第5話 勝負への想い その5

文字数 2,551文字

 一転し、不利になった紫電。対する向日葵は蜃気楼を使い続け、迷霊の姿を消すことだけすればいいのだ。

(勝負の流れが変わった! こんな霊、普段の俺なら祓うことはわけねえのに! 姿が見えねえし何も感じなくなることが、これほど厄介だとは!)

 一応電磁波のバリアを張れば、迷霊の攻撃を止めることは可能だ。だがそれもいつまで続くかわからない。

(こっちから攻めねえと、勝利を掴めないぜ……。でも今、向日葵どころか迷霊すら場所がわからん。これじゃあ遠のくばかりだ……)

 弱い方向に気が流れていくのが、手に取るようにわかった。

(今が、頃合いか? でも霊鬼を使っても蜃気楼を突破することはできねえんじゃねえのか?)

 霊障を覆すことができるとは思えないし雪女からもそれは聞いてない。だから今はやはりその案は却下。

「だが、しかし! 姿が見れなくても叩く方法はあるぜ!」

 バリアを解いた。彼の方から攻めるのだ。
 至ってシンプル。このグラウンド中に電霊放を撃ちまくるのである。そうすれば何発かは確実に当たるはず。それを可能にする分、電池もポケットに入っている。

 突如腰の方から、何かが破れる音がした。

「え……?」

 それは、紫電のズボンのポケットだ。しかも電池が入っている方。開いた穴から電池がこぼれだし地面に落ちる。

「これを狙っていたのか!」

 単調な攻撃だと思っていたが、実際には紫電が電力の増強を図ることを待っていたのだ。
 地面に落としてしまった電池は、いきなり砕け散る。迷霊が破壊しているのである。

(マズい! 非常にマズい! 作戦が台無しになった………)

 そして電池のストックを潰した迷霊の次の狙いは、紫電の手にあるダウジングロッド。向日葵は空蝉から、紫電はロッドがないと電霊放を撃てないことを聞いているので優先的に狙ってくるだろう。

「させるか!」

 帯電させた。すると直後に、何かが当たる感触が伝わる。迷霊が取り上げることに失敗したのだ。一瞬遅かったら、最後の攻撃手段を失っていた。

(そこか!)

 今、ダウジングロッドの近くに一体、いる。だから紫電はロッドを振り上げた。

(手応えありだ! 当たった!)

 そのまま電霊放を撃ちこむ。すると何もない空間から、焦げ跡が出現した。

「一体、倒したぜ! どうだ向日葵!」

 しかしまだ二体残っている。おそらく紫電の動きを警戒しているのだろう、中々攻めてこない。

(行ける! 今回なら霊鬼なしでも戦える!)

 懐を服の上から触り、鏡があることを確かめる。
 それがいけなかった。迷霊が紫電の上着を引っかき、胸ポケットの中身を露わにした。

「あ、それは駄目だ!」

 そこに隠されていた鏡が、ポルターガイスト現象のように宙に浮いた。迷霊が取り上げようとしているのである。
 迷ってはいられなかった。紫電はその鏡に幻覚を投影される前に、電霊放で撃ち抜いたのだ。
 もちろん、鏡は割れる。するとそこに、霊鬼が出現した。その目は紫電のことを見ている。

「ま、待て! 今のは事故だ! 相手に取られないようにするためには、ああするしかなかっただけで……」

 だが、

「意味ないよ、紫電。それは割った以上、必ず憑依するから」

 雪女がそう言ったので、彼も覚悟を決める。

(なら、勝負に対し強い想いを抱け、俺! 向日葵を倒し、その後に控える二人も倒し、緑祁も倒す! 戦って俺の方が強いことを証明するんだ!)

 霊鬼が紫電の体に重なった。

「うぅおおおおおおおお!」

 雄叫びを上げることで、闘志を増幅させる。

(い、いいぞ…! 今はあの時みたいな気分の高揚はねえ! 心がちゃんとコントロールできてるんだ!)

 手も足も震えない。心臓の鼓動も普通だ。

「行くぜ……。終わらせる、向日葵!」

 紫電は右足だけをしっかりと地面に押し付けた。もう片方は軽く置く。そしてロッドを重ね合わせ電霊放をチャージし始める。

(何をする気よ?)

 向日葵は言葉には出さないが、疑問を抱いた。今、迷霊は二体残っている。しかし紫電のダウジングロッドは、どれも捉えていないあやふやな方に向けられている。だから電気を貯めても無意味なはずである。

「ぜぇいやぁぁあああああああああ!」

 思いっ切り、電霊放を撃った。その反動で紫電の体は、何と回転する。片足しかちゃんと踏ん張ってないからだ。

「は、はぅわ!」

 回転する紫電から放たれた電霊放は鞭のようにしなり、迷霊二体と向日葵に直撃した。迷霊は一瞬でこの世から消え失せ、向日葵の意識は飛んで倒れた。
 彼女が気を失ったので、蜃気楼も終わる。

「そこか!」

 姿を現した向日葵にロッドを向け、紫電は電霊放を撃とうとした。

(これで完全に終わりだぜ、向日葵! この世からバイバイするんだな!)

 その時の目は、平常心を逸している。
 だが、紫電と向日葵の間になんとユキメが割り込んできた。

「何だ!」
「きみ、その熱は駄目だよ」

 雪女は雪の氷柱を繰り出していた。反射的に紫電は電霊放でそれを撃ち落としたのだが、額にひんやりとするもの………鏡を押しつけられた。

「うっ……!」

 霊鬼を封じ込められたために全身の力が一気に抜けた。立っていられず地面にへばる紫電。

「ああ、負けたの? 信じられない! 最悪! 最低!」

 向日葵の意識が戻るまで紫電と雪女はグラウンドにいた。

「勝負はあった。向日葵、きみの負けだよ」

 それを聞いた彼女は一気に不機嫌になり、悪態を吐きながら先に帰ってしまった。紫電と雪女も家に戻る。


 自室のベッドに大の字になって紫電は寝た。

「駄目なのか、俺では……?」

 霊鬼を使いこなせたと思った矢先、そうではない現実を突き付けられたのだ。
 向日葵を倒したところまでは良かった。でもその先、戦闘不能に陥った彼女に追撃しようとしたのは完全にアウトである。

「塞ぎこまないで、紫電…。落ち込むと次は霊鬼をコントロールできなくなってしまうわ」

 優しく雪女はそう声をかけた。

「何がいけなかったのか、考えましょう。霊鬼はきみを拒んでない。相性は悪くないんだから、改善策を考えよう」
「改善策、か……」

 何がいけなかったのかを、導き出す必要に迫られた。

(勝負への想いだけでは、いけないのか? それ以上の何か……精神を支える屈強な大黒柱が必要になる……。それは何だといいんだ?)
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