第4話 古の京の都 その3
文字数 2,154文字
伏見稲荷大社の前に、絵美と刹那は来ている。
「広い――」
それ以外の感想が思いつかないほどだ。それが町中にあるのだから一層驚いてしまう。
「せっかくだし奥まで行ってみる?」
ここで絵美は迷った。別の場所で何かが起きた場合、すぐに出向ける方がいい。それを考えれば入り口で足を止めるべき。しかし目の前にはかなり興味のそそられる建物が。
「この奥で何かが起きれば、それはそれで問題だ――」
刹那もそう言っているので、見回りとして大社の中に進んだ。
長い道を歩いて途中で見知らぬ男性に話しかけられたが、タブレット端末のデータと見比べて病射ではないことがわかったので、
「邪魔よ!」
一蹴してそれ以降は無視する。二つ目の鳥居もくぐった。
「左に道がある――」
「行くわよ、刹那!」
そのまま左に進んだ時、
「ん?」
不自然な人物を見つけた。すれ違う人が、扇子やうちわで涼んでいたり日傘で日光を遮っていたりする中、その人物は西洋甲冑に身を包んでいるのだ。向こう側から堂々と歩いて来る。
「刹那、あれは……?」
「わからぬ。今、人がヤツを避けた。見えているということか――?」
一般人にも見えている。でも、かなり怪しい。しかし絵美と刹那に襲い掛かることはなく、すれ違うと素通りしてしまうのだ。
だが、
(この寒気は……幽霊! それにあの背中についている提灯は!)
絵美は感じ取った。間違いなくこの騎士風の男は幽霊……この世ならざる者だ。
「刹那! アイツは幽霊だわ! あの提灯を回収すれば、誰の仕業かわかる! 確保よ!」
「任されよう――」
騙し討ちの形になるが、刹那は足音を消して近づき、この幽霊騎士……迷霊の提灯を取り上げようとした。その時、迷霊が振り向いたのだ。
「しまった――!」
刹那は瞬時に後ろに下がる。迷霊はどこからもなく洋風な剣と盾を取り出し、構えた。
「やる気だわ! 加勢するよ、刹那!」
迷霊と睨み合う絵美と刹那。周囲の人たちは、
「な、何だ?」
「イベントか?」
「面白そうだ! でもあの剣、まさか本物……?」
霊的現象であることに気づいていない。でも剣を持っている迷霊の異様さを感じ取り、下がる。
「先に仕掛けて、刹那!」
「先制攻撃。霊障発展・突風――!」
腕を振って突風を繰り出す刹那。だが迷霊は盾で防御。甲冑の重さもあって中々後ろには動かない。耐えられた。
「く、来る!」
今度は迷霊の攻撃だ。剣を掲げ、切りかかる。ジャンプして絵美に向かって振り下ろした。
「ひいっ!」
反応できない動きではなかった。だから彼女は横に動いて避ける。剣が振り下ろされたアスファルト舗装にヒビが入った。
(威力もあるし、剣自体が硬い!)
すかさず絵美は激流を手のひらから放つ。狙うは甲冑の関節部分だ。繋ぎ目は弱いはず。
「えい、やぁっ!」
迷霊はもちろん盾で防御しようとする。しかし、間に合わない。鋭く強い激流が、迷霊の右脚の付け根に当たり、脚を胴体から切り離した。
「やったわ!」
攻撃が成功し、勝利を確信する絵美。
「まだ早い――!」
しかし、脚が片方切り離されたというのに迷霊はバランスを崩さずに立っている。
「中身はないのね……」
どうやらこの鎧自体が幽霊の本来であるらしい。幽霊が甲冑を身にまとっているわけではないのだ。だから中身を狙った絵美の攻撃は、大したダメージになっていない。おまけに飛んでいったはずの右脚がひとりでに動き、鎧本体に戻って来て元通りにくっつく。
「でもいいわ! この世から、洗い流す! それだけよ!」
攻撃の空しさをやる気に昇華させる。刹那も、
「負けられぬ――」
依然として闘志を見せてくれている。
迷霊が盾を前に突き出し、突進してきた。
「来るわ!」
狙いは刹那だ。盾の陰に剣を隠し、突撃する。
「遅い。それで我を倒せると思っているのなら、発想が遅すぎる――」
見え見えの一手に対し刹那は、即座に反応し避けて逆に攻撃をする。突風を繰り出し攻めた。
「果たしていつまで耐えられるか――?」
突風を送り続ける。迷霊は見た目通り重いのだが、流石に荒れ狂う風にはいつまでも抗えない。段々、体が後ろに下がっていく。
「加勢するわ!」
ここで絵美が、激流を使う。
(鎧自体が幽霊の本体なら、バラバラにしてから一個一個破壊すれば除霊できるかもしれないわ!)
さらに激流を変化させ、踊り水にした。この水はまるで意思を持っているかのようにうねり動き、迷霊の盾を避けて胴体に迫ると、そこで一気にぶつかる。その一撃で、鎧が弾けてバラバラになる迷霊。
「今よ、刹那!」
「了解――」
言わなくても刹那には、絵美の考えがわかった。パーツごとにバラけた鎧一つ一つに、霊障発展を使う。絵美の場合は激流をウォーターカッターのように動かし、さらに切り刻む。刹那は突風を駆使して風圧で押し潰す。迷霊が元通りになる前に、これらのことをしなければならないが、二人にとっては赤子の手をひねる程度の難易度だ。一分もしないうちに、除霊が終わる。残ったのは、迷霊が背負っていた提灯だけだ。
「勝ったわ!」
周囲の人たちは、ざわざわしている。誰かが通報したのか、パトカーか消防車、救急車のサイレンまで聞こえてきた。
「長居は無用――」
提灯を回収すると絵美と刹那は、この伏見稲荷大社を足早に去った。
「広い――」
それ以外の感想が思いつかないほどだ。それが町中にあるのだから一層驚いてしまう。
「せっかくだし奥まで行ってみる?」
ここで絵美は迷った。別の場所で何かが起きた場合、すぐに出向ける方がいい。それを考えれば入り口で足を止めるべき。しかし目の前にはかなり興味のそそられる建物が。
「この奥で何かが起きれば、それはそれで問題だ――」
刹那もそう言っているので、見回りとして大社の中に進んだ。
長い道を歩いて途中で見知らぬ男性に話しかけられたが、タブレット端末のデータと見比べて病射ではないことがわかったので、
「邪魔よ!」
一蹴してそれ以降は無視する。二つ目の鳥居もくぐった。
「左に道がある――」
「行くわよ、刹那!」
そのまま左に進んだ時、
「ん?」
不自然な人物を見つけた。すれ違う人が、扇子やうちわで涼んでいたり日傘で日光を遮っていたりする中、その人物は西洋甲冑に身を包んでいるのだ。向こう側から堂々と歩いて来る。
「刹那、あれは……?」
「わからぬ。今、人がヤツを避けた。見えているということか――?」
一般人にも見えている。でも、かなり怪しい。しかし絵美と刹那に襲い掛かることはなく、すれ違うと素通りしてしまうのだ。
だが、
(この寒気は……幽霊! それにあの背中についている提灯は!)
絵美は感じ取った。間違いなくこの騎士風の男は幽霊……この世ならざる者だ。
「刹那! アイツは幽霊だわ! あの提灯を回収すれば、誰の仕業かわかる! 確保よ!」
「任されよう――」
騙し討ちの形になるが、刹那は足音を消して近づき、この幽霊騎士……迷霊の提灯を取り上げようとした。その時、迷霊が振り向いたのだ。
「しまった――!」
刹那は瞬時に後ろに下がる。迷霊はどこからもなく洋風な剣と盾を取り出し、構えた。
「やる気だわ! 加勢するよ、刹那!」
迷霊と睨み合う絵美と刹那。周囲の人たちは、
「な、何だ?」
「イベントか?」
「面白そうだ! でもあの剣、まさか本物……?」
霊的現象であることに気づいていない。でも剣を持っている迷霊の異様さを感じ取り、下がる。
「先に仕掛けて、刹那!」
「先制攻撃。霊障発展・突風――!」
腕を振って突風を繰り出す刹那。だが迷霊は盾で防御。甲冑の重さもあって中々後ろには動かない。耐えられた。
「く、来る!」
今度は迷霊の攻撃だ。剣を掲げ、切りかかる。ジャンプして絵美に向かって振り下ろした。
「ひいっ!」
反応できない動きではなかった。だから彼女は横に動いて避ける。剣が振り下ろされたアスファルト舗装にヒビが入った。
(威力もあるし、剣自体が硬い!)
すかさず絵美は激流を手のひらから放つ。狙うは甲冑の関節部分だ。繋ぎ目は弱いはず。
「えい、やぁっ!」
迷霊はもちろん盾で防御しようとする。しかし、間に合わない。鋭く強い激流が、迷霊の右脚の付け根に当たり、脚を胴体から切り離した。
「やったわ!」
攻撃が成功し、勝利を確信する絵美。
「まだ早い――!」
しかし、脚が片方切り離されたというのに迷霊はバランスを崩さずに立っている。
「中身はないのね……」
どうやらこの鎧自体が幽霊の本来であるらしい。幽霊が甲冑を身にまとっているわけではないのだ。だから中身を狙った絵美の攻撃は、大したダメージになっていない。おまけに飛んでいったはずの右脚がひとりでに動き、鎧本体に戻って来て元通りにくっつく。
「でもいいわ! この世から、洗い流す! それだけよ!」
攻撃の空しさをやる気に昇華させる。刹那も、
「負けられぬ――」
依然として闘志を見せてくれている。
迷霊が盾を前に突き出し、突進してきた。
「来るわ!」
狙いは刹那だ。盾の陰に剣を隠し、突撃する。
「遅い。それで我を倒せると思っているのなら、発想が遅すぎる――」
見え見えの一手に対し刹那は、即座に反応し避けて逆に攻撃をする。突風を繰り出し攻めた。
「果たしていつまで耐えられるか――?」
突風を送り続ける。迷霊は見た目通り重いのだが、流石に荒れ狂う風にはいつまでも抗えない。段々、体が後ろに下がっていく。
「加勢するわ!」
ここで絵美が、激流を使う。
(鎧自体が幽霊の本体なら、バラバラにしてから一個一個破壊すれば除霊できるかもしれないわ!)
さらに激流を変化させ、踊り水にした。この水はまるで意思を持っているかのようにうねり動き、迷霊の盾を避けて胴体に迫ると、そこで一気にぶつかる。その一撃で、鎧が弾けてバラバラになる迷霊。
「今よ、刹那!」
「了解――」
言わなくても刹那には、絵美の考えがわかった。パーツごとにバラけた鎧一つ一つに、霊障発展を使う。絵美の場合は激流をウォーターカッターのように動かし、さらに切り刻む。刹那は突風を駆使して風圧で押し潰す。迷霊が元通りになる前に、これらのことをしなければならないが、二人にとっては赤子の手をひねる程度の難易度だ。一分もしないうちに、除霊が終わる。残ったのは、迷霊が背負っていた提灯だけだ。
「勝ったわ!」
周囲の人たちは、ざわざわしている。誰かが通報したのか、パトカーか消防車、救急車のサイレンまで聞こえてきた。
「長居は無用――」
提灯を回収すると絵美と刹那は、この伏見稲荷大社を足早に去った。