第2話 一手遅れる その3
文字数 2,970文字
「もう駄目だ、これ以上は待てない! 骸、壊すんだ!」
「…………チッ! 仕方がない!」
まだ謎は解決していない。でも被害が出ている以上、早くしなければいけない。
「これをくらえ、死せる魂よ!」
木霊を使って岩を雑草で包み込み、圧迫してヒビを入れる。この時雛臥も協力して、生じたヒビの間に炎を入れて内部から破壊するのだ。
二人の実力もあってか、一瞬で呪われた岩は粉々に砕け散った。同時に白い骸骨の幽霊も、消えた。
「よし、やったぞ! 除霊完了だ!」
ガッツポーズをする雛臥。だが骸は、その砕けた岩の破片に駆け寄る。
(……! やっぱり形が違う!)
自分の手で触れて確かめた。もしも人型だったら、今手に持っているようには壊れない。でも彼は今、滑から面がある破片を見ている。
「足……? いや、微妙に違う。足偏か、これ?」
溝は、掘られた文字みたいだ。
「どうしたんだ、骸? そんな深刻な顔して……」
「雛臥! すぐに蛭児をここに呼ぶんだ! 早くしろ!」
「え、あ、わかったよ!」
骸の表情から察するに、聞き返している暇はなさそうだ。雛臥は林の中に駆け込み、蛭児を探した。
「おーい、蛭児さーん! 呪われた岩を破壊したんだ、確かめてくれ!」
何度も何度も暗闇に向かって叫ぶが、返事がない。
「まさか、もう手遅れ……?」
最悪の事態を覚悟したが、それはあることを見ると吹き飛んだ。
来た道を引き返すと、林道に出た。そこに停車されていたはずの車がないのだ。
「なんだ、車がないってことは、無事だったんじゃん!」
蛭児はまだ生きている。それを感じたために肩を下ろした。
(でも待てよ僕? もっと重大なことない? 感じるべきこと言うべきことはそれじゃなくて……?)
が、直後に心臓の鼓動が早くなった。
「ない! 車が! 蛭児さんが、一人で逃げちゃったのか! 僕と骸を、こんな森の中に残して!」
これは非常にマズい事態だ。雛臥は骸の方に戻る。
一方の骸の方も深刻だった。
「あ、どうしたの?」
「今砕いた岩を並べてみたんだ。復元可能な範囲で、だがよ……」
そこには、踊り、の二文字が。
「何だいこれ?」
「さあ、知らんぜ。でもよ雛臥。さっきこの岩、どんな形に見えた?」
「それは、何か苦しそうな感じの……」
言葉だけでなく、実際に腕を胸の前で交差して表現する雛臥。
「だよな。俺にもそう見えた。でも繋げてみると、そういう形じゃないんだ、これ……」
「えっ……!」
一部分しか復元できていないが、さっき見た形とは違うことは、彼にもわかった。
二人はこの場所に土地勘がないし、この壊してしまった岩について蛭児の資料にはどこにも記載がなかった。
「ひとまずホテルに戻ろう。ここじゃ何もわかんない」
「でも車が……」
蛭児に逃げられたことを報告。
「おいおい、こんな寒い冬の林に置いてけぼりかよ? 文句言ってやろうぜ!」
「そうだね。流石の僕もこれには怒りを隠せないかな?」
歩いてホテルまで戻る二人。日付こそ変わってしまったが、夜が明ける前には部屋に帰れた。
「ふうう~くったくただぜ……。でも、やることやらないと寝られない!」
寝る前に蛭児と連絡を取ろうと、メールを送信した。しかしそれが骸のスマートフォンに、すぐに戻って来てしまった。
「アドレスが使われてない? はあ? 何言ってんだよ?」
昨日出発前に、そろそろ行きましょう、というメールが蛭児の方から送られてきた。なのにそのアドレスがもう死んでいるのはおかしすぎる。
「おい雛臥、タブレット貸せ」
「ほい」
では、【神代】のデータ上なら…と思って依頼に検索をかけた。すると、該当データなし。
「いやいやいや! おかしいって! 【神代】はかなり昔の、それこそ明治時代の依頼内容すらデータ化してデータベースに保存してるじゃん! 何でないんだよ? 俺たち、じゃあ何やってたんだ……?」
メールアドレスに依頼データ。この二つが何故か、姿を消しているのだ。
「骸、その前にあの僕たちが壊してしまった岩は何だったのか……。誰かに聞いてみようよ」
「ああ、そうだな。それをしてから寝るか」
二人は、絵美と刹那に聞こうとしたがやめた。何かしら知っているのなら、今までの交流で話題になっているはずだからである。一度も彼女たちの口からあの岩について聞いたことがないのは、そういう曰くが四国で話題になっていないのと同義。
「【神代】から人を呼ぶか。その方が解決は早そうだ」
誰でもいい。とにかく【神代】に、異常な岩を発見し破壊したことを知らせた。人員を二人、派遣してくれることになったので二人はベッドで寝た。
数時間後、昼過ぎくらいに部屋のチャイムが鳴る。
「ああ、えっと……」
同じ顔をした女性が二人。右目の上にほくろがある方が緋寒、左上の方にあるのが赤実だ。
「早速現場に案内しておくれ。一体どんな岩なんじゃ?」
緋寒たちは車を用意してくれており、それに乗って林道を進む。そして昨日と同じ場所で降りて歩くと、
「ひょれ、ここってもしや……」
地図を広げて赤実が指摘する。
「『この世の踊り人』の慰霊碑の近くじゃな? そうであろう、赤実」
「そうじゃ。しかし、曰くのある岩なんぞ聞いたことがない」
ここに来るまでに雛臥と骸は、既に緋寒たちに昨夜の出来事を伝えていた。しかし、
「あり得ん話じゃ」
と、呪われた岩についてはキッパリ否定されている。
少し歩けばたどり着く。昨日のあの場所に。
「こ、これは……!」
「どうしたんだ、おい?」
「そなたたちが破壊したのか?」
「実は、そうなんだ。でもそうしないと幽霊を倒せなくて……」
雛臥の説明は、二人の耳に届いてない。驚愕の表情を崩せてないのである。
「もう一度だけ、聞く! これをやったのは、雛臥と骸! そなたたち二人で間違いないんじゃな?」
コクンと頷くと、
「じゃあ逮捕じゃ」
緋寒は機傀で手錠を作り出し、二人の腕にかけた。
「ちょっと待てよ! だからこれには深い事情が……」
「赤実、黙らせよ!」
藁人形を取り出した赤実は呪縛と鉄砲水を使って、二人に水をお見舞いする。
「ご、ゴボボボ……!」
これは入水 という霊障合体だ。その気になれば人を殺めることすら簡単だが、今は加減して喋れず抵抗できない程度にしてある。
「大いなるバカタレっ! こんなことをして許されると思っておるのか!」
水で苦しんでいる二人に対し、緋寒はスマートフォンのバッテリーを使って電霊放を二人の体に直流し。気絶した二人を車に詰め込んでそのまま空港まで移動。
「もしもし、絹子か? そなたの情報の通りじゃった! やはり慰霊碑は破壊されておった! しかし、じゃ。犯人は確保済み! これからヘリコプターで東京に戻る!」
こうして雛臥と骸は、絵美と刹那が連れてこられる二日前にこの病院に閉じ込められているのだ。
「そ、そんな………!」
絵美は言葉を失った。
「ああ、運命とはどうしてこう辛く苦しい課題を我らに課すのだ? 薄く儚い人間には、到達できぬ神の境地があるとでも言うのだろうか――?」
どれくらい絶望しているか、刹那が口にする。
絵美と刹那は、自分たちの無実の証明に雛臥と骸が動いてくれることを期待していた。しかしそれは無理だ。何故ならその頼みの綱の二人も、自分たちと同じ容疑がかけられているからである。
「…………チッ! 仕方がない!」
まだ謎は解決していない。でも被害が出ている以上、早くしなければいけない。
「これをくらえ、死せる魂よ!」
木霊を使って岩を雑草で包み込み、圧迫してヒビを入れる。この時雛臥も協力して、生じたヒビの間に炎を入れて内部から破壊するのだ。
二人の実力もあってか、一瞬で呪われた岩は粉々に砕け散った。同時に白い骸骨の幽霊も、消えた。
「よし、やったぞ! 除霊完了だ!」
ガッツポーズをする雛臥。だが骸は、その砕けた岩の破片に駆け寄る。
(……! やっぱり形が違う!)
自分の手で触れて確かめた。もしも人型だったら、今手に持っているようには壊れない。でも彼は今、滑から面がある破片を見ている。
「足……? いや、微妙に違う。足偏か、これ?」
溝は、掘られた文字みたいだ。
「どうしたんだ、骸? そんな深刻な顔して……」
「雛臥! すぐに蛭児をここに呼ぶんだ! 早くしろ!」
「え、あ、わかったよ!」
骸の表情から察するに、聞き返している暇はなさそうだ。雛臥は林の中に駆け込み、蛭児を探した。
「おーい、蛭児さーん! 呪われた岩を破壊したんだ、確かめてくれ!」
何度も何度も暗闇に向かって叫ぶが、返事がない。
「まさか、もう手遅れ……?」
最悪の事態を覚悟したが、それはあることを見ると吹き飛んだ。
来た道を引き返すと、林道に出た。そこに停車されていたはずの車がないのだ。
「なんだ、車がないってことは、無事だったんじゃん!」
蛭児はまだ生きている。それを感じたために肩を下ろした。
(でも待てよ僕? もっと重大なことない? 感じるべきこと言うべきことはそれじゃなくて……?)
が、直後に心臓の鼓動が早くなった。
「ない! 車が! 蛭児さんが、一人で逃げちゃったのか! 僕と骸を、こんな森の中に残して!」
これは非常にマズい事態だ。雛臥は骸の方に戻る。
一方の骸の方も深刻だった。
「あ、どうしたの?」
「今砕いた岩を並べてみたんだ。復元可能な範囲で、だがよ……」
そこには、踊り、の二文字が。
「何だいこれ?」
「さあ、知らんぜ。でもよ雛臥。さっきこの岩、どんな形に見えた?」
「それは、何か苦しそうな感じの……」
言葉だけでなく、実際に腕を胸の前で交差して表現する雛臥。
「だよな。俺にもそう見えた。でも繋げてみると、そういう形じゃないんだ、これ……」
「えっ……!」
一部分しか復元できていないが、さっき見た形とは違うことは、彼にもわかった。
二人はこの場所に土地勘がないし、この壊してしまった岩について蛭児の資料にはどこにも記載がなかった。
「ひとまずホテルに戻ろう。ここじゃ何もわかんない」
「でも車が……」
蛭児に逃げられたことを報告。
「おいおい、こんな寒い冬の林に置いてけぼりかよ? 文句言ってやろうぜ!」
「そうだね。流石の僕もこれには怒りを隠せないかな?」
歩いてホテルまで戻る二人。日付こそ変わってしまったが、夜が明ける前には部屋に帰れた。
「ふうう~くったくただぜ……。でも、やることやらないと寝られない!」
寝る前に蛭児と連絡を取ろうと、メールを送信した。しかしそれが骸のスマートフォンに、すぐに戻って来てしまった。
「アドレスが使われてない? はあ? 何言ってんだよ?」
昨日出発前に、そろそろ行きましょう、というメールが蛭児の方から送られてきた。なのにそのアドレスがもう死んでいるのはおかしすぎる。
「おい雛臥、タブレット貸せ」
「ほい」
では、【神代】のデータ上なら…と思って依頼に検索をかけた。すると、該当データなし。
「いやいやいや! おかしいって! 【神代】はかなり昔の、それこそ明治時代の依頼内容すらデータ化してデータベースに保存してるじゃん! 何でないんだよ? 俺たち、じゃあ何やってたんだ……?」
メールアドレスに依頼データ。この二つが何故か、姿を消しているのだ。
「骸、その前にあの僕たちが壊してしまった岩は何だったのか……。誰かに聞いてみようよ」
「ああ、そうだな。それをしてから寝るか」
二人は、絵美と刹那に聞こうとしたがやめた。何かしら知っているのなら、今までの交流で話題になっているはずだからである。一度も彼女たちの口からあの岩について聞いたことがないのは、そういう曰くが四国で話題になっていないのと同義。
「【神代】から人を呼ぶか。その方が解決は早そうだ」
誰でもいい。とにかく【神代】に、異常な岩を発見し破壊したことを知らせた。人員を二人、派遣してくれることになったので二人はベッドで寝た。
数時間後、昼過ぎくらいに部屋のチャイムが鳴る。
「ああ、えっと……」
同じ顔をした女性が二人。右目の上にほくろがある方が緋寒、左上の方にあるのが赤実だ。
「早速現場に案内しておくれ。一体どんな岩なんじゃ?」
緋寒たちは車を用意してくれており、それに乗って林道を進む。そして昨日と同じ場所で降りて歩くと、
「ひょれ、ここってもしや……」
地図を広げて赤実が指摘する。
「『この世の踊り人』の慰霊碑の近くじゃな? そうであろう、赤実」
「そうじゃ。しかし、曰くのある岩なんぞ聞いたことがない」
ここに来るまでに雛臥と骸は、既に緋寒たちに昨夜の出来事を伝えていた。しかし、
「あり得ん話じゃ」
と、呪われた岩についてはキッパリ否定されている。
少し歩けばたどり着く。昨日のあの場所に。
「こ、これは……!」
「どうしたんだ、おい?」
「そなたたちが破壊したのか?」
「実は、そうなんだ。でもそうしないと幽霊を倒せなくて……」
雛臥の説明は、二人の耳に届いてない。驚愕の表情を崩せてないのである。
「もう一度だけ、聞く! これをやったのは、雛臥と骸! そなたたち二人で間違いないんじゃな?」
コクンと頷くと、
「じゃあ逮捕じゃ」
緋寒は機傀で手錠を作り出し、二人の腕にかけた。
「ちょっと待てよ! だからこれには深い事情が……」
「赤実、黙らせよ!」
藁人形を取り出した赤実は呪縛と鉄砲水を使って、二人に水をお見舞いする。
「ご、ゴボボボ……!」
これは
「大いなるバカタレっ! こんなことをして許されると思っておるのか!」
水で苦しんでいる二人に対し、緋寒はスマートフォンのバッテリーを使って電霊放を二人の体に直流し。気絶した二人を車に詰め込んでそのまま空港まで移動。
「もしもし、絹子か? そなたの情報の通りじゃった! やはり慰霊碑は破壊されておった! しかし、じゃ。犯人は確保済み! これからヘリコプターで東京に戻る!」
こうして雛臥と骸は、絵美と刹那が連れてこられる二日前にこの病院に閉じ込められているのだ。
「そ、そんな………!」
絵美は言葉を失った。
「ああ、運命とはどうしてこう辛く苦しい課題を我らに課すのだ? 薄く儚い人間には、到達できぬ神の境地があるとでも言うのだろうか――?」
どれくらい絶望しているか、刹那が口にする。
絵美と刹那は、自分たちの無実の証明に雛臥と骸が動いてくれることを期待していた。しかしそれは無理だ。何故ならその頼みの綱の二人も、自分たちと同じ容疑がかけられているからである。