第1話 大会開催 その1
文字数 2,341文字
【神代】のデータベースに、とある報せが告知された。動画が一本。特に説明文はないが、【神代】本部がアップロードしたものだ。
「何だろう?」
永露緑祁はパソコンのデスクトップにそれを表示する。ちょうど今一緒にいる藤松香恵が、
「見てみましょう」
促したのでクリックしてみる。
「全国の霊能力者諸君、二月はあと五日で終わりだ。だがまだ寒さは続いている……」
と言って頭を下げ挨拶をしたのは、
「ふ、富嶽さんだ……!」
【神代】のトップである。相変わらず威厳のある顔つきだ。
「わざわざ富嶽さんが出て来るってことは、それほど重大なことが……!」
二人はその動画に集中する。
「突然で申し訳ない。黙っているつもりはなかったのだが、情報を先に掴んだ者と後から知った者との間で差が生じてしまうのは、吾輩も避けたいことだ。だから発表は今日になってしまった。最初に謝っておこう」
では、彼が霊能力者たちに報せたいこととは一体何だろうか?
「【神代】は次の三月に、大会を開催する! 第一回霊能力者大会だ!」
それは催し物の通達だった。
「今まで考えたことはないか? 霊能力者同士がぶつかり合うこと、誰が自分よりも強くて上なのか……。それを一度に解決できる大会だ!」
富嶽には、とある思惑があった。それは自分の息子のことを見て抱いたものだ。
「せがれはよく言う。人生は一生修行中である、とな。そして一番効率の良い修行は、他人と競い合うことだ、とも」
その発言を受け、彼が考えた。
「もしも霊能力者が集まってその力を競い合うことができたら、それは凄まじく莫大な経験値を生み出すであろう。これは鍛錬と同じなのだ」
ちょうど、九月に競戦を許可したこともあって、こういう大会を開いて競わせるという発想にそれが繋がったのだ。
「タダとは言わない! 優勝者には気前よく、何も文句なしに十億円を支払おう。その下、二位から十位までは賞金を用意しておる」
開催するのだから、当然賞金は発生する。【神代】の財力がなせる大技だ。
「では次に、その大会の内容について説明しよう! 吾輩はこの大会、本州を横断するレースと決めた! 霊能力者を一か所に集め、スタジアムで戦わせるのが一番、強弱を決めるのに手っ取り早く感じる者もいるとは思う。だが、霊能力者の本当の相手は脅威や幽霊といったものが多く、それらは場所に縛られない。それに一人一人異なる才能や霊障を持っておるのだから、それらに配慮しなければ不平等……。ゆえにレース!」
交通網が発達した今の時代、その恩恵を受けずにレースをするのは無駄が多いし、【神代】側も歩いて横断しろとは言わない。しかしそれでは飛行機にいち早く搭乗できた者が優勝になってしまう。それを防ぐために、
「この大会に参加する者には、本州の一都二府三十一県全てを訪れてもらう! 詳しいルールはまだ言えないが、課題を設けそれらをクリアしながら進むことになるのだ!」
細かなルールが練られている。
「少し、質問タイムにしよう」
すると動画の画面の上に、文章が表示された。それと同じことを神崎凱輝は読み上げる。
「参加資格を、教えてください」
「霊能力者ならば、性別は問わない。国籍も不問だ、日本の霊能力者は海外の【UON】だかには負けんからな! 巡礼者でも定職に就いているものでも構わない。ただし、二〇一四年度に二十歳以上である必要がある」
「禁止となる行為は、何ですか?」
「この大会の目的は果てしない鍛錬だ。ゆえに自分の力だけで戦ってもらう。式神やその他の幽霊の使用は禁じる」
「参加者は、一人で旅をするのですか?」
「それでも構わんが、チームを組むことを許可しておる。最大四人までだ。他の人と一緒に作業をすることも時には必要なスキル、是非とも磨いてくれ」
「参加費は、おいくらでしょうか?」
「無料だ。本州全ての寺院、神社、教会と交渉し、大会参加者を無償で宿泊させる手筈はもう整っておる。自費を出せるのなら、自前でホテルや民宿に泊まってもいい! ただし交通費は自分で払っていただく」
「順位を確認する方法は、ありますか?」
「大会期間中は専用のデータベースを設けることになっておる。リアルタイムで順位が表示される予定だ」
「【神代】の幹部クラスが出場しては、一般の参加者に勝ち目が、ない気がするのですが?」
「その心配は無用だ! 幹部クラスの霊能力者たちには今回、出場資格を与えてはおらん。それは吾輩の息子でも例外ではない。強い駒は出さないので、安心してくれ!」
「戦うと言っても、どの程度のことが許されるのでしょうか?」
「そうだな……。命を奪うことは原則、禁止だ。これを破ったのなら、即失格! しかしそれではどう勝敗をつけるんだという疑問が湧くであろうが、それはもうこちらで解決済みだ」
その他の詳しいルールや規約については、この日の夕方にアップロードされると言う。
「最後に一つ、言っておく! 霊能力者たちの集合場所だ。それは……山口県の、壇ノ浦古戦場! 三月一日の正午に集合せよ!」
これを見た緑祁と香恵は、
「【神代】がそんなことを率先して行うなんて、驚きだ……」
びっくりしている。
「どうしよう?」
緑祁が香恵に聞いた。
「出たいの?」
「う~ん、そこが悩みどころだ……」
賞金に目がくらんだわけではない。ただ、自分の実力を知る上で、重要な大会だ。緑祁は自分のライバルよりも強ければいいという感情を抱いてはいるが、同時に、
「いろんな人に通用する強さが欲しい」
とも思う。
「なら、行くしかないと思うわ」
ここで香恵が背中を押す。
「僕とチームを組んでくれるかい?」
「ええ、もちろんよ」
決まった。そうなれば早速荷造りをして、二月二十八日に丸一日かけて新幹線で山口へ移動。
「何だろう?」
永露緑祁はパソコンのデスクトップにそれを表示する。ちょうど今一緒にいる藤松香恵が、
「見てみましょう」
促したのでクリックしてみる。
「全国の霊能力者諸君、二月はあと五日で終わりだ。だがまだ寒さは続いている……」
と言って頭を下げ挨拶をしたのは、
「ふ、富嶽さんだ……!」
【神代】のトップである。相変わらず威厳のある顔つきだ。
「わざわざ富嶽さんが出て来るってことは、それほど重大なことが……!」
二人はその動画に集中する。
「突然で申し訳ない。黙っているつもりはなかったのだが、情報を先に掴んだ者と後から知った者との間で差が生じてしまうのは、吾輩も避けたいことだ。だから発表は今日になってしまった。最初に謝っておこう」
では、彼が霊能力者たちに報せたいこととは一体何だろうか?
「【神代】は次の三月に、大会を開催する! 第一回霊能力者大会だ!」
それは催し物の通達だった。
「今まで考えたことはないか? 霊能力者同士がぶつかり合うこと、誰が自分よりも強くて上なのか……。それを一度に解決できる大会だ!」
富嶽には、とある思惑があった。それは自分の息子のことを見て抱いたものだ。
「せがれはよく言う。人生は一生修行中である、とな。そして一番効率の良い修行は、他人と競い合うことだ、とも」
その発言を受け、彼が考えた。
「もしも霊能力者が集まってその力を競い合うことができたら、それは凄まじく莫大な経験値を生み出すであろう。これは鍛錬と同じなのだ」
ちょうど、九月に競戦を許可したこともあって、こういう大会を開いて競わせるという発想にそれが繋がったのだ。
「タダとは言わない! 優勝者には気前よく、何も文句なしに十億円を支払おう。その下、二位から十位までは賞金を用意しておる」
開催するのだから、当然賞金は発生する。【神代】の財力がなせる大技だ。
「では次に、その大会の内容について説明しよう! 吾輩はこの大会、本州を横断するレースと決めた! 霊能力者を一か所に集め、スタジアムで戦わせるのが一番、強弱を決めるのに手っ取り早く感じる者もいるとは思う。だが、霊能力者の本当の相手は脅威や幽霊といったものが多く、それらは場所に縛られない。それに一人一人異なる才能や霊障を持っておるのだから、それらに配慮しなければ不平等……。ゆえにレース!」
交通網が発達した今の時代、その恩恵を受けずにレースをするのは無駄が多いし、【神代】側も歩いて横断しろとは言わない。しかしそれでは飛行機にいち早く搭乗できた者が優勝になってしまう。それを防ぐために、
「この大会に参加する者には、本州の一都二府三十一県全てを訪れてもらう! 詳しいルールはまだ言えないが、課題を設けそれらをクリアしながら進むことになるのだ!」
細かなルールが練られている。
「少し、質問タイムにしよう」
すると動画の画面の上に、文章が表示された。それと同じことを神崎凱輝は読み上げる。
「参加資格を、教えてください」
「霊能力者ならば、性別は問わない。国籍も不問だ、日本の霊能力者は海外の【UON】だかには負けんからな! 巡礼者でも定職に就いているものでも構わない。ただし、二〇一四年度に二十歳以上である必要がある」
「禁止となる行為は、何ですか?」
「この大会の目的は果てしない鍛錬だ。ゆえに自分の力だけで戦ってもらう。式神やその他の幽霊の使用は禁じる」
「参加者は、一人で旅をするのですか?」
「それでも構わんが、チームを組むことを許可しておる。最大四人までだ。他の人と一緒に作業をすることも時には必要なスキル、是非とも磨いてくれ」
「参加費は、おいくらでしょうか?」
「無料だ。本州全ての寺院、神社、教会と交渉し、大会参加者を無償で宿泊させる手筈はもう整っておる。自費を出せるのなら、自前でホテルや民宿に泊まってもいい! ただし交通費は自分で払っていただく」
「順位を確認する方法は、ありますか?」
「大会期間中は専用のデータベースを設けることになっておる。リアルタイムで順位が表示される予定だ」
「【神代】の幹部クラスが出場しては、一般の参加者に勝ち目が、ない気がするのですが?」
「その心配は無用だ! 幹部クラスの霊能力者たちには今回、出場資格を与えてはおらん。それは吾輩の息子でも例外ではない。強い駒は出さないので、安心してくれ!」
「戦うと言っても、どの程度のことが許されるのでしょうか?」
「そうだな……。命を奪うことは原則、禁止だ。これを破ったのなら、即失格! しかしそれではどう勝敗をつけるんだという疑問が湧くであろうが、それはもうこちらで解決済みだ」
その他の詳しいルールや規約については、この日の夕方にアップロードされると言う。
「最後に一つ、言っておく! 霊能力者たちの集合場所だ。それは……山口県の、壇ノ浦古戦場! 三月一日の正午に集合せよ!」
これを見た緑祁と香恵は、
「【神代】がそんなことを率先して行うなんて、驚きだ……」
びっくりしている。
「どうしよう?」
緑祁が香恵に聞いた。
「出たいの?」
「う~ん、そこが悩みどころだ……」
賞金に目がくらんだわけではない。ただ、自分の実力を知る上で、重要な大会だ。緑祁は自分のライバルよりも強ければいいという感情を抱いてはいるが、同時に、
「いろんな人に通用する強さが欲しい」
とも思う。
「なら、行くしかないと思うわ」
ここで香恵が背中を押す。
「僕とチームを組んでくれるかい?」
「ええ、もちろんよ」
決まった。そうなれば早速荷造りをして、二月二十八日に丸一日かけて新幹線で山口へ移動。