第9話 運命の選択 その2
文字数 2,160文字
今夜は満月だった。一旦は雲に隠れてしまったが、再び顔を覗かせようとしている。四人は今、その夜空を見ている。約束をしたわけじゃないが、月が雲の陰から出た時、運命を決める一戦が始まるのだ。
暗い海神寺が、月明かりのおかげでわずかだが光を取り戻した。
「時間だわ…!」
緑祁が駆け出た。それに反応し、花織と久実子も前に出る。
(やっぱり二人で戦うんだ……!)
これは圧倒的に不利である。二人の実力は高い。緑祁も[メガロペント]を倒したために少し自信があるが、それでも人数のアドバンテージを覆すのは難しいこと。
(でもやらなきゃいけないんだ!)
強い意志を心に抱く。それが勇気を生み、緑祁にまた一歩踏み出すことを可能にした。
「先制させてもらうよ、いっけえええ!」
腕を交差し、開くと同時に鬼火を二方向に放つ。
「あんたも火を使うのか」
呆れながら久実子は言った。
(そういう霊能力者には負けないし、あの業火よりも弱い炎だ!)
事実緑祁の鬼火は、雛臥の業火に劣る。だからなのか、鬼火はちょっと動かれただけで簡単に外れた。
しかし、多芸なのが緑祁の取り柄である。今度は鉄砲水だ。まずは花織を狙ってみる。
「来ますか!」
精霊光を目の前に繰り出すと花織はそれで防御した。水は光に弾かれてしまった。
「今度はこっちか!」
久実子が迫って来る。彼女の堕天闇は、暗闇では目視できない。ので、緑祁は後ろに下がった。
「甘いぞ!」
だが射程圏内であったらしく、何もない空間が緑祁の体を突き飛ばしたのだ。
「うわ!」
尻餅をついたが、すぐに立ち直る。
「厄介なのは知っているよ。これが精霊光と堕天闇か……」
実際に味わってみた感想は、
「強い。けど、対処できないってレベルじゃない! 必ず突ける、弱点を!」
「強がっても無駄です。さあ、次は貴方を狙います……精霊光!」
花織の手のひらに明るい球体が現れた。それは眩しい光を放っている。彼女が投げるような仕草をすると、緑祁に向かって飛んだ。
(確か、火はアレに干渉できないんだった! ならば!)
鉄砲水なら防御できるだろうが、旋風では多分駄目だ。瞬時にそう判断し、緑祁は水を選ぶ。でもただ単に力任せに放水するわけではない。水で薄い膜を作った。
(光なら、跳ね返せるかもしれない!)
そう考えたためだ。
「そんな薄っぺらい膜で何ができるって言うんです?」
その口ぶりは、それが無駄であることを知っていると感じさせる。実際、緑祁の思惑は外れ、精霊光は膜を貫通したのである。
「だ、駄目か……!」
だが、軌道はズレて緑祁の体ではなく足元に着弾した。その衝撃で足が浮く。
「どうした緑祁! その程度じゃないだろう? もっと本気を見せてくれ」
隙を突いて久実子が近づき、堕天闇を出す。
「く、クソ!」
鬼火を出して防ごうとするが、
「意味はない!」
駄目だ。黒い影が地面に伸び、それが緑祁の足元に達すると、彼の体が吹っ飛ばされて宙を舞った。緑祁は境内の木の近くに落ちた。
「どうです? これでもわたくしたちを止める気ですか?」
「無茶はしない方がいいぞ。あんたの命は惜しいと思う。今、香恵を連れて逃げてくれれば追わない」
二人は、勝てる、と思っているのだろう。
それは緑祁も同じ。
「まだ、勝負は始まったばかりだよ……!」
立ち上がった。ただ動作的な意味ではない。隣に生えている木を鬼火で燃やしながら、だ。
「何の意味がある? 木の霊魂に失礼だな」
久実子には、それが無意味に感じるのだ。だから彼女は駆け出し緑祁に迫った。
「ま、待ってください、久実子!」
行為の意味を理解したのは、花織が先だった。久実子とは違い緑祁と少し距離があったために、周りをよく見ることができたからだ。
緑祁は、意味もなく樹木を燃やしたのではない。
「そっちの堕天闇……。防ぐ術が思いつかないよ。でもね、灯さえあれば、影を見ることができる! そうすれば、避ける可能性だって出てくるはずだ!」
燃える木が光源となって、周囲を赤く照らし出した。その光の下、地面に黒い影が伸びているのがハッキリわかる。緑祁目掛けて真っ直ぐ、久実子の影が迫っているのだ。
「これだ、これが堕天闇の正体だ!」
見ることができるのなら、避けるのは簡単だ。
「何だと…?」
気づくのが遅れた久実子は、木が燃えている理由をやっと理解した。が、遅い。既に緑祁は大きな旋風を繰り出している。小型の竜巻が久実子の体を飲み込むと、彼女の体を吹き飛ばした。
「く、まさか……」
「久実子っ…!」
花織は走った。久実子が飛んだ方向に移動し、彼女の体を上手くキャッチした。
「甘かったのは、あたしの方だったか……!」
「心配はいりませんよ。あの木さえ排除してしまえばいいんです」
すぐさま精霊光を飛ばし、焼けている木を破壊した。砕け散った木片はあっという間に燃え尽き、灯はすぐに失われてしまった。
「惜しい…。手応えはあったんだけど、これでは駄目か……」
少し力を入れて唇を噛みしめる緑祁。
(でも、わかったことがある! 精霊光は飛び道具だけど、堕天闇は近づかないと使えない霊障だ。防げなくても避けることは可能! そして精霊光も、干渉できるのなら…!)
問題はその先にある。どうやって久実子を近づけずに、花織の精霊光をかわしつつ二人を叩くか。
暗い海神寺が、月明かりのおかげでわずかだが光を取り戻した。
「時間だわ…!」
緑祁が駆け出た。それに反応し、花織と久実子も前に出る。
(やっぱり二人で戦うんだ……!)
これは圧倒的に不利である。二人の実力は高い。緑祁も[メガロペント]を倒したために少し自信があるが、それでも人数のアドバンテージを覆すのは難しいこと。
(でもやらなきゃいけないんだ!)
強い意志を心に抱く。それが勇気を生み、緑祁にまた一歩踏み出すことを可能にした。
「先制させてもらうよ、いっけえええ!」
腕を交差し、開くと同時に鬼火を二方向に放つ。
「あんたも火を使うのか」
呆れながら久実子は言った。
(そういう霊能力者には負けないし、あの業火よりも弱い炎だ!)
事実緑祁の鬼火は、雛臥の業火に劣る。だからなのか、鬼火はちょっと動かれただけで簡単に外れた。
しかし、多芸なのが緑祁の取り柄である。今度は鉄砲水だ。まずは花織を狙ってみる。
「来ますか!」
精霊光を目の前に繰り出すと花織はそれで防御した。水は光に弾かれてしまった。
「今度はこっちか!」
久実子が迫って来る。彼女の堕天闇は、暗闇では目視できない。ので、緑祁は後ろに下がった。
「甘いぞ!」
だが射程圏内であったらしく、何もない空間が緑祁の体を突き飛ばしたのだ。
「うわ!」
尻餅をついたが、すぐに立ち直る。
「厄介なのは知っているよ。これが精霊光と堕天闇か……」
実際に味わってみた感想は、
「強い。けど、対処できないってレベルじゃない! 必ず突ける、弱点を!」
「強がっても無駄です。さあ、次は貴方を狙います……精霊光!」
花織の手のひらに明るい球体が現れた。それは眩しい光を放っている。彼女が投げるような仕草をすると、緑祁に向かって飛んだ。
(確か、火はアレに干渉できないんだった! ならば!)
鉄砲水なら防御できるだろうが、旋風では多分駄目だ。瞬時にそう判断し、緑祁は水を選ぶ。でもただ単に力任せに放水するわけではない。水で薄い膜を作った。
(光なら、跳ね返せるかもしれない!)
そう考えたためだ。
「そんな薄っぺらい膜で何ができるって言うんです?」
その口ぶりは、それが無駄であることを知っていると感じさせる。実際、緑祁の思惑は外れ、精霊光は膜を貫通したのである。
「だ、駄目か……!」
だが、軌道はズレて緑祁の体ではなく足元に着弾した。その衝撃で足が浮く。
「どうした緑祁! その程度じゃないだろう? もっと本気を見せてくれ」
隙を突いて久実子が近づき、堕天闇を出す。
「く、クソ!」
鬼火を出して防ごうとするが、
「意味はない!」
駄目だ。黒い影が地面に伸び、それが緑祁の足元に達すると、彼の体が吹っ飛ばされて宙を舞った。緑祁は境内の木の近くに落ちた。
「どうです? これでもわたくしたちを止める気ですか?」
「無茶はしない方がいいぞ。あんたの命は惜しいと思う。今、香恵を連れて逃げてくれれば追わない」
二人は、勝てる、と思っているのだろう。
それは緑祁も同じ。
「まだ、勝負は始まったばかりだよ……!」
立ち上がった。ただ動作的な意味ではない。隣に生えている木を鬼火で燃やしながら、だ。
「何の意味がある? 木の霊魂に失礼だな」
久実子には、それが無意味に感じるのだ。だから彼女は駆け出し緑祁に迫った。
「ま、待ってください、久実子!」
行為の意味を理解したのは、花織が先だった。久実子とは違い緑祁と少し距離があったために、周りをよく見ることができたからだ。
緑祁は、意味もなく樹木を燃やしたのではない。
「そっちの堕天闇……。防ぐ術が思いつかないよ。でもね、灯さえあれば、影を見ることができる! そうすれば、避ける可能性だって出てくるはずだ!」
燃える木が光源となって、周囲を赤く照らし出した。その光の下、地面に黒い影が伸びているのがハッキリわかる。緑祁目掛けて真っ直ぐ、久実子の影が迫っているのだ。
「これだ、これが堕天闇の正体だ!」
見ることができるのなら、避けるのは簡単だ。
「何だと…?」
気づくのが遅れた久実子は、木が燃えている理由をやっと理解した。が、遅い。既に緑祁は大きな旋風を繰り出している。小型の竜巻が久実子の体を飲み込むと、彼女の体を吹き飛ばした。
「く、まさか……」
「久実子っ…!」
花織は走った。久実子が飛んだ方向に移動し、彼女の体を上手くキャッチした。
「甘かったのは、あたしの方だったか……!」
「心配はいりませんよ。あの木さえ排除してしまえばいいんです」
すぐさま精霊光を飛ばし、焼けている木を破壊した。砕け散った木片はあっという間に燃え尽き、灯はすぐに失われてしまった。
「惜しい…。手応えはあったんだけど、これでは駄目か……」
少し力を入れて唇を噛みしめる緑祁。
(でも、わかったことがある! 精霊光は飛び道具だけど、堕天闇は近づかないと使えない霊障だ。防げなくても避けることは可能! そして精霊光も、干渉できるのなら…!)
問題はその先にある。どうやって久実子を近づけずに、花織の精霊光をかわしつつ二人を叩くか。