第8話 衝撃の真実 その1
文字数 2,402文字
「やりましたぞ。はい」
紅華は重之助に電話を入れ、偽緑祁が倒されたことを報告した。
「やったんだね、僕の勝ち、なんだよね?」
「そうじゃ!」
緑祁は、まだ自分を信じられない様子だった。
「ところで、じゃ。ちょっとついて来てくれ」
本来なら勝利の余韻に浸りたいところではあるが、緋寒がそうさせない。足を怪我している紫電のことを赤実におんぶさせ、車に押し込んだ。それから四姉妹も乗り込んで、二人をとある場所に連れて行く。
「どこに行くの?」
「楠館、じゃ」
それは、長崎に来た緑祁が宿泊する予定であった場所。
「病院に戻るわけではないのかい?」
「もう偽者は消えた! 容疑も晴れたわけじゃし、見張る必要性がない。だが! 教えなければいけない事実があるのじゃ!」
それは何なのか。聞いてみたが、ここでは教えられないと断られてしまう。
「おい四つ子! 俺も行かないといけないのか?」
紫電が言うと、
「証言は多い方がいい」
という返事。
「え? でも、僕の疑いはなくなった……んだよね?」
「ここでごちゃごちゃ聞くな! 旅館に着いたら教えると言っておるだろうが!」
それ以上質問できる空気ではなかったので、緑祁も紫電も黙った。
楠館には、刹那と絵美もいた。
「……式神を見せてくれない?」
その頼みに対し緑祁は、[ライトニング]と[ダークネス]をその場で召喚してみせた。
「本物だ。この式神を有する者は、この世に一人しかない――」
確認はこれで十分。もっとも皇の四つ子が、負けた方が明らかに人間ではできない消え方をしたので、それで今ここにいる緑祁が本物であることを保証してくれるのだが。
「さて、と」
こんな時間まで起きていた跡取り予定の若い従業員に頼み、宴会場を借りた。そこに緑祁、紫電、刹那、絵美を入らせる。続いて緋寒たちも入る。
「まず四人に問いたいのじゃが……」
朱雀が急にかしこまったことを言う。
「何だろうか――」
そしてその内容は、非常に単純だ。
「本当に、藤松香恵と会ったことがあるのか?」
「おいお前! いくらなんでもそれは失礼極まりねえぞ! 俺だって一か月前、緑祁と一緒にいるところを見たぜ?」
真っ先に反発したのは、紫電だ。彼は霊能力者ネットワークを開き、
「ほうらここに! ちゃんと活動履歴が書いてあるだろうが!」
「それは証拠にはなっとらんが……。まあわたしも確認したが、そうらしいな」
「ねえちょっと、何が言いたいの?」
一々もったいぶってないで、さっさと答えてくれ。絵美がそう言うと、
「実は、緑祁に頼まれてわたしらは彼の監視のついでに、香恵のことを捜索しておった。霊能力者ネットワークが駄目ならと、一般人の力を借りた」
朱雀は封筒を持ち、
「ここに、興信所の報告書がある」
中の書類を取り出す。
「香恵が今、どこにおるか! それがこれでわかったのじゃ」
「だから! そういう風に面倒なことしないで、教えなさいってば!」
絵美がその紙を奪い取った。そして文面に目を通すと、
「は、はあああああ?」
驚愕の声が宴会場に響く。
「何事か――」
刹那がそれを覗き込んだ。すると彼女も驚きのあまり、表情が崩れた。
「な、何が書いてあるんだい?」
緑祁もその紙を取ろうと手を伸ばしたが、その時緋寒が、
「藤松香恵は今、病院に入院している。それは彼女の故郷兼現住所である、神奈川県横浜市。市内の病院に、一年以上こん睡状態で入院しておる……!」
報告書と一字一句違わない内容を緑祁に教えた。
「何かの間違いじゃないの? 僕は香恵と出会ってから長崎に来るまでの一か月、一緒にいたよ? 広島に行った時も僕の側にいた!」
四人の中で一番香恵と長く一緒にいた緑祁が、調査内容を否定する。が、
「わちきらもその内容を疑った。じゃが病院側に確認してみると、確かにそこで今も眠っておるのじゃ!」
緋寒たちもその点は確認を済ませている。
「おいおいおい? 変じゃねえか? 霊能力者ネットワークにはこの一年の活動内容もあるぜ? それだと矛盾だろう?」
「こう考えれば矛盾がない」
紅華がそう言い、それに続いて赤実が、
「緑祁と一緒に行動していたのは、霊能力者として活動をしていたのは、偽者……」
「な、なんですって!」
その場にいる四人が、驚きを隠せない。
「馬鹿な? どうしてそんなことが? ………ああっ!」
霊能力者ネットワークの履歴の部分を見ていた紫電が、気づいた。
「ちょうど一年前…去年のゴールデンウィークだぜ? 香恵は軍艦島に、行っている!」
「え……?」
それに反応した緑祁。
「そうなのじゃ。緑祁はそこで寄霊に取り憑かれた……」
偽緑祁を生み出す原因となった場所に、香恵も同じ時期に訪れている。
「そして件の入院は、軍艦島に行ってから故郷に戻った後!」
それが何を意味しているのか。緑祁はすぐに見抜いてしまった。
「僕と一緒にいたのは、寄霊が再現した方……」
香恵も定期的な悪霊の駆除に赴き、そこで寄霊に取り憑かれた。だから本物はこん睡状態で入院中だが、偽者の方は無関係に行動できる、というわけだ。そして寄霊の性格には個体差があるので、偽緑祁のように破壊活動などは特にしなかった。
「でもそんなこと、信じられるわけないじゃないのよ! そうよね、緑祁?」
「……思い当たる節があるよ」
前に寄霊の性質を聞いた時、
「寄霊の方から他の幽霊には干渉ができない……」
重之助は確かにそう言った。そして思い返してみれば、
「香恵が除霊するところを、僕は見たことがないんだ……」
「本当か? でも霊界重合の時に……」
「散霊の誘導は、札を用いていたんだ」
「そうか。札や塩を使えば、間接的に他の霊に干渉はできる。だから怪しまれることはない。そうじゃったよな?」
紅華が言うと緑祁は頷いた。
「我らを待ち受けていたのは、勝利の余韻などではなかった。衝撃の真実、その荒波に、我らは見事に絡めとられたのである――」
紅華は重之助に電話を入れ、偽緑祁が倒されたことを報告した。
「やったんだね、僕の勝ち、なんだよね?」
「そうじゃ!」
緑祁は、まだ自分を信じられない様子だった。
「ところで、じゃ。ちょっとついて来てくれ」
本来なら勝利の余韻に浸りたいところではあるが、緋寒がそうさせない。足を怪我している紫電のことを赤実におんぶさせ、車に押し込んだ。それから四姉妹も乗り込んで、二人をとある場所に連れて行く。
「どこに行くの?」
「楠館、じゃ」
それは、長崎に来た緑祁が宿泊する予定であった場所。
「病院に戻るわけではないのかい?」
「もう偽者は消えた! 容疑も晴れたわけじゃし、見張る必要性がない。だが! 教えなければいけない事実があるのじゃ!」
それは何なのか。聞いてみたが、ここでは教えられないと断られてしまう。
「おい四つ子! 俺も行かないといけないのか?」
紫電が言うと、
「証言は多い方がいい」
という返事。
「え? でも、僕の疑いはなくなった……んだよね?」
「ここでごちゃごちゃ聞くな! 旅館に着いたら教えると言っておるだろうが!」
それ以上質問できる空気ではなかったので、緑祁も紫電も黙った。
楠館には、刹那と絵美もいた。
「……式神を見せてくれない?」
その頼みに対し緑祁は、[ライトニング]と[ダークネス]をその場で召喚してみせた。
「本物だ。この式神を有する者は、この世に一人しかない――」
確認はこれで十分。もっとも皇の四つ子が、負けた方が明らかに人間ではできない消え方をしたので、それで今ここにいる緑祁が本物であることを保証してくれるのだが。
「さて、と」
こんな時間まで起きていた跡取り予定の若い従業員に頼み、宴会場を借りた。そこに緑祁、紫電、刹那、絵美を入らせる。続いて緋寒たちも入る。
「まず四人に問いたいのじゃが……」
朱雀が急にかしこまったことを言う。
「何だろうか――」
そしてその内容は、非常に単純だ。
「本当に、藤松香恵と会ったことがあるのか?」
「おいお前! いくらなんでもそれは失礼極まりねえぞ! 俺だって一か月前、緑祁と一緒にいるところを見たぜ?」
真っ先に反発したのは、紫電だ。彼は霊能力者ネットワークを開き、
「ほうらここに! ちゃんと活動履歴が書いてあるだろうが!」
「それは証拠にはなっとらんが……。まあわたしも確認したが、そうらしいな」
「ねえちょっと、何が言いたいの?」
一々もったいぶってないで、さっさと答えてくれ。絵美がそう言うと、
「実は、緑祁に頼まれてわたしらは彼の監視のついでに、香恵のことを捜索しておった。霊能力者ネットワークが駄目ならと、一般人の力を借りた」
朱雀は封筒を持ち、
「ここに、興信所の報告書がある」
中の書類を取り出す。
「香恵が今、どこにおるか! それがこれでわかったのじゃ」
「だから! そういう風に面倒なことしないで、教えなさいってば!」
絵美がその紙を奪い取った。そして文面に目を通すと、
「は、はあああああ?」
驚愕の声が宴会場に響く。
「何事か――」
刹那がそれを覗き込んだ。すると彼女も驚きのあまり、表情が崩れた。
「な、何が書いてあるんだい?」
緑祁もその紙を取ろうと手を伸ばしたが、その時緋寒が、
「藤松香恵は今、病院に入院している。それは彼女の故郷兼現住所である、神奈川県横浜市。市内の病院に、一年以上こん睡状態で入院しておる……!」
報告書と一字一句違わない内容を緑祁に教えた。
「何かの間違いじゃないの? 僕は香恵と出会ってから長崎に来るまでの一か月、一緒にいたよ? 広島に行った時も僕の側にいた!」
四人の中で一番香恵と長く一緒にいた緑祁が、調査内容を否定する。が、
「わちきらもその内容を疑った。じゃが病院側に確認してみると、確かにそこで今も眠っておるのじゃ!」
緋寒たちもその点は確認を済ませている。
「おいおいおい? 変じゃねえか? 霊能力者ネットワークにはこの一年の活動内容もあるぜ? それだと矛盾だろう?」
「こう考えれば矛盾がない」
紅華がそう言い、それに続いて赤実が、
「緑祁と一緒に行動していたのは、霊能力者として活動をしていたのは、偽者……」
「な、なんですって!」
その場にいる四人が、驚きを隠せない。
「馬鹿な? どうしてそんなことが? ………ああっ!」
霊能力者ネットワークの履歴の部分を見ていた紫電が、気づいた。
「ちょうど一年前…去年のゴールデンウィークだぜ? 香恵は軍艦島に、行っている!」
「え……?」
それに反応した緑祁。
「そうなのじゃ。緑祁はそこで寄霊に取り憑かれた……」
偽緑祁を生み出す原因となった場所に、香恵も同じ時期に訪れている。
「そして件の入院は、軍艦島に行ってから故郷に戻った後!」
それが何を意味しているのか。緑祁はすぐに見抜いてしまった。
「僕と一緒にいたのは、寄霊が再現した方……」
香恵も定期的な悪霊の駆除に赴き、そこで寄霊に取り憑かれた。だから本物はこん睡状態で入院中だが、偽者の方は無関係に行動できる、というわけだ。そして寄霊の性格には個体差があるので、偽緑祁のように破壊活動などは特にしなかった。
「でもそんなこと、信じられるわけないじゃないのよ! そうよね、緑祁?」
「……思い当たる節があるよ」
前に寄霊の性質を聞いた時、
「寄霊の方から他の幽霊には干渉ができない……」
重之助は確かにそう言った。そして思い返してみれば、
「香恵が除霊するところを、僕は見たことがないんだ……」
「本当か? でも霊界重合の時に……」
「散霊の誘導は、札を用いていたんだ」
「そうか。札や塩を使えば、間接的に他の霊に干渉はできる。だから怪しまれることはない。そうじゃったよな?」
紅華が言うと緑祁は頷いた。
「我らを待ち受けていたのは、勝利の余韻などではなかった。衝撃の真実、その荒波に、我らは見事に絡めとられたのである――」