第6話 裁きの霹靂 その2
文字数 3,872文字
夕方のことである。皇の姉妹は楠館に宿泊中で、今日は夜のためにそこで体を休め備えている。温泉が良いのか、疲れは全く残っていない。
「皇さん、お客さんです!」
その部屋に、ある人物が通された。先に断っておくが霊能力者ではない。
「依頼された調査報告書です」
興信所の人だ。A四の封筒を一通、緋寒に手渡した。
「ご苦労じゃった。費用は後で紅華に振り込ませる」
用事が済んだら、興信所の者はすぐに去っていった。
「ちょっと集まれ」
テーブルに封筒を置き、中身を取り出す。そして読む。
「ま、まさか!」
四人が全員、信じられないという感じの声を出した。
「どうするのじゃ、緋寒? このことを緑祁に伝えたら……?」
紅華が言う。
「前もって伝えるべきか? わたいらの心がスッキリせぬ!」
赤実も意見を唱える。
「しかし、これは衝撃的じゃ。きっと緑祁も信じようとはしないと思う…」
朱雀は予想を立てる。そこで緋寒は、
「戦いが終わったら、教えよう。一先ず緑祁には、目の前の偽者との対決に集中してもらうのじゃ! わずかな動揺すらも与えるわけにはいかぬ!」
と決め、このことはその時が来るまで表情にも口にも出さないと決めた。そしてルールとして定めたのなら、皇の姉妹がそれを破ることは決してない。
夜の平和公園は静かである。この公園には、青銅製の祈念像が存在する。それを前にし、紫電は黙とうをした。
「安らかに眠ってください……」
緑祁のことを追って長崎に来たのはいいが、肝心の彼と全然出会えていない。
「だがな、俺のダウジングロッドは嘘を吐かんぜ? 今日、アイツはここに来る!」
紫電の目的は、緑祁との戦闘だ。ただ、彼は【神代】に依頼されたわけじゃなく個人的な理由で来たためにデータベースに全くアクセスしていないので、事情を全然把握していない。
「罰当たりなヤツは、俺が裁く!」
彼を支えているのは、その意気込みだけ。『橋島霊軍』の慰霊碑を破壊したのが緑祁だという、最初の情報だけを握っているのだ。
ちょうど月の光が公園を照らし出した時、一人の影が足を踏み入れた。
「久しぶりだな、緑祁!」
修練の騒動の時に顔を会わせて以来だから、約一か月ぶりだ。紫電はその間緑祁の顔を覚えていたし、
「そうだね。まさかそっちもここ、長崎に来ているとは……。ビックリだよ」
緑祁の方もライバルを忘れるはずがない。
「驚かされたのは俺の方だぜ! まさかお前があんな蛮行をしでかすとはな……」
ただ、面倒なことが起きている。今紫電の前にいるのは、偽者の方だ。しかしその偽緑祁は、本物の記憶を正確に持っているので、
「気に食わないことがあってね……」
会話が成立してしまう。
「何だよ、それは?」
聞くと、
「慰霊碑や石碑、塚、墓場……。全て過去を生きた魂を慰めるためのもの。それがムカつくんだ。僕にとって過去は、忘れたいことなのに。慰められたことなんて、一度もないよ。でも死者は何度も傷を撫でてもらえる。こんなの、不公平じゃないか。それに忘れることを許さないこと自体が、目障りなんだよ」
きっと今のこの返事は、半分は正しい。本物の緑祁にも過去にトラウマがあり、目を背けて忘れたいと願っているだろうから。でももう半分は間違っている。これはこの寄霊独自の特性で、生前に激しい未練……何かしらの後悔や思い残し……があるから、過去を語り継ごうという姿勢が認められないのだ。それが攻撃的な性質を偽緑祁に与えている。
「お前の過去なんて知らねえよ」
冷たい返事だ。これには理由がある。
「どんなワケがあったとしても、悪事を働いて良い理由にはならねえんだ。人間はそれが理性でわかる動物だ。その道から外れてはいけない。だから法律がある、規則やルールがある。本能だけで生きるなら、それはもう他の動物にもできることだ」
紫電は、偽緑祁のことを軽蔑しているのだ。どんな事情が緑祁の方にあったとしても、同情する気は一切ない。以前は修練を追い詰め青森で起きた霊界重合を食い止めたし、隣接世界からやって来た霊能力者も倒したことがある。その点は彼のことを高く評価していたのだが、今回の犯行のせいで成績が根底から崩れた。
「お前はそんなことをする人じゃないと思っていた。だから最初にニュースを聞いた時は驚いたぜ? 何かの間違いじゃないか、ってな。でも、史跡が目障りって勝手な感情で動いてるのなら、見損なった、と大声で叫ばせてもらう!」
【神代】においては、『橋島霊軍』の慰霊碑破壊だけでも十分死罪となる。流石に紫電に人を殺めるつもりはないであろうが、捕まえるにはその勢いで戦い、相手を負かせる必要がある。
「緑祁! お前の計算ミスは単純だぜ! 自分のしでかしたことを嗅ぎつけて俺が来ると思っていなかった点だ! ケアレスミスするようじゃ甘いな……」
「僕もそう思うよ。君まで邪魔しに来るとは、流石に予想外だ。計算できるわけないよ」
「君、まで……?」
引っかかりを感じる口ぶりだったが、紫電は追求しなかった。
「まあいい。御託はこの辺にしておこう。戦いにおいて一番正しいことは、勝つことのみ! 勝者だけが歴史! 俺がお前を、豚小屋に送り込んでやる! 俺の電霊放が、お前を罪ごと裁いてやるぜ!」
ダウジングロッドを抜いた。それに反応し、偽緑祁も手を構えた。
「僕が紫電に負けると思う? そっちは僕に勝ったことないよね?」
これは正しい。
「だが、俺が負けたっていう事実もないぜ?」
こちらも。修練のせいで、二人の決着は預けられてしまったからだ。
二人が構えたまま、刻一刻と時間が過ぎる。開始の合図が今回ないので、どちらも相手の出方を伺い、一歩も踏み出せていない。
「ホーホーっ!」
園内の木にとまっている一羽のフクロウが、鳴いて飛び去った。それがこのバトルの火蓋を切って落とした。
「いくぞ!」
先に動いたのは紫電だ。彼の動きは電光石火で、偽緑祁も目で追うことを半ば諦めていた。
「ワキががら空きだぜ!」
電霊放をすかさず撃ち込む。
「ここは鉄砲水だ!」
偽緑祁は、電霊放のその眩い青白い光がする方に放水した。ちょうど電霊放と鉄砲水がぶつかり、相殺された。
(学習能力は据え置きか…!)
ここで鬼火を使うようでは話にならない。電撃に物理的な干渉ができる水を選ぶのは定石だ。
(しかし、な! 水では俺を刺し切れねえぜ!)
紫電には、鉄砲水程度では負けない自信がある。とは言っても鉄砲水は不純物を含まない水なので、電気を通さない。だから鉄砲水で防御に回られると、どうしても電霊放を遮られてしまう。それを解決するために、ポケットにフィルムケースが一つ。塩が大量に入っている。
(問題は、タイミングだぜ……)
緑祁は旋風を使えるので、無計画にばら撒いても風に運ばれてしまう。だからまだ使えない。確実に通せる場面でこそ、効果を発揮するのだ。
対する偽緑祁は、
「今度は僕からいかせてもらうよ?」
旋風を生み出し、紫電に送る。
「紫電はこれに耐えられるだろうね? でも、電霊放じゃ、防げないんじゃないかな?」
「言うぜ……」
その通りだ。電霊放は炎には強い。干渉し中和し無効化できるからだ。また水にも、物理的な干渉が可能。しかし風には手出しができない。空気の動きでしかないために、電気が走らないのだ。偽緑祁の放った旋風は、軽自動車一台ぐらいの大きなもの。飲み込まれれば全身傷まみれだろう。
「だがな、それは当たれば、の話だ!」
ロッドを下に向け、電霊放を撃つ。その反動で大きくジャンプし、かわした。
「逃げたつもりかい? まだ旋風は健在だよ?」
「誰が逃げるって言った? そんな臆病な真似はしねえぜ!」
地面に着地すると紫電は、かすかな空気の流れから、後ろに旋風があることを察知。
「電霊放にはこういう使い方もあるってことを教えてやる!」
ポケットに手を突っ込み、電池を取り出し後ろに投げた。
「そんなもので……」
防げるわけがない、と偽緑祁は言いたかった。しかしその電池が、投げられた直後に爆ぜる。爆風が旋風を打ち消したのだ。
「これは警戒しないと、だね……」
ダウジングロッドだけでなく、紫電の手の動きにも注意を払わなければいけない。
(いいぞ。今のでアイツには、思い込みが生まれた! 俺がポケットから取り出すのは電池、っていうな! それを利用するぜ!)
一見すると追い詰められた緊急時の一手のように思えるが、実は違う。紫電は緑祁に、ダウジングロッド以外の武器は爆発用の電池しかないと思い込ませたかったのである。
「さあ! 罰当たりな野郎には、天罰を下すぜ!」
今度は真上に向け、電霊放を撃ち出す。
「どこを狙っているんだい? 僕はこっちだよ?」
放たれた電流ははるか上空の雲に当たり、その電気を増幅させる。
「そうか……!」
一瞬、偽緑祁は思った。紫電が無駄な行動をするはずがない、と。だからチラッと天を見た。夜空の雲は黒いが、電霊放が撃ち込まれた雲には電流が走っている。
「そうはさせないよ!」
ここで鬼火を選択し、放つ。
「意味はないぜ? 干渉! 中和! そして、無効!」
電気のバリアを作り、襲い掛かって来る炎をかき消してやる。偽緑祁はかなり大量に火炎放射をしているようで、紫電はその対応をする。
(これが狙いか……!)
炎は無効化される。それを承知の上で鬼火を使っているのだ。電霊放でかき消せるということは、それ以外に紫電には火をかわす術がないということ。そしてモヤモヤと揺らぐ炎が邪魔で、相手の場所を特定しづらい。
「皇さん、お客さんです!」
その部屋に、ある人物が通された。先に断っておくが霊能力者ではない。
「依頼された調査報告書です」
興信所の人だ。A四の封筒を一通、緋寒に手渡した。
「ご苦労じゃった。費用は後で紅華に振り込ませる」
用事が済んだら、興信所の者はすぐに去っていった。
「ちょっと集まれ」
テーブルに封筒を置き、中身を取り出す。そして読む。
「ま、まさか!」
四人が全員、信じられないという感じの声を出した。
「どうするのじゃ、緋寒? このことを緑祁に伝えたら……?」
紅華が言う。
「前もって伝えるべきか? わたいらの心がスッキリせぬ!」
赤実も意見を唱える。
「しかし、これは衝撃的じゃ。きっと緑祁も信じようとはしないと思う…」
朱雀は予想を立てる。そこで緋寒は、
「戦いが終わったら、教えよう。一先ず緑祁には、目の前の偽者との対決に集中してもらうのじゃ! わずかな動揺すらも与えるわけにはいかぬ!」
と決め、このことはその時が来るまで表情にも口にも出さないと決めた。そしてルールとして定めたのなら、皇の姉妹がそれを破ることは決してない。
夜の平和公園は静かである。この公園には、青銅製の祈念像が存在する。それを前にし、紫電は黙とうをした。
「安らかに眠ってください……」
緑祁のことを追って長崎に来たのはいいが、肝心の彼と全然出会えていない。
「だがな、俺のダウジングロッドは嘘を吐かんぜ? 今日、アイツはここに来る!」
紫電の目的は、緑祁との戦闘だ。ただ、彼は【神代】に依頼されたわけじゃなく個人的な理由で来たためにデータベースに全くアクセスしていないので、事情を全然把握していない。
「罰当たりなヤツは、俺が裁く!」
彼を支えているのは、その意気込みだけ。『橋島霊軍』の慰霊碑を破壊したのが緑祁だという、最初の情報だけを握っているのだ。
ちょうど月の光が公園を照らし出した時、一人の影が足を踏み入れた。
「久しぶりだな、緑祁!」
修練の騒動の時に顔を会わせて以来だから、約一か月ぶりだ。紫電はその間緑祁の顔を覚えていたし、
「そうだね。まさかそっちもここ、長崎に来ているとは……。ビックリだよ」
緑祁の方もライバルを忘れるはずがない。
「驚かされたのは俺の方だぜ! まさかお前があんな蛮行をしでかすとはな……」
ただ、面倒なことが起きている。今紫電の前にいるのは、偽者の方だ。しかしその偽緑祁は、本物の記憶を正確に持っているので、
「気に食わないことがあってね……」
会話が成立してしまう。
「何だよ、それは?」
聞くと、
「慰霊碑や石碑、塚、墓場……。全て過去を生きた魂を慰めるためのもの。それがムカつくんだ。僕にとって過去は、忘れたいことなのに。慰められたことなんて、一度もないよ。でも死者は何度も傷を撫でてもらえる。こんなの、不公平じゃないか。それに忘れることを許さないこと自体が、目障りなんだよ」
きっと今のこの返事は、半分は正しい。本物の緑祁にも過去にトラウマがあり、目を背けて忘れたいと願っているだろうから。でももう半分は間違っている。これはこの寄霊独自の特性で、生前に激しい未練……何かしらの後悔や思い残し……があるから、過去を語り継ごうという姿勢が認められないのだ。それが攻撃的な性質を偽緑祁に与えている。
「お前の過去なんて知らねえよ」
冷たい返事だ。これには理由がある。
「どんなワケがあったとしても、悪事を働いて良い理由にはならねえんだ。人間はそれが理性でわかる動物だ。その道から外れてはいけない。だから法律がある、規則やルールがある。本能だけで生きるなら、それはもう他の動物にもできることだ」
紫電は、偽緑祁のことを軽蔑しているのだ。どんな事情が緑祁の方にあったとしても、同情する気は一切ない。以前は修練を追い詰め青森で起きた霊界重合を食い止めたし、隣接世界からやって来た霊能力者も倒したことがある。その点は彼のことを高く評価していたのだが、今回の犯行のせいで成績が根底から崩れた。
「お前はそんなことをする人じゃないと思っていた。だから最初にニュースを聞いた時は驚いたぜ? 何かの間違いじゃないか、ってな。でも、史跡が目障りって勝手な感情で動いてるのなら、見損なった、と大声で叫ばせてもらう!」
【神代】においては、『橋島霊軍』の慰霊碑破壊だけでも十分死罪となる。流石に紫電に人を殺めるつもりはないであろうが、捕まえるにはその勢いで戦い、相手を負かせる必要がある。
「緑祁! お前の計算ミスは単純だぜ! 自分のしでかしたことを嗅ぎつけて俺が来ると思っていなかった点だ! ケアレスミスするようじゃ甘いな……」
「僕もそう思うよ。君まで邪魔しに来るとは、流石に予想外だ。計算できるわけないよ」
「君、まで……?」
引っかかりを感じる口ぶりだったが、紫電は追求しなかった。
「まあいい。御託はこの辺にしておこう。戦いにおいて一番正しいことは、勝つことのみ! 勝者だけが歴史! 俺がお前を、豚小屋に送り込んでやる! 俺の電霊放が、お前を罪ごと裁いてやるぜ!」
ダウジングロッドを抜いた。それに反応し、偽緑祁も手を構えた。
「僕が紫電に負けると思う? そっちは僕に勝ったことないよね?」
これは正しい。
「だが、俺が負けたっていう事実もないぜ?」
こちらも。修練のせいで、二人の決着は預けられてしまったからだ。
二人が構えたまま、刻一刻と時間が過ぎる。開始の合図が今回ないので、どちらも相手の出方を伺い、一歩も踏み出せていない。
「ホーホーっ!」
園内の木にとまっている一羽のフクロウが、鳴いて飛び去った。それがこのバトルの火蓋を切って落とした。
「いくぞ!」
先に動いたのは紫電だ。彼の動きは電光石火で、偽緑祁も目で追うことを半ば諦めていた。
「ワキががら空きだぜ!」
電霊放をすかさず撃ち込む。
「ここは鉄砲水だ!」
偽緑祁は、電霊放のその眩い青白い光がする方に放水した。ちょうど電霊放と鉄砲水がぶつかり、相殺された。
(学習能力は据え置きか…!)
ここで鬼火を使うようでは話にならない。電撃に物理的な干渉ができる水を選ぶのは定石だ。
(しかし、な! 水では俺を刺し切れねえぜ!)
紫電には、鉄砲水程度では負けない自信がある。とは言っても鉄砲水は不純物を含まない水なので、電気を通さない。だから鉄砲水で防御に回られると、どうしても電霊放を遮られてしまう。それを解決するために、ポケットにフィルムケースが一つ。塩が大量に入っている。
(問題は、タイミングだぜ……)
緑祁は旋風を使えるので、無計画にばら撒いても風に運ばれてしまう。だからまだ使えない。確実に通せる場面でこそ、効果を発揮するのだ。
対する偽緑祁は、
「今度は僕からいかせてもらうよ?」
旋風を生み出し、紫電に送る。
「紫電はこれに耐えられるだろうね? でも、電霊放じゃ、防げないんじゃないかな?」
「言うぜ……」
その通りだ。電霊放は炎には強い。干渉し中和し無効化できるからだ。また水にも、物理的な干渉が可能。しかし風には手出しができない。空気の動きでしかないために、電気が走らないのだ。偽緑祁の放った旋風は、軽自動車一台ぐらいの大きなもの。飲み込まれれば全身傷まみれだろう。
「だがな、それは当たれば、の話だ!」
ロッドを下に向け、電霊放を撃つ。その反動で大きくジャンプし、かわした。
「逃げたつもりかい? まだ旋風は健在だよ?」
「誰が逃げるって言った? そんな臆病な真似はしねえぜ!」
地面に着地すると紫電は、かすかな空気の流れから、後ろに旋風があることを察知。
「電霊放にはこういう使い方もあるってことを教えてやる!」
ポケットに手を突っ込み、電池を取り出し後ろに投げた。
「そんなもので……」
防げるわけがない、と偽緑祁は言いたかった。しかしその電池が、投げられた直後に爆ぜる。爆風が旋風を打ち消したのだ。
「これは警戒しないと、だね……」
ダウジングロッドだけでなく、紫電の手の動きにも注意を払わなければいけない。
(いいぞ。今のでアイツには、思い込みが生まれた! 俺がポケットから取り出すのは電池、っていうな! それを利用するぜ!)
一見すると追い詰められた緊急時の一手のように思えるが、実は違う。紫電は緑祁に、ダウジングロッド以外の武器は爆発用の電池しかないと思い込ませたかったのである。
「さあ! 罰当たりな野郎には、天罰を下すぜ!」
今度は真上に向け、電霊放を撃ち出す。
「どこを狙っているんだい? 僕はこっちだよ?」
放たれた電流ははるか上空の雲に当たり、その電気を増幅させる。
「そうか……!」
一瞬、偽緑祁は思った。紫電が無駄な行動をするはずがない、と。だからチラッと天を見た。夜空の雲は黒いが、電霊放が撃ち込まれた雲には電流が走っている。
「そうはさせないよ!」
ここで鬼火を選択し、放つ。
「意味はないぜ? 干渉! 中和! そして、無効!」
電気のバリアを作り、襲い掛かって来る炎をかき消してやる。偽緑祁はかなり大量に火炎放射をしているようで、紫電はその対応をする。
(これが狙いか……!)
炎は無効化される。それを承知の上で鬼火を使っているのだ。電霊放でかき消せるということは、それ以外に紫電には火をかわす術がないということ。そしてモヤモヤと揺らぐ炎が邪魔で、相手の場所を特定しづらい。