第4話 確保命令 その1
文字数 3,571文字
ちょうど洋次たちが攻撃を始めようとする前日のことだ。
「電話だ!」
猫屋敷骸のスマートフォンに着信があった。相手は緑祁で、
「どうした? 今俺たちは忙しい! 宮大工や業者と連絡を取って、設計図を見て、ついでに祠や鳥居やお地蔵様も設置して……」
骸は廿楽絵美、神威刹那、大鳳雛臥らと共に、慰霊碑の建造について何度も話し合っているのだ。
「何の石碑を作るの?」
「『ヤミカガミ』や『この世の踊り人』、『橋島霊軍』の、だ」
「あ、それか。僕の偽物が破壊したんだよね?」
「前二つは俺たちがやっちまったんだがな……。まあそれは置いておいて、資金の調達ができたから、立派な物を建てたいんだ」
忙しそうな骸たちだが、緑祁も引き下がろうとはしない。それを察した骸は、
「お前の用件は何だ?」
「協力して欲しいことがあるんだ」
緑祁は彼に、人為的に霊能力者になった者がいること、彼らを生み出した正夫は捕まったのだが、その生み出された人物はまだ野放しになっていることを伝える。
「なるほど……。要するにその非公式な霊能力者を捕まえたい、ってことだな?」
「そうなんだ。彼らは何を企んでいるのか、裏に潜んでいる人は誰なのか……。僕にはそれもまだわかってない。この陰謀を終わらせるためにも骸たちの力が必要なんだ!」
少し間があってから骸は、
「……緑祁には結構世話になってるからな。よし、良いぜ! 協力だ!」
「本当に? 忙しい中、ありがとう!」
「なあに、気にすんなよな。困った時は助け合いだろ? ただ……」
「え、何かあるの?」
「俺も東北に住んでるし、雛臥もすぐに呼び出せるんだが、絵美と刹那は四国在住だ。すぐには福島には来れないと思うぜ。それでもいいか?」
「うん、大丈夫だよ」
この時の緑祁は、洋次たちの作戦なぞ一ミリも予想していない。だから多少時間がかかっても問題ないと思っていた。
「早速福島に行くぜ、待ってな」
「ふう……」
電話が切れると同時に緊張も切れる。断られたらどうしようと、ネガティブな感情を抱きながら助け舟を出していたからだ。
「香恵、そっちはどう?」
「楽勝ね」
しかし香恵の方は、どうやら何も困っていない様子。
「ちょうど皇の四つ子が仕事で宮城に来ているらしいから、そのまま南下してもらうことにしたわ」
「緋寒たちが? それは心強い!」
既に紫電と辻神には連絡してあったが、それでも人員に不安を感じていだ。というのも緑祁と香恵は、正夫が他にも霊能力者を生み出していたのかもしれない可能性を捨てきれていなかったからだ。目の前に現れたのは五人だが、それ以外にも隠し玉がいるかもしれない。いや、実際に正夫の野望を受け継いでいる者がいるので絶対にいる。
「絶対に止める! 彼らにはもう、誰も傷つけさせない!」
テーブルに福島の地図を置いて、香恵と話し合う。
「件の孤児院はここ。で、虎村神社があった場所はここ」
「結構離れてるわね……。神社はもう存在していないらしいから、そこには誰もいないと思うわ」
「となると、本拠地自体が県外にある可能性も……」
そうなると手に負えるレベルの話ではなくなってしまう。しかしまずはこの福島を重点的に調べる。
「骸たちとは合流しないで行こう」
「その方がいいわね。手分けして探すべきだわ」
広い福島の地図を見ると、集まって捜索するよりもいくつかのグループに分かれて行動した方が良さそうだ。だから香恵は、あの五人の資料を骸たちのメールアドレスに添付して送信した。
「で、問題はどこに行くかよ……」
香恵は思った。正夫は虎村神社の神主だった。ということは他の神社や寺院、教会と繋がりもあってもおかしくはない。その絆のせいで、思想に毒されているかもしれないのだ。そうじゃない場合は安心できるし、怪しい人物の心当たりを聞ける。
「ここはどう? 虎村神社と同じく郡山市内にある、銅鐸 寺 。結構大きい場所みたいだ」
デスクトップパソコンでそのホームページを閲覧する。そのページの片隅に、
「会員用ページ」
という項目がある。クリックしてみると、パスワードを要求された。
「お仲間しか入れない場所ね。こういう場所で【神代】への文句を書き込んでいるかもしれないわ。つまり……怪しい!」
【神代】に反対意見がある人物は、正夫と似ている。だから行ってみる価値がある。
「じゃあ明日、僕たちはここに行こう。骸たちは……」
銅鐸寺は郡山市の南側なので、彼らには北にある姉妹寺院の銅鏡 寺 に向かってもらう。ここのホームページにも、会員用の掲示板があった。
「紫電や辻神はどうするって?」
「紫電の方は聞いたわ。一度八戸に戻ったみたいだけど、件の孤児院に行ってみるそうよ。辻神は……」
ちょうどいいタイミングで、俱蘭辻神から連絡があった。
「香恵か? 私だ」
「いいタイミングね。私と緑祁は明日、福島に行くところなの。そちらも来てくれない?」
「もう来ているぞ?」
驚いたことに、辻神は仲間の手杉山姫と田柄彭侯と共にもう福島に来ているらしいのだ。県内にある【神代】の予備校や孤児院を回って、他に行方不明者がいないかどうか、吉備豊次郎が何回か訪れていないのかを調査中とのこと。
「私たちの任務はまだ終わっていないからな。本当なら洋次や秀一郎たちを孤児院に帰してやりたいが、手掛かりがなくて難航している。そんな状況で【神代】に相談したら、途中だが別の任務を並行するよう言い渡されたんだ」
「そうだったのね」
ここで香恵は、辻神たちと合流することを提案する。
「どう、緑祁?」
「う~ん……」
緑祁としては頷きたくない。だが、【神代】のためを考えればここは協力し、問題の解決を最優先するべきだ。だが、
「済まない。こっちにキャパシティーがない」
と、辻神の方がそれを断ってきた。
「どういうこと?」
「【UON】ってわかるか? 海外の霊能力者も一人一緒なんだ、今。借りている車は四人までしか乗れないから、定員オーバーで一緒に行動ができない」
「そ、そうか……」
だから諦める。
「ところで、そちらから電話をかけてきたじゃない? 用件は一体、何?」
「前と同じだ。東北地方は私たちの守備範囲じゃないから、どこら辺にヤツらが行きそうか、予想できない。心当たりがありそうな場所を教えてくれ」
前に辻神は緑祁の言われた通りの場所に行き、五人と遭遇した。だから今回も彼の勘と情報を頼ろうというのだ。香恵は電話を緑祁に渡す。
「そうだね……」
思い当たる場所はいくつかある。それらを全部教えた。
「ありがたい。では明日以降、そこに行ってみる」
「明日は行かないの?」
「一度、【神代】に呼ばれているからな。会津若松市内の支店の予備校に行き、報告する必要があるんだ」
用件はこれで終わりだ。
「頑張ろう。【神代】のためにも!」
「もちろん!」
夜が終わり、朝日が昇った。
「新幹線の時間は何時ごろだい、骸?」
「一番速いので、九時だった。はい、チケット」
「自由席かよ」
「文句あるか! お前が券売機の使い方がわからないって言うんだから、代わりにやってやったんだぞ! このぉ!」
いつも骸は雛臥に代わってこういう作業をしている。彼をなだめるためにも雛臥は自販機で炭酸飲料を買い、骸にあげた。
「いつもありがとな」
「…ああ!」
そしてホームに出て、新幹線に乗り込む。
「目的の場所は、銅鏡寺だったな。あの、御利益があるかどうかよくわからない大きな鏡が祀られている寺院だ」
「道は大体わかる。高校時代に行ったことがあるから。郡山駅からバスで二十~三十分だったはず」
「道に迷いようがないな!」
移動中も設計図と睨めっこしたり宮大工と連絡を取ったりしている。材料の木や石にもこだわり、安い物や外国産のは使いたくないのだ。
「金だけはあるからな、五千万!」
資金に余裕があるというのもあるが、一番の理由は【神代】が滅ぼしてしまった霊能力者の集団を供養するために、以前よりも立派な慰霊碑を建てたいからだ。完成したら自分たちが現地に赴いて、完成の儀を執り行う予定でもある。
「絵美と刹那はどうだって?」
「明日にはこっちに来れるらしい。今日は無理だってさ」
「それは仕方ないか。四国は遠いからな、こっちからすると。飛行機の予定とか予約とかもあるんだろうし」
ただ、件の人物を保護することだけなら自分たちだけでも大丈夫と感じている。相手は人間なのだし、そんなに危害を加えるようなこともないだろうと予測。
「確認だけはしておこう。コイツは磐梯洋次。こっちは飯盛寛輔。これが桧原秀一郎。で、猪苗代結という人物に似ているのが二人……? は?」
そこら辺は緑祁どころか【神代】でもよくわかっていないらしい。
「ま、捕まえればわかること!」
その五人分の顔を頭に叩き込む。すれ違ってもすぐに気づけるようにしておくのだ。
「電話だ!」
猫屋敷骸のスマートフォンに着信があった。相手は緑祁で、
「どうした? 今俺たちは忙しい! 宮大工や業者と連絡を取って、設計図を見て、ついでに祠や鳥居やお地蔵様も設置して……」
骸は廿楽絵美、神威刹那、大鳳雛臥らと共に、慰霊碑の建造について何度も話し合っているのだ。
「何の石碑を作るの?」
「『ヤミカガミ』や『この世の踊り人』、『橋島霊軍』の、だ」
「あ、それか。僕の偽物が破壊したんだよね?」
「前二つは俺たちがやっちまったんだがな……。まあそれは置いておいて、資金の調達ができたから、立派な物を建てたいんだ」
忙しそうな骸たちだが、緑祁も引き下がろうとはしない。それを察した骸は、
「お前の用件は何だ?」
「協力して欲しいことがあるんだ」
緑祁は彼に、人為的に霊能力者になった者がいること、彼らを生み出した正夫は捕まったのだが、その生み出された人物はまだ野放しになっていることを伝える。
「なるほど……。要するにその非公式な霊能力者を捕まえたい、ってことだな?」
「そうなんだ。彼らは何を企んでいるのか、裏に潜んでいる人は誰なのか……。僕にはそれもまだわかってない。この陰謀を終わらせるためにも骸たちの力が必要なんだ!」
少し間があってから骸は、
「……緑祁には結構世話になってるからな。よし、良いぜ! 協力だ!」
「本当に? 忙しい中、ありがとう!」
「なあに、気にすんなよな。困った時は助け合いだろ? ただ……」
「え、何かあるの?」
「俺も東北に住んでるし、雛臥もすぐに呼び出せるんだが、絵美と刹那は四国在住だ。すぐには福島には来れないと思うぜ。それでもいいか?」
「うん、大丈夫だよ」
この時の緑祁は、洋次たちの作戦なぞ一ミリも予想していない。だから多少時間がかかっても問題ないと思っていた。
「早速福島に行くぜ、待ってな」
「ふう……」
電話が切れると同時に緊張も切れる。断られたらどうしようと、ネガティブな感情を抱きながら助け舟を出していたからだ。
「香恵、そっちはどう?」
「楽勝ね」
しかし香恵の方は、どうやら何も困っていない様子。
「ちょうど皇の四つ子が仕事で宮城に来ているらしいから、そのまま南下してもらうことにしたわ」
「緋寒たちが? それは心強い!」
既に紫電と辻神には連絡してあったが、それでも人員に不安を感じていだ。というのも緑祁と香恵は、正夫が他にも霊能力者を生み出していたのかもしれない可能性を捨てきれていなかったからだ。目の前に現れたのは五人だが、それ以外にも隠し玉がいるかもしれない。いや、実際に正夫の野望を受け継いでいる者がいるので絶対にいる。
「絶対に止める! 彼らにはもう、誰も傷つけさせない!」
テーブルに福島の地図を置いて、香恵と話し合う。
「件の孤児院はここ。で、虎村神社があった場所はここ」
「結構離れてるわね……。神社はもう存在していないらしいから、そこには誰もいないと思うわ」
「となると、本拠地自体が県外にある可能性も……」
そうなると手に負えるレベルの話ではなくなってしまう。しかしまずはこの福島を重点的に調べる。
「骸たちとは合流しないで行こう」
「その方がいいわね。手分けして探すべきだわ」
広い福島の地図を見ると、集まって捜索するよりもいくつかのグループに分かれて行動した方が良さそうだ。だから香恵は、あの五人の資料を骸たちのメールアドレスに添付して送信した。
「で、問題はどこに行くかよ……」
香恵は思った。正夫は虎村神社の神主だった。ということは他の神社や寺院、教会と繋がりもあってもおかしくはない。その絆のせいで、思想に毒されているかもしれないのだ。そうじゃない場合は安心できるし、怪しい人物の心当たりを聞ける。
「ここはどう? 虎村神社と同じく郡山市内にある、
デスクトップパソコンでそのホームページを閲覧する。そのページの片隅に、
「会員用ページ」
という項目がある。クリックしてみると、パスワードを要求された。
「お仲間しか入れない場所ね。こういう場所で【神代】への文句を書き込んでいるかもしれないわ。つまり……怪しい!」
【神代】に反対意見がある人物は、正夫と似ている。だから行ってみる価値がある。
「じゃあ明日、僕たちはここに行こう。骸たちは……」
銅鐸寺は郡山市の南側なので、彼らには北にある姉妹寺院の
「紫電や辻神はどうするって?」
「紫電の方は聞いたわ。一度八戸に戻ったみたいだけど、件の孤児院に行ってみるそうよ。辻神は……」
ちょうどいいタイミングで、俱蘭辻神から連絡があった。
「香恵か? 私だ」
「いいタイミングね。私と緑祁は明日、福島に行くところなの。そちらも来てくれない?」
「もう来ているぞ?」
驚いたことに、辻神は仲間の手杉山姫と田柄彭侯と共にもう福島に来ているらしいのだ。県内にある【神代】の予備校や孤児院を回って、他に行方不明者がいないかどうか、吉備豊次郎が何回か訪れていないのかを調査中とのこと。
「私たちの任務はまだ終わっていないからな。本当なら洋次や秀一郎たちを孤児院に帰してやりたいが、手掛かりがなくて難航している。そんな状況で【神代】に相談したら、途中だが別の任務を並行するよう言い渡されたんだ」
「そうだったのね」
ここで香恵は、辻神たちと合流することを提案する。
「どう、緑祁?」
「う~ん……」
緑祁としては頷きたくない。だが、【神代】のためを考えればここは協力し、問題の解決を最優先するべきだ。だが、
「済まない。こっちにキャパシティーがない」
と、辻神の方がそれを断ってきた。
「どういうこと?」
「【UON】ってわかるか? 海外の霊能力者も一人一緒なんだ、今。借りている車は四人までしか乗れないから、定員オーバーで一緒に行動ができない」
「そ、そうか……」
だから諦める。
「ところで、そちらから電話をかけてきたじゃない? 用件は一体、何?」
「前と同じだ。東北地方は私たちの守備範囲じゃないから、どこら辺にヤツらが行きそうか、予想できない。心当たりがありそうな場所を教えてくれ」
前に辻神は緑祁の言われた通りの場所に行き、五人と遭遇した。だから今回も彼の勘と情報を頼ろうというのだ。香恵は電話を緑祁に渡す。
「そうだね……」
思い当たる場所はいくつかある。それらを全部教えた。
「ありがたい。では明日以降、そこに行ってみる」
「明日は行かないの?」
「一度、【神代】に呼ばれているからな。会津若松市内の支店の予備校に行き、報告する必要があるんだ」
用件はこれで終わりだ。
「頑張ろう。【神代】のためにも!」
「もちろん!」
夜が終わり、朝日が昇った。
「新幹線の時間は何時ごろだい、骸?」
「一番速いので、九時だった。はい、チケット」
「自由席かよ」
「文句あるか! お前が券売機の使い方がわからないって言うんだから、代わりにやってやったんだぞ! このぉ!」
いつも骸は雛臥に代わってこういう作業をしている。彼をなだめるためにも雛臥は自販機で炭酸飲料を買い、骸にあげた。
「いつもありがとな」
「…ああ!」
そしてホームに出て、新幹線に乗り込む。
「目的の場所は、銅鏡寺だったな。あの、御利益があるかどうかよくわからない大きな鏡が祀られている寺院だ」
「道は大体わかる。高校時代に行ったことがあるから。郡山駅からバスで二十~三十分だったはず」
「道に迷いようがないな!」
移動中も設計図と睨めっこしたり宮大工と連絡を取ったりしている。材料の木や石にもこだわり、安い物や外国産のは使いたくないのだ。
「金だけはあるからな、五千万!」
資金に余裕があるというのもあるが、一番の理由は【神代】が滅ぼしてしまった霊能力者の集団を供養するために、以前よりも立派な慰霊碑を建てたいからだ。完成したら自分たちが現地に赴いて、完成の儀を執り行う予定でもある。
「絵美と刹那はどうだって?」
「明日にはこっちに来れるらしい。今日は無理だってさ」
「それは仕方ないか。四国は遠いからな、こっちからすると。飛行機の予定とか予約とかもあるんだろうし」
ただ、件の人物を保護することだけなら自分たちだけでも大丈夫と感じている。相手は人間なのだし、そんなに危害を加えるようなこともないだろうと予測。
「確認だけはしておこう。コイツは磐梯洋次。こっちは飯盛寛輔。これが桧原秀一郎。で、猪苗代結という人物に似ているのが二人……? は?」
そこら辺は緑祁どころか【神代】でもよくわかっていないらしい。
「ま、捕まえればわかること!」
その五人分の顔を頭に叩き込む。すれ違ってもすぐに気づけるようにしておくのだ。