第10話 光への帰還 その1
文字数 4,049文字
峰子を捕まえた情報は、大神病院にいる香恵たちにも伝わった。
「事情を説明したら、新しいのを購入するまで貸してくれたわ。このタブレット」
新品のタブレット端末を広げて情報を確認する。
「どうなってる?」
「好転している様子よ」
雪女にも、その報せの画面を見せた。
「緑祁、頑張ってるね。これなら無実の証明もできるはず」
しかし二人には、懸念事項が一つ。それはすぐ横のベッドだ。紫電の目がまだ覚めない。
「私も全力を尽くしてはいるけど、どうしてか……。医学的には、もうどこも問題ないはずなのに!」
香恵は雪女と一緒に、付きっ切りで看病している。慰療と薬束を一緒に使って、体の異常を全て治している。それでも意識が戻らないのだ。
「ごめんなさい、雪女……。元を辿れば私のせいで……」
「香恵、気にしないで。きみのせいじゃない。峰子と雉美の責任だよ」
ただひたすらに頭を下げる香恵に対し、雪女はそう言って慰める。
「それに……」
チラッと紫電の方を見て、
「それに、紫電は絶対に目覚めるよ。だってまだ緑祁との勝負は決着してない。そんなどっちが白か黒かわからない状態で、紫電が眠ったままなわけがないから」
あまり根拠がない理論である。だが、彼なら考えそうなことだ。
「香恵にはやることがあるでしょ?」
「わ、私に?」
それは、緑祁と再会した時に何を言うか、どういう態度で接するのかを決める、ということだと雪女は言う。
「だって香恵……。岩苔大社の火事の直前に飛び出して以降、緑祁と話してないんでしょ? 紫電が緑祁と戦った後は、私と一緒にこの病院この病室にいるしさ。なら、考えないと」
今まで通り緑祁と接するのか、それとも彼の心の奥底の願望を知ってしまったので、遠ざけるのか。
「……」
返事に香恵は困った。【神代】は、緑祁がまた暴走しないようにと、自分に彼と一緒にいるよう命じるかもしれない。それとも、ある時突然衝動的に殺しにかかる可能性があるから、これ以上関わらないようにと言うかもしれない。
「自分の気持ちに正直になってよ。そうじゃないと誰も喜ばないよ?」
「そうね……」
香恵の心が最優先されるべきだと雪女は言った。香恵もそう思う。だからこそ、香恵はどうするのかを決めなければいけないのだ。
「まあ、ゆっくり考えよう。雪も氷も、突然溶けない。今すぐに答えを出せなんて、私も【神代】も言わないから」
決断を急いで答えを間違ってはいけない。
「緑祁が雉美を捕まえてくれることを、期待して待ってよう。紫電が目覚めることも」
仙台駅の屋上は駐車場になっている。そこに一旦、緑祁たちが集まっている。
「蜃気楼と応声虫が使えるのは、峰子だけ。雉美は姿も音も偽れない。さらに峰子からの連絡も途絶えたのだから、焦っているのでは?」
【神代】のデータベースには、雉美の霊障については書かれていなかった。だが、緑祁の話を聞いていると、幻覚汚濁と絆創翅目を使っていたのは峰子だけだ。
「でもだとするとだヨ、辻神? 雉美は逃げるのに必死になってるんじゃないの?」
「十分に考えられる」
蜃気楼が使えないので、隠密行動はこれ以上は不可能だ。逃げる動きがあっておかしくないと山姫は言う。
「この仙台から出てしまったかもな……。自分の安全を考えれば、誰だってそれを選ぶ。雉美は既に【神代】においてお尋ね者だ。他の誰も協力してくれない。だが、逃げるとなればどこに……」
「もしや、海外?」
緑祁が呟いた。以前、深山ヤイバがそうやって【神代】の追っ手から逃げ切ることができたのだ。それと同じことを雉美がしたら……。
「あり得なくはないな……。病射、朔那! 今すぐに仙台空港に向かってくれ! アクセス線ですぐに行ける!」
「了解ス。えっと住所は…」
「仙台空港なのに名取市にあるのか……」
「空港がない府民のくせに何を言う!」
二人は屋上から下の階に行き、そこで空港に向かう。これで、日本の外に逃げようとする動きは一応は封じれた。
(まだ、雉美が日本にいればの話だが……。間に合ってくれ!)
それから次の動きを考える。
「国内…それも仙台市内で逃げているとしたら、どこじゃ? 雉美が根城にしておった岩苔大社は、もうないのだぞ?」
緋寒が屋上から、仙台駅の前を見下ろす。視線の先の商店街にいるとは思えないが、
「木を隠すなら、森の中。人が隠れるとしたら? 人混みの中!」
紅華はそう言った。当たっているかどうかはわからないが、この仙台は百万人も人口がいる。その中に溶け込まれたら、探し出すことなど不可能に近い。
「既に市内どころか県内の寺院、神社、教会には話をつけておる。雉美が頼ろうとしたら、そこでネズミ捕りじゃ」
赤実は、【神代】が少しだがサポートしてくれていることを緑祁たちに教えた。峰子を捕まえたことが実績となって、応援してくれたのだ。
「逃げてないのかも……?」
そんな突拍子もないことを言い出したのは、朱雀。
「どういうこと?」
「峰子を取り戻すために、【神代】へ攻撃するかもしれん。そうでなくとも、緑祁のことを操って【神代】に歯向かわせようとした輩じゃ、そういう暴力的な行為をしでかしても何も不思議ではない」
今日、緑祁たちはこれ以上の探索をしなかった。いいや、できなかったと言う方が正しい。峰子はおそらく緑祁のことを監視していたがために近くにいたから発見が早かったのだが、そうではない雉美については心当たりもなければ、情報もない。
「もう、休もう。駅前のホテルに行くぞ。病射と朔那には、空港近くのホテルを手配する」
朱雀の言葉が現実になるかのように、それはこの夜中に起きた。
「ん、何だ?」
辻神からもらった、【神代】から支給された予備用のスマートフォンが鳴っている。
「はい、もしもし?」
「緑祁か! 私だ、神楽坂満だ! 今、【神代】に通報があった! 仙台駅の前で大変なことが起きているらしい!」
「本当ですか……?」
「既に辻神には連絡を入れてある。お前には、彼と一緒に対処にあたってくれ!」
雉美が絡んでいるかどうかはこの緊急事態ではどうでもいい。今動ける霊能力者を動員するだけだ。
「わかりました! すぐに準備します!」
「頼んだぞ!」
寝巻を脱いで服を着て靴に足を通し、部屋の鍵を持って出る。廊下にちょうど山姫がいて、
「緑祁も聞いた?」
「うん」
「今辻神が偵察に行ってくれているんだけど……。仙台駅の西側にさ、歩道橋みたいなのがあったでしょ? その周辺に、幽霊が現れているらしいワ!」
「誰かが解き放ったんだね。僕たちが昼間いた時には、何も感じなかった。それが満さんが言っていた、緊急事態なのかい?」
「そう! どうやら大量らしいわ、被害が出る前に何とかしないと!」
彭侯も部屋から出てきて、三人で一緒にホテルを出た。彼らが泊っているホテルは仙台駅の東側にあるので、ここからでは様子はわからない。東西連絡通路を進み、西側に進む。
「うわっ!」
思わず声が出た。かなり大量の幽霊……それも迷霊が、空中を漂っている。
「辻神を探そう。って言ってもアイツは蜃気楼を使っているからこっちから見つけるのは……。っと、電話だ」
彭侯が出る。相手はもちろん辻神で、ペデストリアンデッキから降りて来い、と言う。階段を下ると、その影に辻神がいた。
「大丈夫かい?」
「ああ。まだ幽霊たちも私の方には気づいていない。そしてあの建物の屋上を見てみろ」
双眼鏡を手渡され、言われたところを見てみる。
「あっ! あれは!」
間違いない。雉美がいる。何やら腕を動かし、迷霊に命じている様子。緑祁は双眼鏡を山姫に手渡して、それから辻神に、
「一体何を企んでいるんだろう……?」
「さあな。だが一つだけ言えることがあるとすれば……幸運だ!」
この絶望的な状況で彼はそう言った。緑祁もその意図を理解している。今、雉美の方から姿を現した。これは彼女を捕まえる大チャンスなのだ。
「しかしよ、辻神! これだけ大量の幽霊、しかも雉美の支配下のヤツらを無視して、あの女を捕まえるのは無理なんじゃないのか……?」
「一応、育未たちにも連絡は入れた。来てくれると思うが、それでも手が足りない。皇の四つ子もちょっと遅れているが、雉美が動き出すまでに間に合うかどうか…!」
微妙なところだ。雉美としては迷霊たちは陽動目的であり、この騒ぎに乗じて仙台から逃げるつもりなのかもしれない。
「だから、緑祁! おまえが雉美を捕まえるんだ! 私と山姫と彭侯は、幽霊たちの相手をする! 皇の四つ子にもサポートはさせるが、あの女を捕獲するのは、おまえの役目だ! この因縁に、自分で決着をつけろ!」
一人で行わなければいけない。しかし、
「うん、わかったよ! 辻神たちも気を付けて! かなり危ない幽霊だったら、構わず逃げてくれ!」
緑祁はその提案に、賛成を即答した。自分のことを操ろうとした雉美を倒し捕らえるのは、自分の義務だ。他の誰にも任せることはできない。
「よし、行くぞ! 山姫、彭侯、蜃気楼は使えない。独立して動く緑祁の姿を誤魔化せない以上、緑祁は姿を出さなければいけない。そうなると幽霊は間違いなく緑祁を狙う! それを防ぐには、私たちも堂々と姿を見せるんだ」
「了解だぜ」
「わかったヨ!」
心の準備は整った。
「緑祁、私たちが先に行く! 幽霊たちの注意を引くから、その隙に雉美を!」
「わかった! 本当に、気を付けてくれ!」
「ああ。後で落ち合おう!」
三人は緑祁を階段の影に残し、ペデストリアンデッキの上に出た。
「おい、こっちだぞ! 幽霊どもめ、除霊してやる!」
周囲を漂う迷霊たちの視線が一斉に、三人に向く。
「来やがれ! 覚悟があるんならな!」
「ベーっだ! 怖くないもんネ!」
言葉と態度で挑発し、さらに注意を引く。
(もう少し待って……)
辻神たちが隙を作ってくれている。緑祁はペデストリアンデッキには上がらず、車がない道路を進むつもりだ。
(今だっ!)
そして頃合いと判断し、影から出た。
「事情を説明したら、新しいのを購入するまで貸してくれたわ。このタブレット」
新品のタブレット端末を広げて情報を確認する。
「どうなってる?」
「好転している様子よ」
雪女にも、その報せの画面を見せた。
「緑祁、頑張ってるね。これなら無実の証明もできるはず」
しかし二人には、懸念事項が一つ。それはすぐ横のベッドだ。紫電の目がまだ覚めない。
「私も全力を尽くしてはいるけど、どうしてか……。医学的には、もうどこも問題ないはずなのに!」
香恵は雪女と一緒に、付きっ切りで看病している。慰療と薬束を一緒に使って、体の異常を全て治している。それでも意識が戻らないのだ。
「ごめんなさい、雪女……。元を辿れば私のせいで……」
「香恵、気にしないで。きみのせいじゃない。峰子と雉美の責任だよ」
ただひたすらに頭を下げる香恵に対し、雪女はそう言って慰める。
「それに……」
チラッと紫電の方を見て、
「それに、紫電は絶対に目覚めるよ。だってまだ緑祁との勝負は決着してない。そんなどっちが白か黒かわからない状態で、紫電が眠ったままなわけがないから」
あまり根拠がない理論である。だが、彼なら考えそうなことだ。
「香恵にはやることがあるでしょ?」
「わ、私に?」
それは、緑祁と再会した時に何を言うか、どういう態度で接するのかを決める、ということだと雪女は言う。
「だって香恵……。岩苔大社の火事の直前に飛び出して以降、緑祁と話してないんでしょ? 紫電が緑祁と戦った後は、私と一緒にこの病院この病室にいるしさ。なら、考えないと」
今まで通り緑祁と接するのか、それとも彼の心の奥底の願望を知ってしまったので、遠ざけるのか。
「……」
返事に香恵は困った。【神代】は、緑祁がまた暴走しないようにと、自分に彼と一緒にいるよう命じるかもしれない。それとも、ある時突然衝動的に殺しにかかる可能性があるから、これ以上関わらないようにと言うかもしれない。
「自分の気持ちに正直になってよ。そうじゃないと誰も喜ばないよ?」
「そうね……」
香恵の心が最優先されるべきだと雪女は言った。香恵もそう思う。だからこそ、香恵はどうするのかを決めなければいけないのだ。
「まあ、ゆっくり考えよう。雪も氷も、突然溶けない。今すぐに答えを出せなんて、私も【神代】も言わないから」
決断を急いで答えを間違ってはいけない。
「緑祁が雉美を捕まえてくれることを、期待して待ってよう。紫電が目覚めることも」
仙台駅の屋上は駐車場になっている。そこに一旦、緑祁たちが集まっている。
「蜃気楼と応声虫が使えるのは、峰子だけ。雉美は姿も音も偽れない。さらに峰子からの連絡も途絶えたのだから、焦っているのでは?」
【神代】のデータベースには、雉美の霊障については書かれていなかった。だが、緑祁の話を聞いていると、幻覚汚濁と絆創翅目を使っていたのは峰子だけだ。
「でもだとするとだヨ、辻神? 雉美は逃げるのに必死になってるんじゃないの?」
「十分に考えられる」
蜃気楼が使えないので、隠密行動はこれ以上は不可能だ。逃げる動きがあっておかしくないと山姫は言う。
「この仙台から出てしまったかもな……。自分の安全を考えれば、誰だってそれを選ぶ。雉美は既に【神代】においてお尋ね者だ。他の誰も協力してくれない。だが、逃げるとなればどこに……」
「もしや、海外?」
緑祁が呟いた。以前、深山ヤイバがそうやって【神代】の追っ手から逃げ切ることができたのだ。それと同じことを雉美がしたら……。
「あり得なくはないな……。病射、朔那! 今すぐに仙台空港に向かってくれ! アクセス線ですぐに行ける!」
「了解ス。えっと住所は…」
「仙台空港なのに名取市にあるのか……」
「空港がない府民のくせに何を言う!」
二人は屋上から下の階に行き、そこで空港に向かう。これで、日本の外に逃げようとする動きは一応は封じれた。
(まだ、雉美が日本にいればの話だが……。間に合ってくれ!)
それから次の動きを考える。
「国内…それも仙台市内で逃げているとしたら、どこじゃ? 雉美が根城にしておった岩苔大社は、もうないのだぞ?」
緋寒が屋上から、仙台駅の前を見下ろす。視線の先の商店街にいるとは思えないが、
「木を隠すなら、森の中。人が隠れるとしたら? 人混みの中!」
紅華はそう言った。当たっているかどうかはわからないが、この仙台は百万人も人口がいる。その中に溶け込まれたら、探し出すことなど不可能に近い。
「既に市内どころか県内の寺院、神社、教会には話をつけておる。雉美が頼ろうとしたら、そこでネズミ捕りじゃ」
赤実は、【神代】が少しだがサポートしてくれていることを緑祁たちに教えた。峰子を捕まえたことが実績となって、応援してくれたのだ。
「逃げてないのかも……?」
そんな突拍子もないことを言い出したのは、朱雀。
「どういうこと?」
「峰子を取り戻すために、【神代】へ攻撃するかもしれん。そうでなくとも、緑祁のことを操って【神代】に歯向かわせようとした輩じゃ、そういう暴力的な行為をしでかしても何も不思議ではない」
今日、緑祁たちはこれ以上の探索をしなかった。いいや、できなかったと言う方が正しい。峰子はおそらく緑祁のことを監視していたがために近くにいたから発見が早かったのだが、そうではない雉美については心当たりもなければ、情報もない。
「もう、休もう。駅前のホテルに行くぞ。病射と朔那には、空港近くのホテルを手配する」
朱雀の言葉が現実になるかのように、それはこの夜中に起きた。
「ん、何だ?」
辻神からもらった、【神代】から支給された予備用のスマートフォンが鳴っている。
「はい、もしもし?」
「緑祁か! 私だ、神楽坂満だ! 今、【神代】に通報があった! 仙台駅の前で大変なことが起きているらしい!」
「本当ですか……?」
「既に辻神には連絡を入れてある。お前には、彼と一緒に対処にあたってくれ!」
雉美が絡んでいるかどうかはこの緊急事態ではどうでもいい。今動ける霊能力者を動員するだけだ。
「わかりました! すぐに準備します!」
「頼んだぞ!」
寝巻を脱いで服を着て靴に足を通し、部屋の鍵を持って出る。廊下にちょうど山姫がいて、
「緑祁も聞いた?」
「うん」
「今辻神が偵察に行ってくれているんだけど……。仙台駅の西側にさ、歩道橋みたいなのがあったでしょ? その周辺に、幽霊が現れているらしいワ!」
「誰かが解き放ったんだね。僕たちが昼間いた時には、何も感じなかった。それが満さんが言っていた、緊急事態なのかい?」
「そう! どうやら大量らしいわ、被害が出る前に何とかしないと!」
彭侯も部屋から出てきて、三人で一緒にホテルを出た。彼らが泊っているホテルは仙台駅の東側にあるので、ここからでは様子はわからない。東西連絡通路を進み、西側に進む。
「うわっ!」
思わず声が出た。かなり大量の幽霊……それも迷霊が、空中を漂っている。
「辻神を探そう。って言ってもアイツは蜃気楼を使っているからこっちから見つけるのは……。っと、電話だ」
彭侯が出る。相手はもちろん辻神で、ペデストリアンデッキから降りて来い、と言う。階段を下ると、その影に辻神がいた。
「大丈夫かい?」
「ああ。まだ幽霊たちも私の方には気づいていない。そしてあの建物の屋上を見てみろ」
双眼鏡を手渡され、言われたところを見てみる。
「あっ! あれは!」
間違いない。雉美がいる。何やら腕を動かし、迷霊に命じている様子。緑祁は双眼鏡を山姫に手渡して、それから辻神に、
「一体何を企んでいるんだろう……?」
「さあな。だが一つだけ言えることがあるとすれば……幸運だ!」
この絶望的な状況で彼はそう言った。緑祁もその意図を理解している。今、雉美の方から姿を現した。これは彼女を捕まえる大チャンスなのだ。
「しかしよ、辻神! これだけ大量の幽霊、しかも雉美の支配下のヤツらを無視して、あの女を捕まえるのは無理なんじゃないのか……?」
「一応、育未たちにも連絡は入れた。来てくれると思うが、それでも手が足りない。皇の四つ子もちょっと遅れているが、雉美が動き出すまでに間に合うかどうか…!」
微妙なところだ。雉美としては迷霊たちは陽動目的であり、この騒ぎに乗じて仙台から逃げるつもりなのかもしれない。
「だから、緑祁! おまえが雉美を捕まえるんだ! 私と山姫と彭侯は、幽霊たちの相手をする! 皇の四つ子にもサポートはさせるが、あの女を捕獲するのは、おまえの役目だ! この因縁に、自分で決着をつけろ!」
一人で行わなければいけない。しかし、
「うん、わかったよ! 辻神たちも気を付けて! かなり危ない幽霊だったら、構わず逃げてくれ!」
緑祁はその提案に、賛成を即答した。自分のことを操ろうとした雉美を倒し捕らえるのは、自分の義務だ。他の誰にも任せることはできない。
「よし、行くぞ! 山姫、彭侯、蜃気楼は使えない。独立して動く緑祁の姿を誤魔化せない以上、緑祁は姿を出さなければいけない。そうなると幽霊は間違いなく緑祁を狙う! それを防ぐには、私たちも堂々と姿を見せるんだ」
「了解だぜ」
「わかったヨ!」
心の準備は整った。
「緑祁、私たちが先に行く! 幽霊たちの注意を引くから、その隙に雉美を!」
「わかった! 本当に、気を付けてくれ!」
「ああ。後で落ち合おう!」
三人は緑祁を階段の影に残し、ペデストリアンデッキの上に出た。
「おい、こっちだぞ! 幽霊どもめ、除霊してやる!」
周囲を漂う迷霊たちの視線が一斉に、三人に向く。
「来やがれ! 覚悟があるんならな!」
「ベーっだ! 怖くないもんネ!」
言葉と態度で挑発し、さらに注意を引く。
(もう少し待って……)
辻神たちが隙を作ってくれている。緑祁はペデストリアンデッキには上がらず、車がない道路を進むつもりだ。
(今だっ!)
そして頃合いと判断し、影から出た。