第7話 稲妻高く その1
文字数 2,146文字
「紅からの連絡が途絶えちゃいましたよ」
緑は修練にそう報告した。すると修練は下唇を血が出るほど強く噛んでから、
「どうやら、それ相当の実力者があの地にいるらしいな」
現実を受け入れた。
「どうします? 計画を変更しますか?」
「いや」
それだけは拒んだ。
「こうなったら、私が直接行って排除しなければならない。あの地にもう一度踏み込むことになるとはな、これも何かの因果か……」
「修練様、提案がありますよ」
緑は述べる。
「私が青森を整地します。一足遅れて修練様が来てくだされ。私の実力があれば、緑祁や香恵といった害虫の駆除は十分です。」
「しかし…」
その提案、心地よく頷ける内容ではない。修練の手下は四人。峻、蒼、紅そして緑。今緑を派遣して万が一敗北したら、孤立するのだ。
「大丈夫ですって。すぐに心配の芽を摘んでみせますから」
そこまで言うなら、と修練は緑に許可を出した。
「とりょりゃー! 張り切って行きますよ!」
敗北した紅は、近くの病院のとある一室に幽閉された。これから【神代】の配下にある監獄…精神病棟に移されるのだ。青森にも一つそれがある。その前に尋問だ。
「おい、コイツも修練の仲間なのか?」
その病室に紫電が駆け付けた。
「ええっと、誰だっけ?」
「その名は、稲妻の代名詞で知られている――」
刹那の方は彼のことを知っていた。だから絵美に説明すると、
「あー。今回の件に関係ないわよね? 首、突っ込まないでくんない?」
これ以上面倒事を増やしたくないので、追い払うことにする。だが紫電はしつこく、
「俺も修練のことを狙ってるぜ?」
「じゃあお仲間にはなれませんわ~。あっち行け、しっし!」
だが、刹那の意見は違う。
「轟く雷鳴は、奇跡の閃き。運命の手助け。彼の助けは【神代】のためになるだろう。我らの力に及ばずとも、役にはなり得るのだ――」
肯定的な意見を持っている。だから彼女は事情を紫電に解説した。
「なるほど、そういうことか! なら俺の出番だな!」
向こうの方がこの地方にやって来るのなら、土着の霊能力者の方が有利。そう思った紫電は早速実行するために病院から去った。
それから、数日後のことだ。
「むむっ! 来たぜ!」
強い霊力を持つ者が、県境を跨いだ。かなり速いスピードだ。乗り物に乗っている。きっと新幹線だろう。さらにその後の移動先も、新青森駅とわかる。
何故彼にはそれが手に取るようにわかるのだろうか?
答えは、針金にあった。
「修練は青森を目指している」
その言葉を聞いた時、それはつまり敵はこの地にいるわけではないことを意味している。だがそれでも青森にやって来るには、陸路、海路、空路と分かれている。一番速くここに来るには、飛行機に乗ることだが、それをすると手続きなどで身分が割れ、【神代】の情報網に引っ掛かる可能性が高い。
また、海路もない。相手は【神代】に追われている身である。逃げ場のない海上を通って来るとは思えない。
だから彼は、県境にある新幹線の橋脚の一つに念を込めた針金を巻きつけた。それが反応したのだ。その後も八戸で乗り換もできるが、枝分かれしている路線一つ一つに同じ仕掛けを仕込んでおく。それらが反応していないということは、八戸では降りてない。
「お、今か! 今、新青森駅を出たぞ!」
まただ。駅の入り口近くに盛っておいた塩からの入電である。どの出入口から出たのかすらもわかる。
「じゃ、行くぜ! へへ、緑祁! 悪いが先を越させてもらう!」
一方的なライバル心を燃やしている紫電は、この相手を一人で打ち取ることを選ぶ。
夜の駅前の町を、ダウジングロッドを持ってうろつく。もしターゲットがいればひとりでにロッドが開いて教えてくれるので、人探しにも苦労しない。
「ん…!」
反応があった。近い。だから彼は周りをキョロキョロした。が、それらしき人影はない。
「おかしいな? 天王寺修練……男だろう? 年齢も割れてるが、候補がいねえぞ?」
不思議なこともあるもんだと思い、作業に戻る。商店街から出て進んでいると、左の方から強い反応がある。
「これは、曲がったら、いる、ぜ!」
間違いない。長年の経験でわかる距離だ。曲がり角にはブロック塀があったので背中から張り付き、電霊放の準備をし、体を乗り出すと同時に撃ち込んだ。
「きゃああ!」
女性の悲鳴が聞こえた。
「な、何? 誤射ったか?」
いいや、それはあり得ない。彼は電霊放を撃つ時、霊力を使って心の目で目標を捕捉する。だから全く無関係の人物に当たることはない。
だが、電気で痺れてしゃがみ込んでいるのは女性なのだ。
「そうか! 蒼の時と同じだ。手下を寄越したのか、修練は!」
一瞬で閃いた。そしてそれを聞いた女性は、
「……どうやら待ち伏せされていたみたいだね。油断したよ。あんたが、緑祁?」
「違うな。俺は紫電。聞いて驚け、緑祁のライバルだ!」
誇張した。するとこの相手……平川緑は、
「なら、修練の邪魔であることに変わりないね。この世から駆除させてもらうよ!」
緑も戦う姿勢を見せた。
「望むところだぜ!」
この夜道、周りには誰もいない。
「誰にも迷惑かけねえなら、徹底的にやっていい。親父がよく言ってたんだぜ?」
「別にいいよ? 死ぬのはあんたの方だから…」
緑は修練にそう報告した。すると修練は下唇を血が出るほど強く噛んでから、
「どうやら、それ相当の実力者があの地にいるらしいな」
現実を受け入れた。
「どうします? 計画を変更しますか?」
「いや」
それだけは拒んだ。
「こうなったら、私が直接行って排除しなければならない。あの地にもう一度踏み込むことになるとはな、これも何かの因果か……」
「修練様、提案がありますよ」
緑は述べる。
「私が青森を整地します。一足遅れて修練様が来てくだされ。私の実力があれば、緑祁や香恵といった害虫の駆除は十分です。」
「しかし…」
その提案、心地よく頷ける内容ではない。修練の手下は四人。峻、蒼、紅そして緑。今緑を派遣して万が一敗北したら、孤立するのだ。
「大丈夫ですって。すぐに心配の芽を摘んでみせますから」
そこまで言うなら、と修練は緑に許可を出した。
「とりょりゃー! 張り切って行きますよ!」
敗北した紅は、近くの病院のとある一室に幽閉された。これから【神代】の配下にある監獄…精神病棟に移されるのだ。青森にも一つそれがある。その前に尋問だ。
「おい、コイツも修練の仲間なのか?」
その病室に紫電が駆け付けた。
「ええっと、誰だっけ?」
「その名は、稲妻の代名詞で知られている――」
刹那の方は彼のことを知っていた。だから絵美に説明すると、
「あー。今回の件に関係ないわよね? 首、突っ込まないでくんない?」
これ以上面倒事を増やしたくないので、追い払うことにする。だが紫電はしつこく、
「俺も修練のことを狙ってるぜ?」
「じゃあお仲間にはなれませんわ~。あっち行け、しっし!」
だが、刹那の意見は違う。
「轟く雷鳴は、奇跡の閃き。運命の手助け。彼の助けは【神代】のためになるだろう。我らの力に及ばずとも、役にはなり得るのだ――」
肯定的な意見を持っている。だから彼女は事情を紫電に解説した。
「なるほど、そういうことか! なら俺の出番だな!」
向こうの方がこの地方にやって来るのなら、土着の霊能力者の方が有利。そう思った紫電は早速実行するために病院から去った。
それから、数日後のことだ。
「むむっ! 来たぜ!」
強い霊力を持つ者が、県境を跨いだ。かなり速いスピードだ。乗り物に乗っている。きっと新幹線だろう。さらにその後の移動先も、新青森駅とわかる。
何故彼にはそれが手に取るようにわかるのだろうか?
答えは、針金にあった。
「修練は青森を目指している」
その言葉を聞いた時、それはつまり敵はこの地にいるわけではないことを意味している。だがそれでも青森にやって来るには、陸路、海路、空路と分かれている。一番速くここに来るには、飛行機に乗ることだが、それをすると手続きなどで身分が割れ、【神代】の情報網に引っ掛かる可能性が高い。
また、海路もない。相手は【神代】に追われている身である。逃げ場のない海上を通って来るとは思えない。
だから彼は、県境にある新幹線の橋脚の一つに念を込めた針金を巻きつけた。それが反応したのだ。その後も八戸で乗り換もできるが、枝分かれしている路線一つ一つに同じ仕掛けを仕込んでおく。それらが反応していないということは、八戸では降りてない。
「お、今か! 今、新青森駅を出たぞ!」
まただ。駅の入り口近くに盛っておいた塩からの入電である。どの出入口から出たのかすらもわかる。
「じゃ、行くぜ! へへ、緑祁! 悪いが先を越させてもらう!」
一方的なライバル心を燃やしている紫電は、この相手を一人で打ち取ることを選ぶ。
夜の駅前の町を、ダウジングロッドを持ってうろつく。もしターゲットがいればひとりでにロッドが開いて教えてくれるので、人探しにも苦労しない。
「ん…!」
反応があった。近い。だから彼は周りをキョロキョロした。が、それらしき人影はない。
「おかしいな? 天王寺修練……男だろう? 年齢も割れてるが、候補がいねえぞ?」
不思議なこともあるもんだと思い、作業に戻る。商店街から出て進んでいると、左の方から強い反応がある。
「これは、曲がったら、いる、ぜ!」
間違いない。長年の経験でわかる距離だ。曲がり角にはブロック塀があったので背中から張り付き、電霊放の準備をし、体を乗り出すと同時に撃ち込んだ。
「きゃああ!」
女性の悲鳴が聞こえた。
「な、何? 誤射ったか?」
いいや、それはあり得ない。彼は電霊放を撃つ時、霊力を使って心の目で目標を捕捉する。だから全く無関係の人物に当たることはない。
だが、電気で痺れてしゃがみ込んでいるのは女性なのだ。
「そうか! 蒼の時と同じだ。手下を寄越したのか、修練は!」
一瞬で閃いた。そしてそれを聞いた女性は、
「……どうやら待ち伏せされていたみたいだね。油断したよ。あんたが、緑祁?」
「違うな。俺は紫電。聞いて驚け、緑祁のライバルだ!」
誇張した。するとこの相手……平川緑は、
「なら、修練の邪魔であることに変わりないね。この世から駆除させてもらうよ!」
緑も戦う姿勢を見せた。
「望むところだぜ!」
この夜道、周りには誰もいない。
「誰にも迷惑かけねえなら、徹底的にやっていい。親父がよく言ってたんだぜ?」
「別にいいよ? 死ぬのはあんたの方だから…」