第2話 夜の町で その3
文字数 3,712文字
緑祁はまだ動かない。もちろん蒼も。何かしらのキッカケがなければ、この緊張した空気は壊せない。
急に雲が現れ、明るい月を覆った。辺りが月明りを失って少し暗くなる。この時、先に動いたのは蒼だった。
「のろま!」
彼女は札使いのようで、ポケットから折りたたまれた札を取り出した。それを広げ、緑祁に切りかかる。
「それっ!」
緑祁もただぼさっと立っているのではない。指先から鉄砲水を出した。が、蒼の札がその勢いのある水流を切り裂いた。
「……結構やるじゃない?」
だが、彼女のスピードは明らかに落ちた。だから緑祁はこの振り下ろされた札を避けることができたのだ。
「そっちが来るなら、僕も抵抗する…! これを受けてみなよ!」
旋風を繰り出した。その鋭い風は蒼の札を器用に避け、彼女の頬をかすめた。蒼がそこに手を当てると、指先が赤くなっている。
「へえ、これは油断ならないじゃん。やっぱりここで潰しておくべきって言う判断は間違ってはなかったのね」
今度は手を抜かないと言わんばかりに、二枚目の札を左手に持って二刀流にする蒼。また放たれた旋風すらも切り裂く切れ味に、緑祁は、
(切るタイプの札は聞いたことがあったけど、ここまでとはね……。でも僕には作戦がある)
そう。彼には起死回生の一手がある。
それは、負傷を顧みないで突撃することだ。ゼロ距離で鬼火なり鉄砲水なりを浴びせれば、流石の蒼でもひとたまりもない。途中で切り裂かれても香恵に治してもらえばいいのだ。
(でも、それは選ばない…! そういう勝利の仕方を、香恵は望んでいない!)
だが自分で、その作戦を不採用とした。これはただの戦いではない。町を荒らす相手を鎮圧するための戦いだが、それ以上に香恵に自分が認められるかどうかがかかっているのだ。この状況で勝利のみを追求し、香恵に後から治してもらうことが前提な突撃は、絶対に好ましい結果を生まない。緑祁にはそれがわかっている。
(もう一度、鉄砲水だ!)
指先を湿らせ、水を放つ。この動作が蒼に読まれ、彼女は札を前に出してクロスさせる。防御姿勢だ。でもそれでいい。
「うりゃああぁ!」
緑祁の放った鉄砲水は、蒼に向けられていない。自分の足元だ。そしてその勢いで彼の体が宙を舞う。
「何をする気…! コイツ!」
大きくジャンプした緑祁のことを、蒼は目で追った。当然、顔は彼の方を向いている。そのために、緑祁がさっきまで立っていた場所に残した旋風が見えなかった。
「う、うぐわ!」
緑祁が着地するよりも旋風が蒼を襲う方が速かった。皮膚を切ることはしないが、切り裂かれる感触を味合わされた蒼は反射的に腕を動かしもがいた。
(今だ!)
着地すると同時に緑祁が仕掛ける。一気に蒼に近づいて、鉄砲水を撃ち込むのだ。
「きゅああああああ!」
消防用のホースから水を浴びせられたかのように、蒼の体は吹っ飛んで屋上のフェンスに叩きつけられた。
「やったわ、緑祁の勝ちよ」
これを見て喜ぶ香恵。しかし緑祁の意見は違うようで、
「まだだよ。あの両手を見て! 札を放してない……つまりまだ戦う気だ!」
気を引き締め、いつ襲って来ても大丈夫なようにする。
「く、うう…。まさか、ここまでとはね……! でも、もう一撃もくらわない!」
やはり蒼は立ち上がる。表情は怒っており、鋭い目で緑祁のことを睨みつけた。
「せい、やあっ!」
右手で旋風を、左手で鉄砲水を放つ緑祁。だがそれらは全て、蒼の札にさばかれる。怒ったことで彼女の動作が速くなったのだ。
「ま、マズい……!」
蒼がフェンスを蹴って飛んだ。素早い動きで旋風と鉄砲水を振り切ると、緑祁目掛けて札を振る。
「どうよ? ウスノロ!」
「んぐ……」
片方は避けれた。だがもう片方には切られた。右手首が血を噴射している。
「切り刻んで殺してやるよ、あっちの女も一緒にね!」
さらに叩き込もうとする蒼だったが、緑祁はなんと自分の傷口を彼女に向けた。当然噴き出す血は蒼の顔にかかる。
「うわ、何だ?」
目潰しだ。相手につけられた傷を逆に利用したのである。
「今度は僕から行かせてもらう!」
と、緑祁は叫んだのだが、蒼の体は何の感触も味合わない。なので蒼は目が見えないままで反撃をした。この距離なら、適当に振っても必ず当たる。
「え……?」
しかし、切った感触がないのだ。
「ど、どうして……? あんたはもう、千切りになってるはずでしょ?」
「それは、ちゃんと目で確かめてみたら?」
そう言われ、蒼は目元を擦った。そして瞼を開いた。
「…! 全然切れてない? な、何でこんなことが?」
「見るべきは、僕じゃない。手元だよ」
「て、ても……。あっ!」
札がない。指で掴んでいる端っこしか残っていないのである。
「そっちが目を閉じている間に、鬼火を使ったんだ。僕のことを切ろうとしたみたいだけど、だから鬼火はさばけなかった。もう燃えたよ」
これは本当に一瞬の出来事だった。緑祁の正確な鬼火が、蒼の持つ札だけを焼いたのである。
「ま、まさか…!」
そしてこの時、彼女は選択を間違えた。すぐに距離を開くか、腕で防御態勢を作るべきだった。実際に彼女が行ったことは、力任せに緑祁を殴りつけること。しかしそんな拳が彼に届くはずもなく、逆に手首を掴まれ、
「そおぉれ!」
背負い投げをされ、床に叩きつけられ意識が飛んだ。
「生きてるわよね?」
「うん、心配はないよ。気を失ってるだけさ」
香恵は緑祁の傷を撫でて治すと、蒼の傷の手当てもした。
「【神代】には通報したわ。すぐにここに駆け付けてくれるそうよ。それまでに私たちは…」
無言でバックからハンカチを取り出し、緑祁に渡す。それを受け取って彼は、蒼の両手首を背中の後ろで結んだ。
「これでもう抵抗もできないだろうね。ふう、かなり焦ったよ」
緊張感から解放された緑祁は、少しフラッとした。疲れている様子を感じたので香恵は、【神代】の者がここに来るまで彼に座るよう言った。
「来たわ!」
【神代】は霊柩車でこのビルに駆け付けたようだ。
「フン! どうせあんたらは死ぬ! それに変わりはないわ!」
ここで気を取り戻した蒼がそう呟いた。
「負け惜しみ? 可愛くないことをするのね」
「これが遠吠えに聞こえる? 始まりの合図。私がやられたとなれば、黙ってるわけがない!」
「修練のことを言ってるのね」
「そうよ! あんたらなんて、修練様からすれば雑魚よ! ここにやって来て、絶対に私の仇を討ってくれる!」
ここで緑祁が香恵に、
「修練が?」
聞いた。名前だけは以前香恵から聞いたことがあったが、こんなところで出てくるとは思っていなかったのだ。
「今、【神代】が総力を挙げて探している最重要人物…。それが動き出すのね」
「えええ? 猛者が駆り出されているのはその、修練のためなんだよね? そんな危ない人物が?」
「そうなるわ」
緑祁はこれに驚く。
(ぼ、僕は……。何てことに足を突っ込んじゃったんだろう…? その修練が、僕を殺めに? まさか、ね……)
不安をかき消したいがために、彼は蒼の言葉から目を背けた。
香恵の尋問はまだ終わっていない。
「そちらには、屍亡者や悪霊に襲われない工夫があるはずよ。それを教えてもらおうかしら?」
「嫌だって言ったら?」
「断ることは残念だけどできないわ。もう【神代】の人たちが来る。そちらは連行されるのよ? 厳しい尋問が待ってるとは思わない?」
「なら」
そう前置きして、蒼は、
「修練様にしてもらった。方法は修練様しか知らない」
これは本当かどうかは不明である。だが説得力があり、香恵はそれ以上蒼に深く聞かなかった。
【神代】の関係者は蒼の身柄を拘束した。彼女は先ほどの霊柩車に乗せられ、命は取られないだろうが【神代】の管轄である牢獄のような施設に入れられるのだろう。そして罰を受けるのだ。
「香恵、一つ聞きたいんだけど…」
「あら、何かしら?」
緑祁が気になったのは、町にいた霊能力者だ。そのことを香恵に説明すると、
「それはおそらく、小岩井紫電ね…」
香恵は霊能力者ネットワークを開き、
「緑祁と同じく青森にいる霊能力者よ。違う点は、ちゃんと【神代】の下で活動していることね」
紫電の実績は輝かしいほど多かった。
「彼を語る上で外せないのが、電霊放 の名手であることだわ」
「デンレイホウ?」
初めて聞く単語だが、実際に見ていたので内容は大体察せる。電気を霊能力で操る技。札を用いないで行うため、彼のようにダウジングロッドなどのアイテムが用いられることが多い。その主な電力は静電気なのだが、紫電の場合はダウジングロッドの持ち手の部分に電池を仕込んでいて、ワザワザ擦って電力を生じさせる面倒もない。
「彼もこの町にいたの?」
「うん、そうなんだ。片方の悪霊を彼が倒した」
「そうだったのね」
面倒なことになりそうだとは、二人とも思わない。だからこの日をこれで終え、帰路に就いた。
しかし、
「どうやら先を越されちまったみたいだな! くー、悔しいぜ!」
紫電は違った。ビルに駆け付けた【神代】の関係者に話を聞き、
「永露緑祁ね、覚えておくぜ! 次は俺が勝つ!」
ライバル意識を燃やし始めていた。
急に雲が現れ、明るい月を覆った。辺りが月明りを失って少し暗くなる。この時、先に動いたのは蒼だった。
「のろま!」
彼女は札使いのようで、ポケットから折りたたまれた札を取り出した。それを広げ、緑祁に切りかかる。
「それっ!」
緑祁もただぼさっと立っているのではない。指先から鉄砲水を出した。が、蒼の札がその勢いのある水流を切り裂いた。
「……結構やるじゃない?」
だが、彼女のスピードは明らかに落ちた。だから緑祁はこの振り下ろされた札を避けることができたのだ。
「そっちが来るなら、僕も抵抗する…! これを受けてみなよ!」
旋風を繰り出した。その鋭い風は蒼の札を器用に避け、彼女の頬をかすめた。蒼がそこに手を当てると、指先が赤くなっている。
「へえ、これは油断ならないじゃん。やっぱりここで潰しておくべきって言う判断は間違ってはなかったのね」
今度は手を抜かないと言わんばかりに、二枚目の札を左手に持って二刀流にする蒼。また放たれた旋風すらも切り裂く切れ味に、緑祁は、
(切るタイプの札は聞いたことがあったけど、ここまでとはね……。でも僕には作戦がある)
そう。彼には起死回生の一手がある。
それは、負傷を顧みないで突撃することだ。ゼロ距離で鬼火なり鉄砲水なりを浴びせれば、流石の蒼でもひとたまりもない。途中で切り裂かれても香恵に治してもらえばいいのだ。
(でも、それは選ばない…! そういう勝利の仕方を、香恵は望んでいない!)
だが自分で、その作戦を不採用とした。これはただの戦いではない。町を荒らす相手を鎮圧するための戦いだが、それ以上に香恵に自分が認められるかどうかがかかっているのだ。この状況で勝利のみを追求し、香恵に後から治してもらうことが前提な突撃は、絶対に好ましい結果を生まない。緑祁にはそれがわかっている。
(もう一度、鉄砲水だ!)
指先を湿らせ、水を放つ。この動作が蒼に読まれ、彼女は札を前に出してクロスさせる。防御姿勢だ。でもそれでいい。
「うりゃああぁ!」
緑祁の放った鉄砲水は、蒼に向けられていない。自分の足元だ。そしてその勢いで彼の体が宙を舞う。
「何をする気…! コイツ!」
大きくジャンプした緑祁のことを、蒼は目で追った。当然、顔は彼の方を向いている。そのために、緑祁がさっきまで立っていた場所に残した旋風が見えなかった。
「う、うぐわ!」
緑祁が着地するよりも旋風が蒼を襲う方が速かった。皮膚を切ることはしないが、切り裂かれる感触を味合わされた蒼は反射的に腕を動かしもがいた。
(今だ!)
着地すると同時に緑祁が仕掛ける。一気に蒼に近づいて、鉄砲水を撃ち込むのだ。
「きゅああああああ!」
消防用のホースから水を浴びせられたかのように、蒼の体は吹っ飛んで屋上のフェンスに叩きつけられた。
「やったわ、緑祁の勝ちよ」
これを見て喜ぶ香恵。しかし緑祁の意見は違うようで、
「まだだよ。あの両手を見て! 札を放してない……つまりまだ戦う気だ!」
気を引き締め、いつ襲って来ても大丈夫なようにする。
「く、うう…。まさか、ここまでとはね……! でも、もう一撃もくらわない!」
やはり蒼は立ち上がる。表情は怒っており、鋭い目で緑祁のことを睨みつけた。
「せい、やあっ!」
右手で旋風を、左手で鉄砲水を放つ緑祁。だがそれらは全て、蒼の札にさばかれる。怒ったことで彼女の動作が速くなったのだ。
「ま、マズい……!」
蒼がフェンスを蹴って飛んだ。素早い動きで旋風と鉄砲水を振り切ると、緑祁目掛けて札を振る。
「どうよ? ウスノロ!」
「んぐ……」
片方は避けれた。だがもう片方には切られた。右手首が血を噴射している。
「切り刻んで殺してやるよ、あっちの女も一緒にね!」
さらに叩き込もうとする蒼だったが、緑祁はなんと自分の傷口を彼女に向けた。当然噴き出す血は蒼の顔にかかる。
「うわ、何だ?」
目潰しだ。相手につけられた傷を逆に利用したのである。
「今度は僕から行かせてもらう!」
と、緑祁は叫んだのだが、蒼の体は何の感触も味合わない。なので蒼は目が見えないままで反撃をした。この距離なら、適当に振っても必ず当たる。
「え……?」
しかし、切った感触がないのだ。
「ど、どうして……? あんたはもう、千切りになってるはずでしょ?」
「それは、ちゃんと目で確かめてみたら?」
そう言われ、蒼は目元を擦った。そして瞼を開いた。
「…! 全然切れてない? な、何でこんなことが?」
「見るべきは、僕じゃない。手元だよ」
「て、ても……。あっ!」
札がない。指で掴んでいる端っこしか残っていないのである。
「そっちが目を閉じている間に、鬼火を使ったんだ。僕のことを切ろうとしたみたいだけど、だから鬼火はさばけなかった。もう燃えたよ」
これは本当に一瞬の出来事だった。緑祁の正確な鬼火が、蒼の持つ札だけを焼いたのである。
「ま、まさか…!」
そしてこの時、彼女は選択を間違えた。すぐに距離を開くか、腕で防御態勢を作るべきだった。実際に彼女が行ったことは、力任せに緑祁を殴りつけること。しかしそんな拳が彼に届くはずもなく、逆に手首を掴まれ、
「そおぉれ!」
背負い投げをされ、床に叩きつけられ意識が飛んだ。
「生きてるわよね?」
「うん、心配はないよ。気を失ってるだけさ」
香恵は緑祁の傷を撫でて治すと、蒼の傷の手当てもした。
「【神代】には通報したわ。すぐにここに駆け付けてくれるそうよ。それまでに私たちは…」
無言でバックからハンカチを取り出し、緑祁に渡す。それを受け取って彼は、蒼の両手首を背中の後ろで結んだ。
「これでもう抵抗もできないだろうね。ふう、かなり焦ったよ」
緊張感から解放された緑祁は、少しフラッとした。疲れている様子を感じたので香恵は、【神代】の者がここに来るまで彼に座るよう言った。
「来たわ!」
【神代】は霊柩車でこのビルに駆け付けたようだ。
「フン! どうせあんたらは死ぬ! それに変わりはないわ!」
ここで気を取り戻した蒼がそう呟いた。
「負け惜しみ? 可愛くないことをするのね」
「これが遠吠えに聞こえる? 始まりの合図。私がやられたとなれば、黙ってるわけがない!」
「修練のことを言ってるのね」
「そうよ! あんたらなんて、修練様からすれば雑魚よ! ここにやって来て、絶対に私の仇を討ってくれる!」
ここで緑祁が香恵に、
「修練が?」
聞いた。名前だけは以前香恵から聞いたことがあったが、こんなところで出てくるとは思っていなかったのだ。
「今、【神代】が総力を挙げて探している最重要人物…。それが動き出すのね」
「えええ? 猛者が駆り出されているのはその、修練のためなんだよね? そんな危ない人物が?」
「そうなるわ」
緑祁はこれに驚く。
(ぼ、僕は……。何てことに足を突っ込んじゃったんだろう…? その修練が、僕を殺めに? まさか、ね……)
不安をかき消したいがために、彼は蒼の言葉から目を背けた。
香恵の尋問はまだ終わっていない。
「そちらには、屍亡者や悪霊に襲われない工夫があるはずよ。それを教えてもらおうかしら?」
「嫌だって言ったら?」
「断ることは残念だけどできないわ。もう【神代】の人たちが来る。そちらは連行されるのよ? 厳しい尋問が待ってるとは思わない?」
「なら」
そう前置きして、蒼は、
「修練様にしてもらった。方法は修練様しか知らない」
これは本当かどうかは不明である。だが説得力があり、香恵はそれ以上蒼に深く聞かなかった。
【神代】の関係者は蒼の身柄を拘束した。彼女は先ほどの霊柩車に乗せられ、命は取られないだろうが【神代】の管轄である牢獄のような施設に入れられるのだろう。そして罰を受けるのだ。
「香恵、一つ聞きたいんだけど…」
「あら、何かしら?」
緑祁が気になったのは、町にいた霊能力者だ。そのことを香恵に説明すると、
「それはおそらく、小岩井紫電ね…」
香恵は霊能力者ネットワークを開き、
「緑祁と同じく青森にいる霊能力者よ。違う点は、ちゃんと【神代】の下で活動していることね」
紫電の実績は輝かしいほど多かった。
「彼を語る上で外せないのが、
「デンレイホウ?」
初めて聞く単語だが、実際に見ていたので内容は大体察せる。電気を霊能力で操る技。札を用いないで行うため、彼のようにダウジングロッドなどのアイテムが用いられることが多い。その主な電力は静電気なのだが、紫電の場合はダウジングロッドの持ち手の部分に電池を仕込んでいて、ワザワザ擦って電力を生じさせる面倒もない。
「彼もこの町にいたの?」
「うん、そうなんだ。片方の悪霊を彼が倒した」
「そうだったのね」
面倒なことになりそうだとは、二人とも思わない。だからこの日をこれで終え、帰路に就いた。
しかし、
「どうやら先を越されちまったみたいだな! くー、悔しいぜ!」
紫電は違った。ビルに駆け付けた【神代】の関係者に話を聞き、
「永露緑祁ね、覚えておくぜ! 次は俺が勝つ!」
ライバル意識を燃やし始めていた。