第8話 緑色の稲妻 その5
文字数 3,036文字
「よし、行こうぜ……」
突然、バーンと花火が打ち上がった。その光は周囲を昼間のように照らし出した。
「い、今……」
チラリと見えたものがある。
「どうした、雪女? てか、今の花火は何だ、一体? 誰が打ち上げた?」
「紫電、後ろ……」
「んあ?」
振り向いたその瞬間、突然何者かに殴り飛ばされる。
「うぐわ!」
「よくも、やってくれたわね……!」
聞き覚えのある声だ。というかさっきまで聞いていた声だ。
「う、嘘だろう、これ……!」
緑祁は紫電を殴った相手の顔を見た。
岬だ。何とまだ、脱落していなかったのである。ただし両袖は黒焦げであり、全身傷だらけだ。
「あの電霊放を、耐えたってこと? そんな馬鹿な!」
倒れた紫電の腹に蹴りを入れる。
「ごふっ!」
「くたばれ、お前は! 私にこんなダメージを負わせるなんて、ふざけんじゃないわよ! お前のせいで、札が焼けちゃったじゃないの! 許さないわ!」
電霊放を撃とうにも、さっきの一撃に自分の霊力を全て注いでしまった。電池はまだ残量があるのだが、霊力がなければ電霊放は撃てない。だから反撃は不可能。
(痛みを気にしてる暇じゃない!)
どうにか立ち上がった緑祁は台風を繰り出す。すると今度はちゃんと当たる。
「く、ふううううう!」
しかしそれでも岬は数メートル弾かれた程度で、まだ倒れない。
「大丈夫かい、紫電?」
「俺に構うな……。もう霊力が残ってないんだ、電霊放は無理だ……」
「そんな…!」
すぐに岬は戻って来て、機傀で作った金属バットで緑祁の足を殴った。
「がっ!」
これは確実に骨が折れた。今度こそ力が入らず頭の思考が痛みに支配される。
(だ、駄目だ……。強すぎる……! この、岬…。僕と紫電では倒せない相手だ……)
崩れながら緑祁はそう感じた。紫電の側に倒れ込んだ彼。
「これで終わりね! 二人とも、覚悟なさい!」
手と手の間に機傀で鉄を作り、それを鬼火で熱して液体化させる。融解鉄だ。これで二人を脱落させるのだ。
(いや! まだ終わっちゃいねえ! やれることが最後に一つだけ、あるぜ!)
紫電は緑祁の手を握る。
「ど、どうしたんだい…?」
「緑祁! お前の霊力を俺に貸せ! そうすればお前の力を使って、電霊放が撃てるはずだ!」
理論上は可能だ、緑祁も香恵の霊力を借りたことがある。その逆をするだけだ。
「できるの…?」
「任せな。電力だけはまだあっからよ……。全部、寄越せ!」
「わかったよ……。必ず倒してくれ、紫電…!」
差し伸べられた手を握り、念を紫電へ送る。これで霊力を貸し与えることができる。
「消えろ、二人とも!」
ついに岬の融解鉄が迫りくる。だが緑祁と紫電の希望と勝機はまだ消えていない。
「これが……。俺と緑祁の、最後の電霊放だあああっ!」
ダウジングロッドの先端から、電霊放が撃たれた。緑祁の力を借りているからか、緑色の電霊放だ。二人の共同作業なので、緑紫 電霊放 と言うべき稲妻。
「んな……! 何いいいいいいいいいっ!」
融解鉄は弾かれ、緑紫電霊放が岬の体をついに貫いた。崩れ落ちる彼女の体から、白い光が放たれる。
「やった……。勝ったぞ、緑祁…! 俺とお前の力で、岬を退けた……!」
「そ、それは……良かったよ…」
緑祁と紫電の疲労と負傷はもう限界レベルだ。這って動くことしかできない。
「待て雪女…。手を貸すな。それは違反行為かもしれねえぜ」
「でも、黙って見てられないよ、こんなの…」
「なら、香恵をここに連れてきてくれ。それは脱落しちまったお前でも違反じゃねえはずだから」
「わかった。ちょっと待ってて…」
雪女は来た道を戻る。
「無駄なのに、ね」
起き上がった岬がそう言った。
「強がって! 意味はねえぞ? お前は負けて、俺と緑祁が勝った!」
「そうだよ。僕たちの勝ち……」
「違うわ。あなた、言ってたじゃない? 一人でも生き残っていれば勝ち、って」
「は? 何が言いてえんだお前は?」
「私のこと、どう思ってる?」
「そりゃ……」
二人は考えていた可能性を述べた。岬はここに一人で来ているということは、チームが組めなかった仲間外れか、仲間が脱落して残った一人。
「どっちも違うわね」
と、その考えを否定された。
「じゃあ、どうだってんだ?」
「私たちは考えた。このまま普通にゴールを目指すよりも、効率よく優勝できる方法がある。それは、他の出場者を全員蹴落としてしまえばいい、ってこと。チェックポイントは必ず通らないといけないんだし、それも各県に四つだから私たちに都合がいい…」
「何を言っているの? 私、たち…?」
まるで自分だけではないと言いたげな一人称。
「だから、この福島で実行したのよ。訪れる大会出場者を、ここで根こそぎ潰す! でも、あなたたちは私よりも上手だった。だから……」
段々と、足音が聞こえてくる。人数は三人なので、香恵と雪女ではない。
「だから、まだ脱落してない状態で、招集したのよここに」
「そういうことか!」
すぐさま理解した紫電は、緑祁のことを引っ張って逃げようとする。
「どうしたんだい、そんなに焦って…?」
「まだわからねえのか、緑祁! コイツはチームを作れなかった仲間外れでも、他のメンバーがやられた生き残りでもない! 最初からチーム全体で単独行動をしていた内の一人だ! 今ここに、仲間が来るんだ! さっきの花火が、そのサインだったんだ!」
説明されれば緑祁も理解できた。紫電の言う通りなのである。
岬のチームは優勝を狙うに当たって、関東地方のチェックポイントをワザと通らず先に福島に来たのだ。四人いるので各チェックポイントに一人ずつ派遣。そうすれば誰かが必ず、他の出場者と遭遇する。しかも関東地方を省いているので、順位表に名前が上がらず警戒されることもない。
足の骨が折れている緑祁がすぐに歩き出せるわけがない、紫電も体力がほとんど残っておらず、立ち上がれもしない状態だ。
そこに現れた、三人の女性の霊能力者。
「岬ー。まさか負けるなんてね。間に合わなかったかー」
と麻倉 炙 。
「私たちが移動したから、その隙にチェックポイントを突破したチームがいるかもしれないわ」
と鑢原 桔梗 。
「では、関東地方に急いで戻って……。もうゴールした方がいいですわね」
と斧生 蜜柑 。この三人が岬のチームメンバーだ。
「困ったねー。里見可憐とそのライバルの義手の男、ついでに【神代】の跡継ぎさえいなければ、私たちの完全勝利だと思ってたのにー」
「まあ仕方がありませんわ。今まで通りの作戦はもうお終いにして、次の一手に進みますわね」
「……とその作戦会議の前に! この二人をどう料理してやろうかしら?」
もう囲まれてしまった。これ以上の戦闘をすることはもう不可能なので、緑祁と紫電は、
「こ……降参、します……」
白旗を揚げざるを得ない。桔梗たちは霊障を弱めに使ったが、それでも二人は十分に脱落した。
香恵と雪女が駆け付けた際にはもう遅かった。桔梗たちはすれ違いざまに香恵に、
「冷や冷やさせるほどの強さはあったわ。でも、あなたたちはここまで! 頑張った経験は大切なものになるから、自暴自棄にはならないで」
と呟き、香恵と雪女は自分たちの敗北を察した。
「負けてしまったのね。でもここまで来れただけ、いいわ。今、治してあげるから……」
こうなると香恵は慰療を惜しみなく使える。脱落する前にできなかったのが悔しい点だ。
緑祁たちの霊能力者大会は、ここまで。この福島を最後まで突破できなかったのだ。
突然、バーンと花火が打ち上がった。その光は周囲を昼間のように照らし出した。
「い、今……」
チラリと見えたものがある。
「どうした、雪女? てか、今の花火は何だ、一体? 誰が打ち上げた?」
「紫電、後ろ……」
「んあ?」
振り向いたその瞬間、突然何者かに殴り飛ばされる。
「うぐわ!」
「よくも、やってくれたわね……!」
聞き覚えのある声だ。というかさっきまで聞いていた声だ。
「う、嘘だろう、これ……!」
緑祁は紫電を殴った相手の顔を見た。
岬だ。何とまだ、脱落していなかったのである。ただし両袖は黒焦げであり、全身傷だらけだ。
「あの電霊放を、耐えたってこと? そんな馬鹿な!」
倒れた紫電の腹に蹴りを入れる。
「ごふっ!」
「くたばれ、お前は! 私にこんなダメージを負わせるなんて、ふざけんじゃないわよ! お前のせいで、札が焼けちゃったじゃないの! 許さないわ!」
電霊放を撃とうにも、さっきの一撃に自分の霊力を全て注いでしまった。電池はまだ残量があるのだが、霊力がなければ電霊放は撃てない。だから反撃は不可能。
(痛みを気にしてる暇じゃない!)
どうにか立ち上がった緑祁は台風を繰り出す。すると今度はちゃんと当たる。
「く、ふううううう!」
しかしそれでも岬は数メートル弾かれた程度で、まだ倒れない。
「大丈夫かい、紫電?」
「俺に構うな……。もう霊力が残ってないんだ、電霊放は無理だ……」
「そんな…!」
すぐに岬は戻って来て、機傀で作った金属バットで緑祁の足を殴った。
「がっ!」
これは確実に骨が折れた。今度こそ力が入らず頭の思考が痛みに支配される。
(だ、駄目だ……。強すぎる……! この、岬…。僕と紫電では倒せない相手だ……)
崩れながら緑祁はそう感じた。紫電の側に倒れ込んだ彼。
「これで終わりね! 二人とも、覚悟なさい!」
手と手の間に機傀で鉄を作り、それを鬼火で熱して液体化させる。融解鉄だ。これで二人を脱落させるのだ。
(いや! まだ終わっちゃいねえ! やれることが最後に一つだけ、あるぜ!)
紫電は緑祁の手を握る。
「ど、どうしたんだい…?」
「緑祁! お前の霊力を俺に貸せ! そうすればお前の力を使って、電霊放が撃てるはずだ!」
理論上は可能だ、緑祁も香恵の霊力を借りたことがある。その逆をするだけだ。
「できるの…?」
「任せな。電力だけはまだあっからよ……。全部、寄越せ!」
「わかったよ……。必ず倒してくれ、紫電…!」
差し伸べられた手を握り、念を紫電へ送る。これで霊力を貸し与えることができる。
「消えろ、二人とも!」
ついに岬の融解鉄が迫りくる。だが緑祁と紫電の希望と勝機はまだ消えていない。
「これが……。俺と緑祁の、最後の電霊放だあああっ!」
ダウジングロッドの先端から、電霊放が撃たれた。緑祁の力を借りているからか、緑色の電霊放だ。二人の共同作業なので、
「んな……! 何いいいいいいいいいっ!」
融解鉄は弾かれ、緑紫電霊放が岬の体をついに貫いた。崩れ落ちる彼女の体から、白い光が放たれる。
「やった……。勝ったぞ、緑祁…! 俺とお前の力で、岬を退けた……!」
「そ、それは……良かったよ…」
緑祁と紫電の疲労と負傷はもう限界レベルだ。這って動くことしかできない。
「待て雪女…。手を貸すな。それは違反行為かもしれねえぜ」
「でも、黙って見てられないよ、こんなの…」
「なら、香恵をここに連れてきてくれ。それは脱落しちまったお前でも違反じゃねえはずだから」
「わかった。ちょっと待ってて…」
雪女は来た道を戻る。
「無駄なのに、ね」
起き上がった岬がそう言った。
「強がって! 意味はねえぞ? お前は負けて、俺と緑祁が勝った!」
「そうだよ。僕たちの勝ち……」
「違うわ。あなた、言ってたじゃない? 一人でも生き残っていれば勝ち、って」
「は? 何が言いてえんだお前は?」
「私のこと、どう思ってる?」
「そりゃ……」
二人は考えていた可能性を述べた。岬はここに一人で来ているということは、チームが組めなかった仲間外れか、仲間が脱落して残った一人。
「どっちも違うわね」
と、その考えを否定された。
「じゃあ、どうだってんだ?」
「私たちは考えた。このまま普通にゴールを目指すよりも、効率よく優勝できる方法がある。それは、他の出場者を全員蹴落としてしまえばいい、ってこと。チェックポイントは必ず通らないといけないんだし、それも各県に四つだから私たちに都合がいい…」
「何を言っているの? 私、たち…?」
まるで自分だけではないと言いたげな一人称。
「だから、この福島で実行したのよ。訪れる大会出場者を、ここで根こそぎ潰す! でも、あなたたちは私よりも上手だった。だから……」
段々と、足音が聞こえてくる。人数は三人なので、香恵と雪女ではない。
「だから、まだ脱落してない状態で、招集したのよここに」
「そういうことか!」
すぐさま理解した紫電は、緑祁のことを引っ張って逃げようとする。
「どうしたんだい、そんなに焦って…?」
「まだわからねえのか、緑祁! コイツはチームを作れなかった仲間外れでも、他のメンバーがやられた生き残りでもない! 最初からチーム全体で単独行動をしていた内の一人だ! 今ここに、仲間が来るんだ! さっきの花火が、そのサインだったんだ!」
説明されれば緑祁も理解できた。紫電の言う通りなのである。
岬のチームは優勝を狙うに当たって、関東地方のチェックポイントをワザと通らず先に福島に来たのだ。四人いるので各チェックポイントに一人ずつ派遣。そうすれば誰かが必ず、他の出場者と遭遇する。しかも関東地方を省いているので、順位表に名前が上がらず警戒されることもない。
足の骨が折れている緑祁がすぐに歩き出せるわけがない、紫電も体力がほとんど残っておらず、立ち上がれもしない状態だ。
そこに現れた、三人の女性の霊能力者。
「岬ー。まさか負けるなんてね。間に合わなかったかー」
と
「私たちが移動したから、その隙にチェックポイントを突破したチームがいるかもしれないわ」
と
「では、関東地方に急いで戻って……。もうゴールした方がいいですわね」
と
「困ったねー。里見可憐とそのライバルの義手の男、ついでに【神代】の跡継ぎさえいなければ、私たちの完全勝利だと思ってたのにー」
「まあ仕方がありませんわ。今まで通りの作戦はもうお終いにして、次の一手に進みますわね」
「……とその作戦会議の前に! この二人をどう料理してやろうかしら?」
もう囲まれてしまった。これ以上の戦闘をすることはもう不可能なので、緑祁と紫電は、
「こ……降参、します……」
白旗を揚げざるを得ない。桔梗たちは霊障を弱めに使ったが、それでも二人は十分に脱落した。
香恵と雪女が駆け付けた際にはもう遅かった。桔梗たちはすれ違いざまに香恵に、
「冷や冷やさせるほどの強さはあったわ。でも、あなたたちはここまで! 頑張った経験は大切なものになるから、自暴自棄にはならないで」
と呟き、香恵と雪女は自分たちの敗北を察した。
「負けてしまったのね。でもここまで来れただけ、いいわ。今、治してあげるから……」
こうなると香恵は慰療を惜しみなく使える。脱落する前にできなかったのが悔しい点だ。
緑祁たちの霊能力者大会は、ここまで。この福島を最後まで突破できなかったのだ。