第2話 初戦 その3
文字数 3,142文字
「紫電。キミのことは知っているぞ。電霊放で有名だ」
「そうか」
勝雅は耳にしたことがあった。青森に住んでいる、電霊放の名手。その名前を。
「一度、キミと戦ってみたいと思っていたんだ。それがもう叶うとは思ってなかった」
「でも俺は、お前のことは知ってなかったぜ?」
そうだ。勝雅の霊障は電霊放ではない。
「ま、そんなことはいい。俺たちの前に立ちふさがると言うんなら、突破するまでだぜ!」
「かかってきな、紫電! 言っておくけどオレには勝てない!」
言葉と同時に、地面が動いた。礫岩だ。
(チッ! これは厄介だぜ……)
霊障の性質上、相性が悪い。電霊放は礫岩には通らない。すぐに拡散してしまうためである。
だが紫電がやるべきことはただ一つ。それは勝雅を狙い撃つだけ。
「くらえ!」
ダウジングロッドを構えて電霊放を撃った。
「おおっ! ししし痺れる!」
当たった。でも浅い。足場が不安定だったから、胴体に当てられなかった。足に命中したのだが、すぐに地面に電気を逃がされる。
また、大地が動く。地割れだ。裂けた地面が紫電を飲み込もうとした。
「ぐっ!」
その時彼はジャンプした。だがその着地地点に礫岩で生じた鋭い岩が生える。
「ああ、ぐわ!」
それを避けられず、ぶつかった。かなりの痛みで、倒れた。
(で、でもまだ、体から力は抜けてねえ! まだ戦えるぜ!)
地面が動き出す前に立ち上がらなければいけない。そう思って手で地面を突いたが、
「む、虫……?」
こんな季節に、虫がいる。それもカメムシとか冬でも見かけるタイプではなく、熱帯にいそうなオオムカデやサソリ、タランチュラだ。
「応声虫か、お前の霊障! 礫岩の他にも持ってやがったな!」
「そう! そしてキミはオレとの相性が最悪だ」
「言ってろ! ここから逆転してやるぜ!」
「どうかな?」
紫電はその虫に電霊放を撃った。電撃をくらった虫は焼け焦げ体が崩壊するはずだ。
しかしその虫は、何ともない。ピンピンしているのだ。
「これは、ただの応声虫ではない……?」
「その通り。ネタバレしてしまうがこれは礫岩と応声虫の霊障合体である、土虫 なのさ」
礫岩で作り出した応声虫の虫。それが土虫だ。礫岩の、電霊放が効かない性質を持っている。
その虫が、紫電の手に牙や針を突き刺した。
「痛ってええ!」
肉をえぐる虫の牙。骨まで露出しそうだ。
(でもこんな痛みに、悲鳴を一々上げてられっかよ! 俺を負かせられるのは、緑祁だけだぜ! こんな馬の骨どころかその辺の虫程度の奴には、負けねえ!)
痛みを闘志に昇華させる。
「うおおおおお!」
瞬時に立ち上がると、ロッドを構える。
「無駄だ! キミの電霊放のことは知っている。曲げられないんだろう? オレの礫岩の方が速い。賭けてもいいぞ。直線の軌道を潰してしまえば、電霊放がオレを襲うことはないんだ」
情報戦で見ると、紫電は負けている。
(俺が不利か……)
しかし今、勝雅の情報も出そろった。
(いいや違う! 勝利への道を見い出せれば、俺が勝つ!)
周囲には、土虫のチョウやハチ、トンボが飛んでいる。これらはきっと紫電が電霊放を撃った時に、自ら突っ込んで無効化するのだろう。
「やるべきことは一つだけだぜ!」
ならば、礫岩に邪魔されない距離……直流しだ。そう決めたので紫電は走る。
「来るか!」
勝雅はその行動を見て、すぐさま紫電が何を企んでいるのかを察知。
「させない!」
近寄らせない。土虫を駆使し、紫電のことを襲わせる。トンボが一匹、彼の耳に噛みついた。ハチは手を刺し、チョウは視界を遮る。ムカデ、サソリ、タランチュラは足に引っ付いて刺す。
「っ……!」
歯を食いしばって痛みに耐える。土虫の欠点は、致命傷を与えにくい点だ。虫に襲われても諦めず前進してくる紫電に勝雅は焦りを感じ、
「こうなったら、礫岩で!」
早急に潰すことを決意。地面が彼の合図一つで動き、尖った岩まで出現した。
「おおおお!」
紫電からすると、このチャンスは逃せない。ここで逃げられたら多分、いや絶対に負ける。もう自分の体が傷つくこと前提で踏み出す。
「で、電霊放!」
がむしゃらに撃った。そのランダムな軌道の稲妻は、土虫や岩にぶつかって無効化される。
「やけを起こしたか、紫電!」
「違うぜ。俺は至って真面目だ」
今の電霊放は意味がない行為。勝雅はそう判断する。だが紫電からすれば、
「土虫はそういう風に動いているのか、わかったぜ!」
道が見えた。
「何だと、これでもまだ勝負を諦めないか!」
紫電が勝負を仕掛けてくることが、今の発言でわかった。
(焦らせるな! あのダウジングロッドにさえ気をつけていれば、怖くはない。行け、土虫!)
これでロッドの延長線上は潰した。だが今、勝雅はそれをすべきではなかった。紫電が迂闊な発言をするか、それを疑問に思うべきだったのだ。
「そこだ!」
紫電の口が開いた。と思ったら奥歯が光ってそこから電撃が飛んだ。
「え?」
一撃。その一発が勝雅を貫いた時、彼は何をされたのかわかってなかった。ただ自分の体が白く光ったと思ったら、急にそのオーラが消えた。同時に勝手に体が崩れ闘志が無くなってしまう。
「奥の手は、基本的に教えてねえからな。その前情報、知らなかっただろう?」
紫電の奥歯は銀歯になっている。そこからでも電霊放を撃てるのだ。
進市、苑子、勝雅はほぼ同時に負けた。
「ひえぇ~、御朱印を一個ももらえずに敗退とは……」
運が悪かったとしか思えない。一応閃光寺の住職は御朱印をくれたのだが、負けたために意味がなくなった。
「そんなことはないと思うわ」
そう言ったのは、香恵だ。彼女は緑祁たちの傷を治すと、進市たちの怪我の手当てもしてくれる。幸いにも決闘の杯のおかげで地名的な怪我はしていないが、それでも念のために見てくれたのだ。
「どういう意味? 嫌味?」
「違うわよ。確かに初戦で負けて終わってしまったことは残念だわ。でもこの経験から何か、生まれなかったの?」
「そりゃ、次こそは勝ちたいさ」
勝雅が答えると、
「それよ。その、諦めない心だけは捨てないで。きっと今よりも上の世界に連れて行ってくれるはずだから!」
この励ましがとてもありがたかった。おかげで進市たちは、悪い気持ちを抱くことなく家に帰れる。
「さて、アイツらの手当てが済んだんならよ。香恵、もう出発だぜ?」
「わかってるわ」
ここでグズグズしていると、第二第三のチームと鉢合わせしそうだ。緑祁たちはすぐさま閃光寺を出て海神寺を目指した。
海神寺を目指して電車に乗っている最中、香恵はタブレット端末を見ていた。
「私たちの順位は、まだそこまで高くはないようね」
トップは未だに皇の四つ子たち。彼女たちはもうチェックポイントを三つ、通過している。
「僕たちは僕たちのペースで行こう。それに今日中に海神寺に行って、それから島根、鳥取と回れば三つはチェックポイントを通過できる!」
「そうだな。焦っても意味はねえぜ。何が起きるかわからねえんだから、着実堅実にいく」
狙うは優勝。それが無理でも十位以内なら賞金が出る。十一位以降でもゴールすることに意味はあるのだ。
(僕は、レースには負けてもいいと思ってるよ、紫電。富嶽さんは言ってたんだ。このレースの意味。それは鍛錬。自分が次のレベルに到達できるんなら、たとえ負けても無駄じゃないんだ!)
その考えはネガティブそうだが実はポジティブだ。
(俺たちがどこまで行けるのか……緑祁と組んで誰まで倒せるのか! それを知りたいぜ)
紫電もこのレース、修行だと思っている。その熱は雪女や香恵にも伝わっていて、
「とりあえずさ、初勝利を祝おうよ。熱が冷めないうちに」
ここでさらなる士気の向上を図ったのである。
「そうか」
勝雅は耳にしたことがあった。青森に住んでいる、電霊放の名手。その名前を。
「一度、キミと戦ってみたいと思っていたんだ。それがもう叶うとは思ってなかった」
「でも俺は、お前のことは知ってなかったぜ?」
そうだ。勝雅の霊障は電霊放ではない。
「ま、そんなことはいい。俺たちの前に立ちふさがると言うんなら、突破するまでだぜ!」
「かかってきな、紫電! 言っておくけどオレには勝てない!」
言葉と同時に、地面が動いた。礫岩だ。
(チッ! これは厄介だぜ……)
霊障の性質上、相性が悪い。電霊放は礫岩には通らない。すぐに拡散してしまうためである。
だが紫電がやるべきことはただ一つ。それは勝雅を狙い撃つだけ。
「くらえ!」
ダウジングロッドを構えて電霊放を撃った。
「おおっ! ししし痺れる!」
当たった。でも浅い。足場が不安定だったから、胴体に当てられなかった。足に命中したのだが、すぐに地面に電気を逃がされる。
また、大地が動く。地割れだ。裂けた地面が紫電を飲み込もうとした。
「ぐっ!」
その時彼はジャンプした。だがその着地地点に礫岩で生じた鋭い岩が生える。
「ああ、ぐわ!」
それを避けられず、ぶつかった。かなりの痛みで、倒れた。
(で、でもまだ、体から力は抜けてねえ! まだ戦えるぜ!)
地面が動き出す前に立ち上がらなければいけない。そう思って手で地面を突いたが、
「む、虫……?」
こんな季節に、虫がいる。それもカメムシとか冬でも見かけるタイプではなく、熱帯にいそうなオオムカデやサソリ、タランチュラだ。
「応声虫か、お前の霊障! 礫岩の他にも持ってやがったな!」
「そう! そしてキミはオレとの相性が最悪だ」
「言ってろ! ここから逆転してやるぜ!」
「どうかな?」
紫電はその虫に電霊放を撃った。電撃をくらった虫は焼け焦げ体が崩壊するはずだ。
しかしその虫は、何ともない。ピンピンしているのだ。
「これは、ただの応声虫ではない……?」
「その通り。ネタバレしてしまうがこれは礫岩と応声虫の霊障合体である、
礫岩で作り出した応声虫の虫。それが土虫だ。礫岩の、電霊放が効かない性質を持っている。
その虫が、紫電の手に牙や針を突き刺した。
「痛ってええ!」
肉をえぐる虫の牙。骨まで露出しそうだ。
(でもこんな痛みに、悲鳴を一々上げてられっかよ! 俺を負かせられるのは、緑祁だけだぜ! こんな馬の骨どころかその辺の虫程度の奴には、負けねえ!)
痛みを闘志に昇華させる。
「うおおおおお!」
瞬時に立ち上がると、ロッドを構える。
「無駄だ! キミの電霊放のことは知っている。曲げられないんだろう? オレの礫岩の方が速い。賭けてもいいぞ。直線の軌道を潰してしまえば、電霊放がオレを襲うことはないんだ」
情報戦で見ると、紫電は負けている。
(俺が不利か……)
しかし今、勝雅の情報も出そろった。
(いいや違う! 勝利への道を見い出せれば、俺が勝つ!)
周囲には、土虫のチョウやハチ、トンボが飛んでいる。これらはきっと紫電が電霊放を撃った時に、自ら突っ込んで無効化するのだろう。
「やるべきことは一つだけだぜ!」
ならば、礫岩に邪魔されない距離……直流しだ。そう決めたので紫電は走る。
「来るか!」
勝雅はその行動を見て、すぐさま紫電が何を企んでいるのかを察知。
「させない!」
近寄らせない。土虫を駆使し、紫電のことを襲わせる。トンボが一匹、彼の耳に噛みついた。ハチは手を刺し、チョウは視界を遮る。ムカデ、サソリ、タランチュラは足に引っ付いて刺す。
「っ……!」
歯を食いしばって痛みに耐える。土虫の欠点は、致命傷を与えにくい点だ。虫に襲われても諦めず前進してくる紫電に勝雅は焦りを感じ、
「こうなったら、礫岩で!」
早急に潰すことを決意。地面が彼の合図一つで動き、尖った岩まで出現した。
「おおおお!」
紫電からすると、このチャンスは逃せない。ここで逃げられたら多分、いや絶対に負ける。もう自分の体が傷つくこと前提で踏み出す。
「で、電霊放!」
がむしゃらに撃った。そのランダムな軌道の稲妻は、土虫や岩にぶつかって無効化される。
「やけを起こしたか、紫電!」
「違うぜ。俺は至って真面目だ」
今の電霊放は意味がない行為。勝雅はそう判断する。だが紫電からすれば、
「土虫はそういう風に動いているのか、わかったぜ!」
道が見えた。
「何だと、これでもまだ勝負を諦めないか!」
紫電が勝負を仕掛けてくることが、今の発言でわかった。
(焦らせるな! あのダウジングロッドにさえ気をつけていれば、怖くはない。行け、土虫!)
これでロッドの延長線上は潰した。だが今、勝雅はそれをすべきではなかった。紫電が迂闊な発言をするか、それを疑問に思うべきだったのだ。
「そこだ!」
紫電の口が開いた。と思ったら奥歯が光ってそこから電撃が飛んだ。
「え?」
一撃。その一発が勝雅を貫いた時、彼は何をされたのかわかってなかった。ただ自分の体が白く光ったと思ったら、急にそのオーラが消えた。同時に勝手に体が崩れ闘志が無くなってしまう。
「奥の手は、基本的に教えてねえからな。その前情報、知らなかっただろう?」
紫電の奥歯は銀歯になっている。そこからでも電霊放を撃てるのだ。
進市、苑子、勝雅はほぼ同時に負けた。
「ひえぇ~、御朱印を一個ももらえずに敗退とは……」
運が悪かったとしか思えない。一応閃光寺の住職は御朱印をくれたのだが、負けたために意味がなくなった。
「そんなことはないと思うわ」
そう言ったのは、香恵だ。彼女は緑祁たちの傷を治すと、進市たちの怪我の手当てもしてくれる。幸いにも決闘の杯のおかげで地名的な怪我はしていないが、それでも念のために見てくれたのだ。
「どういう意味? 嫌味?」
「違うわよ。確かに初戦で負けて終わってしまったことは残念だわ。でもこの経験から何か、生まれなかったの?」
「そりゃ、次こそは勝ちたいさ」
勝雅が答えると、
「それよ。その、諦めない心だけは捨てないで。きっと今よりも上の世界に連れて行ってくれるはずだから!」
この励ましがとてもありがたかった。おかげで進市たちは、悪い気持ちを抱くことなく家に帰れる。
「さて、アイツらの手当てが済んだんならよ。香恵、もう出発だぜ?」
「わかってるわ」
ここでグズグズしていると、第二第三のチームと鉢合わせしそうだ。緑祁たちはすぐさま閃光寺を出て海神寺を目指した。
海神寺を目指して電車に乗っている最中、香恵はタブレット端末を見ていた。
「私たちの順位は、まだそこまで高くはないようね」
トップは未だに皇の四つ子たち。彼女たちはもうチェックポイントを三つ、通過している。
「僕たちは僕たちのペースで行こう。それに今日中に海神寺に行って、それから島根、鳥取と回れば三つはチェックポイントを通過できる!」
「そうだな。焦っても意味はねえぜ。何が起きるかわからねえんだから、着実堅実にいく」
狙うは優勝。それが無理でも十位以内なら賞金が出る。十一位以降でもゴールすることに意味はあるのだ。
(僕は、レースには負けてもいいと思ってるよ、紫電。富嶽さんは言ってたんだ。このレースの意味。それは鍛錬。自分が次のレベルに到達できるんなら、たとえ負けても無駄じゃないんだ!)
その考えはネガティブそうだが実はポジティブだ。
(俺たちがどこまで行けるのか……緑祁と組んで誰まで倒せるのか! それを知りたいぜ)
紫電もこのレース、修行だと思っている。その熱は雪女や香恵にも伝わっていて、
「とりあえずさ、初勝利を祝おうよ。熱が冷めないうちに」
ここでさらなる士気の向上を図ったのである。