第10話 二色の結末 その2

文字数 2,305文字

「マズいぞ、これでは!」

 琥珀に肩を貸されて立ち上がれた長治郎が言った。今の状況は誰がどう見ても、贔屓目があっても不利である。

「やはり助け舟を出すべきでござろう。皆の衆もそう思うで候?」

 琥珀の発言に空蝉や向日葵、冥佳が頷く。いいや彼女らだけではない。香恵や雪女、絵美、刹那、雛臥、骸も。

「見てるだけなんて、できないぜ! 緑祁、紫電! 今助けに……」

 骸が先陣を切ろうと近づいた時、犠霊を中心とした結界が出現し彼はそれに弾かれたのだ。

「何だこれ? 入れないぞ? 見えない壁がある!」

 空蝉が手を合わせて応声虫を発動してみたが、霊障すらも遮断されてしまっている。

「だから、非常にマズいって言ってるんだ! 犠霊ってのは事例が少なくて、まだ習性がよくわかってない。こんなことができるなんて、俺すら知らない……」

 長治郎がそう言うと、みんな悟る。
 緑祁と紫電・改の、犠霊との戦いを黙って見ているしかないと。

「……被害を最小限に抑えろ! 空蝉、琥珀、お前らは向こうに行け! 冥佳、向日葵! お前らはあっちだ!」

 こうなってしまっては、できることは一般人や島の施設に被害が出ないよう動くことだけ。

「緑祁……」

 香恵が心配そうに胸に手を合わせながら、結界の中を見た。それに対し雪女が彼女に駆け寄り、

「大丈夫だよ」

 と励ます。

「紫電は強い。そして彼と渡り合える緑祁も。だから二人が手を合わせたのなら、どんな困難も突破できる」
「それはわかっているわ。でも……」

 何もしてやれない自分が、一番悔しいのだ。


 結界の中で戦う緑祁と紫電・改は、既にボロボロだった。犠霊は複雑な霊障を使ってこないがその分、素の力がある。人間では抵抗するのが難しいぐらいに強い。

「大丈夫か、緑祁?」
「息はできてるよ…」

 負傷している状態でも緑祁は紫電・改の前に立っている。犠霊を倒せるのは自分じゃなくて彼であることを理解し、それが行動に表れているのだ。

「もっと協力しないと駄目っぽいぜ、緑祁」
「と言うと、僕は何をすればいいの?」

 紫電・改はトランジスタを緑祁に渡した。

「これには俺が予め霊力を込めておいた。さっきお前を騙した時に使ったのと同じだ。多分犠霊は何度電霊放を叩き込んでも再生するが、その間のほんの数秒! 体が崩れてから再生するまでのわずかな時間! 負傷部に一撃加えられれば、話は違うかもしれない」

 これを緑祁に渡したということは、紫電・改は高威力の電霊放を連続で撃ちこむことができないことを意味している。

「わかったよ、紫電! そっちは電霊放に集中して! 僕が一気に近づいて、トドメを刺す!」
「頼むぞ? きっと勝負はその一瞬だけだ。そして一度しかないと思う!」

 難しい課題だが、逃げるわけにはいかない。二人とも迷わず、倒すことを選んだ。

「それよりもお前、あの犠霊に近づく方法は……ああ、あるか」
「それでいくよ。紫電こそ、犠霊に邪魔されずに電霊放を撃てる?」
「もちろんだ」

 二人は分かれた。当然犠霊は紫電・改のことを狙う。口からまた、生物を殺せるガスを吐き出した。

「うるせえぞ、コイツ!」

 電霊放を撃った。口元にびっしりと並ぶ歯をへし折ったが、すぐに再生して増える。でも痛みは届けられたらしく、のたうつ犠霊。

「よ、よし! 右のロッドで貯めつつ、左で攻撃だ!」

 幸いにも迫りくる爪は、電霊放で破壊できなくはない。だから紫電・改は電撃を撃ち出すことで攻撃しつつ防御もする。
 一方の緑祁は、タイミングを見計らっていた。

(やっぱり今の状況だと、紫電が大きい電霊放を撃てるチャンスがなさそうだ。だったら僕は!)

 やるべきことはやはり陽動だ。

「いけぇえ!」

 台風と火災旋風を同時に撃ち込んだ。先ほどは爪を振っただけでかき消されたが、今の犠霊は彼の方を向いていない。

(着弾点は、同じ場所だ!)

 しかも台風と火災旋風は、犠霊のわき腹を目指して進んでいるが、このままだと二つはぶつかる。

(それがいいんだよ! 炎と水、その二つがぶつかった時! 霊障合体を!)

 そして緑祁の目論見通り、犠霊のわき腹に台風と火災旋風が迫る。ぶつかる直前、その二つは重なり合った。

「熱い炎に水が加えられれば、体積が大きくなる! 水蒸気爆発だ!」

 爆ぜた。

「グワアアオオアアアウウウウン!」

 犠霊が態勢を崩し大声で泣いた。それほどに今の爆発は衝撃が大きかった。

「今だ!」

 このタイミングで紫電・改は暗黒電霊放を撃ちこむ。のけ反っている犠霊はそれを防げない。胴体に直撃する。

「グパッシャアアアアン!」

 犠霊の体の一部が弾け飛んだ。

「まだだ! まだ撃ち続けろ、俺!」

 紫の稲妻は途中で色が変わり、元の青白い閃光に戻ってしまった。でも紫電は電霊放をやめない。

「今だ、緑祁!」
「任せて!」

 その合図を聞いて、緑祁は後ろを向いてその場で鉄砲水と鬼火を駆使しそれぞれの球体を作り出す。その二つを合わせて目の前で水蒸気爆発を起こし、同時にジャンプする。爆風に乗って一気に犠霊の胴体まで吹き飛ばされる。

「終わりだぁあああああ!」

 紫電から受け取ったトランジスタを握りしめ、渾身の拳の一撃を犠霊の崩れた部分に炸裂させた。

「ギギギ、ギバファアアアアアア……ン」

 緑祁が攻撃した部分から犠霊の全身に、ヒビが生じる。そして次の瞬間に、体が砕け散った。

「よ、よし! 決まったよ!」
「どうだ犠霊! 俺のライバルが一番強いんだぜ?」

 再生はしない。どうやら一度に全身を破壊されると、再生すらもできないようだ。
 思わぬアクシデントであったが、二人は立派に戦い役目を全うした。見事に犠霊をこの世から、この島から葬ってやったのだ。
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