第2話 初戦 その1

文字数 3,120文字

 午後六時を過ぎたら、ついに発表される。どこの寺院、神社、教会に行けばいいのかが。この山口のその四か所は、平家(へいけ)大社(たいしゃ)蝦蛄(しゃこ)(ぐう)海西(かいせい)教会(きょうかい)閃光寺(せんこうじ)である。

「見事に全部、聞いたことがねえぞ……」

 青森に住む紫電からすると、名前を言われてもピンとこない。

「待って大まかな地図が」

 流石の【神代】も、そういう人たちのための配慮をしてくれていた。だいたいどの辺にあるのか、その地図がデータベースに表示されている。これを頼りに動けばいい。

「で、どこに行く?」

 一番近いのは、平家大社。集合地点である壇ノ浦から、バス一本で行ける場所。しかしそこには必然的に、多くの霊能力者が集まる。

「ささっと済むならみんなここを選ぶよね……」
「そうね。レースってことは一番乗りが優勝。ここに長く留まる理由はないわ」

 しかし緑祁と香恵は、平家大社に行くのは反対だ。強い霊能力者といきなり遭遇し、脱落したら笑えない。

「私もそこには行きたくないね。熱くなりそうだから…」

 雪女もその意見に賛成。混戦になると、それだけ脱落のリスクが高くなる。

「なら、この閃光寺にしないか?」

 閃光寺は、言ってしまえばここから一番離れた場所にある。具体的には、屋代島の西側だ。この距離だと、おそらく今日はこれ以上の移動ができない。

「でもここは広島に近いから、そこから広島のチェックポイントの海神寺に行きやすくなる。俺は海神寺に行ったことあるから、ここだけは土地勘があるぞ、どうだ?」

 だが通ってしまえば次のチェックポイントにはすぐに行ける場所。

「どのみちこの山口からは出ないといけないわ、そこにしましょう」

 香恵が賛成したので、緑祁も雪女も異論はない。そうと決まれば一向は新下関駅から山陽本線の電車に乗り、移動を開始した。座席は二人掛けの席が向かい合っているので、そこに四人で座る。

「基本的な戦術を決めておこうぜ」

 移動の時間がもったいないと感じた紫電は、作戦会議を始めた。

「俺、緑祁、雪女が表立って戦おう。香恵は戦闘が始まったら、隠れる。相手を倒したら、香恵に治してもらう」

 戦闘向きの霊障を持っていない香恵は戦いには参加せず、三人が勝負をするのだ。

「でも、隠れられなかったら私はどうすればいいの?」
「緑祁が男を見せて全力で守るはずだ」
「任せてよ!」
「なら、最初からそれでいいわ」
「紫電、相手が四人だった場合はどうする?」

 雪女が聞いた。一人が回復役のこのチームでは、必然的に戦闘人員が三人で止まる。

「その場合は、そうだな……。強引に三対四の形に引きずり込もう。香恵さえ無事なら、誰も脱落することはないはずだ」

 だから、移動にもできるだけ気を配る。歩く時は三人で香恵を囲む。今も気配を感じていないか、周囲の雰囲気を読み取っている。

「大丈夫だ、少なくともこの電車に霊能力者は乗っていない」
「なら、僕たちが最初に閃光寺に着けるんじゃない?」

 時間的に、この電車に乗っていなければ鉢合わせることはないという考え。しかしそれは甘く、

「見て、緑祁」

 香恵がタブレット端末の画面を見せる。そこにはもう既に、このレースの順位が。

「皇の四つ子? もう山口の御朱印を手に入れたの? で、もう広島の神社を目指してるって?」

 今時計を見たが、まだ八時半。二時間と三十分で、もうクリアしたのだ。しかも皇の四つ子は受付の係が終わってからの参戦のはずなので、始まった時点では最下位である。

「場所は平家大社みたいよ。これを考えるに、遠くだから安全とは言えないわ。私たちは電車だけど、自動車や船で移動する人たちだっているはずよ。油断はしないで」
「そうだね、改めないと!」
「頼むぜ、緑祁?」

 大丈夫だと、頷いて答えた。
 電車は大畠駅に到着。ここから徒歩か車で大島大橋を渡るのだが、

「ゲッ! 終電過ぎてる!」

 バスに乗ろうと思っていた一同に衝撃が走る。車なら四分程度だが、歩けば四十分かかる。

「どうする? タクシーもあんまり走ってないよ?」

 雪女は、大島大橋を指差した。既に空は真っ暗で、橋に立つ街灯だけが光を放っている状態。

「朝まで待とうか? ホテルなら付近にありそうだし……」
「いや! 行く!」

 だが紫電は妥協しない。行く気満々だ。

「【神代】の話が正しいんなら、閃光寺に宿泊できるはずだ。今行くのと明日行くのでは、微々たる差だが違う」

 付近を見回すと香恵も、

「ええ、そうね。今なら他の霊能力者もいないわ」

 今なら、安全に橋を渡れる。

「なら、行こう!」

 緑祁も賛成し、時間はかかるが進むことに。

「先頭は紫電、君に任せるよ」
「ああ!」

 先陣を切るのは、紫電だ。その後ろを香恵が歩き、彼女の横に緑祁と雪女がいる。

「君とは全然話したことないよね? この際だから色々聞きたいな」
「いいわよ?」

 女子同士、話が盛り上がっている。それがこの暗い橋に活気を与え、足取りも速くなる。

「見ろ緑祁! 陸地だ! 渡り切ったぞ!」

 目論見通り、安全に渡れた。

「でも、結構疲れたよ……。閃光寺はまだかい?」
「もうちょいだ」

 そのまま道なりに進むと、見えてくる。

「ここね」

 地図アプリで確認しても間違いない。

「ごめんください」

 こんな夜分にとは承知の上だが、訪問する。

「おや? もしかして、大会出場者ですかな?」
「はい」
「おおお! もう来るとは! 今日中には誰も来ないとばかり……。さ、早速御朱印を」

 住職の発言から、紫電たち以外には誰もいないことがわかった。

「その前に、飯と風呂! あるよな?」
「すぐに準備しよう」

 客間に案内された。部屋は二部屋で、紫電と緑祁、香恵と雪女の組み合わせ。四人は手帳を開き、御朱印をもらった。この旅で一つ目……その第一歩となる最初の印だ。

「やったぁ!」

 嬉しそうにガッツポーズをする緑祁。香恵も笑顔で彼とハイタッチする。

「今日は泊りたいんですけど、いいですか?」
「是非とも! 布団を運ぼう」

 今日はここで寝泊まりすることに。

「あの、住職さん、一つお願いがあります」
「何だい?」
「他の人が来たら、すぐに教えてください」
「わかっているよ」

 雪女が心配したので尋ねたが、大丈夫そうだ。安心してこの日を終えることができた。


 ことが動いたのは、次の日の朝だ。

「むっ!」

 反応したのは紫電。

「どうかした?」

 朝食の最中だった。

「誰かが来ている!」

 昨日の内に、この閃光寺を囲むように電池を配置し、それで簡単な結界を作っていたのだ。霊能力者が侵入したらすぐにわかるように。
 そのことを三人に説明すると、

「じゃあ、行こう。その相手を倒しに!」

 みんな箸をおいて外に出る。

「ごめんくださーい! 閃光寺の住職さーん?」
「朝っぱらから大声を出すな、進市」
「でも! まだ起きてないかもしれないじゃん坊さんが!」
「いいや起きてるでしょ。こんな時間まで寝てたら住職失格じゃないの?」

 この、萬屋(よろずや)進市(しんいち)舞鶴(まいづる)勝雅(しょうが)式部(しきぶ)苑子(そのこ)のチームが早朝に閃光寺を訪ねてきたのだ。彼らは初日に移動し、朝になってから訪問することを選んだ。出発地点から遠いこの閃光寺なら、ライバルがいないと踏んだのであったが、

「おい、あれを見ろ!」

 出てくる紫電たちを見ると、その考えの甘さに気づかされた。

「相手は三人だけ?」
「ああ、俺の結界は誤魔化せねえよ。霊能力者ネットワークによると……勝雅、進市、苑子の三人だ」

 相手の人数が事前にわかっていたので、香恵だけは玄関先で隠れて待機。

「頑張って、三人とも……!」

 紫電、緑祁、雪女が表に出る。

「ほう、ここで会ったということは! 勝負だな!」

 勝雅たちもデータベースを確認して相手が誰だかを調べた。そして

(勝てる!)

 と自信を持ったから勝負を挑む。
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