第3話 運命共同体 その2

文字数 3,155文字

 池のほとりのベンチに座り、

「私は、鉾立朔那だ。お前がてっきり、私の話を聞いていたと思ったのだが……」
「おれは姉谷病射だ。その、話って何のことだ?」
「言えないに決まっているだろう! お前こそ、何で私に攻撃した?」
「おれは……。【神代】に追われている………!」
「本気か?」

 疑う朔那。病射はワケを話す。

「神社に祀られていた幽霊を、除霊してしまったんだ。そのせいで、【神代】がおれを追っている! 実際に追っ手をこの目で見た!」
「なるほど……」

 彼女は考える。

(コイツの言うことが間違っていないのなら、コイツは使える! 【神代】と繋がりがないのなら、チクられる心配もないか)

 ならば協力できる、と。

「おい、病射とか言ったな? お前、私に協力しないか?」
「協力?」
「そうだ。お前は【神代】に追われている身。だったら、私も追われよう」

 朔那は、最初は黙っていようと思っていた自分の野望を病射に教えた。それはもちろん、復讐の野心である。左門への怒り、過去にされたことを事細かに病射に伝えた。

「そういうことか。それは確かに、大声では言えねー話だぜ」
「もし復讐をしたら、私もお尋ね者だ。だが、それでいい。私としては、アイツをこの手で葬れればそれでいいんだからな」

 病射が指名手配されているのなら、朔那も同じ立場になる。そして同時に、朔那は病射の逃亡を助ける。病射は朔那の復讐に力を貸す。

「悪くはねー取引だぜ」

 朔那が差し出した手を、病射は掴んだ。

「契約成立だな」
「ああ。……さっきは済まなかったな、早とちりで攻撃してよ」
「こちらこそ、ごめん、だ。私も早計だった」

 先ほどの交戦をお互いに謝る。

「さてと病射、早速だが移動だ。お前、追われているんだろう? 京都は結構【神代】の息がかかった者が多い。ここも危険だろう」
「そうなのか」

 それに、左門は今は京都にはいない。だから朔那の目的を達成するためにも、移動を開始しなければいけないのだ。

「わかったぜ! 朔那、お前の望み、おれが叶えさせてやる!」
「頼むぞ、病射! 私もお前には期待しているからな!」

 こうして、病射と朔那の進む道が混ざり合った。運命共同体となった二人はまず、

「二人に増えれば、迷霊を簡単に生み出せる。まずはそれを使って、追っ手を撒くぞ」
「おー!」

 幽霊を使ってこの京都から脱出することにした。


「去年の夏休みは、半分以上働いていた記憶しかないよ。楽しいことが全然なかった」

 永露緑祁は一人暮らしの家にあるデスクトップパソコンを操作しながらそう言った。

「そうね……。でもそれは仕方なかったことよ」

 彼の言葉を受けて藤松香恵がそう返す。

「だから、今年は何かして楽しみたい! 香恵、一緒に旅行とか行かない?」
「いいアイディアだわ、それ!」

 民宿で依頼を受け続ける生活だけはごめんだ。しかし今年はそういう状況ではない。自由に旅ができる夏休みなのだ。だから観光スポットをパソコンで検索している。
 突然、プルルルルという音が鳴った。

「香恵、電話が鳴っているよ」

 緑祁はそう言い、香恵にテーブルの上に置いてあるスマートフォンを取らせた。

「電話だわ。緑祁、ちょっと静かにしててね」
「うん」

 電話の相手は、魔綾だった。

「随分久しぶりじゃない、魔綾。高校を卒業した後くらいかな?」
「香恵、ちょっと手伝ってくれない?」
「何を? そもそも魔綾は今どこで何をしているの?」

 魔綾は香恵に、用件を教える。

「最近知り合った霊能力者の友人が、どうやら幽霊に取り憑つかれたみたいなの……! どこかに逃げてしまっていて、今も行方不明に……! 私がすれ違った時に、呼び止めておけば!」
「落ち着いて、魔綾! そちらが悪いことではないわ! その人を探して除霊してあげればいいのね」

 一瞬だけ香恵はスマートフォンから耳を離し時計を見た。今は午後五時。

「今から行けば、何とか今日中に着けるわ。どこで集合すればいい?」
「えっと京都駅の大空広場で……」
「き、京都? 魔綾、私と同じ横浜在住でしょ? 何で京都が出て来るのよ!」
「【神代】の仕事で来てるの! それくらい察して!」
「京都となると……」

 会話を聞いていた緑祁はネットで、ルートを検索して香恵に見せる。

「今日中には無理そうね……」
「あなたこそ何で? 今、横浜にいるんじゃないの?」
「私は今、青森にいるのよ……」

 二人とも、住んでいる町にいない。そのせいで会話が少し食い違った。だが香恵はすぐに、

「明日の朝一番で、京都に行くわ! それでいい?」

 予定を立てる。

「もちろんよ! 来てくれるだけで頼もしいわ」

 魔綾もそれに頷いた。

「十二時ごろに、京都駅で!」

 約束をし、電話を切った。

「誰だったの?」
「十神魔綾っていう人。中高時代の友人で、同じ霊能力者よ。霊障が使えないタイプだから除霊とかは苦手だけどね」

 そして病射の話もした。

「今、行方がわからなくなっているのは彼のことだわ。天秤神社の実験に参加したっていうところまではわかっているけど、それ以降は不明……。これは何かありそうね……」
「だとしたら、早く見つけて除霊しないと!」

 緑祁もことの深刻さに気づく。こうなってしまえば呑気に旅行なんてしている暇じゃない。

「明日、朝一番に新幹線に乗ろう! 東京駅で乗り換えればいいだけだ!」

 とにかく今すべきことを考える、荷物をまとめ始めた。

(それ以外には……)

 他に準備しておきたいことはないか、考える。

「人手があった方がいいかな?」
「そうだけど、知り合いいるの? 京都周辺に?」
「関西じゃないけど、四国に! ほら、絵美と刹那が!」

 廿楽絵美と神威刹那に連絡を取ってみることに。二人は徳島に住んでいるので、緑祁たちよりも先に京都に行けるはずだ。問題は手を貸してくれるかどうかだ。

「もしもし、絵美? 私よ、香恵!」
「え、香恵? どうしたの?」
「実は……」

 急な用事に失礼を承知で事情を話し、どうにか頼み込む。

「無理かな?」
「大丈夫よ、バスで行けるわ! 京都駅のあの上の庭に十二時ね?」
「いつも頼って、ごめんなさい……。こんな急な頼み事にも手伝ってくれるなんて……」
「気にしないで。困っている時はお互い様。助け合うことに断る理由はないわ」

 絵美と刹那が協力してくれると決まった。

「これで人数は十分だ」

 緑祁と香恵、絵美と刹那、そして現地の魔綾。五人もいれば、幽霊に取り憑かれどこかに行ってしまった人物はすぐに探し出せる。

「今は、病射があの世に連れて行かれないことを願おう……。僕たちが救い出すんだ!」

 病射の本当の現状を知らない緑祁は、この時点ではそこまで難しく考えていなかった。


 京都の孤児院の夜のことだ。

「ねえ、朔那を見なかった?」

 弥和は朔那のことを探していた。朝、散歩に行った切りだ。朝食も昼食も、そして夕食の時も顔を出さなかった。不思議に思った弥和は職員に朔那のことを聞くと、

「戻って来てない? 本当ですか!」
「記録によればそうだけど……」

 外泊は孤児院に、事前に許可を取らなければいけない。それなしにいなくなるということは、何かあるということだ。

(た、大変だ!)

 彼女はすぐにあることを思いつた。それは、

(朔那が、復讐を始めてしまったんだ! だから今日、戻って来ないんだ……! ど、どうすればいいの……!)

 左門のところに行ったに違いない。自分が彼女のことを説得できなかったせいだと感じた弥和はスマートフォンを取り、

「すみません、至急です!」

【神代】に連絡を入れる。

「朔那を、復讐する前に止めてください!」

 詳しい事情を話せば、【神代】は必ず止めてくれると弥和は信じている。朔那を心霊犯罪者にしたくない彼女は、一刻も早く朔那が見つかることを願い吉報をここで待つのだ。
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