしかないことに変わりはないので、緑祁は鬼火を飛ばした。
「それはな、俺には通じないぜ!」
が、電霊放のバリアに当たるとそれが一瞬で消えてしまう。
「火力が足りてない?」
そう思った緑祁はもう一発を撃ち出した。
「干渉! 中和! そして、無効!」
だがやはり電霊放に阻まれるのだ。電気に関する知識のない緑祁でも、流石にここまで来ればわかる。
(鬼火では、電霊放には勝てないのか! どういう原理かはわからないけど、炎じゃ駄目だ……!)
緑祁が扱える霊障は三つ。その内の一つである鬼火が駄目なら残る二つ……つまり旋風と鉄砲水で戦うことになる。
指でピストルを作ると、それを紫電に向けた。指先から繰り出す鉄砲水をまずは試してみるのだ。
「うおお!」
紫電は横に飛んで避けた。
「これは通じる…! ならば!」
もう片方の手でも同じことをする。だが撃ち出した鉄砲水は、紫電が繰り出した電霊放に当たって弾けた。相殺されたのである。
「ならもう、これしかない!」
手を振って風を起こす。その風が紫電に突きつけられるとき、切る感触を生む。
「つつつ!」
服の上からでも切れ味は感じ、紫電は怯んだ。この隙に緑祁は、まず距離をとることにした。追い風を生みそれに乗ることで、一気に紫電から離れる。
「これぐらいでいいだろう。そして!」
本能的に、どの霊障が一番有効かを判断し、それを使うのだ。
緑祁が選んだ霊障は、鉄砲水。何故なら鬼火は電霊放にかき消され、そして旋風は当たっても耐えられてしまう。だが、鉄砲水は? 先ほど紫電は放水を見て、真っ先に避けることを選んだ。
(当たってはいけない理由があるんだ! だからこそこれで攻める…!)
その読みは当たっている。
紫電の弱点は、握っているダウジングロッドにある。この柄には電池が仕込まれているのだが、それが濡れると自分の体に電気が流れてしまうのだ。電霊放を撃てる紫電だが、その電撃に耐性があるわけではない。自分の電気で自滅しかねない。だから最初に水を見た時、反射的に飛んだのである。
「それっ!」
遠距離から、五本の指で一斉に鉄砲水を放つ。
「当たるかよ、そんなもの!」
紫電は電霊放で対抗してきた。まずはバリアを生み出し十分凌いだと判断したら一気に攻撃に移る。片方のダウジングロッドで緑祁を狙い、撃ち込む。
「ぐはっあ!」
それは緑祁の肩に命中した。電流に撃ち抜かれた緑祁は、それに耐えられず地面に手をついた。
「で、でも!」
片方のダウジングロッドだけの電力であったためか、すぐに立ち上がる。
「いくぜえええええ!」
しかし設けた距離は潰された。紫電のロッドの先端が白く光り稲妻が走っている。これを直接体に触れさせる気なのだ。
「いいや、させない!」
瞬時に緑祁は鬼火を繰り出した。
「馬鹿か、お前? それはな……。干渉! 中和! 無効!」
電霊放でガードされ、炎は空しく消えた。
「あっ!」
この隙が欲しかったのだ。鬼火を付ければ紫電は電気を、自分の体を守るように放電する。その時は、電霊放が緑祁を襲うことはない。
「下からの水流だ!」
鉄砲水が、二次関数のグラフのようにまず地面を這い、それから一気に上がって紫電の顔を目指した。
「………!」
なんと、これを避けないしガードもしない紫電。当然、顎に当たってのけ反った。
「結構強い勢いだな…!」
紫電は、両腕を上げていた。だから手は濡れずに済んだ。そう考えればこのダメージは勝利への必要経費。いくらでも相手にくれてやるのだ。
「今度は俺からいくぜ!」
上げた腕をクロスさせながら振り下ろし、☓の字の電霊放を放った。
「ぐ、うっ!」
鉄砲水での防御を試みたものの、防ぎきれなかった。だから緑祁はそれを左腕にくらった。
「うぐううううああああああ………!」
しかも威力も全然落ちていない。左腕は完全に麻痺し、指先を満足に動かすことすら叶わなくなる。力も入れられないので、肩からブランと垂れ下がる。
「まともにくらったな? しばらく腕は動かせそうにないだろう? この状態では、俺より上に立つことはもう無理………」
だろう、と本来なら紫電のセリフは続く。そうならなかったのは緑祁がまだ勝負を捨てず、動かせない左腕を右手で持ち上げて左手から鉄砲水を勢いよく出したのだ。腕のコントロールはできないので、水流の勢いで腕はまるで床に落ちながらもお湯を吐き出すシャワーヘッドのように動いた。
「おわわわ!」
この予想ができない動きが、紫電を一瞬困惑させた。その迷いが、彼に離れることを選ばせたのだ。
「やるな、緑祁……!」
左の鉄砲水を止め、今度は右手で正確に紫電を狙う。
「そこだよ!」
撃ち込んだ鉄砲水は、紫電の電霊放よりも速かった。
「ぐ……!」
本当ならよりダメージがありそうな顔や胴体を狙いたかった。だがさっき、紫電は鉄砲水を顎で受けた。つまりそれほど効かないということ。だから手を狙った。左手をずぶ濡れにしてやれたのだ。
「チッ!」
言い捨てるのと同時に、紫電は左手のダウジングロッドを捨てた。持っていても意味がないし、何かの拍子で無意識の内に使ってしまったら、自滅するからだ。
緑祁は左腕が麻痺し、まだ動かせそうにない。対する紫電も左手のロッドを失った。お互いに残っているのは、右のみ。
「抜きな! どっちが速いか、勝負だぜ!」
「……いいよ」
ガンマンの決闘のごとく、二人は動かない。全身の神経を右手に集中させている。
「くらわせる!」
「そりゃああ!」
二人が手を挙げたのは、同時だった。緑祁は鉄砲水を、紫電は電霊放を撃つ。水と電気が衝突し、またも相殺。
「互角か……!」
「あと少しで勝てそうなんだけど……。その一歩が、高い…」
この勝負、どちらが勝利してもおかしくはない。それぐらい拮抗している。
(やるしかないな……! 奥の手だ…)
紫電は緑祁に悟られないよう、口元で笑った。腕を後ろに回してポケットに突っ込み、電池を補充するのだ。
電霊放は、威力が電源に依存している。電池一個では緑祁に勝てない。ならば増やす。ただ単に単純なことで、こういう場面では当たり前の選択。
(これで勝利は俺のものだ……!)
もうニヤつきを抑えられず、ついに緑祁に気づかれてしまう。
「何がおかしいんだい?」
「さあな!」
ダウジングロッドの柄と共に電池を追加で二個、握る。これが生み出す電力は、先ほどの三倍だ。確実に勝利をものにできる威力。
「終わりだ、緑祁ぇぇぇええええ!」
「な、何だって!」
言葉に驚いたのではない。ダウジングロッドの金属の部分に生じている電流が、比べれば明らかに違和感を抱くレベルで増しているのだ。
「もらっ………!」
だが、その勝利の稲妻は放たれなかった。
突如現れた黒い影が、紫電の体を突き飛ばしたのである。
「おわああ?」
吹っ飛んだ彼の体は、駅前に停車していた車のボンネットに落ちた。
「な、何が起きてるんだ……?」
香恵の方を向く緑祁。だが彼女も困惑している。緑祁は黒い影の方に向き直る。
(間違いない。これは霊だ。でもどうして突然、紫電のことを?)
それがわからない。その影は緑祁には攻撃を仕掛けて来ようとしないのだ。だから彼はすぐに香恵に駆け寄り、彼女の前に立つ。
「左腕、まだ痺れてる?」
「う、うん……」
香恵が緑祁の腕をさすり、麻痺を癒した。
「ありがとう。でも、何が起きたのかな、これって…?」
紫電は叩きつけられた衝撃で気を失っているらしく、起き上がろうとしない。
「永露、緑祁だったかな? 一緒にいるのは、藤松香恵……」
その、澄んだ低い声は二人の背後から聞こえた。