第10話 反省の罰則 その2

文字数 2,686文字

「待て待て! おれはどうなる?」
「ん、どうした病射?」
「朔那の問題は解決した! それはいい! だがおれは?」
「病射、そもそも何か悪いことしたの?」
「あ?」

 ここで聞かれたので、自分の悪事を思い出す病射。暴走に走った経緯をまず説明。

「廃神社の幽霊を倒してしまって……」
「それ、魔連神社のことでしょ? あそこにいたのは【神代】にとって嫌な幽霊だったよ?」

 魔綾がそれを解説した。

「え? じゃあ、別に悪いことじゃない……?」
「寧ろ、【神代】が手こずっていた幽霊を除霊したのなら、それは良いことだろう――」
「待て! でも廃校にもっとヤベー幽霊がいて……」

 その特徴を聞くと、緑祁、香恵、紫電、雪女、絵美、刹那はピンとくる。

「犠霊……?」
「何、それ?」

 病射と朔那は知らなかったようだ。

「かなり危険な幽霊だよ。存在がわかったら、真っ先に討伐されるくらい。それを二人で倒したんだね? なら、悪いことじゃないさ!」
「………」

 緑祁の言う通りだ。
 しかしサイコが、

「京都の町にいた、幽霊は?」

 と聞いた。三体の迷霊のことである。

「ああ……。でもアレ、一般人に被害が出てねえんだよな。なあ、緑祁?」
「うん。僕が遭遇したヤツも、そういう被害を生むようなことはしてなかった」
「私たちの時もそうね。そこにいたから除霊したけど、放っておいても何もしでかさなかったんじゃない?」

 緑祁も絵美も、紫電の言葉に頷く。

「そういうことがあったか。だが話を聞くに、そこまで重いことではなさそうだが?」
「そうね。緑祁と辻神だって、負った怪我は私が治したわ」
「それ、はどうなんだ? おれも朔那も、殺す気満々でてめーたちを……」
「別に気にしてないよ。僕は最初から、病射のことを捕まえたかった。暴れるなら、力づくで押さえつけてでも! 病射が幽霊に取り憑かれてなくて、正気も保てていたことがわかって安心だよ」
「私もあの戦いは、ここに来るまでの必要経費と考えている」
「でも、後から治ったって言っても、怪我はしたじゃねーか!」
「気にしてないよ、病射! 辻神も僕も」

 頷く辻神。

「でも、どうしても罰が欲しいのか?」
「だって、左門が罰せられるなら、復讐を実行しようとしたおれたちにだって何か……」
「なら、こういうのはどうだ?」

 辻神があることを提案する。

「私の部下にして、こき使ってやる」

 それは、【神代】への貢献だった。かつて辻神がそういう罰を下されたように、二人に同じ罰を与えるのだ。

「なんじゃそりゃ?」
「それでいいのか、辻神は?」

 困惑する二人に対し彼は、

「それでいい。誰かがもっと重く罰するべきと言っても、私が反対する! 京都に幽霊を放ったことに対し、【神代】に貢献することで償いとする!」

 そう言う。そして誰も反対しない。すると病射が、

「てめーにおれたちが、使いこなせるかよ! 試してやるぜ!」

 逆に挑発をしてきたのだ。

「それが、誰かに望まれているのなら……」

 朔那はそれを素直に受け入れた。
 病射と朔那は、辻神が罰した。自分の部下にして、【神代】のために働く。そういう罰則を科したのだ。

「じゃあまず、荷物を整理しろ。明日、関東地方に戻って私の仲間が行っている仕事をまず手伝ってもらおうか」
「明日からかよ!」

 すぐに新しい部下、いいや仲間を受け入れる辻神。

「病射、最後に一つだけ言わせてくれ!」
「な、何だ……?」

 緑祁が病射の肩を掴んで、

「そっちの嫌害霹靂は、凄かった! 今度は復讐とか生死をかけるなんてことはしないで、ただ真剣勝負をしようよ」

 と言った。

「てめーの勝ちで、もういいじゃねーか?」
「そんな寂しいこと言わないでくれ。一度戦えばみんなライバルだよ。今回の戦いは、勝敗以外の理由があった。でも僕は、勝利と敗北だけをかけたバトルがしたいんだ!」
「………なら、次は負けねーぞ?」
「ああ! 僕もそのつもりだ!」

 握手をし、交流を深めた。仲直りの印でもある。

(私の時と同じだな、緑祁。そういう救い方もある。……言葉だけという意味じゃないのが気になるところなんだが…)
(また勝手にライバル増やしやがって! 緑祁に黒星を付けるのは、俺の役目だぞ!)

 これで、今回の事件は終わりだ。

「じゃ、解散」

 雪女がそう言うと、それぞれ別の方向に動き出す。

「まずは荷造りしねーとな……。一旦福井に戻って……」
「弥和にも、言っておかないと。左門が苦しんでいたこと、私たちの復讐は無意味だし、する必要も理由もない、って……」

 辻神に仕事を早速命じられたので、病射と朔那はまず家に戻って準備をする。

「病射、朔那! 集合場所を決めておこう」

 その辻神は、二人と一緒に明日関東地方に戻るつもりである。自分がいなかった間、山姫と彭侯に任せてしまった分の埋め合わせをするのだ。

「さて、じゃあ俺たちは観光を続けさせてもらうぜ」
「紫電、どこに行こうか? 京都に戻る? それとも名古屋を回る?」
「夏休みは長いんだ、ジックリ回ろう。ホテルの予約を変更して……」
「待って! アタシはどうなるの?」
「仕方ねえな。でも俺、ヨーロッパには行かねえからな?」

 サイコの分も、ちゃんと配慮する。

「私たちは戻るよ。それでいいわよね、刹那? 名古屋も京都もさ、修学旅行で行ったことあるんだし!」
「了解。帰路に就く――」

 絵美と刹那は、四国に帰るのだ。今回助っ人として京都と名古屋に来たわけだが、行こうと思えば行けてしまえる距離だし前に見て回ったので、今は観光には興味がない。

「緑祁、どうする?」
「僕たちは帰ろう。今回、結構疲れたよ。ゆっくり休んでから、夏の計画を立てよう」
「そうね。それがいいわ」

 香恵と緑祁は、青森に戻ることを決めた。

「ねえ香恵? 二人のことを聞かせてくれるわよね? 何にも聞いてないんだけど、アタシ」
「魔綾……。付け入る隙を見つけると、本当にグイグイ来るわね……」

 当然魔綾も横浜にある家に戻るのだが、香恵たちと一緒に行動するつもりらしい。

「ねえねえ、教えてよ! 何があったら、横浜のあなたが青森の人と一緒にいることになるの? 何で横浜じゃなくて青森に帰るの? 何があったの? いいじゃん一緒に予備校で放課後頑張った仲だよ、私たち!」
「別に……。やましい下心なんて、な、ないわよ……」
「本当に? 絶対嘘でしょそれ! 顔、赤くなってるじゃん!」
「う、うるさいわね……! もう、魔綾には関係ないことなのよ…!」

 病射の暴走も朔那の復讐も、終わった。緑祁たちが未然に防げたので、【神代】の方からも特に通達などはない。いつも通りの日常生活に、みんな、戻るのだ。
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