第7話 轟く雷鳴 その1

文字数 2,392文字

「ダウジングロッドの調子が何故か悪かったからよ、ここまで来るのに相当苦労したぜ! でも見つけた!」

 それは、紫電であった。

 隣接世界から来た人物の霊気を追うつもりだったのだが、とても不安定だったために辿れなかった。だが今夜は違う。ハッキリと見て取れたのだ。それは骸が召喚した式神の気配だったのだが、その場に花織と久実子がいることに変わりはない。

「ふ~むそうだな……。外見は妖艶なことには変わりはねえんだけど、何か、表現しづらい? この世ならざる雰囲気なんだがよ、でもちゃんと実在する人間。矛盾しているぞ、お前ら…?」

 彼は隣接世界について知らない。だから二人の異様さを自分で説明できないのだ。

「でもよ、コイツ…確か猫屋敷骸とか言ったか? 向こうでのびてるのは大鳳雛臥だ。俺の知っている、つまりは霊能力者ネットワークに名前がある人物! アイツらが海神寺に式神を放ったとは思えない。となると、やはりお前らだな!」

 でも確信する。この目の前にいる二人こそ、海神寺を襲った真犯人。そしてその二人を緑祁は探し求めているはず。

「ってことはよ。俺が先だったってわけだな? 今度こそもらったぜ、緑祁…!」

 紫電は骸の前に立ち、構えた。

「面倒なのが増えましたね、久実子…」
「式神に任せてしまえばいいだろう? 金は手に入ったんだ、長居する必要はない。どうせコイツも科学側の人間。だったら!」

 二人は反転し、走り出した。

「あ! おい待て!」

 追いかけようとする紫電の前に、三体の式神が現れ行く手を阻む。

「なるほどな。話が速いぜ。この式神らをぶっ壊しちまえばいいんだろう? と、その前に…」

 電霊放でバリアを作り安全を確保すると紫電は骸に近づいて、

「ちょっと解説してくれよ。何であの二人はあんな異様な気配なんだ? そもそもどういう人物だ?」

 質問をした。

「俺が全部説明できるとは思えないけど…」
「なら知っていることを話せ! それでいい!」

 骸は素直に、かつやや適当に隣接世界について話した。

「オッケー。よくわかったぜ」

 その大雑把な説明である程度事態を把握する紫電。

(つまりだ。隣接世界っていう平行世界のような世界があって、二人はそこからやって来てしまったわけだ。通りでダウジングロッドが反応しないんだな、この世界の存在ではないから。しかも俺たちの世界を都合よく変えてしまおうって思ってやがる。これは【神代】どころか日本中に対して厄介な輩だぜ…)

 最後に一つ確認する。

「あの二人は死んだら、本当に魂がこの世に残らない……幽霊にすらなれないんだな?」
「あ、ああ。聞く話が本当ならそうだよ。だから俺らや緑祁は、さっきの二人を元の世界に帰らせようと……」
「それを聞いて安心したぜ! 最悪殺めてしまっても、【神代】からは咎められないってわけだ!」
「こ、殺すのか? それはいくらなんでも……」

 いくら紫電でもそこまでは考えていない。意気込みのレベルの話なのである。

「そういうつもりじゃないと、絶対に捕まえることはできない。安心しろよ、お前らが今拠点に使ってるっていう七草神社によ、二人の身柄をデリバリーしてやるぜ」

 まずは邪魔な式神を片付ける。バリアを解除し、三体の式神と向き合った。

「うげ、気持ち悪い見た目してるぜ……。俺が仮に死んで召喚士が俺の魂から式神を作ることになっても、ああいう姿は絶対に嫌だな…」

[メガロペント]たちはジッと紫電のことを見ている。

「じゃあ、早いとこ始めるぞ!」

 挨拶はいらない。前に出て闘志を表明する。

「キシャアアアアオオオオオオ!」

[メガロペント]が代表し、叫び声を上げた。その隙に骸は雛臥のところに駆け寄り、安全かつ戦いを見守れるところに逃げる。


 一度、紫電は式神の相手をしている。海神寺を燃やそうとしていた[ジュレイム]だ。

(あの時は多分相性がよくて、電霊放の一撃で倒せたが……。今回は違うみたいだな)

 周りをさっき見た時、何も燃えていなかった。それはつまり、炎を操るチカラではないということ。

(でも俺のすべきことは変わらないぜ!)

 ダウジングロッドを構え、電気を操り撃ち出す。式神が破壊されるまで何度でもそれを繰り返すのみ。

「キキキ、キシュアアア!」

 まずは[メガロペント]が高周波を出した。耳が千切れそうになるくらいの雑音だ。

「ぐ! 背後霊の囁きよりもうるさいな、これは!」

 耳を塞ぎながらその手でロッドを動かし、[メガロペント]を狙ってみる。不安定な手元であるがキチンと電霊放は撃てた。

「キッキ!」

 しかし[メガロペント]は器用な飛行でそれを避けたのだ。腹に生えている一対のシャープな翅が、その動きを可能にしている。

「フィアアアア!」

 だが後ろを飛んでいた[デストルア]に直撃。そもそも紫電はそれを狙っていた。

(手前のヤツは俺が撃てば、自分が狙われたと思って絶対に避ける! 後ろのヤツは、実は自分が狙われてるなんて夢にも思っちゃいねえ。当然の結果だな)

 流石に適当に放った電撃であったので、破壊とまではいかない。

「キキキ、キギュアアアア!」

 相手を怒らせることには成功した。そして[メガロペント]が口から光線を繰り出す。

「おっと!」

 これは十分避けられる。

「お前を先にやっつけてやるぜ!」

 ターゲットは決まった。だから紫電はダウジングロッドの先を向け、電霊放を撃ち込んだ。
 それは[メガロペント]ではなく[マグナルオン]である。

「ヴイイイイ!」

 後ろから、何か企んでいる動きが見えたから攻撃をしたのだ。実際[マグナルオン]は電気を貯めている最中だった。同じく電気を扱う紫電が、その動作に気づかないわけがない。

「キイイイ…!」

 三体の式神の目が、紫電のことを睨んでいる。完全に敵と認識したようだ。

「かかってきな! 返り討ちにしてやるぜ!」

 ダウジングロッドを構え強気になり叫んだ。
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