第4話 海外の霊能力者 その3

文字数 2,496文字

「遅くなっちゃっ……」

 雪女が駆け付けた時、勝負は既に終了していた。

「勝ったんだね、紫電」
「ああ。何とかな」

 道雄と勇悦も駆け付ける。気絶しているギルの体を勇悦が触れ、

「致命的な怪我はしてへんみたいや」

 慰療を使ってもあまり手応えがなかったので確信する。続いて道雄が薬束を使ったがこちらも異常はなし。

「どないすん紫電? 海神寺に幽閉しておく?」
「そうできるなら頼むぜ。コイツのことは【神代】に報告して指示を待ちてえし、それに聞きたいこともある」

 とりあえず縄で縛って、海神寺の一番狭い客間に閉じ込めた。

「雪女、【神代】に連絡を入れてくれ」
「わかった」

 タブレット端末を操作してメッセージを送った。するとすぐに返事が返って来て、

「よくやった! そのまま拘束しておいてくれ。交渉面で役立つだろうから」

 という指示が。

「道雄と勇悦! お前らが見張っておいてくれねえか? 俺も雪女も周囲を警戒する!」
「任せとき」

 紫電と雪女は海神寺周辺をパトロールしたが、この日は怪しい人物は誰もいなかった。


 海神寺に戻って来た時のことである。締め切られた戸の前には道雄が立っていて、

「お帰り。今勇悦が中でギルとかいうヤツと話してる」

 暴れている様子がないことを聞いた。しかし道雄はとある電子機器を持っていて、

「これ、アイツ持っとったんや。さっきまで生きとったんで、仲間に情報は回っとる。間違いあらへん」
「だと思っていた……。きっとギルの味方がアイツを取り返しにここまで来るだろう。道雄、霊障が使えない人たちは海神寺から避難させてくれ」
「既に手配済みや」

 紫電が戸を開いて中に入った。

「………」

 さっきまで敵愾心むき出しだったはずのギルが呑気に勇悦ともみじ饅頭を食べていたので、少し呆れた。

(いや、勇悦が落ち着かせたんだな。そう思おう)

 これから尋問を開始するのだ。雪女もこの客間に入り、タブレット端末を開いている。

「【神代】からの注文は、これ」

 そこには質問すべき事項が列挙されている。

「ギル! 自己紹介が遅れたな……。俺は小岩井紫電だ。こっちのは稲屋雪女。これから俺たちはお前にいくつか質問するが………」

 返事にはあまり期待できない。黙秘を貫くか、嘘をベラベラ喋るかどちらかだろうから。でも大事な情報源であることには違いないのだ。

「まず一つ目……。お前たち【UON】は、全部で何人日本に来ている?」
「知らねえ。でもオレッチたちを含めて八チームって聞いているぜ」
「じゃあお前のチームは何名だ?」
「六人!」
「どうやって日本に入って来た?」
「船だな」

 一応やり取りはできている。それが真実であるかどうかは別として。

「お前の霊障……そっちでいうファントムフェノメノンはいくつある?」
「三つ。オーガズフィスト、プロテクトテラ、ゴーストフレアだけ」
「ふむふむ……。ではこれはどうかな? 今回の任務の最高責任者は誰だ?」
「マスター・ハイフーン!」

 答えを雪女は端末に記入。その後も【神代】からの尋問を紫電は続けた。それが一通り終わった後、

「ここからは俺の個人的な質問だ。さっきまでと一緒で、別に答えねえなら拷問するとかはない。だから嫌なら黙っていてもいいが……」
「そこは聞けよ、おぉい!」

 何故か紫電が躊躇うのをギルは嫌った。

「なら……。羊のような角、ドラゴンのような翼、足は蹄。体は人間で、角以外にダメージを受けると動物の霊を吐き出す幽霊のことを知っているか?」
「それは間違いなく、エクゾシストアルファだな。オレッチのチームがドイツで捕まえて使役して、船を守って……」

 ここでギルは勘付いた。何故それを紫電が知っているのかを。

「ま、まさかとは思うけど……。オマエ、遭遇した?」
「ご名答だな。あり得ねえぐらい強かったが、何とか倒せた」
「倒した? はあああああ? どうやって? いつ? 何を用いて?」

 よほど信じられないのであろう、立場が逆転しギルが紫電を質問攻めにする。

「式神がいてな、それで突破口開いた! 後は簡単だったぜ?」
「おいおい……。待てよ? エクゾシストアルファはスカル・リバイス号を守っていたはずだが……」

 その、嫌な予感は的中する。

「あの幽霊船なら、俺が沈めてあの世に送り返したぜ?」
「バカヤロウ! 帰る手段が無くなっちまったじゃないか!」

 どうやら乗船していたのはギルとその仲間で間違いないらしい。やはり厄魔はあの幽霊船を守るためにギルが日本に持ち込んだのであった。

「参ったな、どうやってヨーロッパに帰る? オレッチ、パスポートはあるけど日本円なんて持ってないぞ?」
「素直に帰るって言うんなら、旅費ぐらい俺が負担してやってもいいぜ?」

 懐の広さを見せる紫電。

「その時はお前の仲間たちも、一緒だがな!」

 同時に自分たちの強さもアピールしておく。
 個人的な質問はこれぐらいで終わった。

「道雄、勇悦…。あの様子じゃ脱走する気はねえと思うけど、見張りだけは怠らないでくれ」
「わかっとる!」

 紫電は途中だった作業に戻った。雪女は【神代】に報告書を提出し更なる指示を待つ。

(グフフ……)

 だが、ここで終わらないのが【UON】だ。

(オレッチが通信機を二つも持っているとは思っていないだろう? 全部聞こえてるんだぜ、仲間に!)

 ギルが一番入手したかった情報、それは名前だ。【UON】も無計画ではないので、事前に調べられる分だけ【神代】の霊能力者の情報を収集していたのである。

(ゴーストフレアとシャドープラズマが衝突した時に何が起きるかは知らなかったけどな、オレッチの仲間にはオレッチと同じファントムフェノメノンを持っている人はいない! だからあんな偶然は二度と起きない! それに……)

 それに、名前がわかれば霊障や実力まで調べることが可能だ。

(ちゃんと聞いたぜ、シデン・コイワイ! ユキメ・イネヤ! オレッチの仲間が調べてオマエたちの弱点を浮き彫りにしてくれる! ウヒヒ!)

 彼はこの海神寺から逃げ出すつもりはない。それはここに留まっていれば、【神代】の情報を聞き出せるからである。

(そしてそれも、計画の内だったりしてな!)
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