第8話 毒雷を貫け その2
文字数 3,290文字
緑祁は日本兵タイプの迷霊のことを睨んだ。その迷霊は、銃口を緑祁に向けて引き金を引いた。
「ひえっ!」
幸運にも弾丸は緑祁の足元に当たる。アスファルトを貫けるほどの威力はないらしい。
(乱射される前に除霊しないと危ない!)
ここで緑祁は鬼火を使用した。赤い火炎が迷霊に迫る。迷霊は銃剣を振り回して火をかき消し、そして緑祁に近づいて銃口を押し向ける。
「危ないじゃないか!」
普通なら、後ろに逃げるだろう。だが緑祁は危険を承知で、前に進み、銃剣に気を付けて銃口を掴んで何もない方向に向けさせた。その状態で、数発の弾丸が放たれる。
「ぐっ!」
何かが、緑祁の背中に当たった。それは弾丸だ。後ろのブロック塀に突き刺さるほどの力はない。言い換えれば跳ね返ってきたということだ。背中から激痛が走り、そのせいで緑祁は膝を崩してしまう。
「大丈夫か、緑祁!」
見ていられずに辻神がサポートをしてくれる。電磁波のバリアで弾丸を弾くのだ。
「香恵、今のうちに怪我を治せ! 背中へのダメージはマズい」
「わかってるわ!」
すぐに駆け寄り香恵は慰療を使用。緑祁の体に入り込んだ弾丸を抜き出し、傷が塞がる。
「ありがとう、いつも!」
「気にしないで! 今はこの迷霊を倒すことに専念よ!」
「わかった!」
緑祁が無事なことを辻神が確認。その時、鬼型の迷霊が棍棒を振った。
「ぐわ!」
それが辻神に見事に命中し、彼の体が吹っ飛んだ。
「つ、辻神! 大丈夫か!」
電信柱にぶつかって地面に落ちる彼の体。どうやら気を失っているらしく、動こうとしない。香恵が手当てをしようと近づこうとしたが、行く手を迷霊が塞ぐ。
かなり危険な状態だ。
(もう、出し惜しみしている暇じゃない! 頼むぞ!)
戦いは始まったばかりだが、緑祁は札を取り出した。式神の札である。
「[ライトニング]、[ダークネス]! あの幽霊を攻撃してくれ!」
召喚される二体の式神。嘶くと同時に、緑祁と香恵の前に出て威嚇する。しかしそれにめげない迷霊たち。日本兵タイプが発砲した。しかし弾丸は[ダークネス]の堕天闇に弾かれて地面に落ちる。
「頑張って、[ダークネス]! 手加減はいらないわ!」
鬼型の相手は[ライトニング]がしてくれる。蹄で鬼型の胸に蹴りを入れた。すると鬼型は棍棒を振り上げる。
「今だ、香恵! 辻神の治療を!」
「任せて!」
辻神の怪我に手を当てる香恵。
(大丈夫、生きているわ! 心臓も動いているし、呼吸もしてる! でも、意識がない……)
怪我は治った。だが意識までは取り戻すことはできない。目を覚ませるかどうかは、辻神の精神力によって決まるのだ。
香恵は辻神の体を引きずって、ブロック塀の陰に移動させた。
「待ってて、辻神。すぐにあの迷霊を倒すから!」
緑祁は式神たちと連携しながら、迷霊と戦う。防御は[ダークネス]に任せ、霊障合体を使って攻めるのだ。
「くらえ! 火災旋風!」
渦巻く赤い炎が日本兵タイプの迷霊を襲った。流石に風は銃剣では切れず、体に燃え移る。
「今だ、[ライトニング]! 叩き潰せ!」
[ライトニング]が放つ精霊光の威力は、小銃の弾丸や銃剣とは比べ物にならないレベル。眩い光が瞬くと、一撃で日本兵タイプの迷霊の体がバラバラに弾け飛んだ。
「よし! あとは鬼だけだ!」
しかしこの鬼型は強い。[ライトニング]に蹴られても[ダークネス]に突進されても、平然としているのだ。
(タイミングを合わせよう……! 先に[ダークネス]に攻撃させるんだ!)
まず、堕天闇が放たれる。暗いので見えない攻撃だが、鬼型はそれに反応して棍棒で防いだ。
「今か!」
そこで緑祁が霊障合体を使用。鉄砲水と旋風を合わせた台風で攻め込む。鬼型の足元を崩すのだ。
「ビクともしない……!」
駄目だ。緑祁の霊障合体では、効果的なダメージを与えられていない。
「い、行け! [ライトニング]! 精霊光だ!」
だが、鬼型はそれがいかに危険かを既に察知しており、避けられる。
「バオオオオオオオオオオオオオオオ!」
振り回される棍棒。緑祁は反射的に頭を抱えてしゃがんだ。
「うわっ!」
でも何も感じない。
「………え?」
[ライトニング]と[ダークネス]が彼のことを体を張って守ってくれているのだ。自分の代わりに傷ついていく二体の式神。
「そ、そんな……。どうすれば……!」
このままでは、式神が危ない。
その時、ブロック塀の向こう側から稲妻が飛び出した。それは曲がって鬼型を追う。
「ウガ?」
ジャンプして避ける鬼型。惜しいところまで追尾できていたが、地面に当たってしまう。
(電霊放……? そうか、それをすれば!)
ここで緑祁は起死回生の一手を思いつく。
「[ライトニング]、[ダークネス]! あの鬼を上空に放り投げるんだ!」
二体の式神は頷いて答え、一緒に鬼型を掴んで空高くに連れ去る。もちろん鬼型は暴れたが、それでも[ライトニング]と[ダークネス]は耐えてくれた。
「今だ! 放せ!」
落下の衝撃で倒せるとは、緑祁も思っていない。だが、
「霊障合体・風神雷神!」
ブロック塀の奥から、大量の電池が上に投げられそれが旋風に乗って上空にばら撒かれた。それが電流を出して網目状の稲妻を作り出している。
「ブワアアアアアア………!」
空中でこれをかわすことは、鬼型には不可能。空中で消滅した。
「辻神、目を覚ましたんだね……!」
電霊放が飛んできた時、それを理解した。だからこの作戦……辻神の霊障合体である風神雷神を使ってもらうことを思いつけたのだ。そのためには、鬼型の周囲に誰もいないことが条件だった。だから空に連れて行かせたのである。
「無事か、緑祁?」
「僕は大丈夫なんだけど……」
空から降りてきた[ライトニング]と[ダークネス]は、地面にへばってしまう。かなりダメージを負っているらしい。
「式神の方は、これ以上は戦わせられない。札に戻そう。後で新しい札に移してあげるから、今は我慢してくれ……」
式神に札を当てて、札の中に戻す。札と式神は連動しているので、札の方もボロボロになっている。
「香恵、ありがとう。おまえが私の怪我を治してくれたんだろう、感謝する」
「お礼なんていらないわよ。仲間なんだから、治療して当然のことだわ」
香恵に頭を下げる辻神。
「よし、今からでも追いつけるはずだ! 病射と朔那を追いかけよう!」
緑祁たちは走り出した。
「待て!」
逃げている途中で突然、病射が足を止めた。
「どうした病射? 何で止まる?」
すぐさま疑問を投げかける朔那。すると、
「朔那……。おめーだけ、逃げろ」
「は? 何を言い出すんだお前!」
病射は電子ノギスを取り出し、戦う気満々だ。
「【神代】はもうすぐそこまで来てしまっている! 逃げ切るには、トカゲの尻尾が必要だ」
「だから、何を言ってるんだ?」
自分が囮になる、だからその間に逃げろ。病射はそう言っているのだ。
「おい! 私たちは誓ったじゃないか! 運命共同体になるって! 死ぬ時も生きる時も、最後の最後まで一緒だろう!」
「ああ。だが……」
だが彼は、あることを感じていたのだ。
「朔那には、復讐をやり遂げて欲しい」
自分がここを逃げ切っても、あまり意味がない。左門のことは朔那が手を下すことで、初めて意味があるのだから。
朔那と一緒に過ごしたことで、そういう感情を抱いた。彼女には、願いを叶えて欲しい。そのためなら、喜んで自ら捨て駒になる覚悟がある。
「おれがあの三人を引き受ける! その間に逃げるんだ、朔那! おめーさえ逃げ切れば、このピンチを脱出できる! ここはおれに任せろ!」
「なら! 二人でアイツらを倒そう! そうすれば……」
「駄目だ。仮に負けたらどうする? 捕まったら、そこで全て……今までの努力が水の泡だ」
厳しいが現実を言う病射。
「ここはおれが食い止める! 朔那、おめーは逃げて復讐を! 希望を繋げ!」
返事も聞かずに病射は振り向くと、来た道を走り出した。
「病射………!」
一人残された朔那。一瞬混乱したが、
(病射の思いを無駄にはできない……!)
断腸の思いで逃げることを選択。
「ひえっ!」
幸運にも弾丸は緑祁の足元に当たる。アスファルトを貫けるほどの威力はないらしい。
(乱射される前に除霊しないと危ない!)
ここで緑祁は鬼火を使用した。赤い火炎が迷霊に迫る。迷霊は銃剣を振り回して火をかき消し、そして緑祁に近づいて銃口を押し向ける。
「危ないじゃないか!」
普通なら、後ろに逃げるだろう。だが緑祁は危険を承知で、前に進み、銃剣に気を付けて銃口を掴んで何もない方向に向けさせた。その状態で、数発の弾丸が放たれる。
「ぐっ!」
何かが、緑祁の背中に当たった。それは弾丸だ。後ろのブロック塀に突き刺さるほどの力はない。言い換えれば跳ね返ってきたということだ。背中から激痛が走り、そのせいで緑祁は膝を崩してしまう。
「大丈夫か、緑祁!」
見ていられずに辻神がサポートをしてくれる。電磁波のバリアで弾丸を弾くのだ。
「香恵、今のうちに怪我を治せ! 背中へのダメージはマズい」
「わかってるわ!」
すぐに駆け寄り香恵は慰療を使用。緑祁の体に入り込んだ弾丸を抜き出し、傷が塞がる。
「ありがとう、いつも!」
「気にしないで! 今はこの迷霊を倒すことに専念よ!」
「わかった!」
緑祁が無事なことを辻神が確認。その時、鬼型の迷霊が棍棒を振った。
「ぐわ!」
それが辻神に見事に命中し、彼の体が吹っ飛んだ。
「つ、辻神! 大丈夫か!」
電信柱にぶつかって地面に落ちる彼の体。どうやら気を失っているらしく、動こうとしない。香恵が手当てをしようと近づこうとしたが、行く手を迷霊が塞ぐ。
かなり危険な状態だ。
(もう、出し惜しみしている暇じゃない! 頼むぞ!)
戦いは始まったばかりだが、緑祁は札を取り出した。式神の札である。
「[ライトニング]、[ダークネス]! あの幽霊を攻撃してくれ!」
召喚される二体の式神。嘶くと同時に、緑祁と香恵の前に出て威嚇する。しかしそれにめげない迷霊たち。日本兵タイプが発砲した。しかし弾丸は[ダークネス]の堕天闇に弾かれて地面に落ちる。
「頑張って、[ダークネス]! 手加減はいらないわ!」
鬼型の相手は[ライトニング]がしてくれる。蹄で鬼型の胸に蹴りを入れた。すると鬼型は棍棒を振り上げる。
「今だ、香恵! 辻神の治療を!」
「任せて!」
辻神の怪我に手を当てる香恵。
(大丈夫、生きているわ! 心臓も動いているし、呼吸もしてる! でも、意識がない……)
怪我は治った。だが意識までは取り戻すことはできない。目を覚ませるかどうかは、辻神の精神力によって決まるのだ。
香恵は辻神の体を引きずって、ブロック塀の陰に移動させた。
「待ってて、辻神。すぐにあの迷霊を倒すから!」
緑祁は式神たちと連携しながら、迷霊と戦う。防御は[ダークネス]に任せ、霊障合体を使って攻めるのだ。
「くらえ! 火災旋風!」
渦巻く赤い炎が日本兵タイプの迷霊を襲った。流石に風は銃剣では切れず、体に燃え移る。
「今だ、[ライトニング]! 叩き潰せ!」
[ライトニング]が放つ精霊光の威力は、小銃の弾丸や銃剣とは比べ物にならないレベル。眩い光が瞬くと、一撃で日本兵タイプの迷霊の体がバラバラに弾け飛んだ。
「よし! あとは鬼だけだ!」
しかしこの鬼型は強い。[ライトニング]に蹴られても[ダークネス]に突進されても、平然としているのだ。
(タイミングを合わせよう……! 先に[ダークネス]に攻撃させるんだ!)
まず、堕天闇が放たれる。暗いので見えない攻撃だが、鬼型はそれに反応して棍棒で防いだ。
「今か!」
そこで緑祁が霊障合体を使用。鉄砲水と旋風を合わせた台風で攻め込む。鬼型の足元を崩すのだ。
「ビクともしない……!」
駄目だ。緑祁の霊障合体では、効果的なダメージを与えられていない。
「い、行け! [ライトニング]! 精霊光だ!」
だが、鬼型はそれがいかに危険かを既に察知しており、避けられる。
「バオオオオオオオオオオオオオオオ!」
振り回される棍棒。緑祁は反射的に頭を抱えてしゃがんだ。
「うわっ!」
でも何も感じない。
「………え?」
[ライトニング]と[ダークネス]が彼のことを体を張って守ってくれているのだ。自分の代わりに傷ついていく二体の式神。
「そ、そんな……。どうすれば……!」
このままでは、式神が危ない。
その時、ブロック塀の向こう側から稲妻が飛び出した。それは曲がって鬼型を追う。
「ウガ?」
ジャンプして避ける鬼型。惜しいところまで追尾できていたが、地面に当たってしまう。
(電霊放……? そうか、それをすれば!)
ここで緑祁は起死回生の一手を思いつく。
「[ライトニング]、[ダークネス]! あの鬼を上空に放り投げるんだ!」
二体の式神は頷いて答え、一緒に鬼型を掴んで空高くに連れ去る。もちろん鬼型は暴れたが、それでも[ライトニング]と[ダークネス]は耐えてくれた。
「今だ! 放せ!」
落下の衝撃で倒せるとは、緑祁も思っていない。だが、
「霊障合体・風神雷神!」
ブロック塀の奥から、大量の電池が上に投げられそれが旋風に乗って上空にばら撒かれた。それが電流を出して網目状の稲妻を作り出している。
「ブワアアアアアア………!」
空中でこれをかわすことは、鬼型には不可能。空中で消滅した。
「辻神、目を覚ましたんだね……!」
電霊放が飛んできた時、それを理解した。だからこの作戦……辻神の霊障合体である風神雷神を使ってもらうことを思いつけたのだ。そのためには、鬼型の周囲に誰もいないことが条件だった。だから空に連れて行かせたのである。
「無事か、緑祁?」
「僕は大丈夫なんだけど……」
空から降りてきた[ライトニング]と[ダークネス]は、地面にへばってしまう。かなりダメージを負っているらしい。
「式神の方は、これ以上は戦わせられない。札に戻そう。後で新しい札に移してあげるから、今は我慢してくれ……」
式神に札を当てて、札の中に戻す。札と式神は連動しているので、札の方もボロボロになっている。
「香恵、ありがとう。おまえが私の怪我を治してくれたんだろう、感謝する」
「お礼なんていらないわよ。仲間なんだから、治療して当然のことだわ」
香恵に頭を下げる辻神。
「よし、今からでも追いつけるはずだ! 病射と朔那を追いかけよう!」
緑祁たちは走り出した。
「待て!」
逃げている途中で突然、病射が足を止めた。
「どうした病射? 何で止まる?」
すぐさま疑問を投げかける朔那。すると、
「朔那……。おめーだけ、逃げろ」
「は? 何を言い出すんだお前!」
病射は電子ノギスを取り出し、戦う気満々だ。
「【神代】はもうすぐそこまで来てしまっている! 逃げ切るには、トカゲの尻尾が必要だ」
「だから、何を言ってるんだ?」
自分が囮になる、だからその間に逃げろ。病射はそう言っているのだ。
「おい! 私たちは誓ったじゃないか! 運命共同体になるって! 死ぬ時も生きる時も、最後の最後まで一緒だろう!」
「ああ。だが……」
だが彼は、あることを感じていたのだ。
「朔那には、復讐をやり遂げて欲しい」
自分がここを逃げ切っても、あまり意味がない。左門のことは朔那が手を下すことで、初めて意味があるのだから。
朔那と一緒に過ごしたことで、そういう感情を抱いた。彼女には、願いを叶えて欲しい。そのためなら、喜んで自ら捨て駒になる覚悟がある。
「おれがあの三人を引き受ける! その間に逃げるんだ、朔那! おめーさえ逃げ切れば、このピンチを脱出できる! ここはおれに任せろ!」
「なら! 二人でアイツらを倒そう! そうすれば……」
「駄目だ。仮に負けたらどうする? 捕まったら、そこで全て……今までの努力が水の泡だ」
厳しいが現実を言う病射。
「ここはおれが食い止める! 朔那、おめーは逃げて復讐を! 希望を繋げ!」
返事も聞かずに病射は振り向くと、来た道を走り出した。
「病射………!」
一人残された朔那。一瞬混乱したが、
(病射の思いを無駄にはできない……!)
断腸の思いで逃げることを選択。