第8話 二つの魂 その1
文字数 2,941文字
絵美はまず、その少年たちに不信感を抱いた、さっきまで相手をしていた死者たちの格好は、あまり現代的ではなかった。でも彼らは違う。洋服を身にまとい、雰囲気も時代に追いついている。だから増々怪しい。
「よくここに来たな?」
「えっ!」
突然、片方の男子が喋ったのだ。
(し、死者は唸り声でしか喋れないんだと思っていたわ……。でも、違うの?)
驚いたのは、絵美だけじゃない。みんなだ。
「誰だお前たちは! 蛭児の手下か? それとも、この禁霊術の犯人か?」
「両方とも、違えな」
もう一人が答えた。
「お前たち、ここがどこだかわかってないのか?」
「どこって、三県の県境だろ? それ以上にこの地に関する情報は何も……」
「ここはな、呪いの谷だぜ?」
その一言に、みんなの眉がピクッと動く。
「そんな馬鹿な? 日本のどこかにあるとしか、言われてないんだぞ?」
「我らが探し当てた、とでも言うのだろうか――?」
「いいやそうじゃないさ。もう既に誰かが祓った後。だから発見できなかったんだよ、【神代】はな。ま、もっともどう頑張ったって生者の力ではここを探すことはできないがね」
「じゃあどうして私たちはここに来れたのよ?」
「見たんだろ? あの炎を? それを頼りにここまで来たんだろう?」
一人が指さす、青い炎。それを目指していたら、ここに到着したのは紛れもない事実。そして彼が指をパチンと鳴らすと、天に登っていた炎が消えた。もう一人が手を叩くと、暴風も静まった。
「まさか、あなたたちが案内をしていた、って言いたいの?」
「正解だ」
青い炎、それに暴風がなければここには来れなかった。その二つの霊障がシグナルとなって、この場所を示してくれていたのだ。そしてそれはどうやら、彼らの仕業であったらしい。
「意味がわからん――」
刹那は困惑した。
「そ、そうだよ! 君も死者なんだろう? 黙っていれば、ここに僕たちが来ることはなかったはずだ! 隠れていたのに、どうして教えるんだ?」
「知りたいか?」
「いいえ、結構よ! あなたたちを倒して、蛭児に白状させればいいだけだわ!」
「ははっ。威勢がいいな」
二人は笑う。
「ま、ここはまず小手調べでもしてみようぜ。なあ、群主?」
「そうだな大刃……。コイツらに託せるかどうか。見極めねえといけねえし」
この二人……一条寺 群主 と久世 大刃 はそんなことを言う。
「ウォーミングアップで終わりにしてやるわよ!」
強気な絵美はそう返した。
人数差で考えても、二倍はある。だから絵美たちは皇の四つ子や範造らを呼ぶことはしない。そもそも彼女たちは今、死者との戦いで精一杯だ。
「いつでもかかってきな!」
「じゃあそうさせてもらうわ。刹那、手伝って!」
「承知した――」
絵美と刹那は群主の相手をする。そうなると自動的に雛臥と骸は大刃と対峙。
(相手からは動いてこない……。なら!)
ほんのちょっと顔を動かし目を一瞬だけ瞑った。それが合図であり、刹那が動き出す。突風が吹き荒れ群主を襲う。
「甘いな」
だが、彼が生み出した風はそれを上回る。一瞬でかき消されたのだ。
「馬鹿な――?」
逆に吹き飛ばされた刹那。
「だ、大丈夫?」
すぐに立ち上がれるところを見るに、まだ平気そうだ。
「なら私が!」
激流を手から流し出し、群主へ攻撃する。
「鉄砲水か。悪くはない霊障だ」
「私のはその上位種、激流よ!」
消防車並みの放水能力が出せる。これで洗い流してしまおうという目論見だ。
対する群主は、動かない。だから激流が直撃した。
「どうかしら?」
しかしずぶ濡れになりながらも、立っている。
「き、効いてないの……?」
「いいや素晴らしいじゃないか、今の。俺は死後に鉄砲水を手に入れたから、押し返せるほどの威力がなかった。でもな、何かが足りないんだよ」
その何か。どうやらただで教えてくれる気はないようで、
「俺を倒してみろ! そうすれば教えてやる! 今のままではお前たちは、蛭児を倒せないからな」
と、挑発を入れてくる。
「蛭児…! やっぱりアイツが関係しているのね。教えて、今どこにいるのよ!」
「知りたければ、俺を倒せ」
「なら……そうさせてもらうわ!」
絵美は動いた。手と手を合わせて、指の先から激流を流し出した。だがそれは、真っ直ぐに飛ばない。群主の風が邪魔をし、軌道がズレているのだ。
「くぅ……」
「何が足りないのか、考えてみろ! 今の自分に欠けているもの……それが何かわからなければ、絶対に俺にも大刃にも勝てない!」
さらに風に乗って一気に距離を詰める群主。絵美の目の前に旋風を使う。
「きゃあああ……?」
体が浮いた。それほどの風が吹いている。そして激流が全く前に進めてない。
「させん――!」
絵美が吹き飛ばされる前に、刹那の突風が吹く。彼女の体を地面に押し付ける下降気流だ。
「ほう…。コンビネーションは十分みたいだな?」
「当たり前よ! 私と刹那はもう十年以上の仲! そう簡単に崩れるもんですか!」
「しかしいくら仲が良くても、勝てないものがある……」
今の絵美と刹那の場合、それは群主だ。
「くらえ!」
左手を動かし手で銃を作ると、そこから放水。それで刹那を攻撃した。
「防げ……――」
無理だ。今の彼の行動、水は強い風の中で守られている。刹那の突風では軌道を曲げられない。
「く――!」
膝をやられて崩れる刹那。
「強い……! でも!」
ここで絵美が動いた。相手が近距離戦を挑んでくるなら便乗するまでだ。こちらも近づいて、眼前で激流を浴びせるのみ。
「その動きは読めている!」
が、群主の方がわずかに速かった。絵美は目の前で手をパチンと叩かれてそれに驚いてしまい、足が一瞬だが止まってしまう。
「あ……」
その隙に、風に乗った群主の拳が絵美の胸を襲う。一撃が入った。
「う、うう……」
意識が飛ぶほどの威力だ。もう立ってはいられない。
「我だけでも、やってみせようぞ――」
逆に立ち上がった刹那は、風を起こす。渦巻く風で勝負だ。
(多分、アイツの風に我では勝てない。しかしそれは普通にやった場合の話。渦を巻かせてより強固な風力にすれば、まだ勝負は見えない――)
その発想は間違っていない。現に群主の風は渦巻をかき消せなかった。
「うおおおおああ!」
それが彼に直撃した時、体が回転した。風に飲み込まれたのである。
「やった――」
勝利を確信し、二撃目を生み出す刹那。しかし彼女は油断していた。
「む……。何だこれは、一体――?」
急に足が浮き上がる。風だ。群主が放ったのだ。彼の体は今、回転している。回りながら、周囲の大気を揺さぶっているのだ。
「あり得ない……――」
自信が驚愕に変貌した。旋風と他の霊障を持っているのはよくある話だ。でも今のは違う。明らかに群主は、自分が生み出していない風を操っている。それはもう旋風ではなく、突風。しかし突風は他の霊障と両立できない。鉄砲水を使えるのなら、突風ではなく旋風でないといけないのだ。
直後、風のせいで勝手に動かされた刹那の手が自分の額にバチンとぶつかり、彼女も気を失ってしまった。
「………」
倒れた二人を見て群主は、
「大丈夫だ。こうなることは織り込み済み。問題はコイツらが、ここからどう成長できるか、なんだ……」
と言う。
「よくここに来たな?」
「えっ!」
突然、片方の男子が喋ったのだ。
(し、死者は唸り声でしか喋れないんだと思っていたわ……。でも、違うの?)
驚いたのは、絵美だけじゃない。みんなだ。
「誰だお前たちは! 蛭児の手下か? それとも、この禁霊術の犯人か?」
「両方とも、違えな」
もう一人が答えた。
「お前たち、ここがどこだかわかってないのか?」
「どこって、三県の県境だろ? それ以上にこの地に関する情報は何も……」
「ここはな、呪いの谷だぜ?」
その一言に、みんなの眉がピクッと動く。
「そんな馬鹿な? 日本のどこかにあるとしか、言われてないんだぞ?」
「我らが探し当てた、とでも言うのだろうか――?」
「いいやそうじゃないさ。もう既に誰かが祓った後。だから発見できなかったんだよ、【神代】はな。ま、もっともどう頑張ったって生者の力ではここを探すことはできないがね」
「じゃあどうして私たちはここに来れたのよ?」
「見たんだろ? あの炎を? それを頼りにここまで来たんだろう?」
一人が指さす、青い炎。それを目指していたら、ここに到着したのは紛れもない事実。そして彼が指をパチンと鳴らすと、天に登っていた炎が消えた。もう一人が手を叩くと、暴風も静まった。
「まさか、あなたたちが案内をしていた、って言いたいの?」
「正解だ」
青い炎、それに暴風がなければここには来れなかった。その二つの霊障がシグナルとなって、この場所を示してくれていたのだ。そしてそれはどうやら、彼らの仕業であったらしい。
「意味がわからん――」
刹那は困惑した。
「そ、そうだよ! 君も死者なんだろう? 黙っていれば、ここに僕たちが来ることはなかったはずだ! 隠れていたのに、どうして教えるんだ?」
「知りたいか?」
「いいえ、結構よ! あなたたちを倒して、蛭児に白状させればいいだけだわ!」
「ははっ。威勢がいいな」
二人は笑う。
「ま、ここはまず小手調べでもしてみようぜ。なあ、群主?」
「そうだな大刃……。コイツらに託せるかどうか。見極めねえといけねえし」
この二人……
「ウォーミングアップで終わりにしてやるわよ!」
強気な絵美はそう返した。
人数差で考えても、二倍はある。だから絵美たちは皇の四つ子や範造らを呼ぶことはしない。そもそも彼女たちは今、死者との戦いで精一杯だ。
「いつでもかかってきな!」
「じゃあそうさせてもらうわ。刹那、手伝って!」
「承知した――」
絵美と刹那は群主の相手をする。そうなると自動的に雛臥と骸は大刃と対峙。
(相手からは動いてこない……。なら!)
ほんのちょっと顔を動かし目を一瞬だけ瞑った。それが合図であり、刹那が動き出す。突風が吹き荒れ群主を襲う。
「甘いな」
だが、彼が生み出した風はそれを上回る。一瞬でかき消されたのだ。
「馬鹿な――?」
逆に吹き飛ばされた刹那。
「だ、大丈夫?」
すぐに立ち上がれるところを見るに、まだ平気そうだ。
「なら私が!」
激流を手から流し出し、群主へ攻撃する。
「鉄砲水か。悪くはない霊障だ」
「私のはその上位種、激流よ!」
消防車並みの放水能力が出せる。これで洗い流してしまおうという目論見だ。
対する群主は、動かない。だから激流が直撃した。
「どうかしら?」
しかしずぶ濡れになりながらも、立っている。
「き、効いてないの……?」
「いいや素晴らしいじゃないか、今の。俺は死後に鉄砲水を手に入れたから、押し返せるほどの威力がなかった。でもな、何かが足りないんだよ」
その何か。どうやらただで教えてくれる気はないようで、
「俺を倒してみろ! そうすれば教えてやる! 今のままではお前たちは、蛭児を倒せないからな」
と、挑発を入れてくる。
「蛭児…! やっぱりアイツが関係しているのね。教えて、今どこにいるのよ!」
「知りたければ、俺を倒せ」
「なら……そうさせてもらうわ!」
絵美は動いた。手と手を合わせて、指の先から激流を流し出した。だがそれは、真っ直ぐに飛ばない。群主の風が邪魔をし、軌道がズレているのだ。
「くぅ……」
「何が足りないのか、考えてみろ! 今の自分に欠けているもの……それが何かわからなければ、絶対に俺にも大刃にも勝てない!」
さらに風に乗って一気に距離を詰める群主。絵美の目の前に旋風を使う。
「きゃあああ……?」
体が浮いた。それほどの風が吹いている。そして激流が全く前に進めてない。
「させん――!」
絵美が吹き飛ばされる前に、刹那の突風が吹く。彼女の体を地面に押し付ける下降気流だ。
「ほう…。コンビネーションは十分みたいだな?」
「当たり前よ! 私と刹那はもう十年以上の仲! そう簡単に崩れるもんですか!」
「しかしいくら仲が良くても、勝てないものがある……」
今の絵美と刹那の場合、それは群主だ。
「くらえ!」
左手を動かし手で銃を作ると、そこから放水。それで刹那を攻撃した。
「防げ……――」
無理だ。今の彼の行動、水は強い風の中で守られている。刹那の突風では軌道を曲げられない。
「く――!」
膝をやられて崩れる刹那。
「強い……! でも!」
ここで絵美が動いた。相手が近距離戦を挑んでくるなら便乗するまでだ。こちらも近づいて、眼前で激流を浴びせるのみ。
「その動きは読めている!」
が、群主の方がわずかに速かった。絵美は目の前で手をパチンと叩かれてそれに驚いてしまい、足が一瞬だが止まってしまう。
「あ……」
その隙に、風に乗った群主の拳が絵美の胸を襲う。一撃が入った。
「う、うう……」
意識が飛ぶほどの威力だ。もう立ってはいられない。
「我だけでも、やってみせようぞ――」
逆に立ち上がった刹那は、風を起こす。渦巻く風で勝負だ。
(多分、アイツの風に我では勝てない。しかしそれは普通にやった場合の話。渦を巻かせてより強固な風力にすれば、まだ勝負は見えない――)
その発想は間違っていない。現に群主の風は渦巻をかき消せなかった。
「うおおおおああ!」
それが彼に直撃した時、体が回転した。風に飲み込まれたのである。
「やった――」
勝利を確信し、二撃目を生み出す刹那。しかし彼女は油断していた。
「む……。何だこれは、一体――?」
急に足が浮き上がる。風だ。群主が放ったのだ。彼の体は今、回転している。回りながら、周囲の大気を揺さぶっているのだ。
「あり得ない……――」
自信が驚愕に変貌した。旋風と他の霊障を持っているのはよくある話だ。でも今のは違う。明らかに群主は、自分が生み出していない風を操っている。それはもう旋風ではなく、突風。しかし突風は他の霊障と両立できない。鉄砲水を使えるのなら、突風ではなく旋風でないといけないのだ。
直後、風のせいで勝手に動かされた刹那の手が自分の額にバチンとぶつかり、彼女も気を失ってしまった。
「………」
倒れた二人を見て群主は、
「大丈夫だ。こうなることは織り込み済み。問題はコイツらが、ここからどう成長できるか、なんだ……」
と言う。