第8話 緑色の稲妻 その3
文字数 3,006文字
「雪女がっ! そんな……」
疫病跋扈のせいで動けなかった紫電はただ、見ていることしかできなかった。
「何て強いんだ、この岬という人は!」
緑祁も驚くことしかできない。
「さ、次はどっちにしようかね? どうせ負けるんだから、手短にしないとね?」
岬は緑祁を見てそれから紫電を見た。驚いている緑祁と怒っている紫電。
「まずはそっちの方から!」
選ばれたのは緑祁だ。彼の方だけ疫病跋扈が解かれ、立ち上がれるようになった。
(僕一人で勝てるわけない!)
それをわかっていた緑祁はあえてここで、
「僕だけと戦うんだ? 紫電には勝てないってこと?」
「ん?」
「僕だけなら何とかなるって考えは、言い換えれば僕と紫電の両方を同時に相手することができない……弱いってことでしょ?」
「言うわねあなた……」
緑祁の思惑は、紫電と一緒に戦うこと。そうするには紫電の方も疫病跋扈を解除させる必要がある。
「じゃあ、あなたたち二人が手を合わせれば私に勝てるって? ははは、笑わせないで!」
「勝手に笑ってろ! どうせそんな根性もねえんだろう?」
紫電も緑祁の思考を察し、挑発した。すると、
「口だけは上手いわね。そこまで言うなら考えて……いいや、実際にやって否定してやるわ!」
岬も乗った。紫電を解放。
「二人同時に、かかって来なさいよ! 口だけじゃないって言うんならね!」
この時緑祁と紫電は心の中でガッツポーズをした。
(俺一人じゃ勝てねえだろう。でも緑祁と組めば勝機はあるぜ!)
いける。そういう希望を抱かせてくれる、いい状況だ。
「いけっ!」
早速紫電が動いた。ダウジングロッドを取り出し瞬時に電霊放を撃ち込む。
「あー、あなたも電霊放を使えるタイプなのね。でもそういうアイテムを使う類……。そういう人には、これ! 霊障合体・霊錆!」
対する岬は、電霊放を完全にシャットアウトできる礫岩ではなく、霊錆を使用。
「な、なんだ……? ダウジングロッドが!」
突然錆びてボロボロになる。当然、電霊放も途切れてしまう。
「ぐっ!」
撃ち出せた方は岬に命中したが、浅い。
(もっとドデカく撃ち込めれば、倒せるかもしれねえ。でもこの、霊錆があっては新しいロッドを出してもすぐにボロボロにされちまう!)
次に動いたのは緑祁だ。
「くらえ! 霊障合体・火災旋風!」
赤い旋風を生み出し岬に向ける。
「甘いわ!」
対する岬は推進流撃でこの火災旋風を突破。
「最初にあなたを倒しましょうかねー?」
彼女は緑祁のことを睨んでいる。電霊放使いの紫電は霊錆があるのでいつでも倒せるという考えだ。
「た、台風!」
今度は鉄砲水と旋風の合体で岬を攻撃するが、
「それ!」
礫岩を使われ地面に逃げられる。
「くっ! しまった!」
地面に手を当てると、岬が動いているのが振動でわかる。
「紫電、電霊放は大丈夫?」
「ああ。予備のロッドは錆びてねえ。でもアイツの目の前で出せば、また霊錆で破壊される……」
「だけど、岬を倒すにはそっちの電霊放が必須だ! どうにかできない?」
「一つ、あるが……」
それは、霊錆が届かない距離に紫電が逃げるというものだ。その間、緑祁が一人で岬の相手をしなければいけなくなるので、採用できない。
「いいや、それでいこう!」
「いいのか、緑祁?」
「それ以外にどうやって彼女を倒すんだい?」
「……そうだな。わかったぜ!」
紫電は反転し、来た道を戻る。
「さあ岬! どこからでもかかって来い!」
右手には鬼火、左手には鉄砲水を構えて待つ。だが、来ない。
「まさか!」
ハッとなって紫電の方を見ると、何と岬はそっちで地表に出てきており、紫電のことを乱舞で殴っていた。
「や、やめろおお!」
「あ、来たわね? なら……霊障合体・風鋼 !」
機傀で作った刃物を旋風に乗せて飛ばす。
「それならこっちも……」
そういう相手には、水蒸気爆発が有効だ。しかし今それを使えば、跳ね返って紫電にも当たってしまう。
「いい! やれ、緑祁ぇ!」
「霊障合体・水蒸気爆発!」
鬼火と鉄砲水を合わせた。その爆風で、向かって来る風鋼を跳ね返してやる。
「どうだ……?」
刃物が岬に当たった瞬間、何と刃物の方が折れた。
「さっきの霊障合体か! 確か、鋼直! 自分の体を硬くして、刃物で傷つかないようにして……」
もちろん全てが岬に向かうわけがない、何個かは紫電に直撃し、彼の顔や手足から血が流れ出る。
「本当に大丈夫、紫電?」
「俺に構うな! コイツを倒すことだけを考えろ!」
「見上げた根性ね。でも精神面がいくら頑丈でも、負けるものには負けるのよ?」
「うるせえぞ!」
反撃に転じて肘鉄を仕掛ける紫電だったが、乱舞に普通の肉弾戦で勝てるわけがない。逆に捕まってぶん投げられた。
「うおお……」
電信柱に叩きつけられたら、意識が危うい。紫電は覚悟して目を閉じたのだが、硬い物にぶつかる感触はない。
「危なかった! なんとかなったね、紫電」
「緑祁…。お前、どうやって?」
簡単だ。水蒸気爆発を使って自分の体を吹っ飛ばし、紫電の前に回り込んで彼のクッションになったのである。
「サンキューな」
「お礼は勝ってからでいいよ」
何とか余裕を取り繕って返答する。しかし焦っているのはバレている。
「どうやって勝つつもりなのかしら~?」
そんな煽りを気にせず、緑祁は紫電に耳打ち。
「電霊放をチャージすることはできる?」
「二通りだ。外部電源を限界まで使うか、俺の霊力で底上げするか! どっちがいい?」
「両方とも、だよ」
「わかった」
でもそれには時間がかなりかかる。さらに、岬に見えないようにチャージしなければいけない。
「チラリとでも見られたら終わる。俺は電霊放を、金属がないと撃ち出せねえから。発射するのはチャージが完了したその瞬間! その時に岬が、逃げられねえ状態じゃないといけねえぜ」
「難しいね、それは……」
だがその難易度は、課題をクリアしてしまえば強靭であるということの証。緑祁も紫電も、それに勝負を懸けるつもりだ。
「うおおおおい! 岬!」
不意に緑祁が動いた。鬼火を繰り出し火炎放射だ。
「それが私に届くとでも?」
岬は手を擦り、生じた静電気を用いて電霊放を発射。
「な、何! 電霊放って素手から出せるのか!」
鬼火に干渉し、中和し、そして無効化しながら進む岬の電霊放。
「おおっと!」
緑祁もしゃがんでかわす。その時、突然地面が陥没した。礫岩だ。動きが止まった瞬間を狙われた。
「落ちておきなさい」
「嫌だね!」
水蒸気爆発を用いて自分の体を上に飛ばし、すぐに穴から飛び出る。
「霊障合体・台風!」
今度の台風は確実に、当たる間合いだ。
(これが通ればかなり時間を稼げる…!)
だが、突然その台風はかき消された。
「な、何で……?」
緑祁は岬が電霊放を使えることを知ったので、無効化されない鬼火搭載の火災旋風ではなく台風で攻撃した。なのにそれが、突然消えたのだ。
「ふふふ……。あなたにもこれを見せようかしら?」
腕を伸ばし、手のひらを緑祁に見せつける。
「霊障合体・闘撃波弾!」
その手から、気弾のようなものが飛び出した。
「うわぁ!」
何かある。そう直感できたから、紙一重で避けれた。今の波弾の動きを目で追うと、何と停まっている自動車を数メートル弾き飛ばしたのだ。
(直撃したら、間違いなく死……。いいや、大会中だから脱落か……)
本能と理性で理解した。あれを一発でも受けたら、終わりだ。
疫病跋扈のせいで動けなかった紫電はただ、見ていることしかできなかった。
「何て強いんだ、この岬という人は!」
緑祁も驚くことしかできない。
「さ、次はどっちにしようかね? どうせ負けるんだから、手短にしないとね?」
岬は緑祁を見てそれから紫電を見た。驚いている緑祁と怒っている紫電。
「まずはそっちの方から!」
選ばれたのは緑祁だ。彼の方だけ疫病跋扈が解かれ、立ち上がれるようになった。
(僕一人で勝てるわけない!)
それをわかっていた緑祁はあえてここで、
「僕だけと戦うんだ? 紫電には勝てないってこと?」
「ん?」
「僕だけなら何とかなるって考えは、言い換えれば僕と紫電の両方を同時に相手することができない……弱いってことでしょ?」
「言うわねあなた……」
緑祁の思惑は、紫電と一緒に戦うこと。そうするには紫電の方も疫病跋扈を解除させる必要がある。
「じゃあ、あなたたち二人が手を合わせれば私に勝てるって? ははは、笑わせないで!」
「勝手に笑ってろ! どうせそんな根性もねえんだろう?」
紫電も緑祁の思考を察し、挑発した。すると、
「口だけは上手いわね。そこまで言うなら考えて……いいや、実際にやって否定してやるわ!」
岬も乗った。紫電を解放。
「二人同時に、かかって来なさいよ! 口だけじゃないって言うんならね!」
この時緑祁と紫電は心の中でガッツポーズをした。
(俺一人じゃ勝てねえだろう。でも緑祁と組めば勝機はあるぜ!)
いける。そういう希望を抱かせてくれる、いい状況だ。
「いけっ!」
早速紫電が動いた。ダウジングロッドを取り出し瞬時に電霊放を撃ち込む。
「あー、あなたも電霊放を使えるタイプなのね。でもそういうアイテムを使う類……。そういう人には、これ! 霊障合体・霊錆!」
対する岬は、電霊放を完全にシャットアウトできる礫岩ではなく、霊錆を使用。
「な、なんだ……? ダウジングロッドが!」
突然錆びてボロボロになる。当然、電霊放も途切れてしまう。
「ぐっ!」
撃ち出せた方は岬に命中したが、浅い。
(もっとドデカく撃ち込めれば、倒せるかもしれねえ。でもこの、霊錆があっては新しいロッドを出してもすぐにボロボロにされちまう!)
次に動いたのは緑祁だ。
「くらえ! 霊障合体・火災旋風!」
赤い旋風を生み出し岬に向ける。
「甘いわ!」
対する岬は推進流撃でこの火災旋風を突破。
「最初にあなたを倒しましょうかねー?」
彼女は緑祁のことを睨んでいる。電霊放使いの紫電は霊錆があるのでいつでも倒せるという考えだ。
「た、台風!」
今度は鉄砲水と旋風の合体で岬を攻撃するが、
「それ!」
礫岩を使われ地面に逃げられる。
「くっ! しまった!」
地面に手を当てると、岬が動いているのが振動でわかる。
「紫電、電霊放は大丈夫?」
「ああ。予備のロッドは錆びてねえ。でもアイツの目の前で出せば、また霊錆で破壊される……」
「だけど、岬を倒すにはそっちの電霊放が必須だ! どうにかできない?」
「一つ、あるが……」
それは、霊錆が届かない距離に紫電が逃げるというものだ。その間、緑祁が一人で岬の相手をしなければいけなくなるので、採用できない。
「いいや、それでいこう!」
「いいのか、緑祁?」
「それ以外にどうやって彼女を倒すんだい?」
「……そうだな。わかったぜ!」
紫電は反転し、来た道を戻る。
「さあ岬! どこからでもかかって来い!」
右手には鬼火、左手には鉄砲水を構えて待つ。だが、来ない。
「まさか!」
ハッとなって紫電の方を見ると、何と岬はそっちで地表に出てきており、紫電のことを乱舞で殴っていた。
「や、やめろおお!」
「あ、来たわね? なら……霊障合体・
機傀で作った刃物を旋風に乗せて飛ばす。
「それならこっちも……」
そういう相手には、水蒸気爆発が有効だ。しかし今それを使えば、跳ね返って紫電にも当たってしまう。
「いい! やれ、緑祁ぇ!」
「霊障合体・水蒸気爆発!」
鬼火と鉄砲水を合わせた。その爆風で、向かって来る風鋼を跳ね返してやる。
「どうだ……?」
刃物が岬に当たった瞬間、何と刃物の方が折れた。
「さっきの霊障合体か! 確か、鋼直! 自分の体を硬くして、刃物で傷つかないようにして……」
もちろん全てが岬に向かうわけがない、何個かは紫電に直撃し、彼の顔や手足から血が流れ出る。
「本当に大丈夫、紫電?」
「俺に構うな! コイツを倒すことだけを考えろ!」
「見上げた根性ね。でも精神面がいくら頑丈でも、負けるものには負けるのよ?」
「うるせえぞ!」
反撃に転じて肘鉄を仕掛ける紫電だったが、乱舞に普通の肉弾戦で勝てるわけがない。逆に捕まってぶん投げられた。
「うおお……」
電信柱に叩きつけられたら、意識が危うい。紫電は覚悟して目を閉じたのだが、硬い物にぶつかる感触はない。
「危なかった! なんとかなったね、紫電」
「緑祁…。お前、どうやって?」
簡単だ。水蒸気爆発を使って自分の体を吹っ飛ばし、紫電の前に回り込んで彼のクッションになったのである。
「サンキューな」
「お礼は勝ってからでいいよ」
何とか余裕を取り繕って返答する。しかし焦っているのはバレている。
「どうやって勝つつもりなのかしら~?」
そんな煽りを気にせず、緑祁は紫電に耳打ち。
「電霊放をチャージすることはできる?」
「二通りだ。外部電源を限界まで使うか、俺の霊力で底上げするか! どっちがいい?」
「両方とも、だよ」
「わかった」
でもそれには時間がかなりかかる。さらに、岬に見えないようにチャージしなければいけない。
「チラリとでも見られたら終わる。俺は電霊放を、金属がないと撃ち出せねえから。発射するのはチャージが完了したその瞬間! その時に岬が、逃げられねえ状態じゃないといけねえぜ」
「難しいね、それは……」
だがその難易度は、課題をクリアしてしまえば強靭であるということの証。緑祁も紫電も、それに勝負を懸けるつもりだ。
「うおおおおい! 岬!」
不意に緑祁が動いた。鬼火を繰り出し火炎放射だ。
「それが私に届くとでも?」
岬は手を擦り、生じた静電気を用いて電霊放を発射。
「な、何! 電霊放って素手から出せるのか!」
鬼火に干渉し、中和し、そして無効化しながら進む岬の電霊放。
「おおっと!」
緑祁もしゃがんでかわす。その時、突然地面が陥没した。礫岩だ。動きが止まった瞬間を狙われた。
「落ちておきなさい」
「嫌だね!」
水蒸気爆発を用いて自分の体を上に飛ばし、すぐに穴から飛び出る。
「霊障合体・台風!」
今度の台風は確実に、当たる間合いだ。
(これが通ればかなり時間を稼げる…!)
だが、突然その台風はかき消された。
「な、何で……?」
緑祁は岬が電霊放を使えることを知ったので、無効化されない鬼火搭載の火災旋風ではなく台風で攻撃した。なのにそれが、突然消えたのだ。
「ふふふ……。あなたにもこれを見せようかしら?」
腕を伸ばし、手のひらを緑祁に見せつける。
「霊障合体・闘撃波弾!」
その手から、気弾のようなものが飛び出した。
「うわぁ!」
何かある。そう直感できたから、紙一重で避けれた。今の波弾の動きを目で追うと、何と停まっている自動車を数メートル弾き飛ばしたのだ。
(直撃したら、間違いなく死……。いいや、大会中だから脱落か……)
本能と理性で理解した。あれを一発でも受けたら、終わりだ。