第8話 霊鬼起動 その2

文字数 2,087文字

 冥佳の操る霊障は、礫岩である。だからコンクリートやアスファルトで舗装されていない土がむき出しとなっている、グラウンドを選んだ。

「行くわよ!」

 そんな彼女だが、いきなり勝負を仕掛けることはしない。まずは様子見だ。冥佳の周りの地面から岩が飛び出し、ストーンヘンジのように彼女を囲った。これが防壁である。

「どうよ、紫電? 言っておくけどこの岩は地面と繋がっているから、おまえの電霊放を当てても地面に流してしまう……」

 はずだった。
 しかし紫電・改が放った紫色の電霊放は、その岩を砕いたのだ。

「な……? こんな馬鹿なことが、いいえあり得ない……! 私は今まで何度も、電霊放をこれで止めたことがある! だから起こるはずがない!」
「言い忘れたがよ、俺は常に常識を覆すことを意識してるぜ? それがお前の中の当たり前ごと、岩を破壊しただけだ」
「クッ……! まあ攻撃については一般より優れていることにしといてやるわ。でも防御はどうかしら?」

 今度は攻めの姿勢に転じる冥佳。地面に穴が開き、そこから岩石が紫電・改目掛けて飛んだ。これに対し彼は、ダウジングロッドで防御を試みる。

「そんな貧弱なもので、防げるわけ……」

 ダウジングロッドと岩石が衝突した時、岩の方が一方的に砕け散ったのだ。

「え………?」

 この瞬間、勝負は決した。これは過言ではない。冥佳の礫岩では、紫電・改の紫色の電霊放を防ぐことはできない。あちらの守りを崩すことも不可能。

「さあどうだ? まだ俺の方が、分が悪いって?」
「……うるさい! 今から私が勝つ! おまえは黙って這いつくばってるがいいわ!」
「言うぜ……」

 地面が揺れ始めた。礫岩はその気になれば小規模の地震を起こすこともできる。だからこれは冥佳が引き起こした揺れだ。同時に鋭く尖った岩石が大量に、地面から飛び出て紫電・改へ伸びる。

「力押しで来たな? 相当追い詰められている証拠だぜ。そして俺が、優位に立てていることの証左!」

 一気にカタをつける。
 紫電・改はロッドの片方を冥佳に向け、もう片方は迫りくる岩石に向けた。

「くらえ! これが俺の、電霊放だ!」

 そして左右で同時に電霊放を撃った。左の稲妻は岩石をバラバラにして砂利に変え、右の閃きは冥佳の体に伸びた。

「ああ、うっ!」

 そう言うと冥佳の全身は痺れ、立っていられずに倒れた。

「すごい……」

 この戦い、数分にも満たない。その刹那の交わりの中で雪女は、紫電・改の強さを目の当たりにした。

「紫色の電霊放……。私が名付けるよ。あれは、暗黒(あんこく)電霊放(でんれいほう)だ。暗い闇を貫く、紫電専用の雷だよ」
「いい響きだな。気に入ったぜ、雪女!」

 同時にあることを彼女は考えた。

(兄さん、天国から見てる? やっぱり兄さんの作った霊鬼は、何も間違ってはいなかったんだ。戦争に使われたことは悲劇だったけど、こうしてちゃんと使いこなせる人はこの世にいて、彼は正式な勝負に霊鬼を持ち込める人なんだ……)

 この勝負を見ていたのは、雪女だけではない。

「おいおい冥佳…。あれだけ粋がっていたのに、この様か? 無様でござるな」

 木の陰からその、ちょんまげの男が現れた。彼は倒れた冥佳に駆け寄ると、肩を貸して彼女を立たせ、ベンチまで運んだ。

「今のは何かの間違いよ! 私が電霊放なんかに負けるわけがない! おまえがよく知ってるでしょう! 訂正して!」
「無理で候。紫電の電霊放にたった今負けたヤツがほざくセリフではないでござる」
「誰だお前は?」

 紫電・改に指摘され彼は、

「拙者は、東花(ひがしばな)琥珀(こはく)でござる。いつもは四人……空蝉、向日葵そしてこの冥佳と行動している者で候。さらに言えば、貴殿の最後の対戦相手でござるよ」

 彼がこの場に居合わせた理由は簡単だ。
 仲間の顔に塗られた泥を拭きに来た。紫電・改の敗北で、だ。だから先に冥佳を向かわせ、自身は木陰に隠れて様子を見て弱点を探ったのだ。

「まあ個人的には、紫電! 貴殿とは一度手合わせをしてみたいと思っていたで候」

 理由は簡単だ。琥珀は山口県出身兼在住で、西日本では電霊放の使い手で有名。対して紫電・改は青森県に住んでおり、東日本ではその手腕に意を唱える者はいない。
 これは、電霊放の名手、そのプライドをかけた戦いなのだ。

「貴殿の持つ、稲妻の代名詞……その称号をいただきに来たのでござる!」
「おお、それは熱いな!」

 本州東西の電霊放使いが、ここにそろった。

「一つ事実を述べると……。実は拙者、貴殿と手合わせるのが怖くなったでござる。拙者は霊障の相性の都合上、冥佳には勝てないで候。それは貴殿も同じことのはず。が、今それを目の前で覆された………」

 だから、相手の方が自分よりも上ではないかと思うのだ。しかしそれは、とある感情も同時にもたらしてくれる。

「なのだが、そんな相手に勝つことができれば、拙者の実力を轟かせることに繋がるのは間違いないでござる。経験値も莫大だ、これはもう戦うしかないでござるのだ!」

 やる気だ。琥珀の目には闘志の炎が燃えている。

「それは俺もだぜ」

 紫電・改も頷いたので、誰も文句はない。二人の戦いも、すぐに幕を開ける。
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