第3話 飛来した花 その1
文字数 3,534文字
「あちらを見てください。低俗そうな町がありますよ」
「よし、行ってみよう」
二人は林を抜け山を下り、道を歩いた。そして喉の渇きと空腹を覚えたので、適当な店に入る。
「不思議です」
テーブルについてメニューを開いた鹿子 花織 はそう呟いた。こちらの世界の住民ではない彼女らが、文字を見て驚いたのだ。自分たちのいた世界と使われている言語は同じ。
「もしかしたらあたしたちはまだ、あの戦火の下にいるのかもな」
並星 久実子(くみこ)のこの発言から察するに、彼女らが元いた世界では何かしらの戦争があったようだ。
「でも、こんな町も店も知りませんよ? やはりいつもの世界とは違うのでしょうか?」
とりあえず色々と注文を済ませ、料理が来るのを待った。その際、二人は他の客の視線が気になってた。
それも仕方がない。花織も久実子も、店中の男性の視線を釘付けにしているほどの美貌の持ち主だ。現に、
「お嬢さん、お暇じゃない?」
若い男が話しかけてくるほどだ。花織はウェーブのかかった綺麗な茶髪で、身にまとっているブラウスとスカートはとても華やかであり良いスタイルを強調している。ハイヒールもいい味を出している。久実子の方は髪を一つ結びにし、着ているトレンチコート、そこから伸びる美脚を包むタイツ、そしてローファーは花織と対照的に黒で統一されている。片や彩りのある美女、片や黒ずくめの美女。一見すると混じりそうにない二つの要素が、同時に共存できているのだ。そんな絶世の意味を問われるぐらいの美女が二人もいるとなると、声をかけない方がおかしい。
だが、
「あっちに行きな。そんでもう話しかけてくるなよ」
久実子は怒った口調であしらう。
「いいじゃないか。僕も暇なんだ」
それに引き下がらずに強引に隣の席に座り込もうとしたが、
「不快です」
花織がそう言い、指先を男に向けた。その先端から光の弾が飛び出し、男を吹っ飛ばしたのだ。
「う、うおおお?」
何が起きているのかわからず、壁に叩きつけられた男。手加減されたためか、意識はある。
「こうなったら…!」
もう自分のモノにできれば手段は選ばない。と言いたげに男は久実子に飛びつこうとしたが、
「うるさいぞ!」
手で仰ぐと、今度は黒い風が吹いた。その風は男の命をあの世に運んだ。
「ようやく黙った。さあ花織、食べよう」
ちょうど料理が運ばれてきたので、口に運ぶ。
しかし隣接世界からやって来た人物が円を持っているわけがない。
「代金は?」
レジで捕まり、請求される。
「これで…」
紙幣を出すのだが、
「な、何これ…? オモチャのお札ですか?」
相手にされない。
「一々面倒な!」
久実子がまた、手を動かそうとした。しかしそれを花織が止めて、
「これでどうでしょうか」
ポケットに入っていた石を出した。ただの石ではない。
「だ、ダイヤモンド…?」
眩い光を跳ね返すその石は、彼女らが食べた料理以上の価値がある。受け取ることを拒んだが、
「お釣りはいらないです」
二人は店から出て行ってしまった。
その後一時間ほどだろうか、花織と久実子は近くの町を探索した。そして答えを導き出したのだ。
「やっぱり、わたくしたちの知っている場所ではありません。世界が違うと言いますか…星が違うと表した方がいいでしょうか?」
「あの空間の歪みに入ったから、変な場所に飛ばされた? でも戦争はしていないみたいだぞ?」
「ですね。わたくしたちのいた世界と似て非なる世界。それがここです。どうやら科学が浸透しているみたいですが……」
「となると、二の舞いになるかもしれない!」
さらに彼女らなりの心配が芽生える。
「とにかく、今日はもう休まないか? 突然違う国に来たみたいで疲れている」
「ですね。わたくしも実を言うと睡眠をとりたいです」
だが、急ぐ必要はない。だから二人は町を出て山に戻り、廃れた山荘を見つけるとそこに入った。当然その山荘には霊がいるのだが、隣接世界からやって来た二人には見ることはできないので、
「何もいませんね。汚れてはいますが、明日の朝までいさせてもらいましょう」
堂々とその場を占領する。
「で、どうするんだ?」
久実子が振ると、
「この世界が一体何なのか、そもそもわたくしたちの前に現れた歪みは何だったのか…。調べましょう。久実子、何かいい方法はありません?」
「あたしの推測なんだが、きっとこちらにも神社や寺、神殿の類はあると思う。そこに行ってみるのはどうだ?」
花織はその案を採用した。
「では、朝になったら」
今日はもう寝ることにし、朝を待つ。
海神寺にいる緑祁と香恵。すぐに戻ることも考えたのだが、
「僕は初めて西日本に来たんだ。何も見ないで帰るのはもったいないよ」
緑祁が観光をしようと提案。そして海神寺の増幸も、しばらくの間泊めてくれると約束した。ので、今日は広島市内を訪れる。
「あれが原爆ドームだね。初めて見るなぁ…。結構、大きいんだね」
「資料館にも行くわよ」
香恵も広島は初めてらしい。だから二人は終日市内を見て回った。
そして日が暮れたので夕食を済ませてから電車に乗り、呉の海神寺に戻る。のだが、
「な、何だこれは…!」
驚きを隠せない。見たものをそのまま信じることもできない。
「海神寺が、荒らされているわ……! 一体誰の仕業なの?」
寺の一部の建物が燃えている。居住区を兼ねる本殿は無事だが、その他の離れ屋などには壊滅的な被害が。
「危険ですので、下がって!」
消防隊が寺院の中に入ることを許可してくれなかった。
「あ、緑祁君に香恵君。良かった、君たちは無事なのか!」
増幸が二人を発見。
「一体何が起きているんです?」
「ここではマズい。詳しい話をするから、ついて来てくれ」
二人は彼に連れられ、近くのホテルの会議室に行った。そこには道雄と勇悦もいる。だが、雛臥と骸の姿はない。
「簡潔に説明するなら、海神寺は何者かからの攻撃を受けた! 雛臥君と骸君が防衛に出てくれたんだが、防ぎきれなかったらしい……。既に復元の霊障を司る霊能力者を手配している」
「二人は無事なんですか…?」
「病院に運び込まれたが、大した怪我ではないそうだ」
緑祁と香恵が海神寺を留守にした間に、一体何が起きたのか。時計の針を正午に戻そう。
「誰や?」
まず、道雄がその来訪者に反応する。しかしこれは、予定にない客人が来たからではない。海神寺への参拝客は珍しくはないのだ。だから彼が反応したのには、立派な理由がある。
(ワイと同じ雰囲気がするなぁ、何でや?)
それは、こちらの世界の住民ではない匂い。隣接世界からやって来た道雄だからこそ、生じた違和感に気づけたのである。
「ちょっとお話を伺いたいのですが…」
華やかな女性がそう言った。
「……話、とは? 通すかどうかは内容によりますなぁ。あんさんや、何者や? ここでまず答えなはれ!」
「わたくしたちは一般人ですよ。ただ、道に迷ってしまいまして…」
「間違えたんは道ちゃうくて、来るべき世界やろう?」
道雄は、目の前にいる二人の女性が、自分と同じく隣接世界出身であることを見抜いた。けれども花織と久実子の方には、その知識はない。だから久実子は、
「うるさいぞ。じゃあ何か? あんたが答えてくれるのか?」
「待ってください久実子、彼の話を聞いてみましょう」
花織が彼女を抑え、話を道雄から聞き出そうとしている。
「世界が~って言いましたが、どういう意味でしょう?」
「知らんのか? あんさんらも隣接世界から来たんちゃう? でも、招いてへんはずや…。昨日の実験は失敗したんやし、あんさんらがここにおるのはおかしい」
しかし道雄は頑なに話そうとしない。
「ちょっと待ちなよ」
そこに、雛臥と骸が通りかかる。道雄は無理矢理二人にバトンを渡し、境内の中に消えた。
「つまりだ、隣接世界から来た霊能力者…? 昨日の実験は失敗なんかじゃなかったってのか?」
「そうなるね。これは増幸さんに報告した方がいいかもだよ、骸」
その場合、花織と久実子の身柄は拘束した方がよい。こちらの世界の常識や規則を知らないまま、野放しにはできないのだ。
だからまず骸が、
「ちょっとこっちに来なよ。大丈夫、変に手を出したりはしないさ」
花織の腕を掴んだ。
「ああっ!」
これが、二人の逆鱗に触れたのだ。
反射的に花織は、光を繰り出した。それは骸の体を十数メートルほど吹っ飛ばしたのだ。
「む、骸…? え、何…?」
「捕まえて、始末するつもりでしょう? そうはさせません!」
いきなり戦闘態勢に入る花織と久実子。
(ヤバい。多分二人は何かしら誤解している! ここは戦うしかないけど、とにかくその誤解をどうにかしないと!)
こうして戦いが始まったのである。
「よし、行ってみよう」
二人は林を抜け山を下り、道を歩いた。そして喉の渇きと空腹を覚えたので、適当な店に入る。
「不思議です」
テーブルについてメニューを開いた
「もしかしたらあたしたちはまだ、あの戦火の下にいるのかもな」
「でも、こんな町も店も知りませんよ? やはりいつもの世界とは違うのでしょうか?」
とりあえず色々と注文を済ませ、料理が来るのを待った。その際、二人は他の客の視線が気になってた。
それも仕方がない。花織も久実子も、店中の男性の視線を釘付けにしているほどの美貌の持ち主だ。現に、
「お嬢さん、お暇じゃない?」
若い男が話しかけてくるほどだ。花織はウェーブのかかった綺麗な茶髪で、身にまとっているブラウスとスカートはとても華やかであり良いスタイルを強調している。ハイヒールもいい味を出している。久実子の方は髪を一つ結びにし、着ているトレンチコート、そこから伸びる美脚を包むタイツ、そしてローファーは花織と対照的に黒で統一されている。片や彩りのある美女、片や黒ずくめの美女。一見すると混じりそうにない二つの要素が、同時に共存できているのだ。そんな絶世の意味を問われるぐらいの美女が二人もいるとなると、声をかけない方がおかしい。
だが、
「あっちに行きな。そんでもう話しかけてくるなよ」
久実子は怒った口調であしらう。
「いいじゃないか。僕も暇なんだ」
それに引き下がらずに強引に隣の席に座り込もうとしたが、
「不快です」
花織がそう言い、指先を男に向けた。その先端から光の弾が飛び出し、男を吹っ飛ばしたのだ。
「う、うおおお?」
何が起きているのかわからず、壁に叩きつけられた男。手加減されたためか、意識はある。
「こうなったら…!」
もう自分のモノにできれば手段は選ばない。と言いたげに男は久実子に飛びつこうとしたが、
「うるさいぞ!」
手で仰ぐと、今度は黒い風が吹いた。その風は男の命をあの世に運んだ。
「ようやく黙った。さあ花織、食べよう」
ちょうど料理が運ばれてきたので、口に運ぶ。
しかし隣接世界からやって来た人物が円を持っているわけがない。
「代金は?」
レジで捕まり、請求される。
「これで…」
紙幣を出すのだが、
「な、何これ…? オモチャのお札ですか?」
相手にされない。
「一々面倒な!」
久実子がまた、手を動かそうとした。しかしそれを花織が止めて、
「これでどうでしょうか」
ポケットに入っていた石を出した。ただの石ではない。
「だ、ダイヤモンド…?」
眩い光を跳ね返すその石は、彼女らが食べた料理以上の価値がある。受け取ることを拒んだが、
「お釣りはいらないです」
二人は店から出て行ってしまった。
その後一時間ほどだろうか、花織と久実子は近くの町を探索した。そして答えを導き出したのだ。
「やっぱり、わたくしたちの知っている場所ではありません。世界が違うと言いますか…星が違うと表した方がいいでしょうか?」
「あの空間の歪みに入ったから、変な場所に飛ばされた? でも戦争はしていないみたいだぞ?」
「ですね。わたくしたちのいた世界と似て非なる世界。それがここです。どうやら科学が浸透しているみたいですが……」
「となると、二の舞いになるかもしれない!」
さらに彼女らなりの心配が芽生える。
「とにかく、今日はもう休まないか? 突然違う国に来たみたいで疲れている」
「ですね。わたくしも実を言うと睡眠をとりたいです」
だが、急ぐ必要はない。だから二人は町を出て山に戻り、廃れた山荘を見つけるとそこに入った。当然その山荘には霊がいるのだが、隣接世界からやって来た二人には見ることはできないので、
「何もいませんね。汚れてはいますが、明日の朝までいさせてもらいましょう」
堂々とその場を占領する。
「で、どうするんだ?」
久実子が振ると、
「この世界が一体何なのか、そもそもわたくしたちの前に現れた歪みは何だったのか…。調べましょう。久実子、何かいい方法はありません?」
「あたしの推測なんだが、きっとこちらにも神社や寺、神殿の類はあると思う。そこに行ってみるのはどうだ?」
花織はその案を採用した。
「では、朝になったら」
今日はもう寝ることにし、朝を待つ。
海神寺にいる緑祁と香恵。すぐに戻ることも考えたのだが、
「僕は初めて西日本に来たんだ。何も見ないで帰るのはもったいないよ」
緑祁が観光をしようと提案。そして海神寺の増幸も、しばらくの間泊めてくれると約束した。ので、今日は広島市内を訪れる。
「あれが原爆ドームだね。初めて見るなぁ…。結構、大きいんだね」
「資料館にも行くわよ」
香恵も広島は初めてらしい。だから二人は終日市内を見て回った。
そして日が暮れたので夕食を済ませてから電車に乗り、呉の海神寺に戻る。のだが、
「な、何だこれは…!」
驚きを隠せない。見たものをそのまま信じることもできない。
「海神寺が、荒らされているわ……! 一体誰の仕業なの?」
寺の一部の建物が燃えている。居住区を兼ねる本殿は無事だが、その他の離れ屋などには壊滅的な被害が。
「危険ですので、下がって!」
消防隊が寺院の中に入ることを許可してくれなかった。
「あ、緑祁君に香恵君。良かった、君たちは無事なのか!」
増幸が二人を発見。
「一体何が起きているんです?」
「ここではマズい。詳しい話をするから、ついて来てくれ」
二人は彼に連れられ、近くのホテルの会議室に行った。そこには道雄と勇悦もいる。だが、雛臥と骸の姿はない。
「簡潔に説明するなら、海神寺は何者かからの攻撃を受けた! 雛臥君と骸君が防衛に出てくれたんだが、防ぎきれなかったらしい……。既に復元の霊障を司る霊能力者を手配している」
「二人は無事なんですか…?」
「病院に運び込まれたが、大した怪我ではないそうだ」
緑祁と香恵が海神寺を留守にした間に、一体何が起きたのか。時計の針を正午に戻そう。
「誰や?」
まず、道雄がその来訪者に反応する。しかしこれは、予定にない客人が来たからではない。海神寺への参拝客は珍しくはないのだ。だから彼が反応したのには、立派な理由がある。
(ワイと同じ雰囲気がするなぁ、何でや?)
それは、こちらの世界の住民ではない匂い。隣接世界からやって来た道雄だからこそ、生じた違和感に気づけたのである。
「ちょっとお話を伺いたいのですが…」
華やかな女性がそう言った。
「……話、とは? 通すかどうかは内容によりますなぁ。あんさんや、何者や? ここでまず答えなはれ!」
「わたくしたちは一般人ですよ。ただ、道に迷ってしまいまして…」
「間違えたんは道ちゃうくて、来るべき世界やろう?」
道雄は、目の前にいる二人の女性が、自分と同じく隣接世界出身であることを見抜いた。けれども花織と久実子の方には、その知識はない。だから久実子は、
「うるさいぞ。じゃあ何か? あんたが答えてくれるのか?」
「待ってください久実子、彼の話を聞いてみましょう」
花織が彼女を抑え、話を道雄から聞き出そうとしている。
「世界が~って言いましたが、どういう意味でしょう?」
「知らんのか? あんさんらも隣接世界から来たんちゃう? でも、招いてへんはずや…。昨日の実験は失敗したんやし、あんさんらがここにおるのはおかしい」
しかし道雄は頑なに話そうとしない。
「ちょっと待ちなよ」
そこに、雛臥と骸が通りかかる。道雄は無理矢理二人にバトンを渡し、境内の中に消えた。
「つまりだ、隣接世界から来た霊能力者…? 昨日の実験は失敗なんかじゃなかったってのか?」
「そうなるね。これは増幸さんに報告した方がいいかもだよ、骸」
その場合、花織と久実子の身柄は拘束した方がよい。こちらの世界の常識や規則を知らないまま、野放しにはできないのだ。
だからまず骸が、
「ちょっとこっちに来なよ。大丈夫、変に手を出したりはしないさ」
花織の腕を掴んだ。
「ああっ!」
これが、二人の逆鱗に触れたのだ。
反射的に花織は、光を繰り出した。それは骸の体を十数メートルほど吹っ飛ばしたのだ。
「む、骸…? え、何…?」
「捕まえて、始末するつもりでしょう? そうはさせません!」
いきなり戦闘態勢に入る花織と久実子。
(ヤバい。多分二人は何かしら誤解している! ここは戦うしかないけど、とにかくその誤解をどうにかしないと!)
こうして戦いが始まったのである。