第7話 稲妻高く その3

文字数 2,822文字

「行くぜ!」

 先に動いたのは紫電だ。ダウジングロッドの先端を緑に向け、電霊放を撃つ。

「そうはさせない!」

 負けじと緑も札で防ぐ。絶縁体にした札は、電霊放が直撃しても電流を遮断した。

「……ならば、これはどうだ!」

 ここで紫電が駆ける。一気に距離を縮め、ダウジングロッドの先端に電気を集中させて襲い掛かる。直接体に電流を流し込むつもりなのだ。
 だが、その狙いは緑にもわかる。だから彼女は持っていた絶縁体の札に煙と書き、手放した。すると宙をユラユラと舞いながら落ちるその札が、発煙筒のように煙を吐き出した。

「しまったっ!」

 見失った。だから紫電の攻撃は決まらなかった。しかも緑は音を立てずにその場から移動し、煙が邪魔していることもあって探し出すのが困難となる。

(……って、思ってんだろうな!)

 否、実は違う。人探しは紫電の得意分野であるからだ。一度腕を前に伸ばし、手の力を抜く。ダウジングロッドが勝手に動き、右側を示した。

「そこだ! くらえ!」

 心の目が目標を捉えたのである。だからすぐさま電霊放を撃ち込んだ。

「びゃああああ………」

 悲鳴が聞こえたので、当たった。痺れて動けないだろうから、まずは煙を出す札を踏みつけてビリビリに破り、それから緑の方へ向かう。彼女は地面に這いつくばっていた。

「こ、こんな…」

 勝負はあったように見える。だから、

「起き上がれない様子じゃあよぉ、もう負けが決定したようなもんだぜ?」
「負け? 私があんたに? 冗談言わないで、よ…」

 緑はそれを認めようとしない。しかしそれは往生際がただ単に悪いからではない。

「それは……!」

 緑が手に握っている物。それは水晶玉だ。

「まだ私にはこれが残されている!」

 痺れに耐えながら、札を取り出す。それには、破壊、と書かれている。その札に水晶玉を触れさせると、玉は中心部から砕け散った。

「くっ!」

 今度現れたのは、悪霊である。黒い影が緑の前に出現した。

「アイツを、あの世に連れて行け!」

 その命令に頷いた悪霊は、紫電のことを睨む。

「まさか、幽霊すらも操作できるのか! どうなってんだ、修練の技術は?」

 ダウジングロッドを構えたが、悪霊の方が速かった。足元を一撃で崩され、紫電の体は地に落ちた。それと同時に、麻痺から解放された緑が立ち上がる。

「形勢逆転しちゃったね? どんな気分かな?」
「て、てめえな……!」

 この時、紫電は一瞬考えた。

(今緑を攻撃すれば! 隙だらけだがしかし、また札に防がれるかもしれねえ。それよりも悪霊の方をどうにかするか? 電霊放を撃ち込めば倒せると思うが、そうすると緑が何かしら行動できちまう……)

 一方の緑は、

(札にね、即死って書いて相手に触れさせれば、否応なしに地獄行き! ジ・エンド! これでコイツを殺す。でも書き込むときに狙われるだろうから、アイツが悪霊に電霊放を放ったら指を動かす……)

 両者ともに、二手三手先を読む。そしてここでも先に動いたのは紫電。

「行けェ!」

 悪霊に電霊放を撃った。

「シャレエエエェエエ…!」

 流石に一撃では落ちない。だから二発、三発と順に撃ち込む。

(今だ!)

 紫電が悪霊の相手をしている今が、札に文字を書き込む最大のチャンス。幸いにも悪霊はあと数発は耐えそうだし、そもそも捨て駒に過ぎないので除霊されてもどうでもいい。だから緑は、札に文字を書こうとした。

「それを待ってたぜ?」

 言葉と同時に、電霊放が緑に飛んできた。いや正確には、手に持っている物を撃ち抜いた。

「ひえぇっいい!」

 破壊されたのは、筆ペンだ。驚くべき射撃能力。紫電はまだ起き上がれていないにもかかわらず、緑が握っている筆ペンのみを精密に撃ち壊したのだ。中身のインクが飛び散り、手が墨で真っ黒になる。

「おっと!」

 この一発を撃ち込みたかっただけに、紫電は悪霊に対し手加減をしていた。もう理由がないので火力を一気に上げ、放電。この世から葬り去ってやった。
 立ち上がった紫電は悠々と、

「雌雄が反転しちまったな?」

 言ってやった。もちろん緑が予備の筆ペンを持っている可能性は十分にあるので、今もダウジングロッドを彼女に向けたままだ。これでは緑は、蛇に睨まれた蛙。下手な動きは一切できない。

「またビリビリしたくないだろう? だったら教えてもらおうか! 修練はいつどこで、霊界重合を始める気だ?」

 だが、これに緑が答えるはずもない。返事は無言だった。

「その覚悟は褒めてやるぜ! でも、覚悟だけで勝負は勝てない。様々な因子が複雑に絡み合い人体を形成するかのように、勝利とは一筋縄ではいなかいもの!」

 もう容赦はいらない。だから紫電は、電霊放で緑を撃った。

「ぶぐぇ………!」

 命まで取るつもりはないので、気絶する程度に火力は抑えた。それでも彼女を地に倒すには十分すぎる。

「よ、ようし…! もう大丈夫だな?」

 紫電は彼女の身柄を拘束した。そして【神代】には通報せず、自分の家に緑のことを持ち帰った。これは別に彼女に対して何かしようと企んでいるわけではない。

(俺が一番最初に情報をゲットする! 【神代】への通報はその後でいい。緑祁を出し抜いてやるぜ!)

 彼がライバルとして名前を挙げている緑祁よりも優位に立ちたいという願望に起因する行動だった。


「う、ん……?」
「起きたか?」

 次の朝のことだ。緑は紫電が暮らしている豪邸の一室のベッドの上で目を覚ました。

「あんた、どういうつもり?」
「下心なんてねえよ! 俺は情報が欲しいだけなんだぜ?」

 だから、速く教えろ、と迫る。
 緑は自分の体を手で触って確かめる。確かに、いじられたりまさぐられたりした形跡はない。が、札や筆といった、書くものは没収され、しかも周りにはない。つまり彼女は抵抗することができないのだ。

「そんなに死にたいの? なら教えてあげようか?」

 そう前置きしてから彼女は、

「計画は、私が青森に来た二日後に始まる」

 それだけを紫電に教えた。

「あ、何?」

 緑が青森にやって来たのは昨日のことである。

「じゃあ明日?」

 それが、魔の時刻が訪れる時だ。

「クソ! 間に合うか……?」

 これから【神代】に通報し、霊能力者を青森に呼んでもらう。全国に散らばって修練を捜索している霊能力者をかき集めることができるだろうか。時間との勝負。その前に、彼女の言ったことをちゃんと【神代】が受け入れてくれるかどうか。
 当初紫電は、緑祁よりも先に何かしら動くことを考えていたが、明日が実行日であるとなると、そんなことを言っている余裕はない。すぐに【神代】に通報し、指示を仰がねばいけない。

「とにかく、そこにいろよ? 今、【神代】の関係者に来てもらう!」

 十数分後、小岩井家の豪邸に駆け付けた【神代】の者に緑は連行された。この時紫電は彼らに事情を説明したが、そんな急に応援を派遣することはできそうにない、最大限努力はするが期待はしない方がいいかもしれないと言われた。
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