第4話 整理の接続曲 その2

文字数 2,873文字

 現状を整理したいのは、【神代】だけではない。

「……? どういうことだ?」

 困惑する洋次。昨晩の内に廃旅館に戻って来たのだが、峻たちが夜が明けても来ないのである。

「道にでも迷ったのか?」
「そんな馬鹿な。そもそもここを提示したのはヤツらだぞ?」

 紹介した峻たちが道を間違えるとは思えない。

「電話してみるわ」

 スマートフォンを取り出して紅に電話をかける結だが、いつまでコールしても出ない。メールを送っても返事が来ない。

「どうなっているの?」
「わからん……」

 連絡ができない以上、向こうで何が起きているのかも不明だ。

「ただ……」

 ひそかに【神代】のデータベースにアクセスしてみれば、捕まったわけではないことはわかる。増々理由がわからない。

「寛輔のせいじゃないのか? アイツ、チクっただろ?」

 そう言うのは、秀一郎だ。

(それもあり得るかもしれない。寛輔が【神代】にあの計画を密告したから、峻たちはわたしたちのことを信頼できない、と判断したのかもしれない……)

 考える洋次。しかし別の理由もありそうな気がするのだ。

「どうする、洋次? ここに残って待ってみる? それとも他の場所に行く?」
「そうだな……」

 少ない判断材料で決断をしなければいけない。
 その時に、洋次のスマートフォンが鳴った。どうやらメールが届いたらしい。送り主は、峻だった。

「何て書いてあるんだ?」

 まず、謝罪が書かれていた。こんな形での指示を許してくれと。電話をすれば、盗聴される可能性があると言う。

(そんなことあるか? 【神代】は電話会社とは提携していないだろう?)

 そして次に移動して欲しい場所の地図が添付されていた。

「『月見の会』跡地……? 何だ、それは?」
「聞いたことがあるわ。かつて日本に存在していた霊能力者の集団だって。でも【神代】に、滅ぼされたんだってさ」
「ほう」

 二か所あり、峻はその内の一方……房総半島にある方を指定した。石碑があるので、そこで待ち合わせると、メールには書かれている。

「移動するぞ」
「わかった」
「はい!」

 朝方の薄い日差しの下で、廃旅館を出た。


「メールは送ったか?」
「はい。でも来ますかね……?」

 峻には疑問があった。洋次たちと合流しなかったので、不審がられているのではないかという疑いだ。

「だが、【神代】への背信行為をした以上、もう私たちの指示に従うしかないはずだ」

 修練はそう、予測している。
 今彼らは、千葉県と埼玉県の県境にある廃病院にいる。もちろんここも前から目をつけていた場所で、外からではわからない程度に内部が綺麗になっている。

「ところで、蛭児。お前は禁霊術が使えるんだよな?」
「ああ、そうです。でもそれには、ある品物が必要なのですが」
「石、だな?」

 禁霊術『帰』をするには、死返の石が必要だ。以前は蛭児も持っていたが、【神代】に連行された際に没収された。

「自宅にも捜索の手が伸びたと思うから、私が持っていた石は全部、ないに等しいと思ってください」
「大丈夫だ、アテはある」

 修練にとって蛭児と一緒に精神病棟を抜け出せたのは、嬉しい誤算だった。何せ彼は『帰』を以前に何度も実行したことがある、プロフェッショナルだ。肝心の死者蘇生は彼に任せればもう完璧だ。

「特定の個人を蘇らせることはできるか?」
「その人物の情報を教えてくれれば。誰か、帰って来てもらいたいのですか?」
「ああ。それはその時に教えよう」
「わかりました。ですが何度も言わせてもらいますが、まず一に石がなければ『帰』は使えません。そして蘇らせたい人を慰めている墓石や石碑、封じ込めている結界や慰霊碑などがあるなら予め壊しておく必要があります」

 ここで紅と緑に指示を出し、朝一番で青森にある奥羽神社に行かせる。あの神社の境内にある祠には、その石が封じ込められているのだ。しかもそのことは、修練と死んだ彼の師匠…亨しか知らない。だから【神代】にもバレずに入手できる。

「ねえ、ヤイバと紫電はいつ殺していいの? 天城照ってクズも殺したいんだけど?」
「そう焦るな……」

 しかし同時に、都合の悪い誤算もあった。それは皐がついて来てしまったこと。恨んでいる人物に対する復讐しか考えていない彼女は、修練の本当の目的通りには動いてくれないだろう。
 おまけに彼女が復讐したいことを何度も連呼したせいで、蛭児も、

「私も、あの四人には何かしら報復がしたい。【神代】に対し、禁霊術をしてやること以外にも、です。何か良い手はありませんか?」

 その感情に感化されてしまっている。

「考えてはおくが、それほど重要か?」
「何言ってんのよ、修練! 非常に大事でしょう? アイツらさえいなければアタシは、もっと幸せな人生を送れていたのよ! 絶対に許さないわ、アイツら!」
「だが、そのヤイバと照の二人は、もう日本にはいないらしいですよ?」

【神代】のデータベースを見ている蒼が言った。ヤイバは霊能力者の間で指名手配こそされているものの、海外に逃亡したという情報もある。照も彼と同じ時期に日本を出ており、きっと一緒に逃げたのだろうと推測できる。

「だったら、紫電だけは殺しておく! アイツがアタシのことを、檻の中に……! ああ、この手で引き裂いてやりたいわ!」

 怒りは山よりも高く海よりも深そうだ。

「………。まあとりあえず『月見の会』跡地に移動しよう」


『月見の会』の跡地。少なくとも昭和後期頃までは使われていたであろう集落。その奥に、慰霊碑がある。当初【神代】は、ここで『月見の会』を滅ぼしたと思っていたから、犠牲者の霊を弔ってやろうと二代目代表の神代獄炎が建てたのだ。
 先に到着していたのは、洋次たち。遅れて修練たちを乗せたマイクロバスが到着した。

「裏切られたかと、心配していたぞ……」
「ごめんごめん。教えておくのを忘れていたよ」

 どうにか合流できた。だが、

「しばし待て」
「どうして?」

 まだ、動かないと言うのだ。

「そもそもさ、お前らの目的ってなんだよ? 俺たちは何に付き合えばいいわけ?」
「復讐よ!」

 皐が真っ先に答えた。本当はそうではないのだが、修練は皐のこの復讐に対する執念だけは認めているので、あえて彼女に答えさせた。

「殺すんだよ、アイツらを! まずは紫電! 次に、絵美や刹那、雛臥に骸! 緑祁や香恵も!」

 三人と因縁のある人物の名前を上げる。

(聞いたことがある人物だな……。関りがあったのか、コイツらと)

 少し、運命の絡みを感じた洋次。

「ここに呼んだのには、理由がある。戦力の増強だ。私たちだけでは、十人しかいない。だから死者を蘇らせ、【神代】に対しまともに抗える戦力にしたいのだよ」

 蛭児がそう言った。以前に彼が暴いたのは、『ヤミカガミ』と『この世の踊り人』と『橋島霊軍』。その三つはもう、強力な霊能力者の霊は残ってない。だがあの時に手をつけられなかった『月見の会』になら、希望がある。

(慰霊碑の破壊まではやってはくれないだろう。だが、見張り役にはできる。死返の石さえあれば、私は最強だ!)

 今はその到着を静かに待つのみ。
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