第6話 逆恨み その1
文字数 4,098文字
「っは!」
目が覚めた緑祁。どうやら布団の中で寝ていたようだ。怪我は塞がっていて、もう痛まない。
「気が付いたのね」
横には香恵がいる。ここは民宿の一室であるらしい。
「……ヤイバは? 文与さんは、どうなったの?」
彼の記憶はあの駐車場で途切れている。確か、ヤイバが放った釘に意識を撃ち抜かれた。
無言でテレビをつける香恵。映し出された画面にてニュースキャスターが、
「昨夜未明に遺体で発見された吉池文与さんですが……」
結末を物語っている。
「そんな、まさか………」
「緑祁が倒れた後、私は式神を代わりに召喚したわ。彼女らに戦ってもらおうと思ったのだけど、[ライトニング]と[ダークネス]は緑祁と私を連れて逃げることを優先してしまったのよ……」
香恵の判断はきっと間違ってはいなかった。あの状況で緑祁と自身を守るのなら、式神を召喚するしかない。でもそのせいで、文与を守れなかったことも事実。だからより一層、罪の意識を感じるのだ。
「ごめんなさい、私のせいで……」
「香恵には責任はないよ。僕が負けてしまったことが、一番悪いんだ…」
慰めるために放った言葉ではない。実際、守るべき人が殺されてしまったことに対し、緑祁が一番ショックを感じている。
「高師さんに何て言えばいいんだろう……」
申し訳ございませんでした、と謝って済むのだろうか? 人の命はある意味、何よりも重い。その尊き命が、奪われてしまった。守れなかった。
「………」
香恵も同じ気持ちだ。
「今日は何もしないで、ボーっとしてましょう……」
心の傷までは霊障で治せないので、時間が経って自然に癒されるのを待つしかないのだ。
午後になって、そんな二人がいる民宿にある客が現れた。
「藤松香恵とやらはここにいるか?」
今までに出会ったことがない二人組だ。男の方は名を土方 範造 、女の方は天川 雛菊 という。
二人は緑祁の部屋を訪れる。
「誰ですか…?」
「【神代】から来た。香恵の報告を受けてな」
香恵も黙って緑祁の目覚めを待っていたわけではない。昨晩の出来事を【神代】に知らせた。そうしたら、【神代】は二人の霊能力者を寄越したのである。
「俺たちゃ、【神代】の処刑人だ」
出会って早々に範造は物騒なことを呟いた。だが事実で、彼らは依頼を受けて極秘に、危険人物や裏切り者を抹殺する係。
「イマは、富嶽がダイヒョウになったせいでゼンゼンシゴトできてないけど」
なのだが、その任務も三年前に富嶽が【神代】の実権を握ってから一件も舞い込んできておらず、誰一人として殺めていない。穏健派の彼が、二人に仕事を与えないのだ。
「生温いったら、ありゃあしねえぜ! 富嶽がトップじゃあなければよ、修練だろうがヤイバだろうが俺たちが闇に還してんのにな」
その分他の依頼を回してもらえているのだが、二人にとっては今の体制は不満であるらしい。
「もうちょっと詳しく聞いてもいい?」
緑祁はそんな二人に興味を持った。【神代】から、人を殺めることを許された人物は、一体どんな人間なのだろうか?
「正直、いい気はしねえ」
やはり、命の糸を断ち切ることには抵抗を覚えるらしい。
「それにさ、代償だってあるんだ」
「どんな……?」
範造は答えた。
「色が見えなくなる」
と。どういう原理なのかは不明だが、人を殺した場合魂が呪われるのか、それとも誰かから恨みを買うのか。それが目に見える形で表れるのだそう。既に範造は赤と緑の区別が付けられず、彼よりも仕事をこなした雛菊に至っては目に映るもの全てがモノクロにしか見えないらしい。
長引きそうになったっところで雛菊がピリオドを打つべく、言う。
「そんなハナシはイマ、どうでもいい。範造、ワタシたちがキたモクテキをカクニンしよう」
「ああそうだな」
【神代】公認の殺し屋がやって来たということは、
「そっちらが僕らの代わりに、ヤイバを倒すか捕まえるってこと?」
という、勘違いを生み出しやすい。しかし実は違って、
「それが一番手っ取り早いんだろうがよ。俺たち、【神代】のトップの許可がないと人の命は奪えないのさ。それに捕まえるのは苦手だし、ヤイバの死骸を提出しちゃあ【神代】も怒るだろうよ」
「ヤイバっていうキケンジンブツのシマツはチガう。ワタシたちは香恵に、ハナシをキきにキた」
文与やヤイバの件において、どうしても避けて通れない事情がある。それは、
「ヤイバと皐を中心に過去を調べ直す。八年前、本当は何があったのか! 【神代】のデータベース以上の出来事が実際にあったとしたら、再調査する必要がある」
ということ。香恵は【神代】に報告する際、そのことについての疑問をぶつけた。そしてそれが聞き入れられたので、こうして範造と雛菊が調査を請け負ったのだ。まずは話を発端且つ第三者である香恵から聞く。メモ帳を開いて調査の準備を整えた。
「これはあくまで私と緑祁が考え出した推測よ。だからこの通りのことがあったという保証はないわ」
「いいよ。ハジめて」
その話は、昨日香恵と緑祁がイオンモールで立てた通りだ。ただしそこに、文与までヤイバの手にかけられたことが加わっている。
「なるほど。それは【神代】のデータベースにはないジョウホウ。だから、タダしいかどうかはイマはわからない」
ただ、詳しく調べ直すことは約束してくれた。
「当事者に話を聞くのが一番楽か? いいや、それだと誤魔化される気がするな。雛菊、【神代】の霊能力者の中で、捜査を担当した人物とコンタクトは取れそうか?」
「タブンいける」
「頼むぞ? 俺は当時一般人だった周りの人に話を聞いてみる。ヤイバがそんなにヤバい人物なら、その手の噂話があってもよさそうだからな」
方針が固まった。
「それと、俺は緑祁に用が一つある」
「何だい?」
範造は緑祁のことを呼び、右手をテーブルの上にかざした。
「ヤイバに一度負けたと聞いた。それでもヤイバのことを止めようと、捕まえようと思うか?」
「僕にはそれをする責任があるよ」
守るべき人物はもう殺された。だから普通なら関わる理由がないと思いがちだ。しかし緑祁には、もう一度ヤイバと相打つ意思がある。
「ケジメをつけないといけない。それが逆恨みであっても、僕は構わない! 負けたまま終われないんだ!」
「ならばヒントをやろう」
と言い範造は右手から何かを出し、テーブルに落とした。それは、釘だった。
「これは……?」
「ヤイバの時と同じ霊障だろう? これが機傀だ」
範造が言う用件というのは、機傀の特徴を緑祁に伝えることである。
「知ってるよ。鉄や鋼を思いのままに繰り出せるんだよね? 事実、ヤイバがそうだった」
「それは概ね当たってる。だが、実は違う点がある」
「あ、香恵から聞いたんだけど…。制限は一分以内だっけ?」
「その他には?」
「他に何か、あるの?」
驚く緑祁に対し、範造はさらに機傀を披露する。ナイフや鉄棒、鉄板、ピンセット、ネジなど様々だ。
「何でも生み出せ……。いや待って!」
その機傀の中で緑祁はあることに気が付く。
「複雑な物は生み出せない?」
「ご名答だな」
ここで範造が解説をしてくれる。
「一見便利に見える機傀だが、実は単純な鉄製品しか生めない。金属のパーツは作れても、それを組み合わせて複雑な構造を繰り出すのは不可能なんだ。例えば…銃とか。全てのパーツを金属で作れても、複雑に組み合わせることはできない」
「じゃあ単純な組み合わせはできるの?」
「そうだな……鎖鎌みてえなのは作れそうではある。だがそれくらい。機傀は単純なものしか出せないから、その後の動きも単純だ。昨日の戦いの様子をみたわけじゃあねえが、ヤイバは単調な攻撃しかしてこなかったんじゃあねえのか?」
「言われてみれば…!」
ヤイバの動きは、機傀を用いて鉄製の何かを出し、それを投げたり振ったりぐらいだった。
「これ、明確な弱点と思わねえか?」
「確かにそうだ。でも、ヤイバが工夫したら意味がないのでは?」
「なら、工夫させなければいい。貴様には式神があるんだろう? それを使え! 式神の力は、貴様自身の力だ! 何も卑怯じゃあねえよ、使役しているのだから、共に戦って当然のこと!」
[ライトニング]と[ダークネス]が緑祁に合わされば、きっとヤイバに勝てる。範造はそう言った。
(でも、肝心の彼女らはどう思っているんだろう……? 香恵の話によれば、逃げ出してしまったんだし……)
札を取り出し実際に今ここで召喚してみる。
「おお、凄い! これが貴様の式神か! こういうタイプは久しく見ねえな」
「[ライトニング]はペガサス、[ダークネス]はグリフォン……。タシかに、あんまりミかけない」
式神に、緑祁は問いかける。
「[ライトニング]、[ダークネス]……。僕と一緒に戦ってくれるかい? 相手は手強いんだ、それこそ僕一人では勝てない。だから、そっちたちの力が必要なんだ!」
すると[ライトニング]と[ダークネス]はお互いに顔を合わせ目で意思疎通をする。そして緑祁に向き直り、首を縦に振った。二体の式神は人語を話すことはできないが、彼に自分たちの意志を伝えたのである。
「あ、ありがとう……!」
緑祁は作戦に乗ってくれた式神に感謝し、彼女らを札に戻した。
「じゃあここは、カイサン」
範造と雛菊は自分たちの部屋に戻る。
「ねえ緑祁、すぐにでもヤイバに戦いを挑むつもりなの?」
香恵が聞いた。
「どうだろうね? 被害を最小限にするのなら、今日にでも動いた方がいいよ。だけど……」
その言葉の奥に、引っかかるものがあるのだ。
「真相を知りたいって気持ちは、僕も一緒だ。高師さんは教えてくれないだろうから、ここは範造と雛菊の報告を待つよ」
「仮に皐や高師が、私たちの想像通りのことをしていたとしても?」
この言葉の意味、それは間違ったことをした人を守れるか、ということ。
「………守るよ」
緑祁はそう返事をした。
「過去に何があったか、それはとても重要なことだ。でもそれ以上にヤイバは、僕の任務を台無しにしたんだ! だから僕個人の意思で、彼を倒して捕まえる!」
士気は高い。ただ今は真相の解明を待つのだ。
目が覚めた緑祁。どうやら布団の中で寝ていたようだ。怪我は塞がっていて、もう痛まない。
「気が付いたのね」
横には香恵がいる。ここは民宿の一室であるらしい。
「……ヤイバは? 文与さんは、どうなったの?」
彼の記憶はあの駐車場で途切れている。確か、ヤイバが放った釘に意識を撃ち抜かれた。
無言でテレビをつける香恵。映し出された画面にてニュースキャスターが、
「昨夜未明に遺体で発見された吉池文与さんですが……」
結末を物語っている。
「そんな、まさか………」
「緑祁が倒れた後、私は式神を代わりに召喚したわ。彼女らに戦ってもらおうと思ったのだけど、[ライトニング]と[ダークネス]は緑祁と私を連れて逃げることを優先してしまったのよ……」
香恵の判断はきっと間違ってはいなかった。あの状況で緑祁と自身を守るのなら、式神を召喚するしかない。でもそのせいで、文与を守れなかったことも事実。だからより一層、罪の意識を感じるのだ。
「ごめんなさい、私のせいで……」
「香恵には責任はないよ。僕が負けてしまったことが、一番悪いんだ…」
慰めるために放った言葉ではない。実際、守るべき人が殺されてしまったことに対し、緑祁が一番ショックを感じている。
「高師さんに何て言えばいいんだろう……」
申し訳ございませんでした、と謝って済むのだろうか? 人の命はある意味、何よりも重い。その尊き命が、奪われてしまった。守れなかった。
「………」
香恵も同じ気持ちだ。
「今日は何もしないで、ボーっとしてましょう……」
心の傷までは霊障で治せないので、時間が経って自然に癒されるのを待つしかないのだ。
午後になって、そんな二人がいる民宿にある客が現れた。
「藤松香恵とやらはここにいるか?」
今までに出会ったことがない二人組だ。男の方は名を
二人は緑祁の部屋を訪れる。
「誰ですか…?」
「【神代】から来た。香恵の報告を受けてな」
香恵も黙って緑祁の目覚めを待っていたわけではない。昨晩の出来事を【神代】に知らせた。そうしたら、【神代】は二人の霊能力者を寄越したのである。
「俺たちゃ、【神代】の処刑人だ」
出会って早々に範造は物騒なことを呟いた。だが事実で、彼らは依頼を受けて極秘に、危険人物や裏切り者を抹殺する係。
「イマは、富嶽がダイヒョウになったせいでゼンゼンシゴトできてないけど」
なのだが、その任務も三年前に富嶽が【神代】の実権を握ってから一件も舞い込んできておらず、誰一人として殺めていない。穏健派の彼が、二人に仕事を与えないのだ。
「生温いったら、ありゃあしねえぜ! 富嶽がトップじゃあなければよ、修練だろうがヤイバだろうが俺たちが闇に還してんのにな」
その分他の依頼を回してもらえているのだが、二人にとっては今の体制は不満であるらしい。
「もうちょっと詳しく聞いてもいい?」
緑祁はそんな二人に興味を持った。【神代】から、人を殺めることを許された人物は、一体どんな人間なのだろうか?
「正直、いい気はしねえ」
やはり、命の糸を断ち切ることには抵抗を覚えるらしい。
「それにさ、代償だってあるんだ」
「どんな……?」
範造は答えた。
「色が見えなくなる」
と。どういう原理なのかは不明だが、人を殺した場合魂が呪われるのか、それとも誰かから恨みを買うのか。それが目に見える形で表れるのだそう。既に範造は赤と緑の区別が付けられず、彼よりも仕事をこなした雛菊に至っては目に映るもの全てがモノクロにしか見えないらしい。
長引きそうになったっところで雛菊がピリオドを打つべく、言う。
「そんなハナシはイマ、どうでもいい。範造、ワタシたちがキたモクテキをカクニンしよう」
「ああそうだな」
【神代】公認の殺し屋がやって来たということは、
「そっちらが僕らの代わりに、ヤイバを倒すか捕まえるってこと?」
という、勘違いを生み出しやすい。しかし実は違って、
「それが一番手っ取り早いんだろうがよ。俺たち、【神代】のトップの許可がないと人の命は奪えないのさ。それに捕まえるのは苦手だし、ヤイバの死骸を提出しちゃあ【神代】も怒るだろうよ」
「ヤイバっていうキケンジンブツのシマツはチガう。ワタシたちは香恵に、ハナシをキきにキた」
文与やヤイバの件において、どうしても避けて通れない事情がある。それは、
「ヤイバと皐を中心に過去を調べ直す。八年前、本当は何があったのか! 【神代】のデータベース以上の出来事が実際にあったとしたら、再調査する必要がある」
ということ。香恵は【神代】に報告する際、そのことについての疑問をぶつけた。そしてそれが聞き入れられたので、こうして範造と雛菊が調査を請け負ったのだ。まずは話を発端且つ第三者である香恵から聞く。メモ帳を開いて調査の準備を整えた。
「これはあくまで私と緑祁が考え出した推測よ。だからこの通りのことがあったという保証はないわ」
「いいよ。ハジめて」
その話は、昨日香恵と緑祁がイオンモールで立てた通りだ。ただしそこに、文与までヤイバの手にかけられたことが加わっている。
「なるほど。それは【神代】のデータベースにはないジョウホウ。だから、タダしいかどうかはイマはわからない」
ただ、詳しく調べ直すことは約束してくれた。
「当事者に話を聞くのが一番楽か? いいや、それだと誤魔化される気がするな。雛菊、【神代】の霊能力者の中で、捜査を担当した人物とコンタクトは取れそうか?」
「タブンいける」
「頼むぞ? 俺は当時一般人だった周りの人に話を聞いてみる。ヤイバがそんなにヤバい人物なら、その手の噂話があってもよさそうだからな」
方針が固まった。
「それと、俺は緑祁に用が一つある」
「何だい?」
範造は緑祁のことを呼び、右手をテーブルの上にかざした。
「ヤイバに一度負けたと聞いた。それでもヤイバのことを止めようと、捕まえようと思うか?」
「僕にはそれをする責任があるよ」
守るべき人物はもう殺された。だから普通なら関わる理由がないと思いがちだ。しかし緑祁には、もう一度ヤイバと相打つ意思がある。
「ケジメをつけないといけない。それが逆恨みであっても、僕は構わない! 負けたまま終われないんだ!」
「ならばヒントをやろう」
と言い範造は右手から何かを出し、テーブルに落とした。それは、釘だった。
「これは……?」
「ヤイバの時と同じ霊障だろう? これが機傀だ」
範造が言う用件というのは、機傀の特徴を緑祁に伝えることである。
「知ってるよ。鉄や鋼を思いのままに繰り出せるんだよね? 事実、ヤイバがそうだった」
「それは概ね当たってる。だが、実は違う点がある」
「あ、香恵から聞いたんだけど…。制限は一分以内だっけ?」
「その他には?」
「他に何か、あるの?」
驚く緑祁に対し、範造はさらに機傀を披露する。ナイフや鉄棒、鉄板、ピンセット、ネジなど様々だ。
「何でも生み出せ……。いや待って!」
その機傀の中で緑祁はあることに気が付く。
「複雑な物は生み出せない?」
「ご名答だな」
ここで範造が解説をしてくれる。
「一見便利に見える機傀だが、実は単純な鉄製品しか生めない。金属のパーツは作れても、それを組み合わせて複雑な構造を繰り出すのは不可能なんだ。例えば…銃とか。全てのパーツを金属で作れても、複雑に組み合わせることはできない」
「じゃあ単純な組み合わせはできるの?」
「そうだな……鎖鎌みてえなのは作れそうではある。だがそれくらい。機傀は単純なものしか出せないから、その後の動きも単純だ。昨日の戦いの様子をみたわけじゃあねえが、ヤイバは単調な攻撃しかしてこなかったんじゃあねえのか?」
「言われてみれば…!」
ヤイバの動きは、機傀を用いて鉄製の何かを出し、それを投げたり振ったりぐらいだった。
「これ、明確な弱点と思わねえか?」
「確かにそうだ。でも、ヤイバが工夫したら意味がないのでは?」
「なら、工夫させなければいい。貴様には式神があるんだろう? それを使え! 式神の力は、貴様自身の力だ! 何も卑怯じゃあねえよ、使役しているのだから、共に戦って当然のこと!」
[ライトニング]と[ダークネス]が緑祁に合わされば、きっとヤイバに勝てる。範造はそう言った。
(でも、肝心の彼女らはどう思っているんだろう……? 香恵の話によれば、逃げ出してしまったんだし……)
札を取り出し実際に今ここで召喚してみる。
「おお、凄い! これが貴様の式神か! こういうタイプは久しく見ねえな」
「[ライトニング]はペガサス、[ダークネス]はグリフォン……。タシかに、あんまりミかけない」
式神に、緑祁は問いかける。
「[ライトニング]、[ダークネス]……。僕と一緒に戦ってくれるかい? 相手は手強いんだ、それこそ僕一人では勝てない。だから、そっちたちの力が必要なんだ!」
すると[ライトニング]と[ダークネス]はお互いに顔を合わせ目で意思疎通をする。そして緑祁に向き直り、首を縦に振った。二体の式神は人語を話すことはできないが、彼に自分たちの意志を伝えたのである。
「あ、ありがとう……!」
緑祁は作戦に乗ってくれた式神に感謝し、彼女らを札に戻した。
「じゃあここは、カイサン」
範造と雛菊は自分たちの部屋に戻る。
「ねえ緑祁、すぐにでもヤイバに戦いを挑むつもりなの?」
香恵が聞いた。
「どうだろうね? 被害を最小限にするのなら、今日にでも動いた方がいいよ。だけど……」
その言葉の奥に、引っかかるものがあるのだ。
「真相を知りたいって気持ちは、僕も一緒だ。高師さんは教えてくれないだろうから、ここは範造と雛菊の報告を待つよ」
「仮に皐や高師が、私たちの想像通りのことをしていたとしても?」
この言葉の意味、それは間違ったことをした人を守れるか、ということ。
「………守るよ」
緑祁はそう返事をした。
「過去に何があったか、それはとても重要なことだ。でもそれ以上にヤイバは、僕の任務を台無しにしたんだ! だから僕個人の意思で、彼を倒して捕まえる!」
士気は高い。ただ今は真相の解明を待つのだ。