第2話 初戦 その2

文字数 3,452文字

 自然と、紫電は勝雅と、緑祁は進市と、雪女は苑子と対峙した。一対一の勝負だ。

「やってやるぜ!」

 最初に動いたのは、進市。乱舞による身体能力の向上を利用し、一気に緑祁に迫る。だが緑祁もただぼさっとしているわけではない。

「それっ!」

 旋風を生み出しぶつけた。

「くうー! 中々鋭い風じゃないか! 皮膚から悲鳴が聞こえてきそうだ!」

 でも止まらない。拳を握りしめ、殴り掛かる。

「いっ!」

 顔面に迫るパンチ。間一髪避けれたが、頬を掠めた。

(一撃でもくらえば、間違いなく負ける……)

 威力の高さをすぐに連想させるほどだ。すぐに緑祁は距離を取ろうと下がるが、

「逃がさないぜ!」

 進市は鉄砲水を繰り出し攻撃。たまらず緑祁も鉄砲水で応戦した。

「ほう? お前も僕と同じく鉄砲水が使えるか! 珍しくはないけどな」
「それを乱舞と合体させる、んだろう? どういう霊障合体になるのか、見当もつかない……」
「怯えることはない。今ここで使ってやるぜ!」

 進市は宣言した。鉄砲水と乱舞の霊障合体をここで披露すると。

(どういうのが来るんだろう? 拳のような水とか?)

 だがその予想とは裏腹に、いきなり進市が迫った。

「うわっ!」

 想像とは全然違う、進市の霊障合体。それは鉄砲水を自分の後ろに放水して推進力を向上させた状態で乱舞を使用することだった。

「霊障合体・推進(すいしん)流撃(りゅうげき)だ!」

 さっきとは、速さが違う。回避どころか、防御も間に合いそうにない。

(なら……!)

 咄嗟に思いついた緑祁の手は、

「火災旋風!」

 逃げるのではない。逆に相手に立ち向かうというものだ。

「おおっと!」

 流石の進市も、突然目の前に現れた赤い渦には驚いた。しかも緑祁は臆することはせず、平然と向かってくる。

「だがな! その考えは甘い! 僕の推進流撃の敵じゃないんだよ!」

 拳を鉄砲水で潤わせ、濡れた手で火災旋風を振り払う。これも推進流撃の一部。炎は全く通じないのだ。

「次はスライディングでいくぞ? 覚悟しな!」

 踵から勢いよく水が出る。その反動で一気に足が動き、地面の上をスライド。そしてそのまま緑祁のことを蹴り上げてしまおうという魂胆だ。

「何でもありかい、あの霊障合体は!」

 緑祁はまず逃げた。でもすぐに追いつかれる。

「おらおらおらぁよー! 逃げてばっかじゃ勝てないぜ?」
「ん? それは違うよ」
「何だと?」
「そっちを倒す手はもう考えてあるんだ。ズバリ鬼火! それでいかせてもらうよ!」

 多分、鉄砲水では進市を倒せない。旋風でも難しいだろう。そうなると一番火力が出るのは鬼火。それしかない。

「鬼火だと? お前、間抜けか? 炎は僕には通じないんだよ?」
「そうかな?」

 いかに相手の拳と蹴りをかわして鬼火をぶつけるか。緑祁は考えた。火災旋風では駄目だったが、他にも打つ手はある。

(一発でいいんだ。それだけで十分!)

 まずは鬼火を撃ち込んでみる。

「おらおらぁ!」

 火は、水を帯びた拳にかき消された。当たり前だ。

「このように! 炎は僕の拳で貫けるんだ! だから、無理ぃいいい!」

(いや違う! 白い煙が立っている! やはり僕の読み通りだ!)

 もう一気に勝負を決める。そう思った進市は推進流撃を全開にして、緑祁に駆けた。

(ここだ!)

 そしてその、相手がこちらに迫る瞬間を緑祁は待っていたのだ。

「鬼火だ! ふんぬうぅううう!」

 手を広げ、大きな炎を繰り出す。

「な、何? これほど大きな鬼火……。って、驚くとでも思ったか! 貫く!」

 水をまとった進市には無意味に思える鬼火。実際に彼はその炎の中に飛び込んだ。熱さは感じるが、水のおかげで火傷はしない。

「うおおおお! くらえ!」

 その拳が緑祁に迫る。

「今だ!」

 緑祁が動いた。彼は進市の拳を、両手でキャッチした。

「馬鹿な?」

 どうして受け止められたのか、理解できない進市。だがこの時の彼の動きは単純で、緑祁でも軌道が十分読めた。加えて、鉄砲水が鬼火のせいで蒸発して推進力が下がっていたのだ。ただし、受け止めた拳は結構痛かった。

「あとは、うりゃあああああああ!」

 自分を中心に旋風を生み出し、その空気の流れに任せて体を何度も回す。

「うわわわわわわっ!」

 もちろん進市の手を掴んだままだ。振り回された進市は投げ飛ばされ、地面に叩きつけられた。

「ぐふっ! し、しかし……!」

 まだ動ける。そう思って立ち上がろうとした時、背中に何かが飛んできた。

「びゃああっ!」

 緑祁だ。最後は自分も旋風に乗って、飛んできたのである。

「うげっ!」

 これがトドメの一撃となって、進市はダウン。その時彼の体が、白い膜に包まれてそれが弾けた。これは決闘の杯の効果が発揮されたこと……つまりは脱落を意味する。

「ふう、何とか勝てた。紫電と雪女はどうだろう?」


「ほっそい腕ね。そんなんで大丈夫?」

 苑子は雪女に挑発していた。スポーツジムに通っているために確かに苑子の方が、がっちりした体型だ。しかし、

「そんな安い言葉で私が熱くなるとでも?」

 効いてない。逆に通じなかった苑子の方が焦りで、腕が震える。

「冷たいのね、あんた。冷血動物かな?」
「なら逆に、きみの熱を私に見せてよ」

 そうしてやろうと言わんばかりに、苑子は自分の霊障を展開。雪と鬼火だ。

「二つ持ってるタイプ、ね……」

 対する雪女は、雪だけだ。

「さあ、どこからでもかかってきなさいよ!」
「じゃあ遠慮なく」

 そう言って雪女は雪の氷柱を指の間に生み出し、投げた。

「あっ危な!」

 しかしそれは、苑子の鬼火にかき消されてしまう。

「それだけ? それ以外には何もないの?」
「…………」

 黙っているということは、図星であるということ。

「なら! わたしの勝ちだわ!」

 苑子はやる気満々だ。普通に考えて、氷では炎には勝てない。だから一気に鬼火を放つ。

「でもさ……。ぶ厚い氷河は火炎放射器では溶かせないよ」

 ここで雪女、雪の結晶を繰り出す。三十センチはある壁だ。

「溶かし尽くす!」

 どんどん火力を上げる苑子だが、その思いに反し氷は全然溶けない。実際に日本の自衛隊が豪雪地帯で火炎放射器を使って雪を溶かそうとしても、全く溶けず燃料の無駄だった。それを雪女は知っていたので、防御に自信があったのだ。

「なら! わたしも雪の氷柱を!」

 硬い物を割るなら、同じく硬い物をぶつける。単純な発想だがそれでいい。苑子は雪の氷柱を撃ち出し、結晶に突き刺した。

「む…」

 感覚でわかった。雪の結晶にヒビが入っている。

(このままだと間違いなく割れる。逃げないといけない)

 さらにその一点に、連続して氷柱が打たれた。

「そろそろじゃないかしら? もう耐え切れないんじゃない?」
「かもね……」

 もう一発撃ち込むと、結晶がパリンと割れた。

「さあお終いよ、雪女! って、あれ?」

 いない。結晶の向こう側にいると思っていた雪女の姿がないのである。

「逃げやがったな、この! でもそう遠くへは行けないはず! さあ、どこよ?」

 キョロキョロしてみる。でも、いない。

「嘘? どうして……?」

 その答えはすぐにわかる。確かに雪女は逃げたが、それは横でも奥でもない。
 上だ。咄嗟に氷の結晶で柱を作って自分の体を押し上げ、すぐにそれを解除して消したのだ。

(行ける。今なら苑子は、私を見失っている)

 だからこの一撃、絶対に決まる。そのはずだった。

「はっ!」

 苑子は、上を向いた。これは偶然ではない。鬼火と雪を操れるが故に、温度の変化に敏感だ。今、頭上の温度がわずかに変化した。雪女が氷柱を生成したからである。

「バレ……た?」
「上ね! これ、墓穴よね、上だけど!」

 逃げ場がない。それに宙に浮いていると、大きく動けない。

「今だ! 霊障合体・凍傷(とうしょう)!」

 それは、ドライアイスのように冷たいのに火傷を引き起こす、火のついた雪だ。それが雪女目掛けて舞い散る。

「いいや、今のできみの負けが決まったよ」
「何を強気な!」

 自分の方が有利だと思っている苑子には、わからなかった。雪女が地面に罠を仕掛けていたことに。

「え、何……?」

 突然、地面から氷が生えて苑子の足を掴んだ。ガチガチに凍ってしまい、動かせない。

「でも、あんたは凍傷を避けられ……」

 ここで雪女の、雪の結晶だ。舞い散る雪程度なら、わけなく防げる。しかもその結晶は、苑子に向かって落ちる。

「きゃあああああああ!」

 ドスンという音がした。結晶に押し潰された苑子は敗北し、脱落だ。

「決闘の杯だっけ? そのおかげで物理的に死ぬような攻撃でも、無傷で生きてる……」
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