第4話 古の京の都 その1

文字数 3,102文字

「京都はいい町だ。昔から今まで、日本の中心! 先の大戦では乱れたが、今は平和な町だ」

 朔那は紙に魔法陣を描きながらそう呟いた。

「日本の首都は、東京だぞ? それに二次大戦の時、ここは爆撃されなかっただろう?」
「そう考えているのは、この地域ではお前だけだ」
「………」

 魔法陣は簡単に出来上がる。

「幽霊は?」
「ああ、ここにある。さっき拾った浮遊霊だが、それでいいよな?」
「上出来だ」

 提灯が五つ。それに病射が捕まえた浮遊霊が封じ込められている。朔那はその内の一つを取って魔法陣の中心に置き、

「ひゅ!」

 指先を歯で小さく傷をつけて血を出した。

「霊力を込めてもいい。私は復讐さえ……左門を殺せさえすれば、もう思い残すことはないからな。でも霊力よりも血の方が、幽霊は喜びやすい」

 そして提灯に血を染み込ませる。もう一つの提灯も同じように血で染める。

「できたか……?」

 これで迷霊が完成だ。ただし即席な感じがぬぐえないので、思い通り完全にコントロールできるかどうかは怪しい。

「でも、この京都から出るための囮になってくれればそれでいい! だから言うこと全てを聞かせる必要はないし、寧ろ暴れ回ってもらえるのなら助かるってわけだ!」

 三つ目、四つ目の提灯には、病射の血を捧げる。こうして病射の迷霊も出来上がった。

「最後の一つは、私とお前の血を使おう」
「面白そうだな。てめーとおれの力を込めるってわけか!」
「ああ。これも同じ道を最後まで辿ることを決めたという証!」

 二人分の血を、提灯に注ぎ込んだ。すると提灯から、先ほどまでとは違う力強さを感じる。

「二体は予備用だ。京都を出るのには、三体いれば十分だろう。あとはどこから京都を出るかだが……」
「左門はどこにいるんだっけか?」
「名古屋だ」

 いかに【神代】にバレずにそこまで進むか。それが二人にとって重要なこと。

「新幹線ならあっという間だが?」
「京都駅は近づくのは怖いな。でも私は車は持っていない……」
「免許はあるんだろう? おれも持ってるし、レンタカーで行くか?」
「う~む、ちょっと待て」

 車だとどうしても足が遅くなってしまう。新幹線ならすぐ到着できるが、その分【神代】に捕まるリスクが高まる。

「駅で迷霊を放てば……でもそうすると最悪、新幹線が止まってしまう」
「なら、こうするべきだぜ」

 病射が考えを述べた。

「三か所! 別々の場所に迷霊を放って、【神代】がその対応をしている間に新幹線に乗り込む! そうすれば、駅周辺に近寄らせないで済むぜ!」
「おお、そうか! それでいこう。なら場所は駅から遠い方がいいな」
「どこにする?」

 京都に詳しい朔那に尋ねると、

「考えてある! 時間差で同時に、迷霊が解き放たれるように仕組んで……」

 作戦が固まった。


「ひ、ひー。相変わらず長距離移動は疲れるね……」
「そうね。私たちは座っているだけのはずなのに、かなりの距離を移動しているのは不思議な感覚だわ。おまけに……暑い!」

 京都に到着した二人を待っていたのは、青森では感じられないほどの灼熱の日差しだった。

「太陽に焼き殺されそうだ……」

 新幹線から外に出て、京都の空気を吸っただけで肺が焼けるかと思った。

「香恵は暑いないの?」
「もちろん暑いわ……。でも、日焼けしたくはないし……」

 こんな気候だが香恵はそれでも長袖に厚手のタイツだ。見ている緑祁の方も汗をかくレベル。

「待ち合わせの、大空広場ってのはどこにあるんだい?」
「こっちよ、確か」

 改札を出て歩き、エスカレーターを何度に何度も乗って上に移動。

「凄い階段だ。登る気が全く起きないよ……」
「ガメラとイリスを見ていたのはこっち側よ」

 大空広場に着いた。

「あ、魔綾!」

 香恵がまず、魔綾に反応。ニコニコしながら彼女に駆け寄る。

「お久~。この、裏切り者! 勝手に霊障を使えるようになっちゃって……! しかも相棒って、男なの……」
「あら、言ってなかったかしら?」
「言うわね……!」

 挨拶はこれくらいにし、三人は絵美と刹那を探した。向こう側のベンチに座っている二人がそうだ。

「絵美、刹那! 久しぶり!」
「ホントね、緑祁!」

 緑祁は二人に最後に会ったのが、去年の九月頃だった。その後二月頃に彼女たちもかなり危うい状態だったらしいが、その時は緑祁と香恵もまた使命があったので手を貸せなかった。まずそれを謝る。

「ごめん! 二人が【神代】に疑いを持たれて監視されていたのに、僕は何もできなかった…」
「心配は必要ない。懺悔もである。汝の力は確かに欲しかったが、我らは我らで、その過酷なる運命を打ち破ったのだから――」

 五人揃ったところで、いよいよ目的である病射の捜索を始める。

「こういう顔をしている人物だよ。福井県出身で古生物学専攻の大学二年生」

 タブレット端末の情報を緑祁たちのスマートフォンに送信し、共有。

「で、魔綾、どの辺で見かけたの?」
「私が最後に見たのは、魔連神社の近くよ。場所は……」

 広げた地図でその場所を確認する。

「南禅寺方面なのか。これ、遠そうだけど?」
「バスですぐ着くよ」
「ってことは、病射も移動しようと思えば短い時間で動けるってことよね?」
「グズグズしてられないが、大体の見当を付けないと意味がない――」

 闇雲に町中を探し回ったところで見つかるわけがない。京都市の人口は百三十万はあるのだ。

「魔連神社には、もういないんだよね?」
「【神代】の人員が調査済みよ。そこには誰も。そもそも捨てられていた神社だし」
「となると、もうこの町のどこかに溶け込んでしまっている………」

 大空広場から、京都の町を一望する一同。まるで砂の中から米粒を一つ探し出すような難題である。

「幽霊に取り憑かれているのなら、動くのを待った方がいいかもしれないわ」

 香恵がそう提案した。

「幽霊にとって霊能力者は、取り憑くには格好な獲物のはずよ。霊障が使えるし、他の幽霊にも簡単に干渉できるから。生きている人にも楽に危害を加えられるわ」
「ということは、何かしら動きがあるはずってことかい? でも、こんなに広い町で、すぐに駆け付けることができるかな……」
「それは不可能に近い――」

 誰しもが、首を斜めにしている。そこで魔綾が、

「ちょっと危ないかもだけど、分かれて探さない?」
「どういうこと、魔綾?」

 彼女は言う。

「私は、この京都駅に残る病射が来ればすぐにわかるわ。香恵と緑祁、絵美と刹那に分かれて、駅の北と南に向かうってこと。それなら、ここに残ってグズグズしているよりはマシじゃない?」

 それに、京都には【神代】の霊能力者が点在しているため、何か動きがあればすぐに情報が出回ることも彼女は付け加えた。

「それに、賭けてみる?」

 絵美がまず、その提案に乗った。

「え、でも…」
「確かに危ないわ。だけど私たちだけでは虱潰しにも絨毯爆撃にもするわけにはいかないのよ。だったら京都を巡回して、何か起きたら駆け付ける! そうした方がいいわ!」

 絵美が賛成なら、

「我も同意しよう――」

 刹那も首を縦に振る。こうなれば緑祁と香恵も、

「……わかった! それでいこう! 魔綾、どの辺に待機していればいい?」
「うーんそうね……。北は二条城、南は伏見稲荷大社くらい? 交通の便を考えれば、あまり遠くには行かない方がいいし」

 魔連神社にいた幽霊は結構凶悪だったので、何か建物に対して危害を加えるのではないかと魔綾は予測。観光スポットで待機していて損ではないはず。
 緑祁と香恵が二条城方面に、絵美と刹那が伏見稲荷大社方面に向かうことに決まる。

「何か……最悪の事態が起きる前に、必ず病射を見つけ出して除霊するんだ!」
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