第8話 毒雷を貫け その4
文字数 2,825文字
(でも、逆流させればいいんだ! そればっかりはどんなに電霊放に精通してても、逃れられない!)
ならば、戦いの式を少し修正する。少々危険だが、病射の体に電霊放を流し込ませる。
「ほう? 近づいて来るのか?」
緑祁は一歩踏み出した。病射は動かずに電子ノギスを彼に向ける。
「近寄れば当たらないとでも思っているのか?」
「無理だろうね……。命中率を重視しているのなら、近づいても遠ざかっても当てられる。四方八方に広がるから、なおさら厄介だ」
「知っているなら、どうしてこっちに来る?」
「これしかないからさ!」
緑祁は一気に駆け寄った。
「馬鹿め! 地獄で後悔してな!」
その瞬間に、病射は電霊放を撃つ。桃色の電撃が四方八方に放たれる。
「今か!」
「な、何っ!」
その瞬間、緑祁は自分の体をかがんで地面に伏せさせた。立っていれば当たる確率も上がるが、しゃがめば下がる。病射は数撃てば当たると思っているからこそ、狙いは粗い。それに電霊放は地面が濡れていない限り、地面には走らない。
「それっ!」
まずは鉄砲水を使い、周囲を水浸しにした。
「病射! そっちも逃がさないぞ!」
「コイツ……! 電霊放の相手に慣れてやがる!」
とにかく大量の鉄砲水を、周囲に。それこそ水溜りが何個出来てもいいくらいに。そして水が、病射の足元にまで広がる。
「クソっ!」
病射は後ろに下がった。
(濡れたらおれまで電霊放をくらっちまうじゃねーかよ! コイツ、考えやがったな……! 面倒な!)
(やっぱり! 濡れてはいけないんだ!)
彼の動きを見て確信する緑祁。鉄砲水を駆使すれば病射に勝てる。
「だがな、おれだって勝利に向かって走ってんだぜ、緑祁!」
ここで病射、電子ノギスの副尺を引いて爪の部分を広げ、その間で帯電させる。まるで電気でできた斧だ。電撃を飛ばさなければ、地面の水溜りに触れる心配もない。
「落ちろ!」
そのノギスを振り回す。
「マズい!」
これは緑祁も想定外だ。しかし、
(いや待て! 逆に近づくチャンスだ!)
即座に切り替えて、病射に突っ込む。
「うおおおおおおおお!」
「死ね、クソがああああ!」
ノギスが緑祁の肩に当たる。
「ぐわああああ!」
だが緑祁も手を前に出し、病射の胸の前で、
「か、火災旋風、だ!」
霊障合体を使った。
「ぐおおおおお!」
電霊放を使うには間に合わず、病射は火災旋風に押し飛ばされてブロック塀に背中から激突した。緑祁は肩に電霊放を流された上に、どうやら毒厄まで含まれていたらしく、
「ううっ!」
膝が崩れた。
「終わったのね、緑祁!」
「まだだよ。今から病射の怪我を治してあげないと!」
きっと、痛い思いをしただろう。胸は結構な火傷を負っているかもしれないし、背中にも衝撃が走っていた。
香恵に薬束と慰療を使ってもらって立ち直した緑祁は病射に近づいた。
「大丈夫かい、病射………」
だがここで、手を差し伸べた瞬間に、
(あれ? おかしいな……?)
違和感に襲われる。
(病射、どうして火傷していないんだ? 僕は結構本気で、火災旋風を使ったのに……?)
服は少し焦げている。だが袖の淵から覗かせる肌は異様に綺麗なのだ。
次の瞬間、病射の腕時計からギザギザの電気でできたブレードが伸び、彼はその手を挙げた。
「ひ? ぐわわわわわあああああ!」
あまりにも突然の出来事で、緑祁も反応できなかった。胸から顔を一気に切り裂かれたのだ。血が、勢いよく患部から噴き出した。
「馬鹿馬鹿と近づくからこうなるんだぜ! てめーに作られた傷? おれの慰療で治したんだよ! 霊障合体・電心帯! 触るまでもねーんだ」
「な、何だって! 慰療が使えるのか……!」
右目も裂かれ、緑祁は手でそこを押さえる。完全に回復手段がないものだと思って、不用意に近づき過ぎた。
「緑祁……!」
見ていた香恵も、流石にここまでされてはもう手を出さずにはいられない。
「おっと動くな、香恵! その藁人形を捨てな!」
首筋を掴んで緑祁を人質に取り、病射が言った。電子ノギスを彼のこめかみに当て、
「威力が低くてもな、一斉に急所を射抜けば十分に殺せるくらいの強さはあるんだぜ? さあ、捨てろ!」
「……………わかったわ……」
香恵は言われた通りに藁人形を手放す。これで霊障合体・開運人形は使えない。
「他にも何か持ってるんじゃねーのか? それも全部、地面に捨てろ! コイツが死んでもいいのか?」
「死ぬ? 僕が、かい?」
「あぁ?」
何と緑祁は、まだ動く気力があった。血塗れになりながらも電子ノギスを掴むと、
「ば、馬鹿な? あああああああぐうう!」
電撃が緑祁に流れ、彼を掴んでいる病射にも逆流する。
(しまった! コイツを手放さねーと!)
しかしここで逆に緑祁が、病射の電子ノギスと腕時計を掴んだ。
「おおおおおおおう!」
ノギスの方は捨てれば、この逆流からは逃げられる。だが腕時計は腕を動かしたくらいでは外れない。
「馬鹿野郎が! 死ぬぞ、こんなこと……。ぶええええええええええ!」
「死ぬだって? 病射のことを救えるのなら、喜んで命を捧げてやる!」
「コイツ、狂気か……? ぐううううううううう!」
病射が今使っているのは、嫌害霹靂である。その電気と毒が、緑祁を通して病射に流れる。尋常ではない威力だ。
「コイツううううううう! どこまでもおれの邪魔をする気かあああああああああ!」
「病射! 僕は病射を救うまで、何度でも受け止めてやる!」
「クソおおおおおおおおおおおおおお!」
当初、病射は電霊放を強めれば緑祁の方から離れると思っていた。しかし予想外に、緑祁は病射から手を離さない。
「ぬううううううううう! むううううううううううう! ぐぬうううううううう!」
病射は電霊放を止めた。それを見計らった緑祁はまず鉄砲水を使って彼の体を水浸しにする。この状態で電霊放を使えば真っ先に自分が感電することは、病射が一番わかっている。
「うじゃああああああああああ!」
最後は緑祁が、病射の体を水溜りの上に落とす。一緒にずぶ濡れになる。
「………………………」
どうやら意識を保てていたのは、緑祁だけだった。病射の方は一歩及ばず、気絶してしまったようだ。
「く、うう! でも、勝てた……!」
緑祁の精神が、わずかに病射のそれに勝っていたのだ。毒雷を貫いて、緑祁は勝利をもぎ取れた。
その緑祁も、もう限界だ。病射の横に倒れた。
「緑祁! 病射!」
すぐさま香恵が二人に駆け寄り、慰療を使って怪我を治す。
「……大丈夫ね、ホッとしたわ…。後は意識さえ戻れば! その前に病射の電子ノギスと腕時計は没収しておかないと。他にも電池とか、持ってたりするのかな?」
病射の体をチェックし、意識が戻った後にまたもめごとにならないように香恵は対策した。予備用の電池と二本目のノギス程度しか持っていなかった。一応、スマートフォンも電霊放を撃てるので没収。
「こっちは済んだわ……。辻神の方は、大丈夫かしら?」
ならば、戦いの式を少し修正する。少々危険だが、病射の体に電霊放を流し込ませる。
「ほう? 近づいて来るのか?」
緑祁は一歩踏み出した。病射は動かずに電子ノギスを彼に向ける。
「近寄れば当たらないとでも思っているのか?」
「無理だろうね……。命中率を重視しているのなら、近づいても遠ざかっても当てられる。四方八方に広がるから、なおさら厄介だ」
「知っているなら、どうしてこっちに来る?」
「これしかないからさ!」
緑祁は一気に駆け寄った。
「馬鹿め! 地獄で後悔してな!」
その瞬間に、病射は電霊放を撃つ。桃色の電撃が四方八方に放たれる。
「今か!」
「な、何っ!」
その瞬間、緑祁は自分の体をかがんで地面に伏せさせた。立っていれば当たる確率も上がるが、しゃがめば下がる。病射は数撃てば当たると思っているからこそ、狙いは粗い。それに電霊放は地面が濡れていない限り、地面には走らない。
「それっ!」
まずは鉄砲水を使い、周囲を水浸しにした。
「病射! そっちも逃がさないぞ!」
「コイツ……! 電霊放の相手に慣れてやがる!」
とにかく大量の鉄砲水を、周囲に。それこそ水溜りが何個出来てもいいくらいに。そして水が、病射の足元にまで広がる。
「クソっ!」
病射は後ろに下がった。
(濡れたらおれまで電霊放をくらっちまうじゃねーかよ! コイツ、考えやがったな……! 面倒な!)
(やっぱり! 濡れてはいけないんだ!)
彼の動きを見て確信する緑祁。鉄砲水を駆使すれば病射に勝てる。
「だがな、おれだって勝利に向かって走ってんだぜ、緑祁!」
ここで病射、電子ノギスの副尺を引いて爪の部分を広げ、その間で帯電させる。まるで電気でできた斧だ。電撃を飛ばさなければ、地面の水溜りに触れる心配もない。
「落ちろ!」
そのノギスを振り回す。
「マズい!」
これは緑祁も想定外だ。しかし、
(いや待て! 逆に近づくチャンスだ!)
即座に切り替えて、病射に突っ込む。
「うおおおおおおおお!」
「死ね、クソがああああ!」
ノギスが緑祁の肩に当たる。
「ぐわああああ!」
だが緑祁も手を前に出し、病射の胸の前で、
「か、火災旋風、だ!」
霊障合体を使った。
「ぐおおおおお!」
電霊放を使うには間に合わず、病射は火災旋風に押し飛ばされてブロック塀に背中から激突した。緑祁は肩に電霊放を流された上に、どうやら毒厄まで含まれていたらしく、
「ううっ!」
膝が崩れた。
「終わったのね、緑祁!」
「まだだよ。今から病射の怪我を治してあげないと!」
きっと、痛い思いをしただろう。胸は結構な火傷を負っているかもしれないし、背中にも衝撃が走っていた。
香恵に薬束と慰療を使ってもらって立ち直した緑祁は病射に近づいた。
「大丈夫かい、病射………」
だがここで、手を差し伸べた瞬間に、
(あれ? おかしいな……?)
違和感に襲われる。
(病射、どうして火傷していないんだ? 僕は結構本気で、火災旋風を使ったのに……?)
服は少し焦げている。だが袖の淵から覗かせる肌は異様に綺麗なのだ。
次の瞬間、病射の腕時計からギザギザの電気でできたブレードが伸び、彼はその手を挙げた。
「ひ? ぐわわわわわあああああ!」
あまりにも突然の出来事で、緑祁も反応できなかった。胸から顔を一気に切り裂かれたのだ。血が、勢いよく患部から噴き出した。
「馬鹿馬鹿と近づくからこうなるんだぜ! てめーに作られた傷? おれの慰療で治したんだよ! 霊障合体・電心帯! 触るまでもねーんだ」
「な、何だって! 慰療が使えるのか……!」
右目も裂かれ、緑祁は手でそこを押さえる。完全に回復手段がないものだと思って、不用意に近づき過ぎた。
「緑祁……!」
見ていた香恵も、流石にここまでされてはもう手を出さずにはいられない。
「おっと動くな、香恵! その藁人形を捨てな!」
首筋を掴んで緑祁を人質に取り、病射が言った。電子ノギスを彼のこめかみに当て、
「威力が低くてもな、一斉に急所を射抜けば十分に殺せるくらいの強さはあるんだぜ? さあ、捨てろ!」
「……………わかったわ……」
香恵は言われた通りに藁人形を手放す。これで霊障合体・開運人形は使えない。
「他にも何か持ってるんじゃねーのか? それも全部、地面に捨てろ! コイツが死んでもいいのか?」
「死ぬ? 僕が、かい?」
「あぁ?」
何と緑祁は、まだ動く気力があった。血塗れになりながらも電子ノギスを掴むと、
「ば、馬鹿な? あああああああぐうう!」
電撃が緑祁に流れ、彼を掴んでいる病射にも逆流する。
(しまった! コイツを手放さねーと!)
しかしここで逆に緑祁が、病射の電子ノギスと腕時計を掴んだ。
「おおおおおおおう!」
ノギスの方は捨てれば、この逆流からは逃げられる。だが腕時計は腕を動かしたくらいでは外れない。
「馬鹿野郎が! 死ぬぞ、こんなこと……。ぶええええええええええ!」
「死ぬだって? 病射のことを救えるのなら、喜んで命を捧げてやる!」
「コイツ、狂気か……? ぐううううううううう!」
病射が今使っているのは、嫌害霹靂である。その電気と毒が、緑祁を通して病射に流れる。尋常ではない威力だ。
「コイツううううううう! どこまでもおれの邪魔をする気かあああああああああ!」
「病射! 僕は病射を救うまで、何度でも受け止めてやる!」
「クソおおおおおおおおおおおおおお!」
当初、病射は電霊放を強めれば緑祁の方から離れると思っていた。しかし予想外に、緑祁は病射から手を離さない。
「ぬううううううううう! むううううううううううう! ぐぬうううううううう!」
病射は電霊放を止めた。それを見計らった緑祁はまず鉄砲水を使って彼の体を水浸しにする。この状態で電霊放を使えば真っ先に自分が感電することは、病射が一番わかっている。
「うじゃああああああああああ!」
最後は緑祁が、病射の体を水溜りの上に落とす。一緒にずぶ濡れになる。
「………………………」
どうやら意識を保てていたのは、緑祁だけだった。病射の方は一歩及ばず、気絶してしまったようだ。
「く、うう! でも、勝てた……!」
緑祁の精神が、わずかに病射のそれに勝っていたのだ。毒雷を貫いて、緑祁は勝利をもぎ取れた。
その緑祁も、もう限界だ。病射の横に倒れた。
「緑祁! 病射!」
すぐさま香恵が二人に駆け寄り、慰療を使って怪我を治す。
「……大丈夫ね、ホッとしたわ…。後は意識さえ戻れば! その前に病射の電子ノギスと腕時計は没収しておかないと。他にも電池とか、持ってたりするのかな?」
病射の体をチェックし、意識が戻った後にまたもめごとにならないように香恵は対策した。予備用の電池と二本目のノギス程度しか持っていなかった。一応、スマートフォンも電霊放を撃てるので没収。
「こっちは済んだわ……。辻神の方は、大丈夫かしら?」