第1話 密航の沈没船 その1
文字数 4,158文字
小岩井家の豪邸では、今晩はパーティが催されていた。今宵の主役は稲屋雪女。この豪邸において九月からメイドとして働く傍ら、小岩井紫電の勧めもあって看護学校を受験し、合格。さらに二月に誕生日もあるので、そのお祝いをいっぺんにしてしまうということである。
「……本当のいいんですか? 私はここでは、ただの使用人……。小岩井家の人ではないんですけど」
当の彼女は、やや困惑している様子だ。それもそのはずで、本来ならこの家に全く無関係の人物なのに、祝われているからである。
「いいんだよ。この屋敷で働く人はみんな家族! 私の父がそう言っていた。だから雪女さんも、実の娘のように思っている!」
しかしこの家の大黒柱である小岩井疾風は、是非ともみんなで祝うべきだと鶴の一声を出した。
「そう照れるなよ! これは雪女、お前が努力で勝ち取ったんだから! 素直になろうぜ!」
隣に座る紫電がそう言った。雪女を家に招いた張本人である。
本来雪女は、【神代】に認められた巡礼者だった。しかしそれでは生活は不安定。それを見かねた紫電が、ここで働くことを勧めたのである。雪女も『月見の会』以外の故郷と呼べる場所が欲しかったので、その助言を受け入れたのだ。
「それと、これ! プレゼントがあるぜ!」
紫電が持ち出したそれは、高級そうな箱。開けてみてくれと言われたので雪女は受け取って蓋を開くと、そこにはプラチナのネックレスが収められていた。
「受け取れないよ、流石にこんなものは……」
「そう言うなって! お前のためにみんなで選んだんだぜ? それに想像しているぐらいの高値はしてねえよ!」
この発言は全部嘘で、実際には紫電だけがジュエリーショップに足を運んで購入した、百二十万円の一品。雪の結晶を模したペンダントトップにはダイヤモンドの装飾が施されている。ちなみにこの金額は、彼のお小遣い六か月分に相当する。
「そう? じゃあ紫電、私につけてよ」
「ああ、いいぜ!」
そのネックレスを紫電は手に取り、雪女の首につけた。
「ありがとうね、紫電」
今度は紫電が照れる番だ。
「さてそれでは、今日は食べましょうね」
母である小岩井桜花がそう言うと、まず、
「雪女さんの新たなる門出、その幸福を祝って! 乾杯!」
挨拶をしてから、いただきますを言うと豪華な夕食を口に運び始める。疾風は同時にワインを飲み始めた。紫電と雪女はお酒には強い方だが、まだ飲まない。
「ねえ紫電……」
急に話を振る雪女。
「どうした?」
「きみは幸せ者だね。こんな優しい家族の元に生まれることができてさ」
雪女には、紫電が羨ましく思えるのだ。
同い年であるのに、紫電は医者の家に生まれかなりの金持ちだ。聞くに欲しいものは何でも買い与えられたという。そして学業にも困ったことはなく、現役で医学部に合格し、通っている。
対する雪女はどうだろうか? 『月見の会』は彼女が生まれた時点で既に廃村一歩手前の状態。しかも集落にはほとんど娯楽はなく、緑が豊かと言えば聞こえは悪くないかもしれないが立派な田舎であった。携帯電話が普及していることが奇跡であると思えるほどだ(しかも連絡手段の確保のためであって、文明度を上げるためですらない)。幼い頃から授業と称して畑仕事を手伝うことになったし、婚姻もほとんど相手が決まっているようなもので着飾ることすら廃れ、ファッションなんて縁がなかった。彼女も兄が集落にいなかったら、もっと早い段階で抜け出していただろう。
「そうか……?」
しかし幸せとは感じづらい概念だ。紫電にとってはそれが当たり前のこと。だから深く考えたことなどなかった。
「でもさ、今はお前も幸せだろう?」
紫電はそう言った。言われた雪女の表情は、にこやかだ。
「そうだね。私、この年齢になってやっと生きている意味がわかった気がするよ」
「深いな……。俺は未だにわかんねえぞ…」
「きみのは、医学に貢献するためでしょう? それか【神代】のために尽力すること」
「そりゃあそうだけどよ、でも」
ここで紫電、
「俺は【神代】に頼まれて仕事したこと、全然ねえんだぜ? 霊怪戦争は参加こそしたけど、戦わなかったし」
ややオーバーな表現だ。彼は【神代】の依頼をこなしたことは何度もある。でもそれは、【神代】直々の仕事ではない、ということだ。
「そもそも【神代】側が俺なんかに一々命じること自体、ねえと思うけどな」
「あるかもよ?」
と雪女が言った。
彼女は紫電の実力を知っている。まだ出会って半年も経っていないが、相当の強さを持っていると自信がある。
「そんな紫電にはさ、きっとこれから色々と仕事が舞い込んでくるでしょ? それもまた、羨ましいと思うんだ私は」
「その時は雪女、お前も一緒に従事しようぜ?」
「わかってるよ」
二人の会話を、家族や執事は誰も邪魔しない。恋人を見守るかのような温かい視線を送る。すると、それに気づいた紫電が、
「おい! 箸止まってるぞ! それにジロジロ見んなよ!」
注意をすれば、
「あ、こっちの魚を食べようと思ってて……」
みんなわざとらしく箸を動かし始めた。
パーティが終わったのは二時間後のことだ。紫電は雪女を連れて娯楽室に行き、そこで遊ぶことを提案する。
「ビリヤードにダーツ……。全然経験ないよ」
「大丈夫だって! 面白いんだなこれが!」
ルールを説明し、娯楽に興じる二人。
するとそこに、
「紫電様! 至急、ご連絡が!」
執事が何やら慌てて部屋のドアを開いた。
「どうしたんだ、汗だくで?」
「か、【神代】からの伝達です!」
「何だと?」
持ち込まれたタブレット端末には、その命令が表示されていた。
「依頼主は?」
「それが、【神代】本部としか……」
それはつまりいつもの斡旋された仕事ではなく、【神代】直々の任務であることを意味する。
「内容はどうなの、紫電?」
「ああ、開いてみるか……」
画面をタッチし、その内容を見る。
「招集命令。これを断ることはできない。小岩井紫電に命じる。次の期日までに、指定された場所へ……」
どうやら、何かしらの作戦が始まるらしい。
「こんなことは霊怪戦争以来だ」
とても珍しいことである。
「すぐに準備する! 雪女、お前もついて来い!」
「言われなくてもそのつもりだよ」
遊んでいる場合ではないことを察した二人は、すぐに身支度を整えて家を出る。執事の運転する車に乗り込んだ。
「どうやら下北半島の南あたりらしいな」
そこに、不審な船舶がある、との情報を【神代】は掴み付近にいる紫電を派遣することになったのだ。
「しかし、こんな簡単そうな仕事は何も今すぐにしろ、なんて言わなくても良さそうなんだがな…?」
だがそうできない事情が、【神代】にはある。
「問題はさ、急かす理由を教えてくれないところにあるんだね……」
隠蔽体質なのだろうか、【神代】は情報を出し渋る傾向がある。霊怪戦争の時もそうで、何がどうなっているのかは現地に赴いてから初めて知らされたほどだ。
「ま、大したことはねえだろうよ! 早く終わらせて帰って、ワイン飲もうぜ? 最後の最後って決めてんだよ酒は」
幸いにもまだ二人にはアルコールが回っていなかったので、すぐに現場に急行できた。
現場に着いた。正確には、二キロ手前で車を止めさせ、ここから歩いて行くのだ。
「では、ご武運を! 霊能力がない故に私はここでお待ちしております!」
周りには人気どころか建物すら全然ない。だから懐中電灯をつけて二人は進む。
「船舶と言うからには、海に何かあるんだろうな。雪女、泳げるか?」
「………山育ちだから、察して…」
これは『月見の会』のメンバー共通で、集落にはプールがなかったために全員カナヅチである。
「……二月の海で泳ぐことはしたくはねえな。寒いと泳げても死ねる」
防砂林をくぐり抜けると、もう海が目の前に臨める。
「……あれ、だな」
その、この世ならざる船は一発で見分けがついた。この時代に、帆船なのだ。しかもマストは曲がり帆もボロボロで、明らかに、
「幽霊船だね」
と言える一隻。
双眼鏡を覗き込んだ紫電。その穴だらけの帆に文字が書かれていることを発見した。
「スペイン語だな。スカル・リバイス号……か」
「知ってるの?」
「噂程度だが」
かつてコンキスタドールがいた時代、その船は一攫千金を夢見てスペインを出た。コルテスやピサロのようになりたかった人物が船長だ。
「名前は何ていったかな? その船長、大西洋どころか太平洋すらも横断して、日本に来ようとしたんだぜ? 黄金の国ジパングを信じて。略奪の限りを尽くす気満々で。でも確か、アメリカ大陸に到着する前に沈没したんだ。乗組員は全滅したから、沈んだ理由は今になってもわかってない」
「待って。コルテス、ピサロ? 誰それ? コンキスタドールって何語?」
「知らない? 『インディアスの破壊についての簡潔な報告』。家にも一冊あるぞ? 吐き気がするから読むのはおススメしねえけどよ」
雪女は中学の教科書以上の知識はない様子で、話を聞いていてもわかっていなさそうだった。だが、
「ということは、あれは、この世の船ではないことは確かだね?」
その重要な点は理解している。
浜辺まで来た二人。
「ボートとかないよな? どうやって乗船する?」
「こう」
雪女は雪の氷柱を海に撃ち込んだ。するとその部分が波を止めて凍った。その上に足を置いても、ヒビも入らない。
「大丈夫だよ、紫電。二人分の体重なら、私の雪の結晶で支えられる」
「お、おう!」
即席の氷の道を二人は進む。そしてスカル・リバイス号に近接した。
「でもどうやって甲板に登ろうか? 流石に雪の結晶では、梯子とかは作れないよ?」
「手間がかかる。これでいい!」
紫電はそう言うとダウジングロッドを取り出し、船目掛けて至近距離で電霊放を撃った。壁に人が通れるほどの穴が開いた。
「………」
キョトンとする雪女に、
「早くしろよな、置いて行くぞ?」
乗船を促す紫電。
「行くよ、今…」
こうして二人はこの幽霊船に乗り込んだ。
内部は、凄い状態だ。そこら中フジツボだらけで、さらに一部にはイソギンチャクも生えている。潮の匂いが酷い。
「俺は上の方を調べてくる。雪女、お前は下の、内部の奥だ」
「了解」
二手に分かれた。
「……本当のいいんですか? 私はここでは、ただの使用人……。小岩井家の人ではないんですけど」
当の彼女は、やや困惑している様子だ。それもそのはずで、本来ならこの家に全く無関係の人物なのに、祝われているからである。
「いいんだよ。この屋敷で働く人はみんな家族! 私の父がそう言っていた。だから雪女さんも、実の娘のように思っている!」
しかしこの家の大黒柱である小岩井疾風は、是非ともみんなで祝うべきだと鶴の一声を出した。
「そう照れるなよ! これは雪女、お前が努力で勝ち取ったんだから! 素直になろうぜ!」
隣に座る紫電がそう言った。雪女を家に招いた張本人である。
本来雪女は、【神代】に認められた巡礼者だった。しかしそれでは生活は不安定。それを見かねた紫電が、ここで働くことを勧めたのである。雪女も『月見の会』以外の故郷と呼べる場所が欲しかったので、その助言を受け入れたのだ。
「それと、これ! プレゼントがあるぜ!」
紫電が持ち出したそれは、高級そうな箱。開けてみてくれと言われたので雪女は受け取って蓋を開くと、そこにはプラチナのネックレスが収められていた。
「受け取れないよ、流石にこんなものは……」
「そう言うなって! お前のためにみんなで選んだんだぜ? それに想像しているぐらいの高値はしてねえよ!」
この発言は全部嘘で、実際には紫電だけがジュエリーショップに足を運んで購入した、百二十万円の一品。雪の結晶を模したペンダントトップにはダイヤモンドの装飾が施されている。ちなみにこの金額は、彼のお小遣い六か月分に相当する。
「そう? じゃあ紫電、私につけてよ」
「ああ、いいぜ!」
そのネックレスを紫電は手に取り、雪女の首につけた。
「ありがとうね、紫電」
今度は紫電が照れる番だ。
「さてそれでは、今日は食べましょうね」
母である小岩井桜花がそう言うと、まず、
「雪女さんの新たなる門出、その幸福を祝って! 乾杯!」
挨拶をしてから、いただきますを言うと豪華な夕食を口に運び始める。疾風は同時にワインを飲み始めた。紫電と雪女はお酒には強い方だが、まだ飲まない。
「ねえ紫電……」
急に話を振る雪女。
「どうした?」
「きみは幸せ者だね。こんな優しい家族の元に生まれることができてさ」
雪女には、紫電が羨ましく思えるのだ。
同い年であるのに、紫電は医者の家に生まれかなりの金持ちだ。聞くに欲しいものは何でも買い与えられたという。そして学業にも困ったことはなく、現役で医学部に合格し、通っている。
対する雪女はどうだろうか? 『月見の会』は彼女が生まれた時点で既に廃村一歩手前の状態。しかも集落にはほとんど娯楽はなく、緑が豊かと言えば聞こえは悪くないかもしれないが立派な田舎であった。携帯電話が普及していることが奇跡であると思えるほどだ(しかも連絡手段の確保のためであって、文明度を上げるためですらない)。幼い頃から授業と称して畑仕事を手伝うことになったし、婚姻もほとんど相手が決まっているようなもので着飾ることすら廃れ、ファッションなんて縁がなかった。彼女も兄が集落にいなかったら、もっと早い段階で抜け出していただろう。
「そうか……?」
しかし幸せとは感じづらい概念だ。紫電にとってはそれが当たり前のこと。だから深く考えたことなどなかった。
「でもさ、今はお前も幸せだろう?」
紫電はそう言った。言われた雪女の表情は、にこやかだ。
「そうだね。私、この年齢になってやっと生きている意味がわかった気がするよ」
「深いな……。俺は未だにわかんねえぞ…」
「きみのは、医学に貢献するためでしょう? それか【神代】のために尽力すること」
「そりゃあそうだけどよ、でも」
ここで紫電、
「俺は【神代】に頼まれて仕事したこと、全然ねえんだぜ? 霊怪戦争は参加こそしたけど、戦わなかったし」
ややオーバーな表現だ。彼は【神代】の依頼をこなしたことは何度もある。でもそれは、【神代】直々の仕事ではない、ということだ。
「そもそも【神代】側が俺なんかに一々命じること自体、ねえと思うけどな」
「あるかもよ?」
と雪女が言った。
彼女は紫電の実力を知っている。まだ出会って半年も経っていないが、相当の強さを持っていると自信がある。
「そんな紫電にはさ、きっとこれから色々と仕事が舞い込んでくるでしょ? それもまた、羨ましいと思うんだ私は」
「その時は雪女、お前も一緒に従事しようぜ?」
「わかってるよ」
二人の会話を、家族や執事は誰も邪魔しない。恋人を見守るかのような温かい視線を送る。すると、それに気づいた紫電が、
「おい! 箸止まってるぞ! それにジロジロ見んなよ!」
注意をすれば、
「あ、こっちの魚を食べようと思ってて……」
みんなわざとらしく箸を動かし始めた。
パーティが終わったのは二時間後のことだ。紫電は雪女を連れて娯楽室に行き、そこで遊ぶことを提案する。
「ビリヤードにダーツ……。全然経験ないよ」
「大丈夫だって! 面白いんだなこれが!」
ルールを説明し、娯楽に興じる二人。
するとそこに、
「紫電様! 至急、ご連絡が!」
執事が何やら慌てて部屋のドアを開いた。
「どうしたんだ、汗だくで?」
「か、【神代】からの伝達です!」
「何だと?」
持ち込まれたタブレット端末には、その命令が表示されていた。
「依頼主は?」
「それが、【神代】本部としか……」
それはつまりいつもの斡旋された仕事ではなく、【神代】直々の任務であることを意味する。
「内容はどうなの、紫電?」
「ああ、開いてみるか……」
画面をタッチし、その内容を見る。
「招集命令。これを断ることはできない。小岩井紫電に命じる。次の期日までに、指定された場所へ……」
どうやら、何かしらの作戦が始まるらしい。
「こんなことは霊怪戦争以来だ」
とても珍しいことである。
「すぐに準備する! 雪女、お前もついて来い!」
「言われなくてもそのつもりだよ」
遊んでいる場合ではないことを察した二人は、すぐに身支度を整えて家を出る。執事の運転する車に乗り込んだ。
「どうやら下北半島の南あたりらしいな」
そこに、不審な船舶がある、との情報を【神代】は掴み付近にいる紫電を派遣することになったのだ。
「しかし、こんな簡単そうな仕事は何も今すぐにしろ、なんて言わなくても良さそうなんだがな…?」
だがそうできない事情が、【神代】にはある。
「問題はさ、急かす理由を教えてくれないところにあるんだね……」
隠蔽体質なのだろうか、【神代】は情報を出し渋る傾向がある。霊怪戦争の時もそうで、何がどうなっているのかは現地に赴いてから初めて知らされたほどだ。
「ま、大したことはねえだろうよ! 早く終わらせて帰って、ワイン飲もうぜ? 最後の最後って決めてんだよ酒は」
幸いにもまだ二人にはアルコールが回っていなかったので、すぐに現場に急行できた。
現場に着いた。正確には、二キロ手前で車を止めさせ、ここから歩いて行くのだ。
「では、ご武運を! 霊能力がない故に私はここでお待ちしております!」
周りには人気どころか建物すら全然ない。だから懐中電灯をつけて二人は進む。
「船舶と言うからには、海に何かあるんだろうな。雪女、泳げるか?」
「………山育ちだから、察して…」
これは『月見の会』のメンバー共通で、集落にはプールがなかったために全員カナヅチである。
「……二月の海で泳ぐことはしたくはねえな。寒いと泳げても死ねる」
防砂林をくぐり抜けると、もう海が目の前に臨める。
「……あれ、だな」
その、この世ならざる船は一発で見分けがついた。この時代に、帆船なのだ。しかもマストは曲がり帆もボロボロで、明らかに、
「幽霊船だね」
と言える一隻。
双眼鏡を覗き込んだ紫電。その穴だらけの帆に文字が書かれていることを発見した。
「スペイン語だな。スカル・リバイス号……か」
「知ってるの?」
「噂程度だが」
かつてコンキスタドールがいた時代、その船は一攫千金を夢見てスペインを出た。コルテスやピサロのようになりたかった人物が船長だ。
「名前は何ていったかな? その船長、大西洋どころか太平洋すらも横断して、日本に来ようとしたんだぜ? 黄金の国ジパングを信じて。略奪の限りを尽くす気満々で。でも確か、アメリカ大陸に到着する前に沈没したんだ。乗組員は全滅したから、沈んだ理由は今になってもわかってない」
「待って。コルテス、ピサロ? 誰それ? コンキスタドールって何語?」
「知らない? 『インディアスの破壊についての簡潔な報告』。家にも一冊あるぞ? 吐き気がするから読むのはおススメしねえけどよ」
雪女は中学の教科書以上の知識はない様子で、話を聞いていてもわかっていなさそうだった。だが、
「ということは、あれは、この世の船ではないことは確かだね?」
その重要な点は理解している。
浜辺まで来た二人。
「ボートとかないよな? どうやって乗船する?」
「こう」
雪女は雪の氷柱を海に撃ち込んだ。するとその部分が波を止めて凍った。その上に足を置いても、ヒビも入らない。
「大丈夫だよ、紫電。二人分の体重なら、私の雪の結晶で支えられる」
「お、おう!」
即席の氷の道を二人は進む。そしてスカル・リバイス号に近接した。
「でもどうやって甲板に登ろうか? 流石に雪の結晶では、梯子とかは作れないよ?」
「手間がかかる。これでいい!」
紫電はそう言うとダウジングロッドを取り出し、船目掛けて至近距離で電霊放を撃った。壁に人が通れるほどの穴が開いた。
「………」
キョトンとする雪女に、
「早くしろよな、置いて行くぞ?」
乗船を促す紫電。
「行くよ、今…」
こうして二人はこの幽霊船に乗り込んだ。
内部は、凄い状態だ。そこら中フジツボだらけで、さらに一部にはイソギンチャクも生えている。潮の匂いが酷い。
「俺は上の方を調べてくる。雪女、お前は下の、内部の奥だ」
「了解」
二手に分かれた。