第3話 無実の証明 その3

文字数 2,867文字

「蛭児との会話はテープレコーダーに録音され、データとしてわたいが共有させておる。紅華も聞いておるじゃろう。彼は、嘘は言っておらん」

 目を見てわかった。声を聞いても、嘘の動揺がなかった。だから蛭児は、本当のことだけを喋っていたのだ。そのことを赤実は緋寒に報告。

「しかし、じゃ。そうなると矛盾がある!」
「それはわたいも感じた」

 だが、絵美たちも嘘を吐いていない。
 これは一体、どういうことなのだろうか?

「絵美たち心霊犯罪者か、心霊研究家の蛭児か。虚偽の供述は、どっちじゃ?」

 普通、この二つを比べると絵美たち四人は不利だ。何故なら罪人よりも善人、それも【神代】に研究という形で貢献している人の言うことを信じるだろう。だから緋寒もそうしようと思ったその時、

「むっ! 【神代】からの通達じゃ!」

 本部から何か、メールが送られてきたので一度電話を切ることに。その前に赤実に戻って来るよう伝える。

「もう四人を精神病棟に移すのか……」

 と思いきや、指示の内容は全然異なり、

「明日、【神代】で緊急会議を行う。それが終わるまで、四人を病院から逃がさないように」

 という念押しだった。会議の後はおそらく病棟に移動させると彼女はメールの内容から判断。

「かわいそうではある。じゃが、因果応報の結果じゃ。同情はできん。どんな事情があろうと、過ちを犯す理由にはならん!」

 監視役ゆえに、任務中情に流されるのは基本的に厳禁。そうやってルールや規則を重んじてきたから、四つ子は今のこの地位に就けたのだ。病室の前に戻った緋寒。

「さて朱雀、わちきは一旦戻るぞ。絶対に四人を外に出してはならん。あと、明日会議があることも教えるな」

 自暴自棄になって暴れられても困る。それにタイムリミットが明日であるとわかれば、本当に何をしでかすかわからない。絶対に脱走を試みるに決まっている。

「わかっておる! この病院のセキュリティレベルは高い。たとえ部外者がおっても、外には出られんよ」

 神保総合病院は古くから【神代】と関りを持っていた。だからちょっとした監獄のような設備も整っている。

「では、交代の時間になったら」
「あんれ、了解じゃ」

 緋寒は病院を後にした。


 緊急会議は午前中には終わったようである。

(どうなるんじゃ……?)

 今見張りをしているのは、緋寒。廊下でずっとスマートフォンと睨めっこしているが、何の連絡もない。ただ、会議終了、とデータベースで表示されるのみだ。緋寒ら皇の四つ子に指示がない。病室を開けて中を覗き込んでも、容疑者四人にも動きなし。

(ならば、紅華に電話かけされるか)

 そう思ってメッセージを送ろうとした時だ。

「よう皇! 相変わらずじゃあないか!」

 廊下の方から声がした。緋寒が振り向くと、

「………何でそなたたちがここに来る? まさか【神代】は、処刑の許可を下したのか?」

 現れた二人の男女。土方範造と天川雛菊だ。

「アってソウソウにそんなことイわなくても……」
「無理じゃ、そんなの」

 皇の四つ子の監視対象は時に、保護が目的の場合がある。見張れと言われたのなら、善人だろうが悪人だろうが命をかけて監視するのが仕事。しかし処刑人は違う。命令されれば機械的に命を奪う存在。行うことが真逆ゆえに、皇の四つ子は処刑人……範造と雛菊とは、仲が悪い。

「言っておくが俺たちは、殺しに来たんじゃあないぜ?」
「じゃあ何しに?」
「メイレイはカンシ」
「は?」

 範造たちも一々説明したくはないのだが、わかっていなさそうなので仕方なく解説をすることに。

「それについては、件の四人も関係あるんだ。じゃあ、中に入らせてもらうぜ」

 と言ってドアを開いて雛菊と緋寒とともに中に入る。

「緋寒、その人たちは誰?」
「多分、そなたたちを殺しに来たんじゃろう」
「は、はああ?」
「違う違う! おい皇、話をややこしくするんじゃあないぞ! 貴様は黙っていろ!」

 ここで改めて自己紹介。

「俺は範造。こっちの女は雛菊だ。俺たちは【神代】に、人を殺すことを許された存在……言うならば、闇の処刑人だ。でも勘違いはしてくれるな、今回はその許可は出てない」

 では、何をしに来たのか?

「【神代】の跡継ぎも、いきなりなこと考えるよな……。普通じゃあ思いつかないぜ」

 会議で決まった内容を、絵美たちに教える。

「貴様らに、猶予が与えられている。【神代】が欲しいのは真犯人だけだ。だから、その真犯人がいると言うんなら、探し出して連れて来い。それができるのなら、今回の慰霊碑破壊については特例的に罪に問わないそうだ」

 要するに、罪を裁くことよりも真相の究明を優先したということ、慰霊碑を壊すよう唆した人物だけを罰したいということ、だ。また【神代】の方で犯人の特定はできないし行わないという判断でもある。

「だから犯人は蛭児だって……」
「でもよ、皇の報告じゃあ違うんだろ? アリバイがあるとか」
「では、我々は何をすればよい――?」
「それはジブンたちでカンガえて。ワタシたちはアナタたちがニげないよう、皇のヨつゴとイッショにミハる」

 監視付きではあるものの、病院から出ることもできる。

「具体的な時間は聞いてないけどよ、まあ頑張れ。できなかったら一生、精神病棟生活だ」

 もちろんこれは背水の陣で臨まなければいけないこと。

「ちょっと考える時間をくれ……」

 雛臥が言った。四人は状況を整理することに。

「俺たちの処分は保留になったってことだよな? その猶予の中で蛭児を捕まえて、証拠も揃えて【神代】に突き出せば……」
「無実が証明できる?」

 その認識で間違いない。

「早速だが、どこに行くんだ?」

 範造が聞いた。こんな病院の一室にこもっていては、何の成果も出せない。

「まずは実際に会ってみる。蛭児本人に。それがいい。その後壊してしまった慰霊碑のところに行って、何か手掛かりを掴む――」

 刹那が方針を決めた。まず、自分たちが会って会話したのが本当に蛭児であるのかどうか、その本人なのかを再確認するのだ。霊能力者ネットワークには顔写真があるが、誰かが蜃気楼を使って偽造している可能性も否めないので直接会うしかない。

「となると、長野県か。ここから向かうとなると、新幹線だな」
「待て! わちきらの監視はどうなる?」
「ケイゾクして。フタクミでミハる」

 それも【神代】の方針。

「頑張れよ? 俺は応援してる。緑祁の仲間の貴様らが、犯罪者なわけがないんだからな!」

 一応逃亡防止のため、発信機を内蔵した腕時計を四人の腕に巻く。その時に範造は喝を入れた。

「監視に大切な中立心が欠けておるぞそなたたち。感情的になって逃がすような真似はさせん!」

 範造たちは二人いる。人数で負けたくないと思った緋寒はすぐに妹たちに連絡を入れ、新幹線の駅に向かわせる。


 数日ぶりに外に出ることができた絵美たち。新鮮な空気を存分に吸って、

「行くわよ! 無実を証明しに!」
「おう!」
「逃がさないよ、蛭児! 絶対に君に謝ってもらう!」
「目指すは罪の返上。これだけは譲れない――」

 希望の一歩を踏み出した。
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