第8話 二つの魂 その3

文字数 2,197文字

「あの二人……。名前は、僕と骸が戦ってたのが大刃。で、君たちの相手をしていたのは群主っていうらしいよ」

 大刃と群主の思いに応えなければいけない。

「見つけるわよ。この戦いの中で、私たちがすべきこと……成長して得るべきものを!」
「ああ! 必ず一皮剥けてやるぜ!」
「では、いざ行かん――!」

 どうやら今まで死者がこちらに来なかったのは、群主の旋風が空気の壁を作ってくれていたかららしい。それが無くなると、一斉に襲い掛かってくる。

「上手くいったな、大刃」
「当たり前だ!」

 果敢に戦う四人の姿を嬉しそうに見る二人。この谷の穢れを祓えるのは、生きている者だけだ。だから四人に託すしかない。

「ああいう向上心、羨ましいな。俺たちも生きている間は、持っていたはずなんだけどな」
「死ぬと失うのは、命だけじゃねえみてえだ」

 生きるという希望、それが取り上げられると心は死ぬ。そうなると、上を目指すこと……つまりは成長ができなくなってしまうのだ。

「でも今! あの四人は生きているぜ! 俺たちの代わりに、魂を燃やしてくれている!」
「だからこそ、蛭児を倒すに相応しい人たちだ」

 あの蛭児を止めるのは、誰でもいいわけではない。その資格を持った人にしかできない。今の絵美たちはそれを中途半端に持っている。完全なものにさせなければいけない。


「しかし……。見つけるっつってもさ、今できることは、死者を送り返すことだけだ。それで何か違えるのか?」

 当然の疑問だが、

「きっと何かがあるのよ!」

 絵美は勢いで返事をした。

(多分、普通に霊障を使ったんじゃあの二人には勝てない。だとしたら蛭児を捕まえるのも夢で終わってしまうわ! 必ず何かがあるはずよ!)

 確信が持てているわけではない。でも今すべきことは、さっき骸が言った通りのこと。
 早速一人の死者が迫ってくる。

「ここは我に任せよ――」

 そう言って刹那が前に出た。手を動かし風を生み出すと、空気の刃がその体を切り裂く。

「どう、刹那?」
「何も変わらん――?」

 やはり普通に戦ったのでは、成長できない。

(何か、考えないと! 大刃と群主が私たちに教えたかったことは何? それを理解できれば、必ず掴めるはずだわ!)

 体を動かすよりも頭で考えなければいけない。彼らが自分たちに伝えたかったことは、一体何だろうか。それがわからなければ多分、もう一度戦っても負ける。

「思い出してみようよ。あの二人の言ったことを」
「言ってたこと?」

 雛臥の発言を絵美が復唱する。彼らは何を言っていたのか。その中に重要なことが隠されている気がするのだ。

「あ……!」

 一つ、思い当たることがあった。
 それは、死者は二度目の人生……蘇ることを望んでいない、ということだ。『帰』を行った人だけでなく、その影響を受けた人ですら、魂が呪われ苦しむ。

「………そういうことだったのね」

 閃いた絵美。

「何が――?」
「大刃と群主の魂を穢したのは、私たちよ」

 一連の事件の発端は、蛭児の何かしらの野望だ。でも慰霊碑を破壊したのは、自分たち。

「ああ、皇の四つ子が言ってたなそれ。無実を証明したとしても俺たちが破壊したことには代わりはない、って」
「そうよ」

 今の今まで、真犯人は蛭児であることを免罪符にしていた。だから自分たちがやってしまったことの深刻さを全く考慮していなかったのだ。そして蛭児を捕まえるというのも、彼が汚した魂への贖罪ではなく、単純に自分たちの無実のための道具でしかないと思っていた。

「それが、きっと二人が私たちに気づいて欲しかったこと、なのね……」

 自分たちの罪の自覚。申し訳ないという、死者への思い。
 それを認識した絵美が放った激流は、鋭かった。

「ごめんなさい。私たちのせいで、こんなことになってしまって……」

 まるで群主が使っていた鉄砲水のようだ。

「霊障が、進化したのか……!」

 驚く雛臥。鉄砲水は激流になって、そこまでと思っていた。

「いいえ違うわ。普通の激流よこれは。でも、覚悟の違いが威力を上げたのよ! あえて名付けるのなら、(おど)(みず)!」

 激流の派生というよりは、そこから編み出した技。その水は独りでに踊るかのように動き、死者を葬った。

「すごい……――」

 刹那ですら、言葉を失うほどの感心。

「負けてられないぜ! 俺もやってやる!」

 次に続いたのは、骸。自分の罪を認めてから使った木霊は、一味違った。今までよりも成長の速度も規模も大きい。あっという間に冬の枯れた谷を緑で飾ると、それが死者を絡めとって締め付け潰す。骸はこれを、(くる)()きと命名。

「刹那! 絵美と骸にできるんだ、僕らにもできるはずだよ!」
「うむ――」

 二人を見習って、まずは自分たちの認識を改める。自分たちのために蛭児を捕まえるのではない。彼が蘇らせ汚した魂のために、捕らえるのだ。

「いっけえええええ!」

 雛臥の放った鬼火は、青かった。それは今までよりも温度が上昇している何よりの証拠だ。そして続く刹那の生み出した風は、はるか上空の雲すら動くほどだ。これが、(あお)鬼火(おにび)と、眩暈風(めまいかぜ)である。

「よくできてるわ、二人も!」

 四人の成長速度は、著しく速かった。それは何も不自然なことではない。それくらい、霊能力者としての素質や才能があるということである。
 ただ、大刃と群主に言われるまでは気づけなかったのも事実。結果として二人に背を押されたから、グンと前に踏み出せた形だ。
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